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ストラフェスタ・オンライン  作者: 竒為りな
リリース初日の大騒動
7/26

脳筋運営の策は

改稿済みです


 


目の前に浮かぶ画面。



 |  新規エリア解放  |

    <月光花の丘>


 |     OK     |



戻るボタンも選択肢もない。



エリア名<月光花の丘>

この名にある月光花とは、咲き乱れる白い花々に違いない。夜と付くからには、暗がりにこそ輝くのだろうか。



新規エリアの解放。フリーエリア化。


モンスターの跋扈するフィールドへ。



今だけ。


モンスターに邪魔されない、このエリアを堪能する最後のチャンス。



――スクショ、撮りたいな。



レダはこの景色をスクリーンショットに収めるべく、オレリウスが大技を繰り出すために上がった丘へ。来た当初に自身も目指していた場所を、レダはようやく踏みしめた。


夕陽に照らされ、エリア全体がほんのり朱に染まっている。一望できる景色を、空っぽにした頭に焼き付けていく。スクリーンショットを満足いくまで何枚も撮って、最後に感慨深く何週も見渡して、



一つ息を吐く。

向き直った画面へと、手を伸ば――



―――ピロピロリン、ピロピロリン



頭に響いたのは、音声チャットの呼び出し音。


音声チャットが使えるのは、フレンド登録されたプレイヤーかギルドのメンバー同士のみ。レダのフレンドといえばダンだけだ。


レダは好青年の姿を思い浮かべて、応答しようと表示を確認。



は?



――――う、()()!?



「は、はひっ!? もひもしっ!」



通信先と出ていたのは、


<ストラフェスタ・オンライン運営>


あんまりビックリしたものだから、心構えをするよりも先に応答ボタンを押してしまった。



『――いやぁ、お見事お見事!』



聞こえた第一声。



ん?


今お見事って言った?


言ったよね!?



「あ、のぉ――まさか……」


『はははっ、まぁその、ね。君の闘い、一部始終モニターしていてね。僕は井上っていうん――あのぉおっ! ほんとマジで凄かったっす! 俺もう超感動して――長谷部クン。わかったから口を挟まないでくれるかな?』


どうやら向こうは一人ではないらしい。よく耳を済ませればガヤガヤと随分騒がしく、他数人の話し声も聞こえてくる。


『あぁごめんね。えっと、僕はSGOの運営責任者をしてる井上といいます。よろしくね』


「あ、ははい! あの、レダ、です」


運営は運営でも、まさか責任者とは。

一体全体どうしたのだろうか。


『はいよろしくね、レダ君。さて、まず言っておかないといけないのは、僕たちのモニタリングの件だね。理由としては、初日にこのエリアに迷い込んでいたから、何かあればすぐ対処出来るように……だったんだけど、全くの杞憂だったね。いや本当に天晴れ天晴れ!』



井上が言うには――


リリース初日。

予定通りにゲームが稼働しているか、不具合の発生はないかと、当然だが運営側は総力を持って今日という日を迎えていた。


様々な企業がその総力を注ぎ込み、配信可能なまでに至ったのちはありとあらゆるテストを繰り返してきた。その甲斐あってか、稼働状況は非常に安定しており、発生する不具合も即解決可能なもので収まっていた。


このまま、何事もなくいけばいい。

そう思っていたある時、



「井上さん! 隠しエリアにプレイヤーが!!」


報告の上がった一瞬で場が凍り付く。

設定した身ではあるが、初日にあんなボスと遭遇しては一体どうなるか。最悪、パニックや恐慌状態に陥ってもおかしくはない。


大体の異常はゲーム端末の方でちゃんと処置されるはずだが、まだ始まったばかりなのだ。想定外の不具合という可能性も捨てるわけにはいかない。何かがあった、いや、その兆候が見られたなら即座に――



あれ?

元気に逃げ回ってるじゃん。



これだけ元気なら、多少気にしていれば大丈夫だろう。どうせすぐに死に戻りするはずだ。街に戻った後も元気そうならなんの問題もあるまい。


ということで、静観することに。


静観して、いたのだが、



――こいつ、一体いつまで逃げ回るんだっ!?



そのプレイヤー、中々死なない。


レベル1なのに。



運営も暇ではないのだ。他のチェックも疎かには出来ない。念のためと各々の画面でモニターしつつ、自分の作業をこなすのだが、



――まだ死なない。どうなってんだこいつ。



もはや訳がわからない運営陣。

どう見たって不正など無いのに、調べてみればやっぱり白。



むしろ、そのプレイヤーが女性である事が発覚!



