マハラジャ物語 折り畳み傘2
折り畳み傘2
「九州の女」
「踊り狂ったディスコの帰り~♪」
オレは誰もがしっている歌を
わざと茶化しながら口ずさんでる。
時間は25時
東通りのマハラジャを出て
一本北の通り、ホテルファインの前に
車を停めてるのでそこまで歩く。
来たときは雨だったけど
今は、すっかり雨がやんでいる。
折りたたみ傘を畳んでカバンに入れる。
「たどりついたら、今里の部屋~♪」
誰か横にいるわけでもない
ひとりで歌って車に乗り込むオレ。
「サブローの顔を思い出して
負けたなと思ったら泣けてきた♪」
サブローとはよく一緒にディスコにナンパ行く友人だ。
たいして、おもしろいことも言わないのに
男前っていうだけで、よくモテル。
数分前、今日もお持ち帰りや、
ゆうじ悪いけどひとりで帰ってくれ。
と言われひとり帰るとこだ。
車を走らせる、
新御堂までは繁華街、途中商店街を
抜けるまではカンバンやよっぱらいが多いので
すごく神経を使う。
そして新御堂に入る手前、ちょうどツタヤのあたり
オレはここを通るのがとてもイヤだ。
ガールズバーが乱立して女性が
いろんな男に声かけてる
「お兄さんいっぱいだけどう」
「いや、オレ車やし」
「駐車場入れて、お店来てよ~」
なぜか、わからんけど
客引きの女性って嫌悪感しかわかない。
新御堂の下の道を南にくだり
曽根崎東の交差点を扇町公園のほうに左折する。
そういえば泉の広場の工事終わったのかな。
そんなことを考えながら神山交差点で信号待ちしてると
知った顔の男女が前を通る。
あの女また、男変えてるわ。オレが誘ても見向きもせんのに。
朝の9時、玄関が開く
ヨシコが入ってきた。
もう5年のつきあいなので合い鍵もわたしている。
たまに家にきて、ゴハン食べて、セックスして帰る
そんな仲だ。そういえば、ここ最近、ヨシコと一緒にどっかに
出かけるってないな
というか、オレはそもそもヨシコとつきあってるんやろか
別にキライでもない、かといってめちゃめちゃ好きでもない
別れる理由がないから時々会っている、そんな関係がずっとつづいてる。
こないだ、旅行行くと言ってたけど多分男と一緒だ
そんなこことも気にならない。
5年もつきあってたらそういう気分になるのかな
「ヨシコ、来週の休み京都でもいかへんか」
「めずらしいな、ユウジがお出かけ誘うって」
「でも、あかんねん、ワタシ来週、大分に帰るねん」
「帰省するんか、何日ぐらいで帰るんや」
「もう、大阪には帰らへん、親が体わるくなってな
実家に住んで欲しいっていうねん」
年齢的にも、もうギリギリ、大分のかなり田舎に住んでるとはきいたことある。
嫁不足やから、私でも帰ったら、もらってくれる人いっぱいいてるねんで
そんな話をよくしていた。
「えっもう大阪には帰らへんのか、来週ってエライ急やな」
「最後はなダラダラするより、すっぱりしたいねん」ヨシコは笑いながら言う。
洗濯物を畳んだり、部屋の掃除をあたりまえのようにするヨシコ
玄関にある折り畳み傘をみつけて
「ゆうじ、この傘まだ使ってるん」
「うん、使ってるよ」
「買ってあげた時は折り畳み傘なんかダッサイってゆうてたやん」
「そう、おもたけど、けっこう便利やねん」
ビニール傘やったら大事にしないから、すぐに捨ててたはずだ。
「なあ、ヨシコ、オレも大分行こうかな、お前と一緒に九州にいっていいか」
「かまへんよ、そやけど切符は片道だけやで、 ほんで向こうについたら
別行動、それでも良かったら大分に行こう」
意味がよくわからないことを言ってたヨシコ。
そんなたわいのない話をしてから1週間後
今頃、伊丹から飛行機にのってるはず
仕事を理由に、見送りにもいかなった。
きれいに乾いた折り畳み傘をみて、5年の月日を想う。
オレがおらへんほうが君は幸せになるはず。
おわり