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ストラフェスタ・オンライン  作者: 竒為りな
リリース初日の大騒動
3/26

一斉ログインの弊害は


<ストラフェスタ・オンライン>第1の街アントレー。


それは、今後も増え続けるだろうプレイヤーの数を見込み、もはや一つの都市と呼べるほどの広さを誇っている。



<ストラフェスタ・オンライン>の地へとようやく降り立ったレダ――玲奈は、見開いた瞳に映る場の広さに目を剝いた。


今いるのは、大きめの陸上競技場のフィールドほどはあるだろう大広場。玲奈はその中心近くにログインしたらしく、360度ぐるりと周りを見渡せば人もといプレイヤーの姿と、世界の姿。



見上げる。


当然のようにある、空。


それは今日の日を祝福していると言わんばかりに青く、蒼く、碧い。


巨大なキャンバスに、夏らしい立派な雲がいくつか流れていく。


起こる風は吸えるはずもないのに、美味しいと錯覚する。


太陽の輝きは煌々と熱を発し、確かに肌を焦がす。



あぁ、――綺麗だ。



近くにそびえる女神像は悠々としつつも雄々しく、簡素なドレスの上から皮鎧を着こみ、盾を掲げ剣先を天へと伸ばしている。


あぁ、美しい。


でも、やっぱ脳筋だ……。



アハハ。えーっと、

あの、女神様で合ってますか?

女将軍だったりするんでしょうか……。



よし、見なかったことにしよう。



視線を街へと戻す。

自身が立っているのは、綺麗に敷かれた石畳の上だ。白を基調として広場全体を覆っているらしい。


ここからは遠いが、見える建物の様式は全て西洋風で、中世ヨーロッパのようでいてファンタジーの物語に出てくるそれである。



何度も何度も夢に出た世界は、


私の想像を易々と超えた。



なんて、美しいのだろう。


すごくわくわくして、

すごくすごく嬉しい。


あぁ、お父さんお母さん。


今すぐありがとうって言いたいよ!



景色を思う存分堪能して、女神ともう一つ見ないようにしていた者たちへ目を向けた。


それは頭、頭、頭。


SGOのリリース開始からもう1時間は経っているというのに、半端ではない人の群れ。そのほとんどは先の私と同じくポカーンとしながら景色に飲まれている。



うーん、やっぱりみんな男の人だ。



どれだけ目を凝らしても、13%はいるはずの女性プレイヤーが見当たらない。単純に考えて、100人いれば13人はいていいはずだ。



ま、まさか!


私と同じように男の子っぽくなっている!?

(可愛くなりたくて時間かかってるだけですよ……)



うーん、服とか男女で違いがあれば――ハッ!


私の服はっ!?


――なんだ、みんな同じか。ホッ



デザインが男女で異なれば、自分の存在は奇異に見えるはず。


そう思い至って慌てて自分のと周りのを比べてみたが、どうやら心配性なだけのようだった。



自分たちが身につけているのは初期装備。


[簡素なシャツ]

[簡素なズボン]


以上。


簡素オブ簡素。


デザインもザ・初期装備で、ステータスもなし。

靴と薄いグローブも身に着けているのに、そちらは表記もされていない。



装備画面を確かめて、安堵に胸を撫で下ろした。


心の中で、先の慌てようを苦笑する。

かっこよくなりたいと意気込んだのに、初っ端から周りの目を気にしてしまうとは。


だが、おかげで浮ついた意識が戻ってきた。



さぁて、何をしようか。



玲奈は視線を右上へ向けた。

そこには、街のマップの下に初心者ガイドという表示が出ている。


それは勿論、この世界を歩むためのオリエンテーション。



『東門を出て初心者フィールドに向かおう!』



……まず戦闘らしい。



あぁでも――早くフィールドに出たい。



早くあの場所へ。



もう動画を再生する必要はないのだ。

もう想像を巡らせる必要もないのだ。



リリース前から今の今までにだって思い起こしていた。

他のプレイヤーの純粋にモンスターを倒したい、とは多少違うのかもしれないが、やろうとしていることは変わらないのだ。



――――――そう、変わらないのだ。




――☆――




人。

ひ、人。

人だらけ。

うじゃうじゃ。

うじゃうじゃいる。

何が? プレイヤーが。

何あれ、順番待ちしてる?

モンスター争奪戦してるの?

