最強レダのフレンドは
サブタイ変えました。
ダンと共にフィールドに出たレダ。
ダンがレベル5であり、レベル12のレダがいることもあり、〈サーマル平原〉の中ほど。初心者フィールドの奥、次のフィールドへとやって来た。
「……。教える事なんてないじゃないか。」
アシストは最早完璧。
クリティカルヒットも理解している。
どころか、敵の攻撃を刀身で受け流すわ、手足も使うわーー
極め付けは、未発見の〈空中跳躍アシスト〉。
ポカーンとあほ面を晒して見ているのは、無論ダン。
そして周りに散らばっていたその他プレイヤー達。
あ、よそ見した阿呆が豪快に吹っ飛んでった。
相手にしているのは、オークキング レベル10。
最初は、レベル6のゴブリンへと向かったが、瞬殺。
レベル8のオークだって精々3撃で終了。
教える間もなく屠ってしまう。
各フィールドには、中ボスの様な、頭1つ高いモンスターが時折POPするーーが。
オークは人型。
プレイヤーがまず初心者フィールドで戦闘を掴み、やって来た所で、同じように武器を持った人型モンスターを相手にする。
そういう、次の段階といったフィールド。
だがしかし、レダにとっては格好の獲物。
オレリウスは人型だったのだから。
オークキングの振った棍棒を剣で、今度は弾き返す。
先程ので、受け流す程のものではないとわかった。
殴りかかってきた腕を掴んで逸らし、空中ジャンプでオークキングの頭上を飛び越える。
だってオークキングのレベルは10。攻撃したら、またすぐ終わっちゃう。
盛大な遊び盛りのレダは、オークキングをーー
ーーからかって遊び始めた。
もう、呆然、である。
動き方が圧倒的に違う。
ダンを始めとするプレイヤー達は、未だアシストに頼りきり。むしろそうするものだと思っていた。
しっかり回避し、そこから振りかぶり、アシストの補助の通りに振り下ろす。
対して、
紙一重で回避、その間も体勢を整え無駄のない動きで振りかぶり、自身の斬撃にアシストの補助を加える。
流れる様な、流麗、とはこのことか。
ここでようやく思い知った。
アシストが何たるかを。
何故スキルではなくアシストなのかを。
「…はぁ。俺はホント馬鹿だな。あんなにアシストアシストって言ってやがったのに。アシストに助けて貰うんじゃない。ーーー自分の攻撃をより良く、より非現実に、か。…はぁ。」
額に手を当てて夜空を望む。
あんなに心配したのは一体なんだったのか。
マジで心配損。
一応、レダはダンに教わった事を実行したい、のだが。
中々上手く行っていない。
アイテムパックを経由しない、ポーション類の利用方法だ。
もうレベル12なのだから、これはやっておかねばならない。のだが、かすりなんてするはずもない。
仕方がない。攻撃を受けてみよう。
良く考えれば、まともに被弾したことは無い。
オークキングの棍棒なんて、オレリウスに比べたらおもちゃ。
それでも、一応、心構えをしーー
ガンっ!!
「っ!……あれ?」
ーーHP…全然へりゃにゃい…。
「ダっ……ダン〜〜。」
「ーーー…はぁ。レダ?レベルで上回ってる上にその装備でまともにダメージ食らう訳がないだろ。もう、それでポーション使え。」
はぁ〜い。
という素直な返事を聞きつつ、あまりの異次元っぷりに苦笑しか出ないダン。
周りのプレイヤーも、全員引き攣った笑いを浮かべている。
ポーションの使い方を実践したレダ。
もういい、と全力攻勢。
全員が息を飲んだ。
飛び上がって棍棒の無い腕を両断。
襲ってきた棍棒。
身体を捻ってそれを足掛かりに飛び上がる。
そのまま下段から胴体をバッサリ斬り上げ。
そこで空中ジャンプ。
オークキングの顔面正面へ。
首を真一文字に真っ二つ。
残念ながら、ゲームの仕様で腕が飛んでったり、首が落ちたりはしないが、周りの者は幻視した。
先程までの瞬殺で半端ないと思ってた。
流れる様な一連の攻撃に見入った。
綺麗な空中ジャンプに見蕩れた。
ーーー鳥肌が立つ。背筋が凍る。
レダは、オークキングの首をーー
ーーーーーー獰猛な笑みを浮かべて狩り取った。
ーーー
レダがオークキングを討ち取った後。
程よい距離からこちらをうかがっていたその他プレイヤー達は一斉に引いて行った。
それは、この場だけの事だけではない。
結構な人数のプレイヤーが、今いるフィールドから後退。自身のレベルからかなり下のモンスターへと向かって行った。
目的は同じ。
レダの様な、あんな闘いを、自分も。
だが、その為にはまず、このアシストに頼りきった攻撃を捨てなければならない。
故にモンスターのレベルを落とし、斬撃を打ち込みやすい相手を探しに行ったのである。
しかして、何故それが全体で起こったかといえば。
ただ、この場にいた誰かが、レダの戦闘をネットにリアルタイムで配信しやがったのである。
これを見た連中のなかで、レダの不正行為説は一気に衰退。
運営っ!生放送まだかっ!
