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ばあさんのルージュ

作者: 小田虹里

この作品を開いてくださり、ありがとうございます。

 疎遠になりつつある田舎の祖母。

 家族の縁について書いてみました。

 最後まで読んでいただけると嬉しいです。


 また、色々なジャンルに挑戦しておりますので、別作品にも飛んでいただけると嬉しいです。

 このご縁が、続いていきますように。


 それでは、どうか最後まで読んでいただけますように。


「そこに居るのは、誰かね」


 僕は、問いかけられても知らん顔。まるで此処には誰も居ないかのように、足音を潜めて周りを物色する。化粧台の上には、何だか高級そうなルージュがひとつ。色合いはとても深い赤。新しそうなものではないところを見て、ばあさんが昔使っていたものなのだろうと予想する。だが、僕はこんなものは欲していない。僕はもっと、価値のあるものを見つけ、持って帰る算段でこのど田舎までやってきたのだ。僕の地域もそれほど都会ではないが、ばあさんの田舎は比にならない。電車は一両編成のワンマン列車。1時間に1本あればいいところだ。路線バスもほとんど走ってはおらず、最寄り駅からばあさんの家までは歩くしかない。その距離なんと、およそ15キロ。いい加減にしてくれと思うには、十分な距離だ。汗を流しながらたどり着いたこの田舎の一軒家、木造平屋建てに住んでいるのは紛れもなく僕の祖母だ。

 半年前にじいさんが先立ち、そのときに親戚一同はこの狭い平屋に集まった。悲しみに暮れるというよりは、年のいったばあさんの面倒を、これから誰が見るのかで大人たちは揉めていた。ばあさんは、独りこの平屋に取り残されたことになる。背中が大きく曲がり、あまり長い距離も歩けない。食事の準備くらいなら、低い台所に立って自分でこなしていたようだが、じいさんが亡きあとでは、認知症にでもなるのではないかと危惧された。それでも、僕の親父を合わせて三人の兄弟は、誰もばあさんを引き取るとは言わなかった。薄情だと批判する者も多そうだが、そう言わせてしまうくらい、ばあさんとは気難しく、時には歪んだ物言いをする人だった。その様子を子どもの頃から聞かされていた僕は、自然とばあさんとは関わらないような人生を選択していた。

 温厚で、ほとんど人のことを悪く言わない祖父に対して、ばあさんはいちいち口うるさい。おしゃべりなところは、ひとの性格だ。別に構いやしない。だが問題は、その内容だ。どこどこの奥さんが、派手な服を着ていた。どこどこの奥さんは、態度がでかい。どこどこの奥さんも、猫を何匹も飼っていて煩いだの。他所の家のことは、放っておいてやれと思わずにはいられない。僕が小さかった頃には、夏休みだ、冬休みだ……そんな長期休みの間はこうして田舎に帰って来る機会も多く、僕はとにかくばあさんの話し相手になっていた。祖父は、中年の頃から耳が遠く、あまり会話にも参加してこなかった。親父と母さんも、進んで聞き役に回ることは少ない。そんな母さんのことに関しても、ばあさんからの陰口は酷かった。

 田舎へ帰省中は、母さんが家事をほとんどこなしていた。それでも、何が気に入らないのか……ケチをつけることが本当に多く、親父と僕は苦笑いを浮かべていた。

 しかし、今は祖父が居ない。僕も大学生となり、講義が忙しく田舎にはそうそう向かえないほどだ。普通に入学し、進学し、卒業するだけでよければ、ここまで講義に追われて忙しくもなかっただろう。だが、僕はありとあらゆる資格と免許を取るため、夏休みもまるまる集中講義に費やしていた。確保出来た休日は、たったの1週間だけである。貴重な休みを使って、僕は単独でこのばあさんの田舎へ来た。