え? もう1時間経ってるよね?

なんでまだこんなに? 先行ってないの?

え? キャラクリしてたのは私だけじゃないって?



えぇそういう事です。


東門を出てすぐの初心者フィールドは現在、プレイヤーで埋め尽くされている。1人につき1体のモンスターを宛がうことも出来ないらしい。


渋滞。大渋滞。


早々にキャラクリを終えた者は何人かいるだろうが、SGOのアバターは他のゲームなどで作成したアバターデータが使用出来ない。故に全プレイヤーがもれなくキャラクリをしており、ある程度のクオリティを得ようと必死なのだ。


1時間。この時間は実は遅くないが早くもなく。



1番渋滞する時間であったようで――



ど、ど、どうしよう……。



人見知りのレダ君。かなりピンチです。



しかし、どうしてこれ程までに渋滞するのか?

チュートリアルを終えてレベルが上がればさっさと次へ行くのでは?


確かにそうなのだが、問題はSGO特有の戦闘設定だろう。



プレイヤーとモンスターのレベル差の関係はシンプルだ。


同じレベルのプレイヤーと同じレベルのモンスターでの戦闘は、かなり手応えのあるもの、に設定されている。ステータスに殆ど差は無く、目の前のフィールドに湧くスライムすら全く! 油断ならない敵なのだ。


更に、レベルアップに必要な経験値は非常に高く、1レベルの重要度は他ゲームと比べ頭抜けている。


レベル1モンスターであろうと頑張って数を倒さねばレベルが上がらず先へ行けない。混んでいるからと言って、レベル1の状態で先に行くなど問題外。


リリース直前の生放送で運営は言った。

初日でレベル7のプレイヤーが出るか出ないかくらいだと。



では、パーティを組んで効率アップ!



は推奨されていない。――ふぁっ?



いやいや、こんな仕様のゲームでチュートリアル及び初期戦闘経験をケチったらどうなると思う?


後で痛い目見る以外に無い。絶対に。

だって敵も強くなるもの。レベル上がったら。


レベル5までパーティーは推奨しないってのも運営が言っちゃったからね。殆どのプレイヤーは生放送見たか情報仕入れてるから誰も組んでない。


別にコツ教えて、とか情報交換は順番待ちの間に喋っていれば良く、今現在はパーティーを組むメリットがまるで無いのだ。



脳筋運営バンザイ!


じゃなくて。ピンチなのです。



目の前に広がるフィールドで必要とされるものはポーションではない。


コミュニケーション。



そ、そうだ取ればいいのだ。コミュニケーションを……。



えっと、あっと、う?



玲奈は極度の人見知りを持っているが、問題はそれだけではなかった。


――――()()である。



この男の子っぽいキャラクター。


外見は良い感じ。

でも、中身は?


レダというキャラクターは、ついさっき思いつきで作った為に内面をまるで考えてはいなかった。



あっと、えっと……どう振舞えばいいのコレ?


あぁああああああ私のバカぁああああああ!



どうしよう。

口調とかさ、これで私って変じゃん。


絶対変じゃん!