という内容のコメントが吹き荒れた。
こうした中でただ一人、ダンは違っていた。
ーーーーこいつについて行きたい。
「おい。レダ。」
「うん?」
「ギブアンドテイクだ。今度は俺に付き合え。」
「うんっ。おっけー。」
全く素直というかなんというか。
小気味のいい返事に、
ダンもまた、レダに負けない笑みを作った。
ーーー
「ーーーくっ!」
横から棍棒。
それを刀身でもって受け、耐える。
が、もう一方からのグーパンチに飛ばされる。
相手はレベル8のオークである。
先程まで何体もゴブリンを相手にし、レベルが上がった。
今はレベル6である。
オークに行きたいと言ったのは自分だが、2つ上のレベルと、ゴブリンよりも身長のあるオーク。
自身の身長はリアルと同じ177cm。オークは自身より頭一つほど高い。
それだけで、覆いかぶされるような圧迫感が迫る。
時折、レダに手本を見せて貰うが最小限とし、自分で向かって行く。
レダもそれには何も言わない。
なら、これが正解だろう。
レダはというと、こちらに向かって来るアクティブのモンスターや、わざわざ群がっている所へ飛び込み、それは楽しそうに屠っている。
全く、とんだ奴とフレンドになったものだ。
初めて話した時は、どうしたらいいかとオロオロしていたというのに。
ホントにちょっとしたお節介だったし、フレンドになったのも、縁だとは思ったが、それ以上にまた困っていたりするかもといったお節介精神だった。
それが…現状どうか?
ーーまた、もう…。オーク3体相手かよ。ったく。
自身が相手にしているのもまた、オークなのだが。
意識的に見せつけてるとかじゃーーないんだよなぁ。
これまでのやり取りと、あの楽しいを体現する笑顔。
見ていてホッコリするような笑顔なのだが、時折、あの獰猛な笑顔が現れ肝が冷える。
楽しいのだろう。時折上げる笑い声に戦慄すら覚える。
オークに集中する。
手早くポーションを使って殴られた分を回復させるのだが、その間にオークが迫ってきた。
オークの攻撃は単純に棍棒を振り回し、拳で殴ってくるものだ。
初心者フィールドのモンスターは武器を持たない。
身体でぶつかってくる様なもの。
故に避けて斬撃を入れれば良いのだが、人型は違う。
懐に入らねばならない。
または背後を取るか。
攻撃をかわすかいなすか。
間合いに入らねば、こちらの攻撃も入らない。
棍棒をかわして完全に懐に。
けども、自身の剣は妙な位置、角度にあった為にまともな斬撃とはならなかった。
次を考えてなかった。
先程からそればかりだ。
攻撃を避けるにしても、剣撃を入れるにしても、今のに気を取られてどうしても次の手が疎かになる。
ノックバックを発生させられず、1歩下がったオークの棍棒が振り下ろされる。
それを距離を取りに後へ下がれば良いものを、降ってくるのとは逆方向に横移動すれば、またグーパンチ!
