16日目 【魔王軍視点】廃村魔王軍にSSSダンジョンとしてマークされる
シアンが好き勝手にやっている中。
無職のおっさんの夏休みは人間以外にも影響を及ぼしていた。
「魔王様はどうした?」
魔王軍四天王、そのうちの2人が魔王城のとある部屋に集まっていた。
剣を持ち赤い髪をポニーテールにした魔人の女であるディアと扇子で口許を隠した銀色の髪を持つ魔人の女シャルだった。
「はて、偉い人なので少しの遅れくらい問題ありませんことよ」
「遅刻なんてレベルじゃない。我々はこの部屋で10時間待たされているぞ」
「我々にとって1日2日は大して長くありません。このまま待ち続けていればそのうちくるでしょう」
その言葉に呆れたような顔をするのはディア。
「それでも長すぎるから他のふたりは先程退室したのだろう?10時間もダンジョンを開ける訳にはいかない、と」
「おやおや、10時間程度で崩れるほどのへなちょこなダンジョン経営しか出来ないのですか?ディア」
「何だと?」
二人の間に良くない空気が流れた。
「貴様こそその扇子の裏では口許は笑っていないのではないのか?」
「何ですって?ディアの分際で私を愚弄するのですか?」
「図星なようだな」
「お黙りなさい」
二人の間ではバチバチと音を鳴らしそうなくらい視線が交されていた。
「ふん。それより魔王様はどちらへ?」
「最近人間のエリアと魔王軍のエリアの丁度真ん中に突然砦が出来たのだ。『ちょっと様子を見てくる』と言い残して出ていかれた」
それはシアンが絶賛引きこもっている村だった。
「何ですって?そんなものいつの間に?」
「知らない。少し前に突然出来たのだ。ダンジョン立ち上げの届けもないしクリスタルの力も感じない、更には妙な時魔法を感じたということで魔王様が様子を見に行かれたのだ」
「おやおや。先日妙な感覚を覚えた気がしましたがあれが時魔法だったのですね」
そう答えた後に更に続けるシャル。
「人間はクリスタルの加護がなければ弱いですからね。加護が届く範囲内で活動しなくてはならないのにわざわざそんなところで生活するなんて妙ですよね」
「あぁ。憎きあのクリスタルさえなくなれば我々とて1日もかけずに攻め落とせるというのにな」
「ならその領域にいるのは誰なのですか?」
その言葉に呆れたような顔をするディア。
「馬鹿なのかお前は。分からないから調べにいかれたのだ。魔王軍に身を置く物ならばダンジョンを立ちあげるなら届出が必要だ。それもなく出来上がったから様子を見に行かれたのだ」
「おかしいですね。様子を見に行くだけなら直ぐに帰ってきそうなものですが」
「だから我々も困惑しているのだろう?今日は大切な作戦会議ということで我々も呼び出された。それなのに帰ってこないのだから」
「一大事でございますわね」
ここに来てようやく2人の顔に焦りが浮かんでくる。
「ディア。貴方魔王様を呼びにいきなさいな」
「は?何を言っている」
「このまま魔王様が帰ってこられないのであればそれこそ取り返しがつかなくなります」
先ず魔王の必要性を語ったシャル。
「魔王様の偉大な力をもってすればクリスタルの加護すらない領域など1時間もかけずに潰せますよね?それが出来ていない。高位の存在があの領域にいることを察せます。その存在が魔王様を消したらどうなさるおつもりですか?」
その言葉に怪訝な顔を浮かべるディア。
「だが、魔王様が勝てないほどの強い敵に私が勝てるのか?」
「無理でしょう。貴方が囮になって魔王様をお助けしなさいな」
「なっ?!き、貴様!」
自分の命を何とも思っていないシャルに怒りを示すディア。
「何を怒っているのですか?四天王は一応替えがききます。しかし魔王様の代わりはいない。どちらが死ぬべきか考えるまでもないでしょう?」
「それでも私が死ねば打撃だろう?!」
「尊い犠牲です。犬死しなさい。それで魔王様をお救い出来るのならばかなりのプラスです」
そう言って
「ふぇぇぇぇぇ。さようならディア。貴方はつまらない人でしたが葬式くらいは出てあげましょう」
棒読みと嘘泣きでそう口にしたシャル。
「私は反対だ。魔王様が不在の今指示にないことをするのは危険だろう。ここはいつもの様に人間軍を制圧していく。そして魔王様を信じて帰還を待つ」
「馬鹿ですか?あなたは」
「馬鹿はお前だ。今魔王軍に四天王候補はいない。私が穴を開ければ大打撃になる。様子を見るべきだ」
「これだからお馬鹿さんの相手は嫌なのですよ。ストレスが貯まりました。モンスター達に人間を虐殺させてストレス解消です」
ペロリと唇を舐めるシャル。
「勿論、あの謎のダンジョンは大きく迂回させます。現状あのダンジョンは難易度が高い割に特に問題がないように見えますので。難易度はSSSとして認定し魔王軍の者には近付かせないようにしましょう」
「私もお前の相手でストレスが溜まった。代わりにいつも通り人間を虐殺しよう。勿論あの未知のダンジョンには近寄らない」
ここまで言い合った2人だがシアンの廃村には近付かないという部分では意見が一致していた。
「どちらが多く殺せるか」
「そんなもの結果を見るまでもない」
2人はダンジョンに戻るとそれぞれモンスターに指示を出し人間領の制圧を始める。
その後2人は鬱憤を晴らすように制圧を続けて着実に人間側の領地を減らしていく。
その際一切の抵抗がなく、数日後人間側の領域で残ったのはシアンの生まれ育った王国だけになっていたという。