表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストラフェスタ・オンライン  作者: 竒為りな
リリース初日の大騒動
6/26

最後に立つ者は

改稿済みです


 


オレリウスのくちばしが開く。火を吐く前兆だ。出来ることは少ないため後ろへ後退。火を吐き切ったところで正面に出る。捉えたのは左からの斬撃のモーション。


巨大な刃が迫りくる。刃をよけざまに腕を斬り上げ、肉薄した尻尾に刀身を沿わせてラインを刻む。オレリウスの懐に入って足を薙げば、斬られた足が一歩下がる。窮屈な体勢で放たれるのは武骨な斬撃。


後ろ足でかわすと、二刀流ならではのタイミングでもう一本の刃が来る。ステップを踏んでいなし続け、足元を抉るように来た刃を飛び越えたのは、


<跳躍>に輝く足で後ろに弧を描くバク宙。


着地した勢いのまま距離を置く。



「やっべ。超上手くいったじゃん」



玲奈がレダになってから、1時間ほど。

始めから計算すると3時間半強か。


さっさと死んでおさらばのつもりが、随分と居座ってしまっている。


けれども、たった3時間半で立派な戦闘狂へと変じたレダ。途切れない集中力とアドレナリンが、かすり傷以上は一発アウトという馬鹿馬鹿しい状況を繋ぎとめていた。


「よっしゃ、来いっ!」



……なぜか口調も上達しました。



来い、と叫びつつ飛び出す。

<走破>を用いて突っ込むレダに答えるのはオレリウス最速の攻撃。コンパクトな振り上げからの打ち下ろし。


避けて斬って、躱して斬って。


オレリウスの攻撃を受けに回ることは出来ない。弾くことも。


襲い来る刃が来た方向へ跳躍し、身を捩って刃をかわすと共に交錯した腕を斬り付けた。


オレリウスの胴へ寄ろうと駆ける。しかし聞こえた息づかいの音で即座に<走破>をキャンセルし、真横に飛んだレダの肌を火の粉が焦がす。


飛んだ先で身を転がし即座に起き上がる。手早く態勢を整えたレダは、突き込まれた刃の連続にステップを踏んでいく。



バク宙は攻防の間に偶然出来たものだ。使えるなら何でも練習し使う。


出来ること、手段を着実に身に付けていく。



レダのレベルは相変わらず1だ。


確かにそのはずだが、どうだろう。


他のプレイヤーと比べ、その身の糧とした技量技術――PS(プレイヤースキル)は、一体どれほど差が開いたのか。


これでレベルが伴えば、


いいや、きっと短時間でレベルも得てしまうだろう。



オレリウスのHPゲージ。


攻防の間に幾度も入るようになったレダの斬撃は、確実にダメージを重ねた。もはやどんな攻撃でも純白の輝きを放つレダの刀身が生み出すダメージ量は、ほとんどが最高ダメージ付近にある。



レベル1なのは忘れてはならんが。



さて、件のHPゲージは恐ろしいことに、



――――半分を切ろうとしていた。



尻尾の大回転攻撃。

玲奈が初めて攻撃をヒットさせたときの攻撃パターン。


間合いを測り通過する尻尾に刀身を当てる。今はオレリウスが刃と共に降り立つのを待ち、渾身の斬撃をかわして腕を斬る。更に――


レダは胴へ。


オレリウスは少し屈んでいる。

いつもより低い位置の胴に向け、<跳躍>で跳び上がり上段、いや大上段の構え。


思いっきり、



「おっ、、らぁあああああああっ!!」


――叩きつけた。




ギャギャグギャァアアァォォォオオオオオー



あれま?


これはどうしたことか?



思いがけず天へと吼えるオレリウス。

その様子はこれまでと異なり、手当たり次第に暴れ始める。


どう考えてもヤバい雰囲気。

戦闘狂のレダもさっさと退避を選択。



ふむ。これは、


HPを半分切ると発生する、もはや定番イベント?



――――怒っちゃった?




(ピポン) オレリウスが怒った!



「おいおいおい。怒るにも限度があるだろ」


レダが見守る前で、オレリウスは大変な変化を遂げていく。



――尻尾が立ち上がった!


――ワシ頭になんかラインがいっぱい走った!



――()()()増えたぁあっ!?



えぇとも、増えたよ。腕がさ。

ニョキニョキでもなかったよ。


シャッキーーーーーーんっ! って感じでな。


持っているのはあの片刃の剣かだって?


