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5、竜布と私

双子だからなのか、くろさんとしろさんの兄弟喧嘩はなかなか決着が着かない。


「オラアッ!」


「ッシャア!」


 ヤンキーな見た目のくろさんが華麗な足技を放つと、見た目は王子様なしろさんが腰の入った拳で殴り返す。

 顔が変形するくらい殴り合っても、原型がドラゴンのせいか瞬時に元通り。


 形状記憶機能の付いた美形、恵まれ過ぎだよね。


 とりあえず大怪我はしなさそうだし、遠目だと黒と白の大型犬同士がじゃれあってる風に見えなくも無い気がしてきたので放置しておく事にする。


 そんな事より、自分の事だよ。


 くろさんが洗い、しろさんが乾かして(?)くれたので綺麗にはなったけど、全裸はやっぱり落ち着かない。

 例え膝裏まである大量の髪の毛で体が隠れていても、胸が真っ平らなくせに隠す必要があるのかと問われても、だ。

 ……くっ(涙)


 どうしたものかと周りを見回しても、私が落下したせいでクレーターになった荒地は泥と石ばかりで葉っぱ1枚落ちているはずもなく。

 あるのはじゃれあってるドラゴン2匹だけ。


 ……ん?んん?


 そういえばあの双子ドラゴン、自前の羽根を抜いて布にしてなかったっけ?

 もしかしたら私もできたりしないかな?


 物は試しで、私は自分の髪を一本摘んで抜いてみた。ブチッ。


「あ痛」


 普通に一瞬痛いだけで髪の毛は布にはならず、「「どうしたッ!?」」と、息ピッタリに声を揃えて跳躍してきた双子ドラゴンを呼び寄せてしまっただけだった。

 喧嘩が中断したのは良かったけど、しょうもない事で心配かけたみたいで申し訳ない。

 私は指先に摘んだ自分の髪の毛を見せながら説明した。


「着る物が欲しかったから髪の毛抜いてみたんだけど、布にはならなかった」


「そりゃそうだろ、髪の毛が布になるわけあるか」


「むしろ髪の毛で織られた布とか怖いよ」


 そうなんだけど!そ〜う〜な〜ん〜だ〜け〜ど!

 存在自体が非常識なドラゴン達にドン引き顔で常識を説かれるって、なんか悔しいんだけど!

 ぐぬぬ……。


 歯噛みする私の頭をしろさんがヨシヨシと撫でながら、花や鳥が刺繍された鮮やかな自分の腰衣を摘んで言った。


「コレは羽根からできた布に見えるけど、ドラゴンの力の一部を作り変えて人型の時に身に(まと)ってるんだよ。竜布って言うんだ」


 ほー。ドラゴンの力の一部なんだ。

 作り方はよくわからないけど、芸術品と言ってもいいくらいに素晴らしい品なのは私でもわかる。


「綺麗だし、素敵だね。しろさんに良く似合ってる」


「……!!!……あ、りがとう」


 素直に賞賛すると、しろさんが真っ赤になってお礼を言ってくれた。

 照れたキラキラ王子、眼福ですな。

 私より背丈もかなり大きいし、年齢も上っぽいけど、なんか可愛いかも。くふふ。

 ニマニマしながら照れる美形を堪能していると、しろさんが真っ赤な顔を片手で覆うように空を仰ぎ、「ヤベェ……マジかオレ……」とか「可愛い過ぎる……妖精か」とかブツブツ呟いていた。


 何だかよくわかんないけど、欲望のままに見過ぎて可愛いとか思ってたのが伝わってドン引きされたのかも。ごめん。


 すると、しろさんはゴクリと喉を鳴らしてから、何かを決意したように自分の腰衣を指して言った。


「……欲しいなら同じやつ作るけど、いる?」


「わ!いいの?」


「やめとけ」


 しろさんの頭をパシリと叩いて、くろさんが私を制した。


「今、コイツが言っただろ。この竜布はドラゴンの力の一部を作り変えてできてるってな。それを自分以外の者に受け渡す意味がわかるか?」

 

「あ、くろ!余計なことを!」


 焦ったようなしろさんの声が、私の頭に警鐘を鳴らす。



【ちょっと待て ウマい話にゃ ウラがある】



「ん?……んん?」


 どういう事かと2人を交互に見ると、しろさんは色白の頬を赤く染めて視線を逸らしているし、くろさんは呆れ顔でしろさんを指してこう言った。


「力の一部を渡すという事は、相手を信頼し好ましく思っているという意思表示だ。要は求婚だ。お前、コイツの嫁になる気はあるのか?」


 嫁?よめ?ヨッッッメ!?


「なにそれそんなの知らないし!」


 ブルブルと全力で首を横に振ると、しろさんは両手で顔を覆って項垂れながら(なげ)いた。


「あーもー、くろが余計な事言うからー!」


「いくらなんでも竜族のしきたりを知らんガキを騙して(めと)ろうなんてヘタレた事すんな、バカしろが」


「だってこうでもしないとこんな可愛い子、オレ達ドラゴンの嫁に来てくれるわけないだろー!」


 そんなに嫁不足なのか、ドラゴンの里!

 何も知らずに布を受け取っていたら、転生していきなり人妻、いや竜妻になってたわ!