「…くそ。殴ってくるモーションはかなりわかりやすいはずなんだが。」
片方に集中し過ぎ。全体を見切れていないのだ。
分かってるんだが。分かってるんだがな。
「…これまでの努力っていうのか?なんだったんだ。くそーーーむずい。」
ダンは、試行錯誤の、手探りの海へと落ちていた。
現実で剣道や剣術を習ってこのゲームに参加しているプレイヤーはどのくらいいるのだろうか。
彼らもきっと、同じく試行錯誤に及んでいるのだろう。
現実で剣を使って動物を狩猟する人間は?
いても弓か槍じゃないか?
剣術というのは、ほぼ対人戦闘に用いられる。
モンスターという、現実では有り得ない身体や攻撃手段。
対抗するには、これまた現実では有り得ない攻撃になる。
だがしかし!
この脳筋の使徒と化した運営により、スキルというような現実では有り得ない動きから繰り出される、というものは創造されていない。
プレイヤーが想像した動き。
それにアシストがつき現実を超える。
それか、
アシストがつき現実を超える動きを想像したプレイヤー。
ーー〈技アシスト〉。
上段とか、スラッシュとか、名前がなく一括りにされている。
それは無論、プレイヤーの全ての攻撃にアシストをつけてやる。
ーーーーそういうことだ。
グーパンチからの追撃の棍棒をモロに受け、更に棍棒が迫る。
避けること叶わず。
直撃をただ受けるのは勿体ない!等としたレダと同様に、
ダンは、直撃を受ける間も次へと思考を巡らせていた。
夢中。
もはやそういう他のないダン。
ただのレベル上げ、アイテムドロップ、最前線。
彼もまた、そんな事に全く興味を持たなくなっていく。
あるのは、戦闘。ただ一つ。
彼は後、最強ギルドと呼び声高いそのギルドマスターへと成長するのだった。
ーーー
「ぁあーーーーー!…くそぅ。」
第1の街。その広場。
まるで女神の救済というように、初めて死に戻ったレダは女神の近くにいた。
悔しさを表に出すダンに近寄る。
「ん?なんだ。追い掛けて来たのか。律儀な奴だな。」
「だって…あそこ、意外と遠いから。」
初心者フィールドがかなりある為、先程の所には距離があったのだ。
ダンは少し考えこみ顔を上げた。
「レダ?もうちょっと付き合ってくれないか?」
「うん。いいよ。」
二つ返事で返す。
「お前、前進もうとか思わないのか?」
あぁ、私を気遣ってくれているのか。
ほんと、いい人である。
「うーん。だってダンと一緒に遊ぶの楽しいから。」
「はははっ!お前、ほんと、楽しそうだからな。」
クスクスと笑うダンも楽しそうなのだけど。
じゃあ、と言葉を紡ぐ所でーー
『全プレイヤーの皆様に〈ストラフェスタ・オンライン〉運営より、お知らせ致します。』
キターーーーーっ!!
そこかしこから歓声すら上がる。
『お待たせ致しました。本日午後9時丁度にて、緊急生放送を配信致します。是非、ご覧下さいませ。本日も〈ストラフェスタ・オンライン〉をどうぞお楽しみください。』
き、きき来てしまったっ!!!!
まだ始まってもないのにっ!恥ずかしい!!
これ始まったら私どうなっちゃうの!?主に心臓!!
「9時か。あと20分あるな。どうする?レ……ダ?」
「ひゃいっ!?」
もう無理。ヤバい、無理。
そんな私を見て、いや見かねて?
「おい。俺はフィールド行くぞ?来るか?」
好青年の笑顔とその言葉は、私に全てを忘れさせた。
初心者フィールドを走り抜け、戻ってきた所。
ダンは、ゴブリンを相手にしている。
もうすぐ生放送なので、生半な事がないと死に戻りのない相手だ。
今度は色々と聞いてくるダンに返答をして、向かってくるモンスターを蹴散らしながらダンの動きを見ていた。
まだまだ無駄も多いし、荒っぽい。
次の次、次の次の次まで回っていないが、楽しそう。
そうしてゴブリンを撃破したダンは、セーフティエリアに行こうと提案してきた。
理由はもちろん、生放送の視聴である。
言われて再び心臓がドッキンこするが、生放送が気にならない訳がない。
てゆーか、これで気にしない人の心理が知りたいわ!
