4、脳筋美青年達と私
無駄に裸率が高いです。
「じゃあとりあえず、オレ達の里においでよ」
白ドラゴンのしろさんが空色の瞳をなごませながら、私に向かってニッコリ笑って言った。
ドラゴンの表情は分かりづらいけど、声が優しかったので多分そんな感じだと思う。
それに対し「何っ!?」と驚いたのが黒ドラゴンのくろさん。
こっちは驚きのあまりギザギザの歯が剥き出しになってちょっと怖い。
「こんな得体の知れない珍獣連れ帰ってみろ。長老連中に何言われるかわかんねーぞ!」
「でもこんなとこに置いてったら可哀想だろ。こんなにちっこいのに。大丈夫、オレが責任持つから」
「いや、でもな……」
渋るくろさんに、しろさんは長い尻尾を左右に振ってさらに訴える。
「ちゃんとご飯もあげるし、毎日散歩も連れてくからさー」
私はペットかーい。
でもドラゴンにしてみれば私なんてペット並みの大きさしかないか。なんか悔しい。
おじいちゃんの言う通り、身長35メートルくらいあっても良かったかもしれない。
……いや、落ち着け私。全然良くないわ。
などと私が内心で葛藤している間にもくろさんとしろさんの攻防は続いていたけれど、最終的にはくろさんが呆れたように私としろさんを見て言った。
「……チッ。仕方ねーな、ちゃんと面倒見るんだぞ。里に連れてく前にソイツを綺麗にしとけよ」
「おー!」
双子とはいえお兄ちゃんは弟になんだかんだで甘いのかもしれない。尊いね。合掌。
「じゃ、とりあえず泥落とそうか。可愛いのにもったいないもんね」
そう言ってしろさんが私に向き直り、長い首を軽く振った瞬間、私は大きな水の塊に閉じ込められた。
「んがぼっ!?」
直径3mはありそうな大きな水のボールの中にプカプカと浮かばされた私は、慌てまくって水を飲み込み、グルグル回る水流に当然のように溺れた。
「おい、しろ!コイツ溺れてんぞ!」
「え?」
「雑いんだよ、おまえのする事は!」
水の乱反射で良く見えなかったけど、今度はくろさんが軽く尻尾を振って、私を包んでいた水球を吹き飛ばしてくれたようだった。
「ッぷは!」
空気は取り戻せたものの、今度はべちゃりと地面に叩きつけられた。酷い。
この兄弟、どっちも雑いわ。
「あー、悪い。ちょっと待ってろ、今綺麗にしてやる」
さすがに申し訳無さそうにくろさんが謝ると、長い首を捻って自分の翼の付け根辺りの羽根を1枚咥えた。
すると次の瞬間、黒い大きなドラゴンが金粉のような残像を残して消滅し、代わりに浅黒い肌に短めの金髪の男性が裸で黒地の布を口に咥えて現れた。
赤や黄、緑に青、さらには金糸で豪奢に刺繍された黒地の布が男性らしい厚めの唇から垂れ下がり、鍛え上げられた大胸筋から八つに割れた腹直筋、そしてさらに下半身をひらりひらりと隠す。
セッ……セクシー過ぎるだろこのお兄さんありがとうございます鼻血出そうです!!!
はわはわと両手で鼻を押さえて慌てる私をお兄さんが三白眼気味の灰青の瞳で一瞥し、咥えていた布を自身の腰に手早く巻きつけた。
民族衣装のような腰衣を翻しながら私の側に寄ると、両手を私の脇の下に差し入れて立たせ、右手を私の頭にかざした。
「こっちの方が細けぇ調整が効くからな」
え?このガラの悪そうな声はくろさん!?と言いかけた私の頭上に、シャワーのような細かい雨粒が降り注いだ。
雨粒はまっすぐ落ちるだけでなく、意思があるかのようにプルプルと震えながら私の頭皮や耳の後ろも流れていった。まるでマッサージしながら洗われてるみたい。
ほわー、気持ちいい。
「くろさん、ありがとぉ〜」
あまりの気持ちよさに、もうペット扱いでもいいや〜と人間の尊厳を忘れてふにゃふにゃの顔のままお礼を言うと、くろさんが驚いたように目を見張った。
あれ?くろさんだと思ったんだけど違ったかな?
