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13日目【勇者サイド】すべての神器、引きこもり無職を選び崩壊し始める勇者パーティー

 王城はバタバタしていた。


「シアンはまだ見つからないのか?!」


 勇者サトシが王城の兵士達に問いかける。


「み、見つかりません!」


 当然だ。

 シアンは誰にも何も言わずに1人と1匹で人間領を離れたのだから。


「はぁぁぁぁぁ、無能ばっかだな。あんな無職1人探せないのかお前らは」


 盛大に溜め息を吐くサトシ。


「あのさぁ?お前ら分かってる?トオルの馬鹿が何故か魔導書から切られて、その魔導書はシアンを選んじまってるんだぞ?一刻も早く連れ戻せ。魔王軍には神器がないと太刀打ち出来ないの分かってる?」

「さ、サトシ。僕はまだ切られたと決まった訳では。何かの間違いかも」

「うるせぇな?黙れよ無能トオルが」


 何か言いかけていたトオルにサトシは厳しく言い放つ。


「お前が魔導書に認められたままなら今頃こうなってないんだよ?分かる?」

「わ、分かりますけど」

「無能は黙っていればいいんだよ」


 無能無能と言われてもトオルは拳を握りしめることしか出来ない。

 彼は今のところ何もパーティに貢献出来ていないのだから。


「はぁぁぁぁ。頼むぜお前ら?」


 サトシがそう言ったその時


「みなのもの」


 そこに現れたのは王様だった。

 勇者パーティは皆姿勢を正す。


「シアンは見つかったか?」

「い、いえ!」

「そうか。今シアンに対して王として命令を出してな。あちこちの村や国に、『2週間以内に王城まで来なければ反逆罪で処刑する』という貼り紙をさせている。これで来るはずだが」


 この王の行動はまだ人間側の領地にシアンがいるという事を前提にされたもの。

 しかし彼らはシアンがもう既に辺境に飛び立ったことを知らないのだ。


 こんなもの見るはずがない。


「まだ神器は使えないのか?トオル」

「は、はい。使えません」

「では、一刻も早くシアンを探さないとな」


 王が呟いたその時


「勇者パーティを出せ!」

「そうよ!早く勇者パーティを出せ!」

「俺たちの村は潰れた!勇者が守ってくれなかったからだ!」


 王城の庭園の外。城門の前に集まった人達がそう叫んでいる。

 トオルが役立たずになってから1つ2つ3つと魔王軍によって潰された村が増えていた。


「あの調子じゃ話も満足に出来ないか。よし」


 王様は呟くと王室にあった本棚から1冊本を抜き出した。


「そ、それは?」

「隠し通路だ。本当は使いたくなかったがお前たちを守るためには仕方の無いことだ」


 そう言って本棚にあったスイッチを押す王。

 するとゴゴゴゴゴゴ、と本棚が動いて奥に部屋が現れた。


「この先は我が王家に伝わる隠し部屋。神が与えてくださったクリスタルの力を集めて作ったテレポート装置がある部屋だ。有事の際に移動できるようにここにある」

「そ、そうなんですね」


 王の言葉にそう反応を示すサトシ。

 それから王は口を開いた。


「行先は辺境だ。ここからテレポートして辿り着くのは神殿」


 そうまで説明した王は部屋に入っていく。


「さぁ、移動するぞ。ここはうるさくて仕方ない」


 シュン!

 そんな音を鳴らして一行は辺境へテレポート。


「ついたな。この先に城があるはずだ。先に行って俺の安全を確保しろ」


 王が勇者パーティにそう言った。

 ゾロゾロと歩いて神殿を出ていく勇者達。


「王様?城なんて何処にあるんですか?」

「は?そこにあるだろ?城ほど大きなものどうやって見落とす?」

「いえ、だからありませんよ?城なんて」


 王はその言葉を不審に思いながら足早に神殿から出て周りを見る。

 すると


「ば、馬鹿な……」

「城なんてどこにあるんですか?」


 そこにあったはずの城が跡形もなく消えていた。


「あ、有り得ない!何故城がない?!こんな辺境の城を誰が破壊した?!」


 そうまで言って王様はとあることに気付く。


「いや、破壊じゃないな。破壊なら瓦礫や残骸が残るはずだ。でも、ないな」


 そう。忽然と姿を消していたのだ王城は。


「お、俺の城は何処へいったのだ?!国のために使うと言ってかき集めた金で作った城だぞ?!」


 そのロクでもない城を探し回る王。しかしまたすぐに口を開くことになった。


「お、おい!ここにはあれがあったよな?!」

「何ですか?俺達ここにくるの初めてなので何があったのか分からないんですよ」

「ここには綺麗な湖があったのだ!」

「湖?そんなもの無くないですか?」

「だ、だから慌てているのだ!城も湖も突然消えるわけないだろ?!それになんだ!この荒地は!陥没してたり雑草ばかりだったり!ここは俺の第2の家だったのだぞ?!」


 発狂する王。

 無理もない。自分の家をめちゃくちゃにされているのだから。

 その時


「グルルルル」


 ウルフが現れた。

 討伐難易度Dの弱いモンスター。


「グルゥ!」


 それが勇者パーティに飛かかる。


「くそ!」


 サトシが迎撃しようとしたが


「な、なんだ?!聖剣が抜けない!何か引っかかってるのか?!」


 鞘に収まったままの聖剣は抜けなかった。


「くそ!イリーナ!何とかしてくれ!動けるのはお前だけだ!」

「そ、そんな事言われても!私支援職よ?!」

「じゃあ杖で殴れ!」

「む、無茶言わないで!」

「ガウッ!」


 言い合っているサトシ達を無視してウルフがサトシに噛み付く。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 叫ぶサトシ。


「ヒール!」


 聖女であるイリーナはいつも通り回復魔法を使おうとした。

 でも


「あ、あれ!なんで!ヒールが使えない!」

「そんなわけないだろ?!は、早く回復してくれ!いてぇよぉ!」


 そう言いながらウルフを何とか引き剥がすサトシ。

 しかし聖剣はまだ抜けないままだった。


「ちっ!抜けねぇ!何でだ?!」

「わ、分からないけどやばくない?!」

「あ、あぁ、やべぇよ!一旦逃げるぞ!王様!戻りますよ!」

「あ、あぁ」


 やっと発狂状態から戻ってきた王。

 王は勇者パーティとして元の場所に戻ることになってしまったのだった。


 勿論勇者の聖剣が抜けなかったのは引っかかっていたからではない。

 聖剣がシアンを選んだ結果聖剣はサトシは相応しくないと認定したからだ。


 それは聖女イリーナの持つ杖も同じだった。

 聖者であるシアンを選んだ結果だった。


 その後、トオルは最後尾を走っておりウルフに噛みつかれた際に左腕を失ったという。

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