 狙いがある。

 単純に、金になりそうなものを探しに来た。


 僕も、大概腐ってきていると感じている。しかし、ばあさんもいい年だ。身辺整理ついでに、ばあさんが要らないものをかっさらって、質屋にでも持って行こうと考えていた。一応、親父には許可をもらっている。ばあさんは白内障が悪化し、黒目が殆どかすんでいる。いや、黒目がかすんでいるというよりは、白い眼球にほんのりグレーがかかっていると表現するのが正しいかもしれない。その眼では、細かいものなど見えないだろう。久しぶりにやってきた孫の顔すら、認識できていない。それもあって、ばあさん独りでは『終活』が厳しいだろうと考えた。親父以外の親族も、ばあさんの終活の手伝いには賛成してくれている。ただ、黙々と高価な物にだけしぼって探すというのは、気持ちが良い物ではない。ゴミならゴミだと直ぐに捨てられるが、それは他人である僕だから出来ること。ばあさんにいちいち確認していたら、アレも大事だコレも大事だと駄々をこねられそうだ。それならいっそのこと、僕はちゃちゃっとゴミ袋に捨て、高そうなものだけくすねていくのがベターな気がしたのだ。しかし、勝手に捨てて後からやっかみを買わないように、確認だけは念のためにしておくか……と、面倒臭げに溜息を吐く。

 講義のレポートづくりに追われ、あまりアルバイトに精を出せていない僕は、これがバイトだと思って田舎行きを引き受けたのだ。わざわざ汗をかきながら此処まで来た対価くらいはもらっても罰は当たらないだろう。化粧台のルージュをとりあえず手に取って、よく見てみる。だが、男の僕では価値観がまるで分からない。一旦、化粧台に戻した。幾つか棚があるので、それを上から順に開けていく。アクセサリーがあれば、丁寧にしまわれているそれは高価な物だろうと目星をつけたのだ。


「お前さん。何を探しているのかね」

「…………」


 ばあさんは、僕を不審者とは思っていないのだろうか。家の中をうろちょろとされても、厳しく責めたてては来ない。祖父が生きていた頃の威勢のいいばあさんの姿が、そこには見当たらなかった。霞がかったばあさんの目に、僕の姿は本当に映っていないのだろうか。邪険にしてきた相手であっても、実の祖母だ。『孫』として認識されていないことを受けて、若干ながら胸の中でモヤモヤとし、つっかえるものがあると自覚した。僕は手を止め、ばあさんの方を見た。ばあさんはお気に入りの椅子に座っている。


「ばあさん、最近の調子はどうなんだい?」

「おやおや、わたしの話でも聞いてくれるのかね?」

「……何か、話したいことでもあるのか?」

「じいさんは居らんかね。どこへ行ったのか、わたしは知らんのや。最近、目がよう見えのうて。お腹も空かんし、腰が痛とうて出歩きたくもない。もう、仏さんの迎えが近いのかもしれんなぁ」

(その前にじいさんは、とっくに居ないって…………)


 突っ込むところが多々あるばあさんの呟きを受け、僕はどれから話を合わせようかと考えてみる。話し声を聞いているうちに、ばあさんは僕を孫として認識してくれるかもしれないという、淡い期待も持ってみた。いくら良い思い出がほとんどないとはいえ、忘れ去られているのも癪だ。顔を見てもらえそうなくらい、ばあさんとの距離を詰めてみた。椅子に座っているばあさんのすぐ前にしゃがみ、顔を上げる。


(あぁ、年くったなぁ……ばあさん)


 元々多かったシワの数も増え、更にくっきりしたように感じる。じいさんが亡くなってから半年。ばあさんは、どんなことを思いながら独りこの家に居たのだろう。先ほどの発言が本当なら、ばあさんはじいさんが亡くなったことをすっかり忘れていることになる。認知症になるのではないかという不安を通り越して、とっくにばあさんは忘れてしまっている。僕はこの現状を見て、悲しくなった。