ははっ、世の中そんな簡単じゃないのさ。



――()()()()だぜ。


見た目は柄が長いトンカチ。

オレリウスサイズのな。


これがまたギランギランの傷だらけ。



腕4本のうち、上の左右2本があの剣を、

下の2本がハンマーを持っている。



やべぇだろ?

千手観音とか手多い奴いるけどさ、

このキメラのビジュアルでこの武器よ。


そいつが今4本の腕バラバラに周辺をしっちゃかめっちゃかにしてくれてんの。いやマジで勘弁しろって。



暴れまくるオレリウス。



しかし、こう無視されていると冷めてくるもんだ。おいいつまで暴れるんだよ。お前は駄々っ子かっつの。


……ん?


そういや今日リリースしたばっかだから、あながち間違ってないんじゃね?




そんな事はきっとない。


戦闘フィールドが形成されたとき、この場に敷かれた美しい花々は全て散った。だがもし、敷かれたままだったなら――


この美しいエリアに現れるボスモンスター。


剣、ハンマー、尻尾に火。


どれも花咲く大地を蹂躙するに相応しいのかもしれない。



レダは漠然とした思考の中で、彼と対峙する意義を知った気がした。



巻き起こる酷い惨状に深い感慨を抱きながらも、レダの視線は揺るぎなくオレリウスを捉えて離さない。


思考を開始する。

オレリウスの変化から、当然攻撃パターンも変わっているはず。今までの動きは参考になりそうもない。


腕4本によるバリエーションはもとより、尻尾が立ち上がった意味とワシ頭の状態。


唯一の救いは、腕や尻尾の長さが変わっていないことか。



ハンマーの長さ、間合いを早々に掴むこと。


ワシ頭の攻撃を全て引き出すこと。



やるべきこと、否――()()()()を考える。



油断のない瞳は、闘志を灯した巨大な双眸を視認。



やっと、


オレリウスがこちらを向いた。



「…いいぜ、楽しもうか」


「死ぬまで幾らでも付き合ってやるよっ!」



待ちくたびれたレダは、我慢できずに駆ける。



さぁて、初手は何で来る?



真っ正面から飛び込むも、間合いの中央でいきなりたたらを踏んでしまう。


「っ嘘だろ! マジか、あ、アハハハっ!」


オレリウスが放った想定外の攻撃。

来たのはハンマーが――2つ。


――クラッシュ。


左右両方から振り子のように襲い掛かってくる。面同士を打ち合わせ押し潰す気らしい。


完全に飛び込んだ。タイミングも早く駆け抜けられそうもない。避けようにも面の広いハンマーから逃れるスペースを見いだせない。


凍え切った笑いを上げ、足から力を抜く。足先を滑らせ、スライディングしつつ必死に体を倒す。


仰向けに倒れたレダの目と鼻の先。ほんの数センチ先で面と面が衝突。鼓膜が破れそうな衝撃音に衝撃波、押し出された空気の圧で全身が押さえつけられた。


巻き込まれた前髪が消滅するなかで、閉じたハンマーの扉が開かれる。



レダの真上に今か今かと位置していたモノ。



2つ


――ギロチン。


「へ? ちょっ、だぁああああああっ!」


認識した瞬間に四肢の全てをフル稼働。指先足先で大地を掴み、大慌てで体を放るように転がした。


ギリッギリの真横に轟音を伴って降り落とされた刃は、空気に大地とあらゆる震動を使いレダの芯を轟かす。固まりそうになる体に鞭を打ち、更に見えたハンマーから全身全霊の離脱を試みた。



はぁっは、はっ、はぁはぁっ、つっ。


戻ってきたのは、戦闘フィールドの端。



いやしょうがない。

ちょっと整えさせて。



「はぁ。ハンマー打ち合わせてくるとか、マジ、想定してねっつの」


全くいやらしい。厄介極まりない。


「また回避ごっこか?」


アイテムリストを開く。


ポーションⅠ×13

ポーションⅡ×25

ポーションⅢ×10



ポーションの数は残り50個を切ったか。



「ふふっ」



命の危機が迫っているというのに、頬が緩んで喜びの吐息が混じる。


「あはははははっ!」



そう、命の危機。死の舞踏。


――なんて甘美な響き!



