8 迷宮内部 後編
「はいどうぞ。廉。ゆっくり飲んでよ。」
愛から特製調合薬をもらい一気に飲み干した。愛に冷たい目線を向けられ正直怖かったが頭を撫でたら許してくれた。愛はチョロイなと言うと後が怖いので廉は心の中に留めておくことにする。
それから手を繋いで見つめ合っているとガレンに手招きされた。休憩は終わりのようだ。
「愛ちゃん。もう時間だって。」
「ん。分かったよ。ありがとう。」
そのことを愛に伝えると頷いて手を離された。寂しいが元気になったことは変わりない。
「皆、休憩できたか。最下層に向け出発するが大丈夫かな?」
「はい。僕達は大丈夫です。」
ジークフリートからの問いかけにしっかりと答える綾人。さすが、デキる男は違うなと廉は思う。
廉達は最下層に向けて出発した。
だがここで問題が発生した。階層を降りるごとに魔物が減っていき、レベルが上がらなくなってきたのだ。そのことをジークフリートに伝えると額に手を当て黙り込んでしまった。
しばらくすると彼は深刻な表情でこう言った。
「これは私の仮説なんだが、もしかしたら邪竜がいるのかもしれないな。だが今の君達のレベルでは到底勝つことができないから魔物の数が少ないというのは致命的だな。だからもし邪竜を目撃したらすぐに逃げて欲しい。後先は考えずにとにかく全速力でダンジョンから脱出しろ。」
それだけ言うとジークフリートは先頭に戻り指揮を取りに行った。
邪竜。詳しいことは知らないが名前的に危なそうで、邪竜もリストに入れておこうと思う廉であった。
それから邪竜には出会うことなく八十層に到達した。やはり魔物は階層を追うごとにどんどん少なくなっていった。
八十層はスライムだらけの階層だった。だがさらに最悪なことにその全てが死骸だった。廉はガレンから聞いたのだが、邪竜はスライムが大好物らしい。ということは邪竜がいるのか、それとももう立ち去った後なのか。頼むから後者であってくれと廉は神に祈った。
『GUOO!!』
廉の祈りも虚しく、前者であった。
「廉! 逃げろ! 食われるぞ!」
「ああ、はい!」
ガレンに言われて慌てて引き下がるといま廉が立っていた地面に邪竜の顔が振り下ろされると同時に口をガブリと閉じた。ガレンに呼ばれなかったら今頃食いちぎられ、邪竜の餌となっていた。
「よし、後は私達に任せろ。」
「大丈夫かい。廉くん。」
「ありがとう。綾人。」
「いいさ。君は休んでて。後は僕に任せてさ。」
二人は、邪竜に向かって突っ込んでいった。だがその姿勢も虚しく尻尾で吹き飛ばされた。
「綾人! ジークフリートさん!」
「廉、落ち着け。二人ならきっと大丈夫だ。ところでお前、スキルはもうさすがに使いこなしているよな。」
唐突にスキルのことを聞くとはガレンはどうしたのだろうか。
「まあ、一応。」
「じゃあ、あいつ倒してこい!」
邪竜を倒せと言われてガレンの正気を疑い、聞き返したがどうやら本気らしい。こうなれば廉も覚悟を決めなければならない。
「……わかりました。やってみます。魔術付与:火! 烈火の一撃!」
剣に火を纏い、烈火の如く斬撃を邪竜に向けて飛ばす。廉の攻撃ではびくともせず、邪竜がこっちに迫ってくる。そのスピードについて行けず、廉は左腕を喰い千切られた。
「ぐああッ!」
感じたこともないような猛烈な痛みが津波のように押し寄せ、廉はそれに耐えられず、叫んだ。
「廉! 大丈夫? これ飲んで。」
腕の痛みに悶えていると愛が駆け寄ってきて特製ポーションを飲ませてくれた。そのおかげで腕の痛みが引き血も止まった。
廉が感謝すると愛は微笑んだ。こんなときでも彼女の笑顔は可憐であった。
邪竜はというと廉を餌の値踏みをするように睨んでいる。死の恐怖で足が震えるが深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。さっきみたいに普通に攻撃しただけでは、邪竜を倒すことはできない。それでは廉の魔力が尽きて間違いなく喰われる。だから違う方法で攻撃しないといけないのだ。
廉はガレンに教わった必殺技を使うか否かで悩んでいた。その技は暴走の危険があるので使い所を考えて使わないといけない。だがこの状況では使わざるを得ない。だから廉は悩んでいるのだ。
「魔術付与:闇。闇の魔剣。」
発動すると同時に右腕から闇が溢れ、剣に纏わりついた。
闇の魔剣は、剣を強化して斬れ味を格段に上昇させる。これだけであれば素晴らしい魔法だが、三分以上使うと闇に飲まれて暴走してしまうというとんでもない欠点があるので廉はあまり使いたくないのだ。
「こい、邪竜。僕がお前を倒してやる。」
『GWAAAAA!』
邪竜は雄叫びを上げて突進してきた。廉は右に二歩ずれて突進をかわし、左翼を斬る。
『GIAAAA!』
左の翼を斬られ怒り狂った邪竜は、僕を食い千切ろうと口をガバッと開けて走ってくる。
その勢いに合わせて廉は喉の奥に向かって剣を突き刺す。
『GIAッ!……』
邪竜は喉の奥に剣を刺されて断末魔の叫びを上げる前に絶命した。
「ふうっ。三分もかからずに倒せたな。楽勝だっうぷっ。」
独り言を呟いていると廉は後ろからふわりと愛に抱き寄せられた。
「廉、心配したよ。廉が苦しんでる見たくないからあまり無茶しないで。」
愛は悲しげな声で言った。異世界に来てからは無理ばかりしていて愛を不安にさせていた。
「そろそろ離れてもらっていいですか。む、胸が当たって……」
「廉のエッチ! でも大好き♡」
廉は愛に抱き締められるのは嬉しいが一旦離れて貰わないと理性が吹っ飛びそうであった。
そんなことを気にも止めない愛は、廉を抱き締め続けるのだった。




