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7話 審議。

 新藤と待ち合わせしていたのは、とある喫茶店。


 そこで適当に飲み物を頼み白崎と待っていると、彼は時間通り現れた。


「――何の用かな?」


 新藤は鞄を持っていない。おそらく話が済んだら部活に戻るつもりなのだろう。


「呼びだして悪かったな」


「いいよ。どちらにしても学校じゃ話できないからね」


 新藤はそう言い、俺の向かいに座っている白崎へと視線を向けた。


「意外だな……再焉が女子といるなんて。会話なんて出来ないと思ってたのに」


「私も意外。再焉くんが新藤くんと繋がり持ってたの。追放外に友達いないと思ってたから」


「お前たちは俺を何だと思ってるんだ……」


 俺には目もくれず俺を的確に罵倒してくる二人。ノールックアタック上手すぎだろ……。


「それで? 僕は何をすればいいんだい?」


 ようやくこちらを向いた新藤に俺へと聞いてきた。


「そこにいる白崎を元のクラスに戻してやってほしい」


「彼女を……?」


「あぁ」


「その、お願いします!」


 白崎はそういって頭を下げた。だが、新藤は微妙な反応。


「……取り敢えず座ってもいいかな?」


 即答は出来ないだろう。ここまでは想定通り。

 あとは、白崎がどうするかだ。


 新藤は俺の隣に座ると、店員が持ってきた水を一口飲んで息を吐いた。


「君は?」


「白崎夜です。クラスは元五組」


「五組か……」


 新藤は少しだけ考え込む。


「ちなみに、再焉はなぜ彼女をクラスに戻してあげたいのかな?」


「ん? あぁ、約束したからな」


「約束?」


「白崎が勝手に教室からでていったせいで、俺がこいつを連れ戻すよう言われてな。その口述としてクラスに戻すことを約束した」


「また軽はずみな約束を……」


 そう言って彼は頭を抱える。


「お前なら出来るだろ? 次の投票で五組の奴に呼び掛けることくらい」


「出来なくはないね。けれど、それには一組も何かしらの要求を飲まなきゃならないかもしれない」


「まぁ、だろうな。俺は六組だから知らんが」


「君も元一組なら心配ぐらいしなよ」


 新藤は苦笑い。


「……というか、俺よりも白崎と話せよ。お前がすべきことは、白崎をクラスに戻すか戻さないかの判断だ」


「僕がキミの要求を飲むことは決定してるのか……」


「ん? 飲むつもりで呼び出しに応じたんじゃなかったのか?」


「……飲むつもりで応じたんだけどね」


「なら、白崎を精査してくれ。まぁ、NOとは言わせないが」


「理不尽じゃない? それ」


「俺が理不尽なわけじゃない。世の中が理不尽なんだよ」


 そうやって無理やり会話を終わらせると、新藤はくっくっと含み笑いをした。何がおかしいんだ……こいつは。


「……あのさ、もしかして二人って凄く仲良い?」


「そんなわけ――」


「仲良いよ」


 突然の白崎の問い。俺は否定しようとしたら、新藤が被せるように肯定した。


 ……ばかやろう。


「え? じゃあなんで再焉くんが追放されてるの……?」


「……あ」


 新藤が声を洩らした。それに俺はやれやれと首をふる。


 ……今頃気づいても遅い。そう。もし俺が新藤と仲が良いのなら、俺が一組から追放されて六組にいること自体がおかしな話になってくるのだから。


 人は誰かから好かれる為に、その人の周りにいる者すら認めようとする。


 俺が新藤と仲が良いのなら、新藤はどうにかして俺をクラス内に置こうと動いたはずであり、その影響として誰かが俺に票を入れていなければならない。


 特に、新藤を狙ってる女子なんかはそれをしかねない。「私、再焉くんに票を入れたんだよねー!」なんて新藤に言えば、彼からの好感度獲得は間違いないのだから。いや……それはさすがに考えすぎだろうか?


