第4話 狼の子
大神 颯には二つの能力が宿っている。その内の一つは自らは狼になること。彼は狼になると理性を失うことが多々ある。だが今回は意識を保っていた。護りたいという意志が強かったからだ。
「なあ、誘拐犯。今から俺が、お前の心を鍛え直す」
「かっこいいじゃねーか。救世主」
俺は銃を握る誘拐犯へと怯まずに突っ込んでいった。
「大神くん」
「耳川さん」
「出で来させんなって言っただろ」
「すっ、すいません」
奥の方から姿を現した耳川さん。誘拐犯は仲間にキレつつ、俺に銃口を向ける。
その時俺は恐れはしなかった。むしろその時恐れなかった自分に恐れるくらいだ。
「今助けるから待っとけ。俺がお前の運命の人だ」
「大神くん」
「黙れ。お前ら、撃て」
リーダーらしき男がそう言うと、一斉に弾丸が俺を襲う。
俺は駆ける。壁を走り、天井を走り、宙を舞う。そして蹴り、拳、と誘拐犯を次々に気絶させていく。銃弾を紙一重で避け、蹴りを入れて気絶させる。そしてあと一人。
「なぜそこまでする。なんでお前は命を懸ける。たかが女一人の命。その為だけにここに来たのか」
「惚れた女の為ならな、俺は命なんぞいくらだって懸けられる。…だから、命を懸けて、護る。お前を倒して」
俺は最後の一人へと必死に駆けていた。
「いいよな。力を持って生まれてきた奴は。それだけで人生勝ち組じゃねーか。俺はそれが憎くてたまらねんだよ」
「だからって……」
「お前に分かるか。何の取り柄もなく生まれてきた俺の苦労を。なんの取り柄も無いこの俺を捨てた親。そんな環境に生まれてきた俺の何が分かるんだよ」
誘拐犯は憤怒しつつ、引き金を引いた。放たれた弾丸が俺の頬をかする。
「どうだ。この距離で外しちまうんだぞ。こりゃあどう足掻こうと駄目なんだ。はあ……だが次は当てるぞ。ガキぃぃい」
「なあ、誘拐犯。お前はもっと普通に生きれただろ。お前は良い奴だ」
「ふざけるな。死ね」
「疾風……」
俺は壁に飛び移り、誘拐犯目掛けて鋭い視線を向けた。
その時、誘拐犯は壁にいる俺へ銃口を向け、そして引き金を引いた。銃弾は空を切り、当たらなかった。
「……蹴り」
俺に誘拐犯の頭を蹴り、倒した。
最後に残った誘拐犯は、覆面を外し、俺に言った。
「あーあ。負けだ。その子を連れてけ。とはいっても気絶しちゃってるみたいだけどな」
「よく頑張ったな。耳川」
俺は気絶している耳川を抱え、立ち去ろうとした。すると誘拐犯は羨ましそうに俺へ言ってきた。
「俺もお前達のように生きたかったな。大切にしろよ。そいつを」
「お前はどうするんだ」
「俺は今からこいつら連れて自主しに行く。……なんか、ありがとな。なんで良い奴だと思ったんだ」
「だってお前、わざと銃弾を外してた。最初も。仲間が撃つときも俺が死角になるなるようにしてた。だから分かったんだ。お前がどうしようもないくらい良い奴だって」
誘拐犯は笑みを見せ、伸びをして言った。
「ありがとな。これでスッキリした。次会うときはお互いに助け合える。そんな関係で会いたいものだ」
「お前なら出来るよ。誘拐犯」
「その呼び方変えようぜ。俺は宇氏っていうんだ。よろしくな」
「俺は大神だ。よろしく」
次の日、宇氏とその一味は自主し捕まったらしい。
彼らの判決がどうなるかは分からない。けど次出てきた時は正しい道に進んで欲しい。そんな綺麗事で良い。
だって世界は美しいのだから……。