 あれほど威勢よく、誰にでもケンケンとつっかけていたばあさんが、腰の丸みも加えて性格もまるく変わる。半年前までは確かにあった、ばあさんの棘はすっかり抜けている。これが、本当に僕のばあさんなのか。僕はだんだんと、ばあさんに情が移り始めた。金目の物を探りに来たことは、ひとまず頭のどこかにしまい、ばあさんと向き合うことを決めた。


「ばあさん。お腹は空いてないの? 随分痩せたじゃん。飯、食ってる?」

「あの窓から見える花……なんと言ったか。あぁ、そうだ。さるすべり。じいさんがよう見取ったものじゃ。つるつるとした幹が好きなんじゃと。お前さんはどうかね?」

「じいさんな。確かに、あの木だけは熱心に手入れしてた気がする。特別な木だったの?」

「じいさんのじいさんが植えた木じゃろうて。わたしも大切にしておるんよ」

「へぇ……それは、いいね」


 ばあさんの視線は、外のさるすべりへと向けられていた。そんなぼやけた瞳で、あのさるすべりはどれくらい捉えられているのだろう。ばあさんは、すっかりじいさんの背中を追いかけているようで、このままスーっと消えてしまうのではないか。そんな不安が頭をよぎった。ばあさんの終活を進めるために来たはずが、いざ弱ったばあさんを前にすると、僕はダメになった。じいさんとの思い出が積もったこの平屋を前にしては、僕はあまりにもちっぽけな存在だった。孫という立場であっても、入る隙が無い。


 じいさん。

 それは、ばあさんが生涯を共にしたいと、自らが選んだ存在。


 孫。

 それは、ばあさん選び抜いた存在のカタチではない。


「不思議やねぇ」

「え? 何が?」


 いつの間にか、ばあさんは外のさるすべりから視線を僕の顔に変えていた。焦点が合っていないように見えるばあさんのその目には、うっすらと僕の姿が映り込んでいた。この距離なら、なんとか僕だと気づいてくれるかもしれない。ちょっとだけ期待しながら、僕はばあさんの言葉を待った。


「お前さんを見ておると、じいさんが笑ってる声がしよるとよ」

「僕を? そか…………じいさん、笑ってるんだよ、きっと」

「よいしょ、と」


 まだ話そうと思って口を開けている僕を遮り、ばあさんは急に声をあげ、ゆっくりと椅子から腰を上げた。曲がった背骨に右手を当て、ポンポンと軽く叩く。背骨や腰骨が痛いのだろう。ばあさんは、僕に背を向けてよたよたと歩いていく。その先にあるのは、大きく立派な黒檀の仏壇だ。代々のご先祖様と、じいさんの位牌が並んでいる。立派な座布団がこしらえてあるが、そこには座らず。立った状態で頭を下げ、おりんをチィーンチィーンと二度鳴らす。手を合わせては、南無南無と念仏を唱えた。それを終えてから、ばあさんは仏壇の右上に掛けられている遺影を見上げる。モノクロの遺影もあるが、じいさんの遺影はカラーだ。どこで撮った写真を使ったのか。僕は知らない。ただ、花に囲まれてその中で笑っている、良い表情のじいさんがそこには居た。じいさんは、自然が好きだったのか……思い返すと、僕はじいさんのことをよく知らないのだということに気づいた。それは同時に、目の前に居るばあさんに対しても言えることだ。

 子どもの頃。長期休みを利用して会いに来たとき。数日間はこの平屋に滞在していた。押入れにしまわれている低いテーブルを親父とじいさんが引っ張り出し、和室に置く。そこで、母さんが準備する手料理を囲んで、談笑する。ばあさんからの小言がほとんどで、じいさんは物静かに酒を飲み、テレビを見る。母さんはエプロンをつけ、せわしく動き回って。父さんは寝ころんでテレビを見る。しかし、その数日間でばあさんの、じいさんの何を分かったたというのだろう。1年の間で、顔を合わせるのはほんの数日。それくらいしか顔を合わせていないのに、僕はばあさんを嫌ってしまっていた。じいさんに至っては、特に実のある話をした記憶だってない。

