10 迷宮最深部
「……ちゃん……きて……」
遠くから声が聞こえる。
「廉ちゃん、起きなさい!」
頬をペチンと叩かれ、目覚めると京香の膝の上で愛と京香に頭を撫でられていた。
「うーーん。……ここは天国?」
「違うわよ! 上を見てみなさいな。あそこから邪竜と一緒に落ちたでしょう?」
冗談はさておき京香の言う通りに見上げると二十段以上に渡って大きな穴が開いていた。どうやら落ちる所まで落ちていたようだ。
「二十段ぐらい落ちたということはここが最下層かな。」
廉の予想では二層ほど落下したと考えていたが、その予想は大きく外れて最下層まで落下してしまっていた。それに目を凝らして周りをよく見てみると前方に迷宮の心臓部でモンスターを生み出しているダンジョンコアが廉達を歓迎するかのように煌々と輝いていた。
「コアがあるってことは最下層だよなぁ。……ところでさ、お姉ちゃん肝心の邪竜はどこ?」
「廉ちゃんの右側で死んでいるわ。」
廉が立ち上がって右を向くと邪竜は物言わぬ骸となってそこに横たわっていた。まあ魔物なので最初から喋ってはいないのだが……
「おうっ! 死んでいても迫力がすごいな。ねえ、もう素材は回収した?」
「バッチリよ。私と愛ちゃんで剥ぎ取ってストレージに収納しておいたわよ。」
ストレージとはステータスの機能の一つで任意の素材や衣服、食べ物などを収納できる鞄のようなものだ。人間や金貨は入れることはできないが例外として金貨は袋や箱に入っていれば収納することができる。ストレージに収納していれば盗まれない上、自分以外は使うことができないので鞄より安全だと言えよう。
さすがは我が姉だ素晴らしいなと廉が京香を褒め称えると京香はほんのり頬を赤く染め、小さい声で一言ありがとうと言うのだった。
「あのさ廉。私が怪我を治療しようとしたらもう完治してたよ。」
「ああ、それはね。さっきステータスを見たんだけど自然治癒と強靭な体というスキルを獲得したからだよ。」
「そうなんだ。折角私が看病してあげようとしてたのに、残念。」
そうなのだ。廉は落下の衝撃で骨折した際に痛みに抗ったことにより自然治癒と強靭な体の二つのスキルを獲得していたのだ。廉自身頻繁に怪我をして愛を困らせていたので丁度良いと思っていたが愛の思っていたことは違っていたらしい。
「ふふっ。冗談よ。治療していなくても付きっきりで看病してあげるよ。」
愛に弄ばれていたことに気付いた廉は気恥ずかしさからそっぽを向いた。
「そんなに怒らないの。ナデナデしてあげるから。ほらよしよし。」
「クジョウレンというのはお前か?」
廉が愛に頭を撫でられ慰めを受けていると紺色の髪で翡翠色に輝く瞳に木でできた装飾が一つもない杖を手に持ち、灰色のローブを身に纏った魔族の青年が話しかけてきた。
「はい僕が九条蓮ですけど。あなたは? 魔族の方ですよね?」
「俺は魔王軍幹部の大魔導士シャドウだ。魔族一頑丈な体の竜人族だ。」
魔王軍幹部と聞いて廉は身構えたが、マーヤの「魔族は一枚岩ではない」という言葉を思い出し、緊張を解き、取り敢えず話を聞くことにする。
廉はシャドウから迷宮に来た経緯を聞くと彼は迷宮の調査という名目で魔界からはるばるアルスターまでやってきたという。だが調査というのは表向きで実際は廉を探しに来たのだ。彼は魔界から全力で走って来たらしく廉はとんでもない馬鹿なのかと内心彼のことに呆れていると、どうやら自分で神速という魔法を作製して、走ってきたようだ。
廉達をエルフィアスに呼び出した召喚魔法もマーヤと王宮の魔道士が共同で二年の歳月をかけ、作り上げた魔法だということを知り俄然魔法に興味が湧いた廉はシャドウに教えてもらうことにした。
「シャドウ。魔法を教えてくれ。」
「ああ、いいぞ。」
以外にも一つ返事で魔法の指導を快諾された廉はシャドウの話に期待を膨らませるのだった。