 

「布一枚で嫁認定されるなんて、この世界怖ッ!」


 私がガクブルすると、項垂れていたしろさんがガバッと顔を上げて涙目で反論した。


「布一枚とか言うけどさ、コレ作るの結構大変なんだからね!?色とか柄とか工夫しなきゃだし、センス悪いと誰からも受け取って貰えなくて一生独身かもしれないんだよ!?」


 あー、そういえば前に観た動物番組で言ってたな。クジャクとかマンドリルとか、オスが派手な色彩であればあるほどメスの気を引きやすいとか。

 この世界のドラゴンもそうなのかな?

 ドラゴンの時は神々しいまでに純白に光輝き、人型の時はこんなにキラッキラの王子顔なのに、この世界に産まれたばかりの無知な珍生物を嫁にとらなければならない程、しろさんはモテないのだろうか。

 私には十分過ぎるくらい綺麗な布に見えるけど、ドラゴン的にはセンスが無いのかもしれない。

 そういえば魔力制御とやらも雑だったしなー。


 ドラゴンの嫁は今のところお断りだけど、なんだか可哀想になってきたので、できる限り優しい目でしろさんの婚活を応援する事にしよう。うん、そうしよう。


「なんかすっげー憐れみの目で見られてる気がするんだけど!?オレ、こう見えても結構モテるし、女の子に『あなたの竜布ちょうだい!』って言われるんだからね!?」


「え、そうなの!?」


 心外だ!みたいな顔してるしろさんだけど、私こそ予想外だよ。

 てっきり他の女子ドラゴンに「しろと結婚?ありえな〜い(笑)」とか言われてるのかと思ったのに。


「じゃあ何で私に大事な布を渡そうとしてくれたの?しろさんのお嫁さんになりたい女の子いっぱいいるんでしょ?」


「え?あ!いや!いるけど、でも違うから!オレにも好みがあるっていうか、綺麗系より、か、可愛い系がイイし……って言うか、上目遣いで見上げるのやめて心臓止まりそう……」


 またまたしろさんが真っ赤になってブツブツ言い出したけど、後半よく聞こえなかった。

 でも、モテモテなのにわざわざ私に布を渡そうとしたって事は……あ、そっか!


「ごめんね、しろさん!私が着る物を欲しがったから、求婚用の大事な布なのに渡そうとしてくれたんだよね?」


「え!?いやいやいや、違うよ!?いや、そうなんだけどオレだって渡す相手を選びたいからね!?」


「そうだよね、大事な結婚相手は自分で選びたいよね。それなのにしろさん優しいから、私にあげようとしてくれたんでしょ?ドラゴンの習慣を知らなかったとはいえ、無茶言ってごめんね」


「だからそうじゃくてね!?」


 何だか泣きそうになってるしろさんの肩を、くろさんがポンと叩いた。


「笑えるくらい話が通じてねぇな。(いさぎよ)()れや、しろ」


「くろおおお!花咲かせる前に蕾のまま摘み取ろうとするのやめてくれる!?」


 しろさんとくろさんが今度は口喧嘩を始めそうになってるけど、私は婚活頑張れの意味を込めてしろさんを応援する事にした。


「大丈夫だよ、しろさん。しろさんの竜布こんなに綺麗なんだもん。しろさんにお似合いの素敵な女の子(ドラゴン)はきっと見つかるよ」


 すると、しろさんが何とも言えない微妙な表情(かお)で私を見ながら言った。


「いや、もう見つけたんだけどね」


「え?そうなの?」


「うん、そうなの」


「それなら渡せばいいのに」


「渡そうとしたけど、受け取ってくれない」


 しろさんの後ろでくろさんが「ブハッ!」と吹き出した。なんなんだろ?

 もしかして、お相手とはうまくいってないんだろうか?あまり突っ込んで聞いちゃダメなのかもしれない。

 話題を変えるか。


「そ、そっかー……それにしてもこの布、艶があって凄く綺麗にグラデーションが出てるし、しろさんはセンス良いよね。特にこの花とか鳥の刺繍が……んん?」


 繊細な色使いで刺繍された花や鳥を褒めようとして、私はある違和感に気がついた。


「ん?どうかした?」


 言葉を止めた私を覗き込もうとして、しろさんが中腰になるのを手で制した。


「ちょっと、ね。この刺繍、もっとよく見てみてもいい?」


「……うん、いいけど?」


 私が刺繍を見やすいように、しろさんは腰衣の両端を摘んで広げてくれた。

 刺繍が下手だとか(ほころ)びがあるわけじゃなくて、花や鳥の図案が何か別の物に見えてくるといえばいいのだろうか。

 美術の教科書に載っていた、だまし絵だとか隠し絵のような、そんな違和感。


「お、おい、まさかコイツ……!」


「……どうだろうね?……それでもしこの子が()()()()……これはもう運命だよ。そうだろ、くろ?」


「しろ、お前……!」


 しゃがみ込んでジッと見ていると、くろさんの焦りと怒りの混じったような声と、しろさんのワクワクとした高揚感のある声が頭上から聞こえてくる。

 けれど、私は目の前の謎解きに集中した。


【ノ】のような斜めの曲線が一枚の葉っぱで刺繍されていて、その下に垂直な竹が一本、尾長鶏のような横向きの鳥が一羽、茎の付いた花の蕾が横向きに二本。

 それらが合わさって一つの文字に見える気がする。

 例えば、そう、【漢字】の。


(しろ)


 そしてその下にさらに複雑な図案で。


(ふじ)




「……(しら)……(ふじ)……?」




 私の呟きは、突然聞こえてきた合成音声のような声に上書きされた。




 《【クエストNo.40ドラゴンの……化】及び【クエストNo.……ドラゴンの真……読①】を確認しました。これよりシークレットイ……を開始します》


文字のイメージは花文字です。

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