 目の前に居るばあさんのことを、僕は目で追っていた。僕が知っていた、意地悪な顔はそこにない。いや、もともとばあさんは意地悪などではなかったのかもしれない。上手く世の中を渡れない、ちょっと不器用な人。それだけだったのではないかと、僕は感じた。

 確かにばあさんは、母さんのことを悪く言っていたが、人格否定などではない。姑の小言程度だ。毎年恒例のお盆帰省中、母さんは相当疲れがたまっていただろうけど、ひょっとするとばあさんは、同じ女として話し相手が欲しかっただけの可能性だってある。もっと違った話題も話したかったのではないだろうか。ちょっとしたキッカケを作るのが、ばあさんも母さんも下手くそだったのだ。その間に入っていた僕もまた、不器用な性格だ。気の利いた子どもだったなら、ばあさんと母さんの間に入って、コミュニケーションをスムーズにしてあげられたかもしれない。

 考えれば考えるほど、僕はばあさんやじいさんに何もしてあげられずに居たことが響いてくる。じいさんはもう、孝行したくともこの世に居ない。しかし、ばあさんは違う。今、僕の目の前に居て、じいさんの遺影を寂しそうに見ている。僕は立ち上がった。


「ばあさん。どこか、散歩にでも行くか? たまには外の空気を吸ってもいいんじゃない?」

「じいさんも、散歩にでも行ったのかね。姿が見えのうてなぁ」

「……じいさんは」


 ひと呼吸おいてから、僕はこの場を取り繕う発言をしようとした。しかし、口を開いた瞬間に先にばあさんが間に割って入る。


「先に逝ってしまったんじゃ」

「…………ばあさん」

「あぁ、半年ほどになるかね。小柄なじいさんじゃったが、えぇ男じゃったよ。優しくて、誰からも好かれておったわ」

「あ、…………うん。じいさん、優しかった印象しかない」

「お見合いで知りおうてな。お互い口下手じゃったが、じいさんはわたしを選んでくれての。この家に招いてくれたのじゃ。じいさんの親さんもな、そりゃあえぇひとじゃったわ」


 じいさんの遺影の隣に掛けてある、モノクロの写真をばあさんは見ていた。流石に曾祖父たちの生きていた時代は遠すぎて知らない。ただ、写真を見ているだけでも優しい人だったのだろうなと、分かるくらいには良い顔をしていた。ばあさんは、今までの意地悪が嘘だったかのように、目を細めて昔を懐かしむように何度も頷いていた。ばあさんの目の前には今、優しかった過去の映像が、流れ続けているのだろう。僕がばあさんを見守る目も、自然と穏やかなものとなる。


「わたしには、三人息子がおってな。みーんな、都会へ出て行ってしまったわ。でもな、それでよかったんよ」

「なんで? ばあさん、寂しくないの?」

「はっはっは。そりゃあ、寂しい思うこともあるさね。それでもな、この田舎に縛り付けとっちゃあ、気の毒さね。田舎には田舎のよさがあるが、難しいことも多いもんじゃ」

「……この家から、離れるつもりはないの? ばあさん、ろくに飯も食べてないんじゃあ、よくないだろ」

「ここが、わたしの居場所なんじゃ。良い意味でも、悪い意味でも。ここがわたしの終着駅じゃ」


 ばあさんが、何故この小さな平屋にここまでこだわっているのか。なんとなくだけど、分かる物がある気がした。ばあさんにとっての『家族』とは、この家そのものも含まれているのではないか。僕は自然とそう感じた。庭のさるすべりを見るたびに、そこでじいさんの面影を感じるばあさんが、この家を去る選択肢を取るはずがない。卑屈で意地悪なばあさんだとばかり思っていたが、実は誰よりも家族……身内を大切にしていた。

