0-② 依り代
幼い頃からいつも、不思議なものが見えた。
基本は丸い形に少し長いしっぽのような形をしたものだったけど、偶に形がはっきりしている者もいた。
誰に聞いてもないも無い、嘘つきと言われていたから、嫌でもわかった。
あぁ、この”何か”は私にしか見えてないんだなって。
この村では15歳には大人と決まっている。
それまではこの村からは出ては行けないって。
悪魔が命を狩り取りに来るって。そう聞いていた。
だから私は我慢した。
誰から、そう、親からも気味の悪いものを見るような目で見られても我慢した。
だけど、私は待ちきれなかった。
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それから数ヶ月。
実は私の誕生日まではそう長くなくて、今では15歳になってる。
ここは村からかなり離れた場所に在る森。
村の皆が危険だと恐れ話にすら余り出されなかった森。
そこまで恐ろしいのなら誰も来ないんじゃないかって思ってここに拠点を作った。
私の生活は狩りをすることが殆どだったけど、そこまでこの剣……刀の扱いには慣れてなくて、自作の不格好な弓矢や、石造りのナイフを使うことが殆どとなる。
さて、ここまで色々長く話してしまったけど、本題に入ろうか。
『殺す……殺す……許さない……いつか絶対……俺が……』
それはもうずっと恨みつらみ呟いているこの幽霊が森をさまよっている。
特に何かをしてくるわけじゃないけど、ずっとこの森の特定の範囲を動き回っているため、ちょくちょく見かけてはっきりいってうっとおしい。
そのため、何かできないかと近づいてみたらこんなことを言っていたため、驚いた次第、どうすればいいのかちょっと迷ってるんだよね。
だけど、言ってることはどうやらこれだけじゃないらしく、時折こんな言葉も聞こえてくる。
『助けないと……危ない……早くしないと……嫌だ……死なせない……』
……多分、この幽霊は悪いものでは無いんだと思う。
だから……
私は弱い。実はここでの狩りもまともにできてない。たまに手に入る肉の量が多いから今はもっているだけで、いつかは絶対に食料が無くなる。でもお金なんてない。
そもそも今まで、まともな生活ができてないこともあって、この世にあまり希望を抱いてない。仕方なく生きてる感じ。
だから……この世に幽霊に私の人生を貸してみようかなって思った。
私が15歳になった時、あるスキルが発現していた。
それは……
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依り代
効果:対象の魂霊に自らの体を差し出すことで魂霊に自らの体を使わせることが可能になる。
尚、その間歳を取ることはなく、寿命が無くなる。
魂霊が自らの体で体験した全ての経験、記憶は解除後、全て使用者に受け渡される。受け渡された記憶による自我の消失が発生することは無い。
この能力は魂霊には解除が出来ず、使用者の意思でのみ解除ができる。
しかし、使用後、10年間は使用者の意識は眠ったままとなる。
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……簡単に言っちゃえば、誰かを入れてる間は私の体は歳を取らない、その幽霊が私の体で経験したことや思い出は私にも受け継がれ、なおかつ私を保っていられる。
代償として、最低10年間はずっと体を渡したままとなる上にどうなっているかを見ることは出来ない。
でも。
「復讐を糧に私の体で行う旅、いいじゃん!存分に使って!目標を達成して!」
迷うこと無く、スキルを発動する。
一体、私はどうなるのか、もしかしたらこの幽霊は最低なヤツで酷いことになってるかもしれない。
かなり弱くて、旅の途中で死んじゃうかもしれない。
でも。
「私の知らない思い出を作って!見せて!」
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……目を開ける。天井だ。
とはいえ見慣れないもので、ここがどこだかも分からない。
「俺……なんでこんな所に……?」
ふと横を見てみると手があった。場所からして自分の手だと思うのに、なんだか知っているよりも細い。
「は?一体どんだけ俺……寝てて?あれ?声が?」
なんだかいつもより声が高いような気がする……でも別に喉の調子が悪いとかそんな感じはあんまりしない……いや、それどころか日々喉を膨らませる喉仏の違和感も感じない?
いや、待て!何だこの服!
鏡!鏡はないか!?
よくよく気にしてみると男の下半身にある大事なものの感覚もない。
鏡はない、なんか自分の姿が見えるもの……水がある!ちょっとでも見えれば……は?
そこには、華奢な体の性別不詳(体の感じからして女)が水に反射して写っていた。
次回から第1話の予定。
この女の子、色々おかしい方向でテンション振り切ってますね……