セーフティエリアには誰もいない。
おそらく皆、街に戻っているのだろう。
ゆったり座り込んで、2人で1つの画面を共有する。
「いやぁ、楽しみだな。」
そう言って、ダンは人の悪い笑みを繰り出してくる。
「ぅうぅ。怖いよぉ。恥ずかしいよぉ。…うぅ。」
「…えっと、悪い。からかった。」
泣き出してもおかしくない様な顔をしていたのか、謝られた。
ーーー9時だ。
『〈ストラフェスタ・オンライン〉緊急生放送〜!』
『リリース開始という事で、もう多くの第1次プレイヤーがプレイしてくれております、この〈ストラフェスタ・オンライン〉!今回は緊急生放送という事で、MCは私、ディレクターの松江と、開発責任者である井上さんの2人でお送りしていこうと思います!ーー
いっ、井上さん!!
うん。なんだろう。口調通りの優しそうなシワの入ったおじさんだ!!
ーーしかしながら、井上さん。今回はリリース開始についてだけではない!という事ですが!!
そうなんですね。もう僕達も想定外の事がありましてね。もうびっっくりですよ。
なんとなんと!新規エリアの解放があったという事で!もうすでに沢山のコメントが来ておりますが、ほとんどその話題という事になってーー
「それ以外に何があるんだってレベルだからな。」
「あぅう…。」
「…レダ。落ち着け。」
ーーしかし、井上さん!リリース開始ですよ!リリース開始!いやぁ長かったでーー
「…早くレダのとこ行けって。ーーコメント荒れてんぞ。」
画面に表示されるコメントには、早く動画を!まだか運営!リリース開始とかもうどうでもいいんだよ!
なんてのがわんさかわんさか。
リリース開始がどうでもいいってのはないのでは?
井上と松江は、リリース後の稼働状況やプレイヤーの現状況、動向、またリアルでの反響等を述べていく。
隣でダンは少しソワソワしているし、コメントも早く早くと、自身のオレリウスとの戦闘を心待ちにしているようだ。
ーーでは、そろそろ、もうプレイヤーの皆様には本題と言っても過言ではない、新規エリア解放の方に移っていきたいと思います!いやぁ、実は僕もまだ見させて貰えてないんですよねぇ。しかし井上さん!聞けばエリアボスを単騎で撃破されてしまったとか!
えぇ、そうなんですよ。僕達としては、まず、エリアが見つかるのは数ヶ月後だと思ってたんですがね。
それがたった1日で発見、解放ですか!
全くそうでしてね。今回解放されたエリア〈月光花の丘〉ですがね、解放したプレイヤーは、初心者フィールドがいっぱいだったから、すいてくるまで散策していて迷い込んでしまったという事だそうでね。
はぁ〜なるほどなるほど!では、これからそのプレイヤーのエリア発見から解放までの様子を一緒に見ていこうと思います!ーー
画面が写り変わる。
そこには、とぼとぼと歩き出した私がいた。
「…綺麗なエリアだなぁ。」
「ホントに。あ、スクショ撮ってあるよ。後で見る?」
見る見る。と返事をしてくれたダン。
彼に、でも、これ観てて。と画面に促す。
突然の戦闘フィールドの形成。
現れたーーーーーーーボス・オレリウス。
「……………え?。お前、これとやったの?」
「うん。そうだね。」
「ーーえ、マジで?」
マジで。と返す以外にあるまい。
画面からも、松江の驚愕の声に、オレリウスの竜巻のような勢いのコメント。
画面上の私が戦闘フィールドの端で固まっている。
「…逃走不可だったんだよ。」
「ま、エリアボスだからな。むしろ当然だ。」
「でね?すんごく怖いけど、死に戻ろうと思ったんだ。でもーーー」
オレリウスが咆哮を上げる。
私が悲鳴を上げる。
戦闘チュートリアルが産声を上げる。
私の渾身の暴言が炸裂した所でーー
ブハッ
ーーダンが吹き出した。
その後のチュートリアルのお姉さんとオレリウスと私の、全く噛み合わないやり取り。
「クッククク!ブッあははははっ!」
完全にツボにハマったらしい。
酷い!ひどいよ!私がどれだけ必死ーーいや、イライラしたとっ!?
