ヒナタの受難
リリース4日目のおやつ時。
今日もゲームの中は晴天です。
東門から広がるエリア<サーマル平原>の奥地は、見渡しの良い平原から背丈の高い草木が点在するフィールドへと変わっている。
その草木の陰に隠れていたり、草木のオブジェクトに扮していたり。
出てきて黒影のメンバーを楽しませてくれるのは、植物型のモンスター。
心地良い晴天。
緑の鮮やかなフィールド。
色々と妙で面白いモンスター。
元気よく遊びまわる黒影メンバー。
「いい加減にして下さい!!」
飛ぶ叱責。
いきなり飛び込んできたお叱りに、ギルド黒影の動きがピタリと止まる。
メンバーの誰かの発言ではない事を確認した所に。
「行かないって言ってるんです!! もうあっち行ってください!! しつこいです!!」
お叱り第二弾が、後方から聞こえてきた。
これはまたなかなかの文言だ。
しかし、言葉から考えるにどうやら自分達のことではないらしい。
まぁ、心当たりがなくとも、何かしちゃったかなとは考えるものだ。
ヒナタ達は、そっと、遠慮がちに、振り返る。
近くもなければ遠くもない。
そんな所に、5人のプレイヤーが立っていた。
5人の内、女性プレイヤーが3人。男性プレイヤーが2人。
だがどうやら、1つのパーティではないようだ。
女性同士、男性同士で別のパーティを組んでいる。
視界に表示される情報でもわかる事だが、それに頼る必要はない。
女性3人、男性2人で真っ二つ。
真っ向から対峙するように立っているのだから。
こんな場景にあの叱責だ。
面倒な予感以外に一体何があると言う。
「あ~、どうするっすか?」
ヒナタは、レダとダンに問うてみる。
問うてはみたが、どの道取る選択肢は決まっているだろう。
「…あ、うん。止める、よな?」
レダもその結論には至っているのだが、自身と同じくどうにも煮え切らないらしい。
ヒナタは、レダと揃ってダンを仰ぐ。
ダンは今年で19歳。つまり自身の1つ年下。
なのにどうにも、ダンには敵わない。
自分が子供っぽいとはよく言われるし、自覚も残念ながらしているが、今ここではダンが大人っぽいのだと言い聞かせる。
「居合わせたからには、見過ごすのもな。まずは話を聞いてみよう」
さすがギルマス。一生ついていきます。
とは言ったものの。
ダンも含めて、気が引ける思いを抱きながらそろりと近づく。
存在感を出した方がよいのか、ダメなのか。
例の5人の側まで来たところで、会話が聞こえてきた。
「だからさぁ、俺らとパーティ組もうって。ここヤバいじゃん? 人数いた方が絶対いいからさぁ」
あ~やっぱりか。
男性側の1人が、大袈裟に手を動かしながら語っている。
重心を片足にかけ、馴れ馴れしい。
「お断りしますって、さっきから何度も言ってるじゃないですか!」
近づいて分かったが、この女性達はまだ若い。
女性というより、少女と言うのが正しいだろう。
「いや、俺らレベルもあるからさぁ。俺らといた方が効率も絶対いいって。人数いて効率も上がってレベル上げもすぐだって。だからさ、ほらパーティ組もうぜ?」
「ほんと、ほんと何度言わせれば気が済むんですか。あたし達はあたし達で遊びたいの! もうあっち行って!!」
なるほどなるほど。
どうやら、少女達はこの男どもにパーティに誘われていると。
でも少女達にその気はない。
だというのに、男どもに引く気がまるでない、という事だ。
ま、近づく前から予想は付いていたけども。
少女の自分達だけで遊びたいという発言。
裏にあるのは男とは遊びたくないという、完全な拒否の言葉である。
「そんな事言うなって。君らのレベルじゃここまだキツイって。俺らといればいいんだって」
こいつ、この子達の言葉、完全に聞いてねぇっすね。
男の発言に、ヒナタは苛立ち始める。