「あれだな? 新藤の人気を以てしても、俺への嫌悪感の方が上回ったということだ。これはもう運命力と言っても過言じゃない」


「なんで自慢気なの……」


 白崎が呆れたように呟いた。ばっ、おま、運命力だぞ? 運命力最強だから。どんな窮地に立たされようと最後には起死回生の一撃を放つ運命力こそが正義だから。あー、そろそろ俺の右手光らねぇかな。光ったら光ったでパン職人にでもなれそう。それは太陽の手。


「再焉は自分から追放を望んだんだよ。だから、僕がクラスメイトに呼び掛けて、彼だけに票が入らないよう仕組んだ」


「お前、なんでそれを……」


 まさか新藤がそれを言ってしまうとは思わなかったので驚いてしまった。


「……へ? なんで……」


 白崎も驚き、その視線がゆっくりと俺へ向けられる。


「さぁね? 理由は僕にも分からない。ただ、そのお陰で投票はスムーズだったのは確か」


「新藤……約束が違うぞ」


「あれ? そのことは言ってなかったのかい?」


 とぼけたように言い放つ新藤。その目つきは鋭く、そして、その視線は何故か白崎へと向けられていた。


「白崎さんは……何か理由があってクラスに戻りたいのかい? 何か譲れないものがあるからクラスに戻りたいのかい?」


 心なしか、新藤の言葉すらも鋭さが増したような気がした。それを白崎も感じ取ったのだろう。表情が強ばっていく。


「彼のように……クラスの為(・・・・・)に、自分を犠牲にしてしまえるほどの理由が……白崎さんにはあるのかな?」


 研がれた言葉は白崎の喉元に刺さり、鉄のように重い沈黙が辺りを支配する。


「そ、それは……」


 それでも白崎は必死に言葉を吐き出そうとして……その必死さが、つまるところの答えであるような気がした。


 ないのだ。


 彼女は、ただ六組に居たくないだけ。追放者という残念な枠から逃れたいだけ。


 ただ……それだけなのだ。だから、それを問われて答えがでない。


 だが、俺は思う。


 それがどうした? と。


 追放者だけが寄せ集められた六組。そこに居たくないと考えるのは至極当然のことだ。それは、とても当たり前のことなのだ。


 普通の感覚を持つからこそ六組には居たくない。

 そこに理由を求めるなんて馬鹿げている。


 それよりも、だ。


「新藤。そのことは、誰にも他言しない約束だったはずだ」


「すまない。二組の票を操作する提案だったから、その信憑性に足る情報として彼女にはそのことも話していると思ったよ」


「話すわけがない。それは気づいていたはずだ……」


「そうなのかい? まぁ、もう話してしまったから遅いね」


 知らず知らずのうちに奥歯を噛み締めていた。怒りを納めるために一度呼吸をする。


「俺はクラスの為に追放されたわけじゃない。そんな事の為に自分を犠牲になんかしない。それはお前の勝手な解釈に過ぎない。言ったはずだ。お前が俺を語るな。語っていいのは――」


「自分だけ、だったね?」


「……そうだ」


 白崎へと向けられていた視線がこちらに矛先を変えた。

 それを俺は真っ向から受ける。


「でも、君はそれを語らない。なら、想像するしかないよ。そして納得のいく答えを僕なりに出すしかない」


「なら採点してやるよ。その答えは間違いだ。すぐに捨てろ。そして、それを白崎にも当てはめようとするな」


「採点してくれるのなら、正しい答えまで教えてくれないと親切じゃないね。解説付きで頼みたいんだけど? じゃないと、白崎さんにまで間違った答えを出してしまいそうだ」


 こいつ……。


 おそらく新藤は、白崎を出汁(だし)にして俺の理由を知ろうとしているに違いない。


 新藤が最初からそのつもりだったことに気づいて唇を噛み締めた。


「新藤。その答えを教えたとしても……その判断が間違ったとしても……お前が取るべき行動は変わらない。白崎をクラスに戻すこと、それが今回の要求……いや、命令だ」


 俺は自ら追放者となることで一組に貸しをつくった。そこにどんな理由が在ろうと関係ないのだ。


 新藤はその借りを返すために、俺の要求を飲まなければならない。


 交渉なんて最初から存在しない。これは交渉に見せかけた命令なのだから。


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