戦闘フィールドの端でメニューを開いている私。
ーー井上さん。これは何をしてるんでしょうか?
いやね、これはね?戦闘チュートリアルをオールスキップしているんですねーー
松江の驚愕の叫びと、荒れに荒れるコメント。
対し、
「ぁーー、こういう事だったのか。これは納得だ。」
隣のダンさんは冷静だ。いや?ーー
ぷっ!クスクスクスクス
「…ダンもさっき、この人達みたいだったよ?」
「分かっているが、ははっ!反応面白すぎっ。」
画面の私が回避、ではなく死に戻りに失敗し、回避している間にやられよう、の精神に至った所から動画が一時早送り。
次の場面はーー
オレリウスの攻撃がかすめたところ。
減ると同時に回復する私のHP。
ーーああー!!これはっオートポーションですかっ!
レベル1ですからねっ!!
そうそう。それもプレミアム版に月額課金もしてくれてて、ポーションが全部で135個あったとーー
ポーション多過ぎだろ!これは、、、完全公式チートではっ!?チートじゃねぇだろただの仕様ーー
「…135。…呆れた。」
「えへへ。貰ったのと、ちょっと買い足した!」
「なんで買い足した…。あと自慢げに言うな。」
安心して!ダン!
自分でも呆れてるから開き直っただけさ!アハハ
そこから場面は、素晴らしい回避は見せて、かなーり早送り早送り。
「よくここまで…。」
呆れながらのジト目。
「だってっ!怖いもん!!」
「まぁ、、な。ーーーーおっ!?」
回避しながらメニュー操作。
取り出したのは鉄の片手剣。
「いよいよ攻略開始かっ!?」
「あはは。えーっと、その、最初は、攻撃までし始めたらオレリウスにやられるかなって……思ったんだけど。」
オレリウスに剣撃を与え、歓喜に叫ぶ私。
「ーーーーー楽しくなっちゃって。」
はぁ。
ダンは、笑いながらため息を吐いた。
愚直に繰り返される斬撃に、バリエーションが増えていく。ヒットアンドアウェイに飽きて、本格的に始まる戦闘。
ダンは、いや、画面を見ている全てのプレイヤー、関係者、第1次に漏れた未プレイヤー。
彼らは一様に、やはり食い入るように魅入っている。
戦闘部分はかなりピックアップされており、井上は後で解説を入れたフル動画を準備出来次第上げるらしい。
多くの人々が目にクマを作る日は近い。
この時点でコメントには既に「最強」の文字が見て取れる。が、
こんなのまだまだ序章に過ぎない。
これは、まだまだオレリウスの本気ではないのだ。
そろそろだ。
「ねぇ。ダン。」
「ん?」
「ここから、だよ?」
レダは綺麗な笑みをダンに向けた。
変貌を遂げるオレリウス。
めちゃめちゃに暴れる姿はやっぱり駄々っ子に見える。
「ちょっ。…おい、これ…。」
「ちょっとカッコいいよね。」
「いやっ。おまっ。これ…。」
呆然としているダンだったが、オレリウスのハンマークラッシュギロチン斬撃が炸裂した所で口を閉ざす。
コメントが止む。
手を使い、
剣で受け流し、
クリティカルヒットを入れ、
〈空中跳躍アシスト〉を発見し、
オレリウスの肩口に出た私。
渾身のご挨拶の後の渾身の斬撃。
討伐とクエストクリアのアナウンスを呆然と聞いて。
エリアに寝っ転がった私の姿。
それで動画は終了となった。
流れ出したコメントでーー
最強プレイヤー。
ーーレダのことを表す単語はそれのみになった。
ーーー
はぁ〜。
と、ダンは上体を倒して横になる。
「ごちそうさまでした。」
「えっと、お粗末様でした?」
ごちそうさま、と言われるとは。
よく分からないけど。
いえいえ、ダンは、確かに良いものを見た事に対し言ったけども。
彼は特等席にいた。
真横に本人がいて、本人に当時のことを聞けたのだから。
「ホント、とんでもない奴とフレンドになったもんだ。」
「えっ。その、ごめん?」
「いや、なんと言うか、嬉しいんだよ。謝んな。」
そんなことを言われては嬉しくなる他ない。
顔が朱に染っている気がする。
「しかし、ま、なんだ?お前って普通に喋ってる時はやっぱり大人しいだな。」
「えっと、あの、その…。」
ダンはとてもいい人だ。
今後も一緒に遊びたい。
大人しいと言われた。けども、それはーー
だから、罪悪感が湧いた。
「ダン。あのね。」
「うん?」
「わ、私、女なの。」
「………………へ?」
「その、だから、女性プレイヤーなの。」
「…………悪い。聞き違えたかな。も一度言ってくれ。」
「私、女性プレイヤー…。」
はぁぁぁあああああああああああああっ!?!?!?