「はは。いいや、回避なんて」


さっきは心のどこかでまだオレリウスを舐めていたのだ。もう二度と侮りはしまい。


視界、頭、感覚。何もかもが研ぎ澄まされていく。全てが広まっていく。


心は歓喜に


頭は冷徹に


顔は獰猛に


レダはゆっくりゆったり闊歩する。



オレリウスと向かい合う。

どうしてか、オレリウスはすぐに動かない。


じっと視線を合わせたまま、レダは間合いに踏み入った。


構えるレダと吼えるオレリウス。



死闘が始まる。



「行っくぜぇええっ!!」


――死闘を始める。




――☆――




身を投げ出しハンマーを避ける。転がったレダを刺すように襲う尻尾。間近まで引き付け、すれ違いざまに薙ぎつつ距離を取った。


オレリウスの股下を通り背後へ。激昂状態に入ったオレリウスは、背後への攻撃手段に尻尾ではなく――


巨大な蹄鉄で蹴り上げてきた。


ちっ、と舌打ちが出る。反射的に回避行動を取ったが、この蹄鉄の射程は存外広い上に攻撃の出始めにある追尾性能が地味に辛い。回避が早いと追尾に捕まる。


拳1つ分間に合わない。それだけ当たれば確実にアウトだ。


スローモーションで進む世界で、



――手を出した。



当たる直前。想定通り身体は蹄鉄の縁ギリギリ。当たる寸前で踏み切り体を回転。蹄鉄に手をかけ、腕力に物を言わせて体を外へと押し込んだ。


地を感じ、場から逃れること以外は何も考えず走る。


激昂前とは違い、一つのパターンから次のパターンへの切り替えも早く休む暇は与えられない。一旦回避に切り替えたレダは、絶えず動き続けながら状況を整理。


「よっと――あれだけの接触でノーダメか――ほいっ――やっぱモンスターの攻撃行動以外はダメージ食らわないのかな」


思いっきり攻撃に来ていたモノを掴んだのだが、ノーダメージ。HPは減らなかった。接触は自殺行為だと決めつけていたが、オレリウスの攻撃そのものでなければ良いらしい。



頭のギアが上がる。

脳裏をよぎる新たな手立て。



スイッチが替わる。

視界には刃とハンマー。


まず刃をかわして腕を狙う。コンビネーションが増え斬撃を放てるタイミングが大幅減のため、狙う腕はかなり高めの位置にあるが大上段で斬り付ける。攻撃を入れられるなら行くほかない現状だ。


激しく打ち込まれるハンマー。躱すだけにとどめて次を待つ。馬鹿でかいハンマーの頭部に長めの柄のせいで、避けてから狙い目の腕までが遠い。



為す術もなく死の舞踏を舞い、ハンマー以外のパターンでダメージを与えてきた。が――


押し寄せるハンマー。

回避し停まったハンマーの頭部へ、


<跳躍>


――飛び乗った。



腕が動き始める前に駆け上がるには十分の幅を持つ柄に足を掛ける。



柄を伝って腕、


いや、



――――()()()へ。



どうして思いつかなかったのだろう。

こんなにデカいのだ、登ればいい。



久々にくっきりと刻まれた酷く楽し気な笑み。標的に向けたのはやはり瞳孔しか見えぬ凶悪な――


「なっ!? くっそっ!」


ワシのくちばしが開く。

自分の腕を巻き込むのも厭わずに放たれた大量の炎。目論見の潰えたレダは苦々しく眉根を寄せ、躊躇なく腕から飛び降りた。


降りる最中に斬り付けるのは忘れない。


4本の武器を見せびらかし、緩慢なくも不敵に態勢を整えたオレリウス。無言の挑発に、悔しさ、腹立たしさ、嬉しさを混ぜて生み出されたレダの表情は、


「あぁホント、楽しい」


満面の笑みだ。




オレリウスの動きを注視し走り出す。巨大な身体に力みは見られず、再びくちばしが開く。炎か火の玉か。激昂状態では火の玉に追尾能力が備わり、油断ならないがどうやら炎のようだ。


以前と威力は上がったがその分吸い込みに時間がかかる。レダは一気に距離を詰め、間合いを踏み越えオレリウス本体を目指しひた走る。


このパターンは何度もあった。だが、


何かが違う。



待て。吸い込みが、長くないか?



