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第百四十七話 獅子の片腕

◇◇◇◆◆◆◆ 


 中央大陸の西の大地に砂漠を有したパラジトという国がある。

 昼は、太陽がジリジリと人々や家畜たちを焼けつき熱く焦げつくように容赦なく照らす。

 国中の気温は年間を通してもかなり暑く、なにをするのも汗がすぐにしたたり落ちるぐらいだ。

 そんな日々の過酷な暑さにも、人々は負けることなくたくましく活き活きと生きていた。


 女王が治めるパラジト王国は金銀宝石が絶えず豊富に採れる。

 遥かなる昔は水でこそ貴重で大事だったが、それも神々の祝福か昨今ではコンコンと泉から湧き出る。

 ただの一度も枯れることなく、豊かな水量で潤い続けるオアシスがパラジト王国の要だ。

 この湧き水のおかげで、国民は生活に困ることがなかったのだ。

 神々に祝福された大地は、周辺の国々からはいつの時代も憧れの地であり標的の的であった。

 宝石と清らかな水と代々の女王をめぐって、欲望と野望の餌食になりかねない緊張感が何百年も水面下にはあった。

 このパラジト王国を手に入れたい。

 美しき女王も富める財宝も湧き上がる命の水もわが手中にと企てる周辺の国々が、獲物を狩る獣のように目をギラギラと光らせ、いつ牙を向こうか機会を伺い狙っている。


 パラジト国の男たちは女王を全力で守り、しっかりとした軍隊は大昔から立派な体制育成でもって組織されており、女王を守ることこそが国を守ることにつながると教えられてきた。

 

 パラジト王国は、王国建立から必ず美しく賢い女性が選ばれ王になる習わしで、だからこそここは女王の人生を神に献身的に捧げることで、神々の祝福を受けているのだと人々は信じていた。


 しばらく前まではパラジト女王には無敵の西国の獅子がついており、怖れられていた。

 無敗の将軍クラウドは名を轟かせて、もはやパラジトに攻め入るなどとは愚か者のなすことと各国はこぞって和平の条約を結んだ。

 友好的で平和に関係を結ぶことこそが、国を滅ぼさせない手立てだと隣国たちを震え上がらせていた。


 

 パラジト王国は、昼の暑さからそれが一変する。

 夜の帳が訪れると砂漠は急に冷え始め、厳しい寒さが訪れる。

 朝昼晩の気温差は激しくてうっかり砂漠で迷うものなら、迷いびとを死出の旅に誘いかねなかった。


 ――ただ、パラジトの夜空はどこの国よりも神秘的で、格別に美しく存在った。

 降り注がんばかりの星々の無数なる輝きのもと、人々は愛を語らう。



 砂漠の入り口には、二人の男の住処すみかがあった。

 二人の男は容姿も性格もまったく似てはないが、同じ日に同じ場所で同じ両親から生まれた双子だった。


 二人の元へ、遠くの島からタスキのように渡された連絡便の早馬が届いた。

 この連絡便には、彼らの尊敬する猛者もさの男からの急を要する手紙が託されていた。

 彼の男気に惚れ絶対の服従を兄弟たちが自ら誓っていた。

 二つの手紙は一つは彼らに向けて、一つはパラジト王国女王あてだった。


「へええ。実に面白い! 今頃何してんのかと思ったら」

 数分前に生まれた兄のほうが手紙を一つ開けながら、挑むように不敵に笑った。

 顔にかかる少し長めの自慢の金髪を左手で払い、彫刻のように美しいと言われもてはやされる容姿をした男はニヤリと再び笑った。 

「ちょうど退屈してたんだよね」

 手紙は西国の獅子クラウドからの要請文ようせいぶみだった。

 女王に渡してくれと書いてある。

 元将軍クラウドはこの男たちを信頼していた。

 彼らは獅子の片腕と称され、クラウドは手紙を確実に女王に届かねばならないから、この二人に託した。

 美しい筆跡は間違いなく獅子クラウドの物。


「獅子のお望みとあれば」


 兄の読む手紙を早く読みたかった弟が横から覗き込む。

 ワクワクと心踊る。


「クラウド閣下の頼みとあれば」


 もう一人の男は熊と見まごうばかりの大男である。

 嘘のつけない不器用な男で、兄とクラウドのことを心底尊敬し惚れ込んでいた。

 本気で、女王とクラウドと兄のためなら死ねると思っていた。

 真っ直ぐで紛うことなき強い思いを胸に抱いていた。

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