Ⅰ-Ⅲ 鍛錬
「見張りは誰にするんだ?」
この一言で始まった。
そして今。
なんで俺はこいつと共に見張りをしているんだ?
いや、俺から言い出した事だったな。
こいつが
「あ、僕がやろうか?数日寝ないくらいなら慣れてるし、後で仮眠でも取らせてくれれば大丈夫だよ?」
そう言われてもこいつは本当に信用できるのか?
ということで同じく寝なくてもある程度活動できる俺がこのレイと言うやつと共に見張りをすることとなった。
なったのだが……
「……フッ!……フッ!……フッ!」
こいつ、かれこれ3時間は素振りを続けてるぞ?
本当の剣じゃなくて木で作ったものらしいが……
500過ぎたあたりから俺はこれを数えるのは止めた。太陽が完全に見えなくなっている。
……さっきから見てるんだが全然重心がズレないな……綺麗な型になってる。
一体どのくらい鍛錬を積めばここまで来るんだ?
体力もそうだが、技も洗練されてるっぽいな……本当に何なんだ?こいつ。
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かなり時間がすぎたな……隣で未だに素振りが続いている。汗をかいてるようにもみえない。
ただ、少しづつ、素振りをする速度が遅くなっているようにも見える。さっきまでこの無音な空間でいっそうるさく聞こえていた空気の切れる音も段々と小さくなっていく。
よく見ると少しづつ重心が変わってきてる?さっきまでずっと変わらなかったのに。
と、見張りを続けないとな、なんで俺はこいつの素振りをずっと見てたんだ?
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あれから結構たった。
見張りに専念していたため、あまりにあいつの事をよく見ていた訳では無いが、音から未だに素振りを続けていたことがわかっていた。
だが、ここから異変が起きた。
「……?音が無くなった?」
さっきまで聞こえてきた空気の切る音。それが聞こえなくなった。
ようやくやめたのかと思った俺は、あいつの姿を見て絶句した。
何かが切れることが無い。
刃がついてる訳でもない剣。
ただ素振りをしているだけ。
だが……
先程までとは比べ物にならない速さで剣を振るあいつの姿があった。
その時、直感した。
あいつは戦うわけじゃないから真剣を使わないのだと思っていた。
わざわざ鍛錬ごときに本物を使うまでもないと。
だが違った。
”切れすぎる”のだ。
空気の切れる音は聞こえない。
しかし、速く剣を振るえば本来なら切れるはずだ。
では何故か。
空気が切れたと認識する前に振り終わっているだけだ。
こいつは一体なんなんだ?
恐怖を覚える。
ふと、1枚の木の葉が舞い降りてきた。
その木の葉は風に煽られ、あいつの元へと飛んでいく。
そして……
消えた。
「!?」
奴は木の葉に向かって振るっていない。
しかし木の葉は無くなった。
何かある。
奴の周りには見えない何かが……
そして太陽が見えてきた。
残像だ