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0 記憶
中庭でのことだった。
よく晴れた午後、僕は一人で庭に出ていた。二階の窓から外を見た時、庭木の緑の中に鮮やかな赤が混じっていることに気付いたからだ。六歳の誕生日を迎えたばかりの僕は幼い好奇心でいっぱいで、本当は家の敷地内といえど一人で動き回ることは禁止されていたのだけど、子供がそんな理屈に大人しく従うはずもなかった。それに僕は、子供なりに、庭が安全な場所だと知っていたんだ。
赤い花が一輪咲いていた。周りにはまだほっそりとしたつぼみがたくさん花開く日を待っていて、その一輪だけが一足早く咲いたらしい。
その花の色や、花びらの瑞々しさが、きっかけとなったのか。それとも全くの偶然だったのか。僕には分からない。
ただ、その瞬間、僕は思い出した。
自分が自分になる前、こことは違う世界で、違う名前で、違う人生を送っていたこと。
それが終わった日のこと。
固く閉ざされていた扉が開いたみたいに、僕は全てを詳細に思い出した。
自分のこと。
そして君のことを。