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第百四十四話 恋の始まり

 エリザベートは恥ずかしくてクラウドをあまりしっかりと見られなくなってしまった。

 モジモジしてしまう。


「うんっ? どうした?」

「――っ! ひゃあっ」


 クラウドがからかうようにエリザベートの耳元で囁くと、エリザベートはドキッとして小さく飛び上がる。

 クラウドはそんなエリザベートがかわいくて笑った。


 ずっ、ずるい。

 私はこの人の思うがままに見透かされてしまう。


「クラウド、なんかずるい」

「ハハハ。たぶんお前のことはお見通しだ」

「たぶんって」

「エリザベート。俺はお前がなかなか好きだと言ってくれないから認めないからなあ、それはそれはとても辛い想いをしたんだ。ふふっ……、これぐらい楽しませてもらおう」


 なんかやっぱりずるい。

 大人な感じでずるいよ。


 クラウドはエリザベートと握る手に嬉しくてもっとぎゅっと力を込めた。

 ドキドキする。

 クラウドにドキドキさせられる。

 

 雑貨店に戻った二人は店主からいくつかの種類の寝袋を差し出された。


(あー! もうっこんなんで戦う時はどうすんのよ)


 そう思いながらもエリザベートは戦う時はガラリと気持ちが変わるのを、切り替わるのを知っている。


 戦いが本格的に始まれば、こんな風に二人きりで買い物したりすることなんてないんだろうと思う。

 ……穏やかで楽しい時間、二人きりの……ドキドキな空間。


「エリザベート、なあ、お前はどれがいいと思う?」


 クラウドは寝袋を見ながらすぐそばのエリザベートに耳を近づけて聞いてくる。

 それからクラウドは、エリザベートの顔を横から覗き込んで微笑んだ。

 クラウドはわざとドキドキさせたくて、エリザベートの顔に自分の顔をぐっと近づけた。

 口付けられてしまいそうな距離が、――胸を騒がす。

 エリザベートの顔が火照ほてる。

 またからかうように耳元でクラウドに囁かれると、エリザベートは困った。


「クラウド。……あのぉ、恥ずかしいから、あまり私には不用意に近づかないでほしいの!」

「プッ……はははっ。そんだけ真っ赤な顔してくれんなら嬉しいよ。エリザベートが意識してくれてるんだって伝わってくるなあ」

「も〜っ! ……クラウドって案外イジワルだったんだね」

「そう、むくれるな。お前の反応が嬉しすぎて、ついからかっちまっただけだからさ」

「……あなたの余裕な態度がムカつきます」

「はははっ、そりゃあ良いや。俺、年上だもん。エリザベートに余裕に見えてるなら良かった。まあ、俺には素直に甘えろ」


 エリザベートの頭をそっと自分の胸に寄せた。

 クラウドはエリザベートの頭を撫でて笑って、彼女の髪を摘んだ。


「……美しい髪だ。思わず触れたくなる」


 急に真顔になってクラウドに耳元で甘く囁かれると、エリザベートはドキンッと胸が跳び跳ねた。


「どうしたらいいかドキドキして分からなくなるから、あんまり近づかないで」

「無理。今まで我慢してきたんだ。無理に決まっているだろうが」

「わ、私は隣りにいるだけで良いの。……触らないでも良い」

「恋人同士になったのに触れ合わないってお前……」

「ちょっとずつにして! ……少しずつ慣れるから」

「仕方ねえなあ。手加減してやる。ちょっとずつな」


 ――もうずっと手は握りあっちゃってるけど。

 一気に攻めてこられると困る。

 恥ずかしくて仕方がないんだから!


「手を繋ぎあって買い物か。普通の恋人同士みたいで、楽しいな」

「まっ、まあ、……そうね」


 エリザベートはクラウドに急に距離を詰められてイチャイチャされて、恥ずかしくてたまらなくって逃げ出したくなっていた。


 それからしばらく買い物をして歩いて、露店で軽めの甘く香ばしいクッキー菓子を買って二人で分けて食べたりした。

 大河横の草原の土手で座ってお喋りして、新鮮な果物のジュースを店の横の屋根つきテラスで飲んだりした。


 初めての二人だけの買い物は、巷の恋人同士の逢瀬デート、流行の話題で最近よく聞いた逢引みたいだなって思いだして、エリザベートは笑った。


 恋人同士としてこんな風に過ごすと、勇者とか元将軍とか関係ないんだな〜って、無邪気に思えた。

 男女のお付き合いって、立場とか位とかそんなものはとっぱらえて、甘く時間が経ってしまう。


 夢のような、……この素敵な数時間は、エリザベートとクラウドには宝物みたいに心に輝いて、大切に記憶と思い出の胸の中の箱にしまわれるのだ。


 ひととき二人は、心を通わせ笑い合って(主にクラウドがエリザベートをからかって)楽しんで、穏やかな時間を過ごした。

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