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第百十七話 今一度手合わせを

 クラウドはエリザベートを大切に想い愛するがゆえに、心を開こうとしないエリザベートに対して少しだけ苛立っていた。


 その、苛立ちの理由はいろいろ。

 もっとエリザベートのそばにいきたかったし、エリザベートと時を過ごしたかった。

 それに黒の魔法使いランドルフからかけられたお節介な言葉が寝た子を起こしそうで、ムッとしていた。

(せっかく抑えているというのに)


 あ・と・は――!


「なぜ俺に聞きに来ない? エリザベート」

「クラウドっ!?」

「仲間である俺を頼りにしないのは何故だ?」


 エリザベートは稽古に無心だったのでクラウドが海岸からこちらに来て話しかけてきてびっくりした。

 クラウドが少し怒った顔に見えて戸惑う。


「なにか言われたの? ランドルフに」 


 エリザベートは黒の魔法使いランドルフとは長い付き合いなので、ランドルフの性格がよくわかっているつもりだった。


「ああ言われたさ。ランドルフの野郎には余計なことを色々とな」


 エリザベートはやけにクラウドが素直だなと思ったのだ。


ねてる?」

「エリザベートお前っ! 俺をからかっているのか?」


 クラウドにしては珍しく狼狽うろたえてかすかに頬が紅潮した。

 ふふっとエリザベートが笑った。

 クラウドはその可愛いエリザベートの屈託のない笑顔に、ぎゅっと胸が締め付けられてしまう。


「ランドルフは昔からああだから、気にしないほうがいいよ」


 ――気になるんだよ。

 打ち消したくたって。

 エリザベート、お前のことを言われると気になるんだ。


「もう一度聞く。なぜ俺に聞きに来ないんだ? 俺たちは弱点を指摘し合うって言っていただろ?」

「……そうだね、そうだよね。クラウドごめん。私……、貴方が強くて悔しかったから」


 クラウドは胸を打たれた。

 俺のせいだ。

 エリザベートが素直に謝るのを見て。

 俯き加減のエリザベートの表情が悲しそうで。


「悪い。……俺が全面的に悪い。すまん、エリザベート。俺の言い方がまずかった。意地悪く言って、お前に大人気なく思いのうちをぶつけてしまったな」

「大丈夫。私、そんなに弱くないから。それにクラウドが言ったのはもっともだし、本音をぶつけてくれて私は嬉しいんだよ? ねっ、クラウド?」


 エリザベートがクラウドの片手を両手で掬い掴み取った。

 クラウドはドキリとする。


 ――なんだよ。エリザベートは俺より大人じゃねえか。


 そう思った。

 クラウドは自分がまるで恋を知ったばかりの少年に戻ったようで、戸惑い恥ずかしかった。

 

「クラウド、私ともう一度手合わせをして下さるかしら?」

「ああ、もちろんだ。全力で来い、エリザベート」


 こういう時は剣を振るにかぎる。

 もやついた心も迷いも存分に、剣の稽古で絶ち斬ればいい。

 戦う者はそうして迷いを払っていく。


 エリザベートとクラウドは瞳を合わせ視線を交わし、ニイッと悪戯に笑い合った。

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