強い違和感に警鐘が鳴り響く。

<走破>を用い全速力で駆ける。さっさとオレリウスの股下へ潜るべきだ。股下から背後へ出れば炎も怖くないはず。


目標地点を目の前にして、オレリウスが動いた。


肺をいっぱいに膨らませ、左から右に向かって弧を描くように炎を吐いていく。



いや



「なっ、後ろ?」



炎はレダを完全無視。いや違う。



――退路を断たれた。



炎は高い位置から放たれ、レダの頭上を容易に越え、レダの背後を取り囲むように着火させていく。


気が付けば、高く上がった火の壁が地に半円を描きそびえていた。



後ろは火、正面はオレリウス。



これまでとは全く異なるパターン。


いや、あまりゲームに触れていないレダでもわかる。



――――()()というやつ。



レダはオレリウスの持つ全ての得物が届く間合いの真っ只中。レベル1の紙防御ではあの火は突破出来ない。


背中に冷や汗、上がる心拍、荒い息。


酸素を欲し、血は滾り、冷や汗が心地いい。


「ほら、来いよ」


剣は構えない。身体のどこからも力を抜く。代わりに神経という神経を掌握する。



どんな攻撃だろうと、生き残ってみせる。



オレリウスが4つの武装を高く掲げた。これらを使うと宣言しているかのようだ。真上に持って来たところでオレリウスが天に向かって火柱と共に咆哮を立ち昇らせる。そして――



猛禽類の瞳がレダを捉え、



後方へと跳び上がり、



「……え?」



――戦闘フィールドから出た。



オレリウスがいるのは、随分と昔にレダ――玲奈が目指した小高い丘の頂上。そこで腕をそれぞれに広げ、


馬の脚でカツンカツン、地を蹴り上げている。



あの動作、まさか。



「待て、まてまてまて! その巨体で突っ込んで来るとかあり得ねぇだろっ!」


文句を言ったところで意味はなし。



オレリウス、レダ共に前傾姿勢。

直後に突進してくるオレリウス。大地を踏み荒らし、戦闘フィールド手前で跳躍。


刃、ハンマー、刃、ハンマー、の同時攻撃にダメ押しの炎と尻尾だと見た。レダのいる一点を狙う気はない。狭めたフィールドの全てを押し潰すつもりか。


絶対絶命。


一斉に降ってくる武器。それぞれの位置を瞬時に把握し刃の元を選択。ハンマーに比べればまだある隙間に身を投じる。


オレリウス渾身の打ち下ろし。何とか逃れはしたが、途轍もない地響きに振動で体勢が崩れ膝をつく。視線を地に落としたレダの耳が次の息遣いを捉える。


顔を上げれば大きく開いたくちばしの中で揺らめく火が目に入る。その火は周りの武器が空けた場へ即座に解き放たれた。


直前で<跳躍>を用い、地を舐める炎から脱する。


しかし、



仮想の重力に従い肉体は無情に落ちていく。


この状態を、オレリウスは狙っていたのか。



大技の締め。


股下を通してではなく、オレリウス自体が体を一回転させ、フィールドを一掃する尻尾の攻撃。



大きく引き上げていた尻尾を、鞭のように繰り出すオレリウス。


レダの仮想の肉体は未だ空に留まっている。


「やばっ」


炎を避けるため最大まで高く跳んでしまった。

脳の計算機は着地の前に邂逅するとの結論をだす。



どうする。


手を使う? 無理だ。


回避、避ける、躱す、逃げる。



空中で何が出来るという。



ここまでか。



――いや、まだだ。



終わりを悟って何もしないなど、



――――――もったいない!!



全部全部、最後の1秒も楽しまないと!