 ばあさんの身辺整理に来たつもりが、僕はばあさんの本質に気づくことで、自分の気持ちの整理をつけることになる。僕はばあさんを、間違った目で今まで見ていたのだと深く反省すると共に、後悔した。


「お前さんは、じいさんにそっくりじゃ。英介」


 不意にばあさんは、僕の顔を見てにっこりと微笑んだ。その瞬間、何故か僕の目には涙が浮かぶ。ばあさんに名を呼ばれ、僕のことを認識してもらえたからか。自分の行いが恥ずかしくなったからなのか。ばあさんも死期が近いんじゃないのかと感じたからなのか。よく分からないが、僕は涙を流した。静かに、ただ静かに涙が頬を伝う。ばあさんには覚られないようにと、僕は手でそれを拭ったりはしない。


「英介。ひとつ、頼まれてはくれんかのう?」

「あぁ。なんだい、ばあさん」

「これを」


 ばあさんが手にしたのは、先ほど僕が物色していたときに見つけた、ルージュだった。この家にある物の中で、唯一オシャレで可愛らしい品物である。ばあさんはそれを、とても大切そうに右手で撫でた。


「お前さんに、持ち帰ってもらいたいんじゃ」

「これを?」

「これは、じいさんがわたしにくれた最後の宝物じゃて。わたしの代わりに、大切にしてほしいんじゃ」

「そんなに大切なものなら、ばあさんがずっと近くに置いておいた方がいいんじゃないの?」

「そうしたいのもあるんじゃがなぁ。わたしも、だいぶんボケよるけのう。知らないうちに、これをどこかへやってしまう方が、悲しいんじゃよ」

「…………わかった」

「ありがとうな、英介」

「……うん」


 僕は、ばあさんからルージュを受け取り、それを持ってきていたハンカチにくるんでカバンの中に入れた。それを見て安心したのか。ばあさんは腰をトントンと叩くと、また定位置に戻るように、椅子に腰を掛けた。そこから窓の外を見て、何度も頷く。さるすべりにまだ花は付いておらず、つるりとした枝が見えている。


花が咲くまでは、ばあさんも大丈夫だろう。

なんの根拠も無い見通しをたて、僕は自分自身を安心させる。


 ばあさんの目の中に、僕はもう捉えられていない。それでもいいと、僕はひとり頷けば、ばあさんに背を向けた。今の感情の中では、僕にばあさんの身辺整理をすることが難しそうだと判断したからだ。玄関に向かって、僕はスニーカーを履く。

 黙って帰ってもよかったが、一応ばあさんに一言告げていこうと思い、玄関口から居間に向かって声を発した。


「ばあさん。また来るから」

「今日はいい天気さねぇ」


 噛み合わない会話。それでも、僕はひとり満足した。また、片道15キロの道のりを歩いて駅を目指す。カバンの中には、今日唯一の預かりもの。ルージュが入っている。

 高値な物ではないが、間違いなくこの家の中で最も価値がある品物だ。僕はこのルージュを託された身として、大切にしようと心を決めていた。まずは、帰宅したら親父と母さんにも今日のエピソードを話す。そうすることで、ばあさんへの偏見を少しずつでも溶かしていこう。それが、本当の意味でもばあさんの終活の手伝いなのではないか。

 帰り道の足取りは、行きとは全く違い、軽かった。人と人を正しく繋ぐこともまた、家族としての在り方であり、受け継がれた血を持った縁である。僕は初めて、ばあさんに孝行できたことを嬉しく思った。


 こんにちは、はじめまして。あるいは、お久しぶりです。小田虹里です。

 今年度がはじまり、四月終わり頃からはじめた新作投稿。ジャンルや分野、テーマの方向性などを変えてみて、色々な方面の勉強を兼ねて投稿しています。今回のジャンルは『純文学』としました。『ヒューマンドラマ』とどちらの方が適したジャンルだろうかと悩んだのですが、他の方の作品を見てみて。今回は前者としてみました。もし、ご指摘がありましたら、後にジャンルの編集を行うかもしれません。