「――おい、大丈夫か?」


えっ、どうしよう。


「おーい?」


どうするの私! どうすんのっ



「おい! ほんと大丈夫か? おーいっ!」



「ふひゃぁあっ!」


「おわっ、ビックリした!」


いきなり? 肩に手が置かれ、至近距離から掛けられた声に飛び上がる勢いで驚けば、掛けた人物も玲奈の反応に驚きパッと一歩退く。


呼びかけられていた、と理解し慌てて振り向けば、そこには目を瞬かせる好青年が立っていた。


170いくつかの身長に青みを帯びた黒髪と瞳を持つ、爽やかな顔つきの男性。歳はなんとなく少年と青年の境のような、大学生あたりだろうか。


「えっと、すまん。驚かせて」


バツの悪そうに頭を掻きながら謝る好青年。


「え? あ、い、いえ! こちらこそすみません。その、考え事してて……」


「いや、いきなり声掛けたのは俺だから……ま、いいか。考え事ってのは、この状況をみてどうするか、だろ?」


謝り合戦になる前に話を変えた好青年は、フィールドの方を指して肩をすくめた。


「は、はい。そう、なんです。あの、貴方も?」


「まぁな。だが、こうなるのは想定内だからな。初心者フィールドはかなり広く用意されているらしい。ここは門の手前だから酷いが、奥や外側はここほどじゃないそうだ」


青年はフィールドの奥を示すかのように指を立て、教えてくれる。


「そ、そうなんですね。――もしかして、それを教えに?」


「あーその、かなり深刻そうな顔してたから、知らないのかと思って。お節介だったか?」


今度は照れ臭そうに頬をかく好青年。


どうやら自分の見立ては正しかったようだ。

好青年も好青年。もはや救世主かもしれない。



だがすまぬ、私の救世主。

1番の問題がほかにあるのだ。



「いえっ! ぁの、ありがとうございます!」


「お、おう。どういたしまして……そうだ、良かったらフレンドにならないか?」


「え、ふれんど?」


「あぁ。他のプレイヤーと話したの、あんたが初めてだからさ。抽選1万の中に知り合いなんていないし、これも何かの縁だろ。どうだ?」


爽やかな笑顔が、陽光を凌ぐ。


「は、は、はいぃっ! お、ぉ願いしますっ!」


シュバッ、と下げた頭を上げると、こちらの勢いに若干苦笑いを浮かべている好青年だったが、手を伸ばしてくれた。


「俺はダン。よろしくな」


「えと、レダ、です! よろしくお願いしましゅ!」


噛んじゃった。



伸ばされた手を両手で取ると、ダンは心地よい笑みで迎えてくれた。



はぁぅ、素敵です! ダンさん、私の救世主!



ぽんぽん、といくつかの操作でフレンドリストに名前が1つ。



ダン  レベル1  アントレー  ログイン



ほほぅ。フレンドリストでは相手の名前だけじゃなく、レベル、現在地、ログイン状況もわかるのか。


つまり、ダンさんがログインしているかすぐにわかるっ。はわわ。



今まさに他大勢のプレイヤーに慄いていたことが嘘のよう。知り合いが――フレンドがいる、これだけ頼もしいことが他にあるだろうか。


「じゃあ俺はそろそろ行くけど、どうする?」


うっとり感傷に浸っていると、ダンは問うてきた。

どうする、とは一緒に行くかどうかだろう。


「えっと、ま、まだいいや」


「ん? あぁ確かにもう少しすれば空いてくるだろうが、後続があるだろうから気をつけろよ。じゃあ、またな」


「ぅ、うん! ありがとう!」


軽やかに手を振るダンに、自身もぎこちなくはあるが振り返して彼を見送る。


声を掛けてくれた上に、一緒に行こうと誘われた。

こんなこともう二度とないかもしれない。


が、誘いを断ったのは空きを待つ為ではないのだ。



相変わらず、完全に中途半端なキャラクターをどうしたら良いのか分からない。流れで付いていけばダンとの話の中でどうにか形づいたかもしれない。


だが、そんな勇気はまるでなかった。



……ふぇぇん。

せっかくフレンドになってくれたのに、

とってもいい人なのに、

私の、バカぁ……。




――☆――




ダンを見送った玲奈。

しばしその場に突っ立っていたが、人の流れに逆らい行動を開始した。



とりあえず、対人関係スキルは心の準備が必要だ。

ログアウトした後にでも考えようと先送り。


今、玲奈はアントレーの街中をゆったりと歩いていた。言っておくが散歩ではない。


初心者フィールドの端っこならまだ混雑が少ないというダンの情報により、玲奈も初心者フィールドの奥地へ向かうことにした。そのためには――


手持ちのお金、僅か1000ゴールド。

それを全て使ってでも、



ポーションをっ!



あの門を出てすぐの所にプレイヤーたちが集まっているのは、補給のためか蘇生ポイントから戻ってくる移動時間によるロスを減らすためだろう。


ならば、少しでもフィールドに潜っていられるようにしなければ。



ポーション類を販売しているアイテムショップへ。

所持アイテムリストを呼び出し、手持ちを確認しながら。


初めて開いたリストには、意外にも色々入っていた。



ポーションⅠ×10

[鉄の片手剣]

[簡素なシャツ]

[簡素なズボン]