何かないか、何があるのか。


レベル、ポーション、ステータス、装備――




武装。剣1本。



どうしようもない中で、剣を立てた。


右手で柄を持ち、左手で刀身の上部を。


盾のように、己と尻尾の間へ。



迫る尻尾。爬虫類のそれ。ざらざらの硬い皮膚。しなる鞭の先近くだが、太い丸太ほどはある。


動けない状況で刻一刻と迫る尻尾が、細胞の一つ一つまで見えるところで、


剣にぶち当たる。


重すぎる衝撃で、直角ぎみに立てていた刀身が傾いた。刀身は尻尾の下へ滑り出し、尻尾は刀身の上を擦れて行く。


「――ぅぐっ」


レダは地に叩き付けられ、オレリウスが降り立つ。尻尾の薙ぎ払いによってかフィールドを焦がす炎は消えた。



ポーションが使用されHPが全快する様を呆然と見つめて、レダはぐるりと辺りに目を配る。


生きている。

まだ戦闘フィールドにいる。


最初に現れた時のように降臨したオレリウスだが、その様子は悔しがっているように思えてならない。


「あは、あはははっ、あはは」


乾いた笑いは、熱を帯び、


「あっははは! やべぇめっちゃ楽しい!」


さっさとオレリウスが動き出さなければ、レダはフィールドを笑い転げていただろう。


仕方なく起き上がる。


仕方なく笑いながら跳び込んだ。



――オレリウス 残りHP25%




――☆――




かわす。かわす。


かわして、攻撃。


かわして、弾かれて、攻撃。


かわして、受け流して、攻撃。


常に全体を見る。瞬きは最小限。


回避して、走って、攻撃してーー


集中は切らさない。


かわす。かわす。


いや、集中が途切れない。


かわす。



かわす。


笑う。



オレリウスのHP。


それはとうとう、赤い棒線へと変わっていた。



斬撃を、剣を使って受け流す。


打ち出されたハンマーを直接<跳躍>で跳び越え、柄を伝って腕を狙うも火の玉の妨害。


柄から後ろ向きにジャンプ。


着地した足でもう一度ジャンプをしようと空中で姿勢を取った。



その足元に発光と補助の力みが加わる。


<跳躍>や<走破>を見つけた時と同じ。



初動の体勢を維持しアシストの姿勢制御に全てを任せ、



踏む。――()()


「空中ジャンプ! マジかよ、んなの公式の情報になかったぞ。ってことは――」



未発見アシスト <空中跳躍アシスト>



そう、アシストもまたプレイヤー発見型のモノが多数ある。こちらはもう隠れてるというよりは言葉通り発見推奨だ。


空中ジャンプはネット上で絶対あると予想されていた未発見アシストの筆頭である。



しかしまぁこれで、


「あのワシ頭、ぶん殴ってやる」


有言即実行。

腕を伝ってのトライはさらに何通りかで試したのだが、どうあっても火の玉が邪魔で近づけなかった。


また斬撃を受け流し、ハンマーに飛び乗った。その場で――



<跳躍> オレリウスの胸前へ。


<空中跳躍> オレリウスの眼前へ。



至近距離で目と目が合う。

瞳孔が開かれた互いの双眸に相手の姿が映る。


オレリウスの瞳に映るモノは、


凶悪に口元を歪めていた。


「どうも」


レダは剣を振り上げ、



「こんにちはぁあああああああああああっ!!」



オレリウスに教わった上段の構えから、喜色満面の笑みで振り下ろした。




レダ君、ざんね~ん。


言うべき言葉は、「さようなら」




クリティカルヒットの最たる部位、頭部。

<技量アシスト>の最高ダメージ判定に、クリティカルヒットによるダメージ倍率が乗った。



ワシの頭部に真っ赤なラインが走り、近くに浮かぶHPゲージの赤い棒線が消え去る。オレリウスの膝がガクンと崩れ、後ろ向きに倒れていく。


最後に、か細い馬の嘶きを発し、


一面に穏やかな風をなびかせ散っていった。



ボス戦闘フィールドが解除される。

足元からは激戦の痕跡が消え失せ、何も無かったと言わんばかりに元通り。たおやかな白く美しい花畑へ。


オレリウスという存在が居なくなり、たった一人残されたレダが噛み締めるのは虚無感だった。



『エリアボス・オレリウス討伐成功!』


『エリア解放クエストを達成しました。エリア≪月光花の丘≫解放を行ってください』



どこまでも静かなこのエリアに、アナウンスが反響していく。



終わった。


己が止めを刺した。


だが、実感が湧かない。


手にある感触は確かなのに。



「はぁ……疲れた」



己の行きつく先は、アントレーの街だと思ってやまなかった。それは最後の一刀になっても変わらなかった。


咲き誇る花々に身を横たえ、エリア解放を促す画面を眺めてようやく現実を受け止め始める。


「はは、もっと遊びたかったな」


実感がない理由に合点がいく。

ただ、もっとオレリウスと遊んでいたかった。


もしかしたら、

オレリウスに倒れてほしくない、とまで思っていたのかもしれない。




レダがオレリウスと遭遇してから、6時間が経過していた。


SGOリリース開始からおよそ8時間。

運営が想定した通りレベル5に達した者たちが出始めたなか――



――レダ レベル12



やっと決着、流石ボス。

改稿前はボスの大技とか入れてなかったので加えました。ボスと言えば大技ですよね


次話、隠しエリア解放に至った玲奈。彼女に届いたチャットは運営から!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 討伐までに12時間くらいかかりそうですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