 なろうの世界では、どれくらいの文字数だと読まれやすいのだろうか。それとも、どんな文字数であっても、やはり魅力のある作品は読まれるのだろうか。色々、考えることはあるのですが、何はともあれチャレンジし続ける姿勢を、忘れたくないなと思っています。


 今回は、意地悪だったばあさんと、孫である英介のふれあいのエピソードです。ばあさんのイメージは、小田の父方の祖母のイメージです。喋り口調なども、所どころ似せているところがあります。もっとも、小田はばあちゃんとは仲がよく、電話もよくする仲ですので。ばあちゃんから意地悪された記憶はほとんどありません。母が早くに亡くなった小田が、色々悩んだり、困ったときにも、電話をかけてばあちゃんからアドバイスをもらったり。愚痴を聞いてもらったりしていました。最近は、あまり電話をする機会もなくなってきたのですが。それでもたまには電話をかけて、『元気?』と会話しています。ばあちゃんは、癌にはじまり心臓も悪くなりペースメーカー入れたり。脳内出血で倒れたり。最近も、腸に血栓が出来て緊急手術をしたばかりです。なんとか一命をとりとめて、元気に戻ったようですが、食べるものも少なくなり、体重も随分軽くなってしまっているようです。声に覇気が戻って来ただけ、ちょっと安心しているのですが。

 じいちゃんは、まだまだ元気です。きっと、軽く100歳まで生きてくれるだろうと、みんなが思っています。


 僕の母方の祖母、父方の祖母は、どちらも他県に住んでいます。特に、父方の祖父母はとても遠くに住んでいるので、それこそなかなか会うことが出来ないんですよね。1年に数回しか会うことが出来ないじいちゃんと、ばあちゃんです。じいちゃんとばあちゃんにとっての女の孫は僕だけなんです。それもあってなのかな。弟よりも、なんだか優遇されているところがありました。

 おじいちゃん、おばあちゃん孝行として、何が出来るのか。話し相手になることも、孝行のひとつだと思っています。何かをプレゼントするよりも、最近は『物は要らない。電話してくれたら、それで嬉しい』と言われます。物をもらっても、もう先が永くないから……と。それはそれで、寂しくなる話なのですが、でも、それも一理あるのかなって。だから、近年は物を送るのではなくて、電話をかけることにしています。

 また、祖父母の話を聞いて『伝い手』になることも、孫として大切な役割なんじゃないかなと思います。祖父母が何を感じて生きて来たのか。それを知って、受け止めて。また、僕らのじいちゃん、ばあちゃんがどんなものを見て生きて来たのかを伝えていく。伝言ゲームみたいですね。でも、それがじいちゃんとばあちゃんの生きた証。それを伝えることで、縁も繋がっていくのではないかなと、思いました。


 あと。

 さるすべり。


 さるすべりは、小田の家の庭に生えているんです。

 それが確か、母方の祖父の育てていたさるすべりの株分けだったかと記憶しています。

 母方の祖父こそ、早くに亡くなってしまっているので、確認できませんし。母すらとっくに亡くなってしまっているので、『そうだったよね?』と、訊ねることが出来ません。小田しか知らない、曖昧な記憶です。それでも、家の庭に帰ればそのさるすべりを見るし。母が何より大切にしていた花は、『紫陽花』です。それを見るのが毎年楽しみになっています。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 詩やハイファンタジーにも挑戦しておりますので、また別の作品でもお会いできましたら幸いです。ご縁が続きますように。


 2021.06.05


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[良い点] とても優しい物語で、読み進める内、お婆ちゃんと孫、二人のやり取りが微笑ましく感じられます。 最初に敢えて殺伐とした要素を入れ、コントラストを付けた工夫も素晴らしい。 「なろう」の中では、珍…
[良い点] 今日も、小田さんの作品、読みに来ました。いつも、情感あふれる作品です。
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