初心者キット

上級初心者キット

プレミア版初心者キット

1000G



である。


まず、初心者キットとは、

全てのプレイヤーへのプレゼント。



次に、上級初心者キットとは、

月額定額課金者に与えられるプレゼント。


月額課金は特別な装備が買えるとかではなく、入っておくとアイテム数上限拡張とか、ゲームをプレイする上で色々便利な機能が使えるというもの。


因みに、このゲームの課金アイテムでステータスに関連する物は一切ない。



つまり、もぎ取って来い!って事で。

やっぱり脳筋だ。



それとこの月額課金、ソフトを勝ち取ってきた父母が、その日の内に予約をしてカード決済でアカウントに紐付けてしまっていた。



最後の、プレミアム版初心者キットとは、

店頭販売限定プレミア版ソフトの特典だ。

実はプレミア版だからといってそう特別な物が貰える訳では無い。むしろこれだけの様な物で、限定プレミア版!というのがプレミアなのである……。



うーん、どれから開けようか?


……なんか怖いので、初心者キットからにしよう。



ポーションⅠ×20

アクセサリー[指輪] STR+2

2500G

アバターアイテム[ネックレス] 第1次プレイヤー記念



ふむふむ。


では次、月額課金者プレゼントの初心者キット



ポーションⅠ×20

ポーションⅡ×5

キュア・ポーションⅠ×10

アクセサリー[腕輪] VIT+2

7500G


ふむ。


てか、ポーション多くない??


嫌な予感がする。

次は、プレミアム版初心者キット。



ポーションⅠ×30

ポーションⅡ×15

ポーションⅢ×5

キュア・ポーションⅠ×20

キュア・ポーションⅡ×10

アクセサリー[耳飾り] SPEED+5

15000G



だーーーかーーーらーーーっ!

ポーション多くない!? 多くない!?



最終集計。


ポーションⅠ×80

ポーションⅡ×20

ポーションⅢ×5

キュア・ポーションⅠ×30

キュア・ポーションⅡ×10

アクセサリー[指輪] STR+2

アクセサリー[腕輪] VIT+2

アクセサリー[耳飾り] SPEED+5

26000G



ポーションが……頭おかしい事になってる。


減ったHPを回復させてくれるポーションは、1回の回復量によって等級分けされる。ⅠやⅡといった数字が等級を表し、数が大きいほど回復量も多くなっていく。


ちなみに、魔法のない世界故に魔力回復のポーションなどはないが、キュア・ポーションで状態異常を解除する事が出来る。残念ながらHPは回復しないが。



ポーションに頭を悩ませている間にアイテムショップに着いてしまった。


3つのキットのおかげでお金にも余裕がある。装備を買うことも考えたが、どうせならレベルが上がってからにしよう。


潜る時間が長ければそれだけレベルも上がるはず。

ならいっそのこと、キリの良い数にしてしまおう。



ポーションⅠ×100

ポーションⅡ×25

ポーションⅢ×10



アイテムリストに妙な納得を得て、もう無償で配られることの無さそうなアクセサリーを装備する。


さぁ今度こそ、フィールドへ!



――☆――



うーん。


うーん。


あっちを見ても、そっちを見ても、


こっちを見ても――



人ばかり。


好青年ダンの助言をもとに初心者フィールドの奥へとやって来た玲奈だが、いざモンスターを探そうと思っても目につくのはプレイヤーの姿。流石に人数は少ないものの、周りを気にせずとはいかない状況が広がっている。


どうあってもコミュニケーションが、勇気が必要らしい。


声を掛けられそうな雰囲気の場を探して歩き回る。

初心者フィールドのモンスターは、こちらから仕掛けなければ何もしてこないノンアクティブモンスター。襲われる心配はないのだから、とにかく問題はプレイヤーだ。


ちらちら眺めるも、歴戦のゲーマーらしきプレイヤーたち、もうすでに仲良しグループが出来ているプレイヤーたち、1人の女性プレイヤーに群がる男ども。


どこも難易度が高くみえて近寄る気概も出ない。



まぁ元々のんびりプレイするつもりだ。最前線なんて興味はないし、早くレベルを上げるより、この世界を堪能したいだけ。


もう少し空いてくるのを待とう。



初心者フィールドを、気の向くままに。


まだ手のついていない、レベル3のウリ坊っぽいモンスターを眺め、


林のなかで、かわいいハチっぽいモンスターの隣を歩き、


寝そべって小鹿っぽいモンスターのスクショを。



――のんびりプレイ満喫中。



フィールドの空き具合など忘れて、気づけばレベル1モンスターなどPOPしないさらに奥地まで来ていた。だが、玲奈に引き返そうという選択肢は浮かんで来ない。



やっぱり、綺麗なのだ。


それに雑木林のなかでも虫に刺されないし汚れない。

何も気にすることなく木漏れ日を堪能し、草原を心ゆくまで寝転がって大地を感じ、建物に邪魔されない大空を望む。


気持ちがいい。


どうしてここまで綺麗なのか?