ビッッックリ仰天で腰を抜かした丁度その時!



彼女はなんと剣を取り出した!



その場の全員が画面に食らいつき、

彼女がオレリウスに攻撃をヒット!



湧き上がる歓声! 喜びにハイタッチ!


ある者は涙を流して喜んだという。




はぅあぁああああああああああああああ!


恥ずかしい! 死ぬほど恥ずかしい!


HPよ、今こそ0となり私を死に戻りさせてくれ!



立ち尽くしたまま現実逃避に勤しむレダを余所に、井上の舌は熱を孕んで止まらない。


いや、井上だけでなく、割り込んできた長谷部や他の人まで、やれ手に汗握ったたら、観ているこっちの心臓も破裂しそうだったたら。



ま、話を聞いている限りこの運営、


恐らく後半――――仕事してねぇな。


おいおい、リリース初日なんだからしっかりして貰わねぇとなぁ?



うん? そうただの現実逃避。


だって、全部観られてたんだぜ?


穴があったらじゃなくて、今すぐ穴を掘ろう。



『もぅだからホントに、ホントにオレリウスを倒しちゃったときは、自分事のように嬉しかったよぉ。――最っ高でした! カッコよかったっす!』


「はぃ。ありがとうございます?」


『いやいや! 礼を言うのは僕たちの方だよ! いい闘いをありがとう!!』


「……はぁ」



『じゃあそろそろ、()()に入ろうと思うんだけど』



――本題あったんかいっ!



『えっとね、君にはこれからエリア解放をしてもらうんだけど、エリア解放の場合は全プレイヤーにその旨を伝えるアナウンスがかかるのね』


「あー、はい」


『そうなると、未発見エリアの解放だからねぇ。覗きに来るプレイヤーは必ずいると思うんだよね。この――



――平均モンスターレベル()()の、このエリアを』



「なっ!?」


『そうなったらきっと、問い合わせや不具合報告が寄せられるばっかりで、信じるプレイヤーは少ないかもしれない』


いやいや、当然だ。

やった本人ですら、そう断言してしまえる。よく考えれば今日はリリース初日なのだ。


『君のレベルも12になったからね。誰がエリア解放をしたのかはすぐにわかるだろう。このままだと、君に不正行為があったという謂れのない苦情も来るかもしれない』


いやいや、出るに決まってる。


『でも不正行為はないのだもの、僕たちは君に何かする事はないよ。しかしそれが他のプレイヤーとの確執につながりかねない』


いやだから、確実にその未来しか待っていないって。


『僕たち運営は、全てのプレイヤーに楽しくこのゲームをプレイして貰う事がお仕事な訳ね。だから、他のプレイヤーたちに、不具合、不正がなかったことを正しく理解して貰わないと』


……。


『それでね、今の戦闘なんだけど――



…………。



――――()()しちゃわないっ!?』



……ん? 



「え、公開? 公開って!?」



『いやぁ、君の戦闘記録、まだ動画として拾い出せるんだわ! これ見たらだぁ~れも! 文句言わないと思うんだよねぇ。ほらほら、百聞は一見にしかずってね!』



「えっ、でも……」


『大丈夫大丈夫! もうここにいる全員観てるんだし、人数が増えるだけみたいなものだよぉ。動画の凄さは僕たちが保証するよ!』


「いやその、お知らせとかは?」


『あぁ勿論、エリア解放のアナウンス時に、今回の事は付け足す準備が出来てるよ。でも、これだけだとまだ弱いと思うんだよなぁ』


「だから、こ、公開」


『そそ! ダメかなぁ〜、とってもいいと思うんだよね。嫌な目で見られることは絶対! 無くなると思うよ? 英雄視はされても可笑しくないけどははっ! ねっねっ、どうかな、どうかな?』



……うん?


なんというか、推し強くない?


普通、アナウンスかけるくらいじゃないの?


不平不満は残るだろうけど、

それはもう、仕方のない事、でしょう?



