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殺人探偵

作者: トマト嫌い

タイトルがタイトルである以上最後は多少暴力シーンが入ります。

心臓の弱い方などはご遠慮ください。

「僕は君達のような卑劣な人間は許さない。その卑劣さ、命をもって償ってもらう。」



「やあ、遅れて悪かったね。今日は何か予定あったっけ?」

春日探偵事務所所長の春日幸平は一年に一度しか出勤時刻に間に合わないほどの遅刻の常習犯である。

まあその一日というのもバレンタインデーだったりして。

つまり平日には一日としてまともに来たことがないとおもってもらって構わない。

「何言ってるんですか!今日は先週御宮入りした殺人事件の依頼があったでしょう!もう依頼人の方いらっしゃってますよ!佐藤君が話を聞いてますから先生も早く行ってください!」

彼女は清水美優。

この事務所の事務方だ。

「まあいいじゃないか。のんびり行こうよ。どうせ御宮入りした事件なんだ。」

「先生!どうせまた佐藤君に仕事全部押し付けてさぼる気でしょ!!たまには働いてくださいよ!」

美優が叫んだところで扉が開いた。

「ではよろしくお願いします。」

彼が今回の依頼人の森川亮である。

また同時に最有力容疑者候補であった人物だ。

「自分の濡れ衣を晴らしてくれ。」と頼みに来たわけである。

まあわからない話ではない

森川は事務所から去って行った。

それを見計らっていきなり春日は言い出した。

「僕は彼が犯人だと思ってるよ。日本の警察は世界と比べても非常に優秀だからね。」

「うーん…自分は彼と話せば話すほど濡れぎぬを着せられた不幸な青年にしか見えませんでしたけど…」

佐藤が反論する。

「だから僕は依頼人と話さないようにしてるんだ。君のように主観的になってしまうからね。たとえ自分の身に起きたことであろうと客観的目線でとらえる。それが大事なんだよ。」

「お説教は結構ですけど、ちゃんと調査に参加してくださいね。」

美優に腕を掴んで外へと連れて行かれた。

「イタイイタイ…わかった!やるよ!やるから話してくれ…」

美優が手を緩めると春日は逃げ出した。

しかしあまり足は速くないのですぐにまた捕まった。

「うわぁ!痛い痛い!!やめて〜!!」

「関節外すぐらいしないと懲りないよ。その人は!」

「確かに。よし、じゃあ…」

(ボキッ)

「ぎゃあああああああああ!!!!!」

春日の断末魔がこだました。





「えーと…では情報を整理しますね。被害者は山崎武、当時二二歳です。死亡推定時刻は十一月八日の午後八時から十時半、死因は銃創による失血死です。」

世界一さえない捜査会議だろう。

まさか接骨院が会議室とは。

「春日さん、これは間接はずれちゃってますね〜」

医者に宣告された。

「美優君…訴えてやる!」

「自業自得ですよ。」

まあ確かにその通りなのだが。

「被害者に多額の借金があったことから最有力容疑者にあがったのは先ほどの森川さんでしたが、彼は事件当時完璧なアリバイがあったため、捜査本部も泣く泣く容疑者から外したそうです。」

二人のやり取りを完全に無視して佐藤が続ける

「ふむ…アリバイというのは?」

「彼は近所のバッティングセンターの常連客なんですが、事件当夜もずっとそこにいたようです。店主の話によるといつもと違って全く当たってなかったからよく覚えているとか。」

「ふーん…鉄壁のアリバイって言われるとなんか逆に怪しいよね。適度にアバウトなアリバイだと全く疑えないのにね。」

「他に全く動機を持った人間がいないうえ、目撃者が小さな子供一人で信用性に欠けたため、御宮入りになったそうです。一応無差別としての捜査もしたようですが。」

佐藤が自分の手帳を閉じた。

一ページによくあれだけの文章をかけるな、と感心する。

「じゃあとりあえずその鉄壁のアリバイを崩す線でいこう。」

春日がそういうと、それに呼応するかのように医者の声が聞こえた。

「春日さーん、いきますよ〜」

医者は大きく息を吸い込む。

(ボキッ)

「ぎゃああああああ!!!」

接骨院での会議は本日二回目の断末魔とともに幕を閉じた。





その後三日は森川の尾行に時間を費やした。

それはあながち無駄に終わったわけではなく、二つわかったことがある。

一つ目は彼は非常に大食いであること。

コンビニなどでも弁当を必ず二つ買って帰る。

もう一つは彼の調子である。

日ごとに調子の起伏が非常に激しいように思われた。

ちょうど、バッティングセンターでの話と同じである。

しかしそれ以外に全くあやしいところはない。

「やあ…どうしたものかねぇ?別に彼が大食いだなんて知ってもどうしようもないんだけど。」

春日がぼやいた。

「やっぱり…難しいですね…警察が御宮入りにしたのもわかる気がします。」

「まあ仕方ないじゃないですか。がんばりましょー」

(ふむ…あとで大宮に聞いてみるか。)