それは()が見ているから。


映像を脳が処理しているからだ。



現実でも、映像が部分的に見えない場合でも、脳が処理を行い映像を補填することがある。そういった脳の映像処理能力を利用しているのだ。



VRの世界を、実際に目で見ている訳ではない。

耳で聞いていない。

鼻で匂いを感じはしない。

実際に手で触れてはいない。



全ては脳で処理され、脳で感じていること。



特に、映像の処理はプレイヤーの脳自体にさせているところが多いという。故に、実際に運営が設定する数値的にはアラが多くとも、脳が勝手に処理補填できる映像設定で十分なのだ。


だからこそ、世界は鮮明なのである。



私はそう、思う。


情報としては粗いのかもしれない。


でも、この景色を、この世界を――



私は堪能している。させて貰えている。


それで、充分。



燦燦と降り注ぐ日差しを木々が遮っている。小さな林を散策していた玲奈の前に現れたのは、日射しと木漏れ日を浴びる岩の積み重なり。


こんもりと積みあがった岩々はどれも白い肌をしており、キラキラと日光を反射させている。


まるで妖精でも出てきそうな麗しさに、玲奈は手を伸ばす。触れた岩肌は、日に当てられながらも、少しひんやりとしていた。



やっぱり、やっぱり買って貰って良かった。

本当に感謝を言わなくちゃ。


ゲームであって理想郷とかじゃないけど、

私にはとても素晴らしい世界で――。



心地よい岩肌をペタペタ触れていく内に、ふと気づく。


岩と岩の間に、少しばかりの空洞がある。

覗けば明るさがあり、入る事が出来そうだ。


明るいのは上から陽光が差し込んでいるのだろう。それを下からスクショに収めたい。



何気なく手をかけて、そのまま一歩を――



「ふぇっ、っきゃあああああああああああああああ!」



床が、なかった。


否。とんでもない急勾配。



滑る!


滑る! 滑る!



滑ってるぅううううううううううう!



これ、滑り台よりスライダーだ。


じゃなくてっ!


「いつっ、いつまでっ! 続くのこれぇええええええ!」



止まらない!


まだまだ続く!


ホントいつまでっ!?



いや?


このまま行って、どこに出るのか?



待って待って、これワンチャンこの先モンスターの巣じゃねっ!?


絶対そうじゃん! もしくはダンジョンの入口っ!?



「いぃいいいいぃやぁぁああああああ、あっ!」


ドスン! ゴロゴロゴロっ、ドサっ!


「い、いた……くないけど……ここ、どこ?」



幸運なことに、モンスターの姿はない。



だが、ここがどこだか分からない。

マップのエリア名が<???>になっている。


けれど、



「なに、此処。――――綺麗」



言葉通り、とても綺麗な、一面の花畑。

白い水仙のような花が、エリアを覆いつくしている。


かなり広い範囲だ。

アントレーの街の大広場なんか目じゃない。


その広さを全て覆っている、花。



とぼとぼと、半ば放心状態で彷徨う。



こんな所、現実でもきっとない。


なんて綺麗な。


ほんとに、



――今すぐ誰かに感謝したい。



奥の方が少し小高くなっているようだ。

きっとあそこからの眺めは言葉に出来ないほどに違いない。


目指す場所へ、一直線に進む。



もう少し。



あと少しで――




――――――世界は変わる。




ビィーーーー! ビィーーーー! ビィーーーー!



サイレン。



紅い景色。


浮かぶ、<EMERGENCY>の文字。



理解できない。これは何?


私のいる場所が、他から隔絶される。



そして、



――――最悪が舞い降りた。



突如発生した竜巻。美しい花々が無残に舞う。



竜巻のなかから姿を現したのは、



()()()()()・オレリウス出現』



()()()()()クエスト発生。エリアボスを()()せよ』



モンスターの巣ではなかった。

ダンジョンの入口でもなかった。



ここは



レベル()() エリアボス・オレリウスの住処だった。



次話

エリアボスを前にして、玲奈が起こした行動とは?

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