一緒にいる方がいいなど、よく言えたものだ。
しかし男にそうさせているのは、男のレベルだけでなく少女達の様子もあるのだろう。
少女達に迫る男どもは揃って、レベルが12。
レベルが18のレダはともかく、16のダンも15のヒナタも、全プレイヤーの中では頭が抜けている。
レベル12というのは、上位層と中間層の境あたりと言えた。
対し、少女側だ。
一方的に話してくる男に答えているのは、3人の少女の内の1人だけ。
レベル10 サラ
ゲームながら黒髪で、ミディアムストレートのそれを下ろしている。
いかにも皆を引っ張るような、はっきりした顔立ち。
そして言葉から、意思強い性格が感じ取れる。
そのサラの背後に、残る2人の少女が庇われるようにして立っていた。
レベル9 カリン
レベル8 ココア
カリンは、薄い緑の髪を長めのボブにして、たれ目でお淑やかな印象の少女だ。
ココアは、なんと銀髪ツインテール。こちらはか弱く見え、無表情でカリンの手を取っている。
サラが立ち向かってはいるが、後ろ2人の様子から、レベルを盾に迫っているようだ。
確かに、ここのモンスターは最低レベルが9で、最高レベルが13。
正直に言って、この少女達では苦戦を強いられるように思う。
だが誘う男達を見るに、断る方が正解だ。
「ほんとにいい加減にして下さい。嫌だって言ってるの!」
いや、ここまで言わせるって。
一体いつからまとわりついてんすか。
「いや、何でわかんないかな? 状態異常ばっかりだとポーションもいるよね。3人だとマジ大変だよ。それもレベル10以下の女ばっか。俺らさ、親切で言ってやってんのよ。わかんない?」
……は?
「なっ、親切って。――ふざけないで! 勝手な事ばっかり言ってきて、そもそもあなたには関係ないでしょ!」
「だからぁ、関係ないところをご親切に言ってやってんだろ? ――」
この男、いう事を聞かない少女に痺れを切らし始めたか。
親切だというが、親切心など毛ほどもない事はすぐわかる。
「――うだうだ言ってねぇで、俺らとパーティ組めって」
「はぁ~い、ストップっすよ~。そこまで、そこまで!」
明らかに素を出し、強気に出た男。
状況的に、心情的に。
これ以上はと思い、ヒナタは両者の間に姿を見せた。
すると5人ともが驚いた顔を向けてくる。
いやほんと、すぐそばまで近寄ったというのに、誰も気づいていなかったとは。
「何、お前。なんか用かよ」
割り込まれたのが腹立たしいのだろう。
苛立ちを、言葉、表情、態度にまで表してくる。
「いやぁ、何にもわかってないあんたに教えてやろうかなぁって。あれ、老婆心的な?」
やべぇ、自分マジ大人。
どうよこれ。
ガルドの糞おやじめ、俺のどこがガキだっつの!
「は、きも。別に教えられるような事ねぇし」
さっさと消えろ、と手を振ってくるがそうはいかない。
「聞いた方がいいっすよ~。あのさぁ、レベルとか関係なく、きもいあんたとはパーティ組みたくないんすわ。ね、そうっすよね?」
ヒナタは、きもいあんた、と言いながらご丁寧に指差ししてやった。
そして少女達を振り返れば、彼女達は一斉に頷いている。
「そ、そうです。パーティ組むんだったら、あなたじゃなくてこの人がいいです」
サラの言うこの人とは、ヒナタの事である。
やはり、パーティを組みたくないとストレートには言えなかったのだ。
「ほらほら、聞いた方が良かったっしょ?」
ここで活きるのは自身の身長。
思いっきり上から見下してやると、怒気に変わった視線と交わった。
「あ? お前何様だよ。レベルいく……つ。15? ヒナタって……」
お?
もしかして俺の名も全国区っすか!?
「おい、トラキチ! そいつ黒影だ!!」
へ?
「嘘だろなんで黒影がここに……」
え、待って。
こいつ、名前、なんて??