先程からの井上の口調は、提案というより、お願い。



「……あの、どうしてそこまで?」


『あははっ。えっと、そのぉ……、いや、凄い闘いだったからね! 皆に――



「もしかして、()()、ですか?」



――あ、あの、まぁ……うん』



閃きのままに聞けば、まさかのイエス。



『ごめんね。気を悪くさせちゃったよね。宣伝と言っても、僕たちが見て欲しいと思っているのは、第1陣でもうプレイしているプレイヤーたちなんだ』



リリース初日。

レダのこと以外は、順調な滑り出し。


故に、運営はプレイヤーのプレイ状況をしっかりと把握出来ていた。



各プレイヤーの動向は、


チュートリアルでレベル1モンスター退治。

レベル上げでレベル1モンスター退治。

レベル上げで低レベルモンスター退治。



レベル上げの一択。予想通り。



脳筋SGO。

同レベルの相手では死ぬ可能性があるし、経験値は多くとも時間がかかってしまう。だからプレイヤーたちは質より数を優先した。


それに数をこなせば闘いのコツも得られると。



運営の言う、純粋な戦い、肉薄した闘いを()()()行うために。



彼らはゲーマー。


世界初のVRMMO、SGOが出るまでは既存のネットMMOをプレイしてきた猛者たちである。



序盤にやることなど、


操作方法を覚え、レベルを上げ、ゴールドを稼いで装備更新に決まっているのだ!!



そんな所に現れたるは救世主!


オレリウスとの戦闘、後半はまさに理想!


運営の光! 


道標!



『やっぱり、ダメかな? ハハハハハ』


井上の今更としか言えない誤魔化し笑い。耳に入れながらも、レダは俯き思考を巡らせていた。


自分の戦闘動画。

恥ずかしいのもあるが、反響はどうだろうか。


それでも、辿り着く選択は最初から決まっていた。



レダ――いや玲奈は、今後どうあってもSGOを降りる気はない。憧れの地は、一転して己がある場となった。


聞かれているのは簡単なことだ。

肯定されるか否定されるか。



「……井上さん。公開してください」



『あはは、そーだよねぇそ――え、いいのっ!?』


「私、もっとSGOで遊びたいんです! もっと! だから、お願いします!」


『……嬉しい言葉をありがとう。宣伝もあるけど、全てのプレイヤーに楽しくプレイして貰う、さっき言った通り、それが僕たちの仕事であり本心だからね』


「はい、よろしくお願いしますっ!」


『はいはい。後はおじさん達に任せてね。あぁ、一つ聞きたいことがあるんだけど――君の()()については、詳しく言わない方がいいのかな?』


井上の遠慮がちな問いに、玲奈は思わず首を振った。


「私、かっこいいプレイヤーに、なりたくて、その……」


『そっかそっか、それじゃあ積極的に言わない事にするよ。あと、動画6時間もあるから、大分早回しで行こうと思うんだけど』


「えっと、その辺は、お任せします」


『はい、任されました。じゃあ、そろそろ戻ろうかな。エリア解放、よろしくね!』


「はい。その、ありがとうございます!」


初めて感謝を口にすると、


『あ、街に戻るよね。報酬は全部装備して、堂々とすることをオススメするよ。改めて、討伐おめでとう』


お見事、とは何度も言われたけれど、


”おめでとう”


なんだか、頬が照ってしまうくらい嬉しかった。



さて、

チャットは切れたが、事態は進行している。



どうしてこんな事に……。


ただ夢中で遊んでいただけだったのになぁ。



井上さん、運営の皆さん。


お手数かけます!!




――☆――




<月光花の丘>で佇む玲奈。


早速エリア解放、は思いとどまり、井上のアドバイスを確認しようとメニュー画面を呼び出した。いくつか並ぶ項目のなかで、クエストと書かれたタブが仄かに点滅している。タップしてみれば、エリア解放クエストの欄があった。


クエスト達成と書かれたそこには、もちろん報酬の文字。



クエスト達成報酬

オレリウス撃破報酬

ラストヒット報酬

撃破MVP報酬



4つもあった。


さてさて、井上は装備しろと言ったのだ。武器か防具か。



報酬が4つも用意されているのは、マルチパーティ用レイドボス討伐に関連するクエストがほとんどだ。


かく言うオレリウスも、2パーティ12人用のボスであるそう。


しかしこの報酬。

クエストに参加した者が全員貰えるのではない。



上の2つは参加者全員。

下の2つは誰か一人に。



内容は、

上の2つが経験値、ゴールド、装備品。

下の2つは、装備品か貴重品など一点。




恐々全ての詳細を開くと、結構な桁の経験値とゴールドをもらっていた。どうやら急激なレベルアップは、オレリウス撃破だけのものではなかったようだ。


さて、問題の装備品は――



クエスト達成報酬

アクセサリー[月光花の指輪]SPEED+17


オレリウス撃破報酬

ウェア[月光のシャツ]STR+15, VIT+18

ズボン[月光のズボン]VIT+18, SPEED+15


ラストヒット報酬

アクセサリー[真月光のマフラー]STR+20


撃破MVP報酬

アウター[真月光のコート]STR+23




あり得ねぇえええええええええええっ!




