第百十六話 想いで満たせば
辺りに鳥の鳴き声がした。
食事の時間らしい。
銀色の体の海鳥は、空中で羽を大きく、二、三度はばたかせた。
勢いづけるために一度空高くまで飛び上がり、矢のようにスピードをつけ滑空し、海に鋭い角度で飛び込んでいく。
無駄のない動きだ。
餌を取るために空から海に潜る素早い鳥を、クラウドはランドルフを見つつも目の端で追いかけていた。
「初めはさ、新しい恋に拒否反応が出るかもしれない。だけどさ、クラウド。あんたの想いでエリザベートを満たしてあげればいいんじゃない? それが熱ければ熱いほど溶けるんじゃないのかな? 恋の痛みも。人に恋しようとする心が凍ってしまっていても」
「……そうだな」
ランドルフは砂浜に半分埋まった桃色の貝殻を二つ拾い上げ、海に向かって一つ投げた。
(桜貝か。綺麗だから一つはあの子にあげよう)
ランドルフは拾った貝殻を見て、ふと思った。
「あとさ。いいこと教えてあげる」
「いいこと?」
クラウドは胡散臭そうにランドルフを見た。
「エリザベートは男を知らない」
「……」
「アルフレッドと婚約してたけど、アルフレッドはそりゃあエリザベートを大事にしてたからね。生娘なんだよ、エリザベートは。そう、あんたが想いを寄せるエリザベートは穢れなき漆黒の勇者ってとこかな」
「なんでお前がそんなこと知っている?」
「勘さ。それではボクは用事がありますので」
黒の魔法使いランドルフはヒラヒラ手を振りお茶らけながら、エリザベートの家の方へ帰って行った。
「ランドルフのヤツ、あの野郎余計なことばっかり吹き込みやがって。……エリザベートが男を知らない、か。……こりゃあ、ますます軽々しくは手を出せねえよなあ」
ランドルフからエリザベートの恋愛事情を聞かされたクラウドは、眉根を寄せ困り顔をして頭をかいていた。