「おまっ!それ!誰かに言ったか!!!!」
飛び起きて私の肩を掴み、ブンブンブンブン首を振ってくる。
「いっ、いってな、、、言ってないっからっ!!」
はぁっはぁっはぁっはぁっ
肩で息をするのは二人とも。
「ほっ、ホントに女なのかっ!」
メニュー画面を開いて、自分のアバター情報を見せる。
「……マジか。」
「その、ごめんなさい。」
あまりのダンの鬼気迫る様子に、私はとんでもない過ちを犯したのだと思った。
「はぁ〜。最強プレイヤーは女だってか。」
もしかして、失望されているのだろうか。
顔を伏せ、涙目を隠す。
「そのアバターはどういう?」
何故、このアバターにしたのか。
その経緯を、私は細かく説明した。
「つまり、お前は女性プレイヤーだと隠したい訳ではないが、女性プレイヤーだと認識されたくないって事だな?」
「うん。そう。」
「よし。ならいい。」
何がいいのだろうか。
「よく聞け。今のネットの状況的にも、お前が女だと言ったらそれこそ大混乱だ。
誰もお前が最強プレイヤーである事に文句が出る訳じゃない。これ見たからな。
ただ、最強の女性プレイヤーと見られる。普通の女性プレイヤーで今のたかられ具合だ。それに最強が付けば…。」
どどどどっ!どうしようっ!!
「わっ私っ!!お、おお女の子って言っちゃダメ!!なのっ!?う、ぅ嘘つかないとダメっ!?み、皆に嘘…つくの?」
「はははっ!」
え?笑われたっ!?
「レダ?ここはどこだ?」
「…?…〈ストラフェスタ・オンライン〉?」
「そうだ。ここはゲームだぜ?MMORPGだぜ?」
ーーーーーーーーなりきりは基本だろ?
「…なり、きり?」
「そうだ。」
「お、男の人になりきるの?」
「違うな。お前のそのキャラ、その、アバターになりきればいいのさ。」
アバターに、なりきる?
「いい感じに男っぽいしな、それ。」
カッコいいプレイヤーになりたいんだろ?
そのアバターは、お前のカッコいいプレイヤーの姿なんだろ?
なら、お前はそのレダになればいいんじゃないか?
最強プレイヤー、レダってな。
レダになる。
不思議な言葉だった。
レダは私なのに。
レダになる。か。
ここはVR。リアルとは違う自分になれる場所。
なりたい自分になれる場所。
「ダン!私、レダになる!」
「おう。」
ダンは、私に優しい笑みをくれた。
「そしたら、周りも勝手に誤解してくれるだろうさ。」
私の決心に、ダンは1つだけ悩んでいたが。
(ネナベって単語は、教えない方がいいか?)
そうして、彼らは再びフィールドへと踏み出す。
変化は、ただのフレンドから、親しいフレンドへ。
「そんじゃまぁ、遊ぶとしますかね。」
「うん!」
ダンは戦闘特訓。先生はレダ。
レダは口調特訓。先生はダン。
夜更けまで、二人の特訓は続いた。
小説じゃない本物のMMOでロープレとかキャラプレとかって難しいですよね。
次回からはリリース2日目の話です。