「…おい。俺らもいるんだけど」
いつの間にか、ヒナタの背後にいたレダがひょこりと顔を出した。
それと同時に、ダンがヒナタの隣に並ぶ。
黒影、集合である。
あ、うん。でも待って。
こいつの名前、トラキチっすよっ!?
「悪いな。少し話を聞いていた。パーティ誘うのは別にいいが、無理強いするのはどうかな」
うんうん、そうなんすよ。
でもダンさん待って、俺を置いてかないで。
「あ、いや、俺は、その」
ダンに問われて、急にしおらしくなってしまったトラキチ。
「おい、トラキチ! もういい、行くぞ!」
「あ、あぁ」
やっぱりトラキチっ!?
待って待って、トラキチ行かないでーー!
そうして、トラキチとその仲間は去った。
少女達は良かったと、安堵と共に手を取り合っている。
それをレダとダンは柔らかく見守っている。
ただ一人、ヒナタだけが、誰からも取り残されていたが。
「あの、ありがとうございました!」
「へ? あ、どうもっすぅ~」
ようやく、少女の内、サラがヒナタを回収に来てくれた。
トラキチの衝撃から抜けられたか、と言われれば微妙だけれど。
「災難だったな」
「…もう平気か?」
ダンとレダが少女達を気遣う。
「あ、ひゃい! へへへ平気でしゅっ!!」
何故か、いきなりサラが強烈に噛んだ。
滑舌よくあのトラキチと対峙していたサラなのだが、きっと緊張から解かれたのだろう。
壮絶に噛み恥じているサラを、カリンとココアがなだめている。
「大丈夫っすか?」
やはり落ち着くまで一緒にいた方がよいのでは?
そう思っての問いだった。
「あはは。はい、大丈夫です。黒影の皆さんに助けてもらえるなんて感激です! 本当にありがとうございました!」
もう立ち直ったらしいサラ。
サラが感謝の言葉を述べお辞儀をすれば、カリンとココアもそれに倣う。
「皆さん凄くカッコよくて。ヒナタさんも、ダンさんも、――」
更に続けたサラだが、流暢な語りは不自然に途切れる。
「――――れ、れれ、レダ君、も」
あれ?
レダの名を出そうとしたらば、噛みまくる。
そういえば、さっきもレダに返事をして噛んでなかったか?
おおっと?
妙な予感。ざわざわとした胸騒ぎ。
ヒナタが感じるものは瞬く間に確信へ。
噛みまくった後のサラに、カリンとココアも加わる。
そうして少女達は視線を一点に向けた。
無論、レダである。
「あの、レダ君!」
口を開いたのは、カリンだった。
「私、レダ君の動画とか記事とか、いつも見てます!」
そのセリフは合っているのだろうか?
普通テレビ番組とか、ラジオとか、ネット配信者とかに向けるもので、レダが自分から上げたものはむしろ無い。
「…あ、あぁ。ありがとう? まだ4日目だけど」
突然の告白に、レダも困惑気味のようだ。
「あ。4日間毎日です!」
いや、さっきのはほぼ愚痴だろうに。
「わたしも。わたしも見てる。いつもカッコいい。会えた。嬉しい」
カリンに続いたのは、ココアだ。
単語を置いていくように喋るのが独特である。
が、そんな事よりも。
ヒナタにとっては、ココアが顔を赤らめている事のほうが問題だ。
「あ、あ、あたしもっ!! れれれれレダ君と会えりゅなんてあた、あたしもう、感激でしゅっ!!」
この子はもう触れない。
触れたら危険だどうなることか。
しかしまぁ、少女達は揃ってレダのファン。
当然だが、レダを少年と思っての事だろう。
「あの、レダ君!」
再び、カリンがレダに話しかけようとした。
「…なぁ、レダでいいから。君はいらねぇ」
言いながら、レダはいつものようにマフラーを引っ張ろうとした。
植物園用にマフラーを外していた事に気づいて挙げた手が所在なく漂う。
レダがマフラーを引っ張るのは、ちょっと照れた時の仕草だ。
「え、でも……」
「…いいから」
遠慮したカリンに、レダは促す。
「じゃあ、れ、レダ……さん」
何がカリンに遠慮させるのだろうか。
年のころは近いだろう。
「あの、やっぱりレダ君じゃダメですか?」
「…なんで?」
「その、ちょっと、違うっていうか」
違う?