現在運営から配られた初心者キット。今玲奈が装備しているそれの数値は、


[指輪]STR+2、[腕輪]VIT+2

[耳飾り]SPEED+5


プレミアム版で貰った[耳飾り]は一応破格の数値になる。あとの+2という数字のアクセサリーだが、これだけでもクソほどありがたいなどと言われる代物だ。


と、なると、



あり得ねぇえええええええ!



更に個人報酬だが、エリア解放前のオリジナルボスのみ真の字が付き、ステータス上がっているらしい。


と、詳細の隅々まで目を通して気が付いた。



ない。



装備条件が、ない。


参加報酬にはある。個人報酬にはない。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。



井上が言った、全部装備してという言葉。

個人報酬を装備すれば、参加報酬の必要ステータスをギリギリ満たしている。



とんでも装備コンプしちゃったーーーー!?



こここ、これを装備しろとっ!? 井上さんっ!?

こんなっ、こんなの装備したら、他の人達にどんな目でっ……

そ、そそそうか、私はこれで有名になっちゃう、え、エリアボスを倒した奴がゲットしたの装備しないなんて、そ、それこそ心象が……?

いっ、井上さん! そういう事なんですねっ!?



固まった体の中に大嵐が吹きまくる。井上がなぜ装備を促したのか、全く理解できないまま、ただ言葉に従い装備を弄った。


タップするだけで体のどこかが光り出し、一瞬で装備が変わる。


初心者装備から、討伐報酬装備へ。


簡素な服は、月光の名を冠する服へ。



初心者プレイヤーから、最強プレイヤーへ。



「わぁ……――――かっこいい」



黒に白が踊っている。


どれもデザインはシンプルだ。

シャツとズボンは動きやすさを重視した形。そこに膝まであるコートを羽織ると、それは戦闘服でありながら凛々しさと僅かな高貴を見せる。


どれも布地は黒。

真っ黒の中で、白いラインが風に流れるように描かれている。花の柄はないが、闇夜に射す月光を表しているのだと教えてくれる。これが高貴さを加えていた。


そしてマフラー。

幅広のそれは、巻くと少し俯くだけで鼻先まで隠れてしまうほど。アクセサリーとしてちゃんと崩れないようになっており、両端ともに背中へ流れている。その流れに沿うように、これまた白いラインが舞っている。


なりたい自分に、より近づいたと感じる自身のキャラクター。装備画面に映る自分から勇気がもらえるようで、至る所に首を巡らしその場をくるくる回った。



白、灰、黒の混在する髪。全体的に黒く、白の踊るマフラーやコート。


レダはコートの裾を一度強くはためかせ、襟を正すと、口元のマフラーをくいと引き上げた。


凛とした立ち姿のプレイヤーは、迷いなく手を伸ばす。




『全プレイヤーの皆様にお知らせ致します』



『ただ今、未解放エリア〈月光花の丘〉が解放されました。これにより、当エリアはフリーエリアとなりましたことを報告致します』




『全プレイヤーの皆様に、〈ストラフェスタ・オンライン〉運営よりお知らせ致します』



『新規解放エリア〈月光花の丘〉について、お知らせ致します。当エリアは、平均モンスターレベル32のエリアとなっております。尚、このエリア解放におきましては、不具合ではなく、正しく発見、解放に至っております。解放したプレイヤーについては、調査、モニタリングの上、不正行為はなかったことをご報告致します』



『尚、〈ストラフェスタ・オンライン〉リリース開始と、このエリア解放を受けまして、緊急生放送の準備を進めております。この生放送では、皆様のプレイ状況。そして、エリア解放に至ったプレイヤーの、6時間にも及ぶエリアボス戦闘の勇姿をご覧頂く内容を考えております。どうぞ〈ストラフェスタ・オンライン〉を、お楽しみくださいませ』



――――あぁ、生放送にしちゃうのね。



次話

街に戻った玲奈を待っていたのは――?

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