第百八話 ホッとひと息
「アリアさん、味つけは濃くなかったかな? ルーシアスの食文化といえば素材を第一にって塩胡椒や岩塩やミルクを使ったり、シンプルなのが主流だって聞いてたけど。あとは干物や燻製や果物をシロップに漬け込んだりだよね?」
「ええ、ルビアスさんはよく知ってらっしゃいますね」
「他国に興味があるから。自国に取り入れられるものは取り入れたいし、負の出来事も上手くすれば反面教師になるだろ?」
「……へえ、さすが、裕福な美食国家だな。それに、諜報活動が盛んだ。イルニア帝国は異文化にも見聞が広い」
「私、ランドンでこんな風な味のお料理を食べたことがないわ。美味しいね、アリア?」
「はい、エリザベートさん。皆さん、……とっても美味しいです」
アリアはご飯を食べながら、嬉しくて泣きそうになってた。
感動していた。アリアの胸が詰まる。
――ああ、私。エリザベートさんに会えてよかった。
皆さんと仲間になれてよかった。
聖獣シヴァが鳥籠から出れて本当に良かった。
アリアは初めての旅で心細くて悲しくてたまらなかった。
魔法の鳥籠の聖獣はかけられた魔法で、ほとんどおしゃべりできなかった。
聖獣シヴァが指を指す方へひたすら歩き進んだ。
長い道のりの途中途中では教会を訪ねては泊まらせてもらった。
お礼に教会の人たちや村や街の人々を【癒やし】の魔法で、傷ついた心や体を回復してあげたりした。
聖獣シヴァは傷ついていた。
私は癒やす魔法を使ったのになかなか癒やしてあげられなくて。
こんなこと初めてだった。
いつもならすぐに回復してあげられるのに。
聖獣シヴァに黒の魔法使いランドルフさんのおかげによって鳥籠から開放されたあとに聞いた。
アリアは「あれは誰からやられた傷でしたか?」と、聖獣シヴァに訊ねた。
「それが……分からないのよ。気づいたらもう深手を負っていたの。どこから自分が攻撃を受けたか分からなかったわ。背後からか上空からか、地下からか。敵がどこにいてどこから仕掛けて来たのか。ワタシにはまったくわからなかった。不覚だったわ。相手が誰かはわからない。向こうもなぜかすぐに去ったし。でも、かなり強大で邪悪なる者の気配がしたわ」
恐ろしかった。
どんな相手なんだろうと。
そう考えるたびに震えが止まらない。
癒やしの魔法を得意とするアリアでもなかなか治せない傷を負わす敵。
――怖い。
本当は怖いときもあるけれど、アリアは大好きになった仲間のために役に立ちたかった。
今はホッとしてる。
一つ魔物との戦いを終えた。
目の前の仲間たちとオムライスと温かいポトフを食べながら、アリアは嬉しくてたまらなかった。
アリアは初めて心の底から安心出来た。
ようやく自分のホッと出来る居場所が、拠り所が見つかったから。
ここにいて良いんだよって居場所が一人ぼっちだったわたしにも出来たんだ。
ホッと、心が休まる。
エリザベートさんと仲間たちとこうしていられて。
自分がこれまでどれだけ気を張りながら生きてきたのかと思い知らされていた。
危険が待ち受けているというのに、ここにいる人達が優しくて愛しくて。
エリザベートや仲間に、アリアは胸の内を素直にさらけだせる。
アリアの心は、幸せな気持ちでいっぱいに満たされるのだった。