017:目開けて寝言か?
菜津はにこにこしながらホールの準を見ていた。その視線の動きを光輝ははじめは楽しんでいたものの、しばらくすると真顔になって菜津を見つめる。菜津はそれには気づかず嬉しそうな顔で光輝に向きなおる。
「ふふっ、準、ホールの恰好も似合ってるよね――光輝くん? どうかした?」
「いーえ、どーも」
光輝の顔に笑顔はない。口調も投げやりで冷ややかだ。当然菜津も気づいて眉をしかめる。
「どうしたの?」
ちょっと頬をふくらませる菜津のその表情はずるい、と光輝は思いながら溜息をつく。このひとは――こういうところが天然過ぎて嫌いだ。
「僕、当て馬ですか?」
言い方がストレートになったのは光輝の中にある嫉妬のせい。言って後悔したがすぐに謝れるほど素直になれない――嫉妬の先がすぐそばにいるのなら、なおさらだ。
「そういうつもりじゃ……」
案の定、菜津の表情が曇る。彼女の笑顔が好きなのになんてざまだ、と光輝は次の言葉を探すが、見つかる前に恋敵が近づいてくるのを視界の隅に見つけて黙り込んだ。
「あいよ、Sセットお待たせ。……コーキ? どした?」
準が注文の料理を運んできて二人の間の妙な沈黙に気づくときょとんとして後輩に声をかけた。
「ううん、なんでも」
「菜津さんがずっと準さんを見てるんで、嫉妬したんです、僕が」
菜津が苦笑を浮かべて否定するのへ、光輝が皿を受け取りながらしれっと言った。相変わらず口調は冷やかで、感情を読み取らせない。準は棘のある返事に瞠目はしたものの、ふっと軽く息をついて光輝を横目で睨む。
「アホか、お前。目開けて寝言かよ」
「事実です」
「バーカ」
呆れたように言う準と、困惑を浮かべる菜津の視線が合い、菜津の方が先に逸らした。その一連の動きを観察していた光輝は、気にすまいと自分に言い聞かせてフォークを手にする。
「準、あがったよ」
厨房から椎名の呼ぶ声にテーブルを離れていく準の後姿を、光輝は横目で追っていた。
「光輝くんて……準にはきついよね」
「そうですか?」
菜津が溜息交じりに呟くのへ、平然と光輝は答えながらフォークを口に運ぶ。
「準のこと、嫌いなの?」
「……は?」
声をひそめた菜津の質問に、光輝は瞬きを繰り返す。――本当に、このひとは……!