理由は言わずに、カリンはもじもじと落ち着きを失くす。
すると今度は、決意のこもったような顔を上げてきた。
「あの、じゃあ! レダちゃんって呼んでもいいですかっ!?」
「…はぁっ!?」
急転直下のちゃん付け要請。
更にココアが加わって。
「君。ダメ。ちゃん。かわいい。ダメ?」
「…いやさすがにちゃんは」
「あ、れ、れれれれレダちゃんっ!!!!」
ココアがレダの顔を至近距離から覗き込む。
その隣から、発狂したようなサラが突っ込んだ。
「あーーーー! もういい分かった君でいい! いや君でお願いします。ちゃんはやめろぉおおおお!」
レダは女の子であるとは言っても、流石にそのレダというキャラでちゃんはキツイらしい。
まぁわからなくもない。
しかしこの少女達はレダに何を求めているのだろう。
「やった」
ぽつり。カリンの呟きと小さなガッツポーズ。
なるほど本気でちゃん付けしたかった訳ではないと。
女子こえっ!?
レダ本人に、君付けの了承をさせた少女達。
「ねぇレダ君。レダ君がいつも食べてるシュークリームって、どこで売ってるの?」
「…シャトー・リリアン洋菓子店」
「そこ。どこ?」
態度、口調が一気に砕けてレダに質問による猛攻を開始した。
あれもこれもと、一心に語り掛ける少女達。
勢いに押されて答えるしかないレダ。
ヒナタとダンからは、少女達の垣根からレダの頭がちょこっとだけ見える状態だ。
青年2人、完膚なきまでな置いてけぼりである。
これも仕方がないだろう。
レダは最強プレイヤーと呼ばれているのだし。
年齢も体格も、レダは身近なのだ。
ヒナタとダンは、少女達にとってはもう、大人の部類という事。
自分は最年長だ、しっかりしなくては。
などと、ヒナタはレダと少女達、いや少女4人を見て、改めて自身の歳を考える事となった。
「ねぇ、レダ君って、彼女とかいるの?」
ぶへぁあっ!?
彼女て……。
あ~、彼女はいないんじゃないっすかね。
今の問題発言はカリンのものだ。
意外にも、一番レダに質問を投げていたのがカリンである。
「ふぇっ!? か、かのぉっ!?」
まぁ、サラは相変わらずぶっ飛んだまま。
ココアはカリンが投げる質問の返事を、いつも心待ちにするだけなのだから当然だけど。
「…いねぇよそんなの」
はぁ~、そうっすよね!!
いやいや、わかっていたけども!
てか、居たらお兄さん泣くかもしれない。
色んな意味で。
レダの返答を得ると、少女達はその顔を見合わせた。
カリンは満面の笑みを。
ココアはガッツポーズ。
サラは安堵から大地へ。
いや待って。もうほんと待ってよ。
君たちレダさんに何期待してんすか!!
ダメっすからね!?
レダさん、――いや、レダちゃんはダメっすよ!?
女の子だもの。
レダちゃん女の子だものぉおおおおおお!!
全くヒナタの胸中は、大嵐が止まない止まない。
ギルド設立初日だというのに、完全に厄日だ。
どうして俺1人だけこんな?
そういえば、ダンが大人しい。
この状況など、ダンのツボには効くだろうに。
そっと隣のダンをうかがう。
ダンは、素知らぬ顔をして在らぬ方向を眺めていた。
……1人じゃなかったわ。
短めから永遠会話となりまして。
ツイッターを始めて、1話が長すぎてもどうなのかと確かにそうなので、今後これくらいの文量にしようかと思っています。
次話、レダの受難