「もうお昼時だねぇ、今日は僕がおごってあげるから二人とも何か食べに行こうか。」

「おお、やったーー」

「珍しく気前がいいですね。」

美優が言った。

「珍しく、だけ余計だよ!」

この事務所の正面にはステーキハウスがある。

もちろん彼らはそこへ行くつもりだろう。

「じゃあ、向かいのステーキハウスに行きましょう。」

(やっぱりね…)

「早く行きますよー。」

佐藤と美優に両腕を横からつかまれて連れて行かれた。

さながら補導された少年のようである。

「ご注文は何にしますか?」

ウェイトレスが聞いてきた。

「ああ、佐藤。僕の分適当に選んどいて。ちょっとトイレに行ってくる。」

「わかりました。」




携帯の呼び出し音が鳴り響く。

「…やあ大宮か。僕だよ。…うん。…先週御宮入りした山崎って青年が殺された事件あったろ?…うん…ああ、それだよ。…うん、それなんだけどね。なんで森川は容疑者から外れたの?…うん…うん…うん…なるほどね。やっぱり日本の警察は優秀だね。優秀すぎるくらいだ。…ああ、いやいや何でもないよ。こっちの話さ。じゃあありがとう。…うん。君もね」

携帯のディスプレイには通話料百八十円と表示が出ている。

「やあ、只今。うーんおいしそうだね。」

春日が席に着く。

「先生、お帰りなさい。」

「あれ、僕のステーキなんか小さくない?」

「気のせいですよ。気のせい」

美優が笑いながら答える。

決して気のせいではないだろう。

差がありすぎる。

春日と佐藤の探偵としての実力差ぐらいある。

もっと極端にいえば、ボブサップとマイケルジャクソンくらいの大きさの差はある。

とても気のせいでは片づけられない。

そんなことを思っているといつの間にか美優と佐藤はステーキを完食していた。

「では、お先に。」

一人取り残された形である。

彼は冷めたステーキを一人で食べて事務所へと帰った。





その日の夜

春日は一人、町はずれにある森川の住まいにやってきた。

昼の柔和な表情とは打って変わって、激しい憎しみをこめた表情になっている。

今、佐藤や美優が彼を見ても誰だかわからないだろう。

「犯行には二人の森川亮が必要なため、物理的に不可能…か。まさにその通りだよ。一人ならできるはずはないさ。警察もあと一歩のところまで来ていたのに。実に惜しい。」

彼の眼には家の中にいる森川が二人に見えている。

同時に彼の持つカメラもその姿をとらえた。

「ふむ、これで言い逃れはできまい。」

(ピンポーン)

「すいません、探偵の春日です。昨日のことでお話ししたいことがあります。入れていただけませんか?」

「どうぞお入りください。」

森川の声が聞こえた。

春日の左手には日本刀の鞘が握られている。

「お邪魔します。」

春日はリビングへと通された。

「それで…何かわかりましたか?」

「はい。あなたが犯人だということがわかりました。先ほどお二人の写真を撮らせていただいたので。」

「ふむ…気付かれましたか。ではあなたの要求は何ですか?警察を呼ばずに一人で来たということは何か目的があるんでしょう?」

「もちろん。」

「それは何ですか?」

「君たちの命だ。僕は君達のような卑劣な人間は許さない。その卑劣さ、命をもって償ってもらう。」

春日の日本刀の剣先がわずかに赤く染まった。

心臓に突きを一閃。

もちろん即死である。

「馬鹿め、今どき刀なんか持ってくるやつがいるとはな。」

もう一人の森川が拳銃を構えて立っている。

「さあ武器を捨てろ。そして玄関の方へ歩け。ここで撃ったらばれちまうからな。」

彼が何度声を荒げても春日はなお動こうとしない。

「おい!いい加減にしろ。」

「呼んだかい?」

彼が後ろを振り向くと血のついた日本刀が見えた。

それが最後の光景である。





翌日

「東京都在住の男性森川亮さんが行方不明になりました。…」

「これは僕たちの依頼人じゃないか!」

春日が驚いたように声を上げる。

「うーん…これじゃ調査は打ち切りですね…」

佐藤が唸る

「物騒な世の中ですね〜」

「うん、本当に物騒だね。君たちも気をつけないとね。」

春日が冗談めかして言った。


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