第百二十七話 イルニア国とララ
「アンタ、イルニア国のルビアス王子だね?」
「ああ、そうだが」
ララは初対面ですごく親しげで、ルビアスは怪訝に思った。
「噂に聞きし、類稀なるいい男じゃないか!」
「ふっ、……どんな噂やら」
エリザベートにはさんざんその噂のせいで悪いイメージがついているみたいなのに。
ルビアスは世間の流す噂の的で、その噂にいつも振り回されてる。
「……って、嘘! アンタさ、私のこと忘れちゃったのかい?」
「えっ? ――君は誰だ?」
ルビアス王子にはまったくもって当たる節なしだった。
これまで自身が付き合ってきた女性のなかにもいない。
「その、……ジャンは……、アンタの兄のジャンは元気かい?」
――どうして、ここで兄さんの名が?
一番上の兄ジャンの名前が出るんだ。
しかも元女海賊ララの声に少しだけ甘さと憂いがあったのをルビアス王子は気づいてしまったのだ。
「忘れたの?」
「えっ?」
「私は、ララ=シャンテだよ」
じいっと、ララがルビアス王子を見た。
ララはルビアスに見つめられて視線をしっかりと受けた。
彼女は口角を上げニカァッと朗らかに笑う。少し小首を可愛く傾げて。
「あっ……、え〜っと」
ルビアスはその仕草に思い当たる。
イタズラして驚かせて来てはよく顔を覗き込まれて。
陽気に俺に笑ってた女性がいたような……?
「うわっ!! き、君! 兄さんの恋人のララじゃないかっ!」
「はははっ! よーうやく思い出したかー! ルビアス。アンタ、いつぶりだい? ふふっ、懐かしいな」
ララだ! チャーミングなララは、兄さんの恋人だった女性だ。
ああ、ララ。
俺、久しぶりすぎて分からなかったよ。