伺うように首をかしげると、目の前のワイルドアンドセクシーな男前が浅黒い肌でもわかるくらい赤くなった。
「お……おまえ」
「?」
ドゴゴン!!!
何かを言いかけていたくろさんを遮るようにしろさんが体当たりして割り込み、大型トラックと衝突したかのような音が轟いた。
見ればくろさんが横っ飛びに吹っ飛ばされて崖に激突していた。
「し、ししししろさん、くろさんが……!!!」
「あー、大丈夫、大丈夫。アレくらいじゃ怪我しないし。それとも何?そんなにくろが心配?ちょっと妬けるなー」
いや、そんな呑気な事言ってる場合か!
少年漫画の戦闘シーンみたいに崖にめり込んでるんだけど本当に大丈夫なのアレ!?
私がしろさんとくろさんを見比べながらあわあわしていると、しろさんも自分の翼から羽根を1枚抜き取って咥えた。
するとくろさんの時と同じく、金粉のような残像を残して巨大な白いドラゴンが消え、代わりにサラサラの金髪を無造作にかきあげた色白の美青年が白布を咥えて現れた。
青や藍、薄紫や濃紫のグラデーションと銀糸で優雅に刺繍された白地の布が、細身だけど均整のとれた筋肉質の体をチラ見せしたりしなかったり。
いや、なんとなくわかってたけどね。また裸で出てくるんじゃないかってさ。
直視するとアレなんで遠い目にならざるを得ない私の目の前で、しろさんは白布を慣れた手つきで複雑に結び、インドの男性が履くようなゆったりめのパンツスタイルになった。
顔はヨーロピアンな金髪碧眼の王子様だけど。
「これならオレも魔力調整しやすいからさ。乾かしてあげるね〜」
そう言ってニッコリ笑いながら両手を私に向けてかざすと、手の平から突風が吹いて、私の体を空中にくるくるぽーん!と巻き上げた。
もーやだー、この見た目王子様、壊滅的に魔力調整とやらが下手なんですけどー!
半泣きで地上に落下中の私を、地上からジャンプしたくろさんがキャッチして受け止めてくれた。
「ほあ!?」
私をお姫様抱っこしたまま落下したくろさんは、長い足を腰衣のスリットから伸ばし、流星のようにしろさんの頭にキックを決めた。
「こんっっの、バカしろがー!!!」
「あ痛アッ!!!」
蹴られた頭を抱えてうずくまったしろさんに、くろさんがさらに踵落としを決める。
王子様な顔がドゴッ!という音と共に地面にめり込んだ。
「コレはさっき俺を吹っ飛ばしてくれた分だ」
「……やってくれるじゃねえか、オニイチャン」
泥まみれでも美形な顔を上げたしろさんがニヤリと笑った。
瞳孔が、獣の様にスッと細められる。
あ、コレはアレだ。スイッチ入った顔だ。
……こ、これはヤバいんじゃないの?とくろさんを見上げると、くろさんの瞳孔もとっくに細められていた。ひぇ〜。
くろさんは私を地面に下ろし、「離れてろ」と一言言うと、立ち上がるしろさんに向かって豪快な回し蹴りを放った。
風圧で金髪が逆巻いたものの、交差させた両腕で足技を防いだしろさんの顔は楽しそうだった。
「へぇ。久しぶりに本気になってんじゃん。言っとくけど最初に目ェつけたのオレだからな」
「違ぇよ!オマエがあんまりバカ過ぎるからだろうがッ!」
軸足を替えてくろさんが裏回し蹴りを放つと、しろさんは「あぶねっ!」と言いながら後ろへ飛び退った。
お互いに間髪入れずに地面を蹴り、拳を構えて殴り合う。
ドカ!バキ!ドコ!ドカ!
喧嘩のキッカケが何だったのか、もはやどうでもいい感じだけれど。
肉の潰れる音、骨の軋む音を離れた場所で聞きながら私は思った。
「脳筋美青年、残念」
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初心者なもので右も左もわかりませんが、反応があるととても励みになるものなのですね。有難いです。