レダ君誕生
『キャラクタークリエイトのチュートリアルを開始します』
ようこそ!<ストラフェスタ・オンライン>へ!
そんな挨拶のあとに続いたのはアバター作成のガイド。
……ですよねぇ。
これまではシングルプレイのみであったVRゲームでは、スキャンによる自分そっくりのアバターか、主人公の姿になるか、この二択が大半だった。しかし、オンラインゲームだ。自キャラ作成は必須も必須!
ただ、キャラクリと言っても出来ることに制限がある。
・現実での実際の性別から変更不可。
・身長の伸び縮みは現実の身長から上下5センチ内。
・身体パーツの縮尺制限。
これら制限の理由は、実際の肉体との差異。
キャラクター。
VR故にアバターのことだが、動かすのはプレイヤーの脳である。現実とアバターの身体つきが全く異なってしまうと、脳に混乱が生じる可能性が出てくるのだ。
VR空間はなまじ現実に近い。
むしろ、フルダイブ型というのは現実と仮想現実のすり替え、すなわち、
――――脳をだましている。
自意識がいくらアバターだと言い聞かせても意味はない。
故に、性別による骨格、身長、手足や胴の長さは変えられない。
因みに、性別に関しては骨格だけで他はなかったりする。胸部の特徴はあっても、男女共に性的部位は存在しない。
それだけ肩回りや骨盤などの骨格の違いは大きいのだ。特に、戦闘特化のこのゲームではなおさらである。
だが、それ以外は何でもござれ!
体型はスリムからぽっちゃりまで、
骨格も部位によっては多少修正可能、
顔はやり過ぎれば人間を超えられる。
初期設定なのに髪型が200はありそうだし、
髪、瞳、肌の色は当然変えられる。
つまりは、男性アバターでも胸を盛るは容易っ!(……誰?)
はてさて、チュートリアルに促されて現在自分そっくりのキャラクターを眺めてみる。
完っっ然にキャラクリを忘れていた私が、どんなアバターにするか考えていたはずもなく。
……どうしよう……。
悩む。
困るほどに悩む。
やっぱり、可愛い女の子、だろうか?
あってないような腕を組んで唸っていると、ある情報が頭に浮かんだ。
男性87%
女性13%
これがSGO第1陣の現状である。
この状況で自身は13%の1人。
可愛くないキャラにしたってちやほやされるのは確実だ。
――1つ、玲奈の事実を言わねばならない――
彼女、相澤玲奈は美少女である。
そのことに関して彼女は全く自覚が無いという伝説的な症状を持っているのだが、周りは完全にその認識だ。
彼女が大人しく、お淑やかで優しい性格であるのは生来のものといっても良いのだが、極度の人見知りとおどおどしてしまう所があり、この人見知りとおどおどすることに関してはかなり後から形成されたもの。
大人しい、本当に大人しい性格の少女が、周りにはかなりの美少女として映っている。男子からはことある事に声を掛けられ視線を集められる。女子からは羨望の眼差し。
そうして彼女は、常にうつむき加減で顔を髪で隠すようになり、初対面の人間には上手く対応が出来なくなってしまったのだった。
―― ――
どうしよう。
自分が可愛いかどうか、今はそんなの関係ない。女性というだけで十分だ。
ちやほや確定?
いいや、ちやほや必至!
どうしよう。
ここでも人目を気にしなければならないのか。
見られることは苦手だ。いきなり話しかけられることも苦手だ。
このままでは、現実と何も変わらなくなる。
どうしたら、そうはならないのか。
どうしたら、私は私でなくなるのか。
どうしたら、私はプレイヤーとなれるのか。
?
そうだった、ここは――――ゲーム!
なりたい自分になればいい。
なりたい自分になれる場所。
それがゲーム。VRだろうと関係ない。
今はなりたい自分を作るところだ。
私は、どんなプレイヤーになりたいのだろう。
表示されている自分の姿。
重ねたのは、すぐにでも浮かぶ宣伝PV。
――あんなかっこいいプレイヤーになりたい!
よし、コンセプトが固まった。
――☆――
かっこいいプレイヤー。
凄くクールな女の子?
ううーーん。いや、もっと――
男の子っぽくしちゃうっ!?
現在、思いつきのままダメならやり直せばいいとひた走っております。
体形を弄ってくびれ消しお尻を目立たなくさせ、見た目の筋力設定を弄って筋肉を、そして――
胸もほぼまな板に出来ちゃいました!
どうしよう!
意外と出来ちゃったよ……。
顔はちょっとつり目気味に、唇をキュッとして、鼻をちょっとシャープに、眉毛を凛々しくさせて――
おぉ? お、男の子っぽい。
私って男の子っぽい顔してたんだ。
(眼科行こうね。根本がいいからだよ!)
髪型は……短めの……。
選択したのは、襟足は短いが横は10センチほどの長さがあり、前髪の1,2房ほどが目の下まで掛かっているタイプ。
次は、髪色……!
おぉっと、なんだこれは。
すごいグラデーションのカラーマップなんだけど。
おぉおおカーソルぅううう何これ無限じゃん!
あれ? 何これ?
待って待って、カラーマップ3つに増えたんだけど。
あ、メッシュね?
いや無限が3倍になっても無限だから!
うぅ、決まんないよぉ。
色々試せば試すほど分からなくなる。
ちょっといいかも、と思っても一度カーソルを動かしてしまえば再現不能に陥って、似た色合いになったと思えば、何か物足りなくて。
やっぱり日本人は黒がしっくりくるのかな?
とりあえず、真っ黒に。
メッシュは……白に。
ふむ?
1:1の黒と白を4:6に。
ほむ。
3つ目のカラーマップを灰色へ。
ってってれー! まだらグレー? が出来ました!
少し離れたところから全体を見れば明るめの灰色に見えるが、近づくと1本1本色が違って見える。
キメすぎでは、とも思うがこれはゲーム。これはゲームなのだ。
気に入ったのだから、これでいいのだぁあ!
身長は自身が156cmであるので4cm上げて160cm。
瞳の色は真っ黒ではないが灰色には行かない薄めのある黒にした。
印象としてはキリッと凛々しい細身の少年といった所か。声もボイスチェンジャーで低めてハスキーに。
キャラ、完成。
よし、レッツご――
キャラクターネーム入力 『| 』
だぁあああああっ!
あと、あと少しなのに何故立ちはだかる!
……はい。
名前、かぁ。これまた考えてなかった。
さて、いくらゲームに疎い私でも、リアル情報を垂れ流さないのは理解している。しかしネットに溢れるネーミングセンスは皆無。
うぅ。れ、れいな、レイナ、レーナ、レナ……。
連想ゲームの始まりだ。
連想ゲームといっても、「れ」の下に平仮名をくっつけるだけのもの。
れ……れ、レギ? レギ……れく、け。れ……こ? さ……
レジ!スタンス?…………。
――――レダ。
ほ。
レダか。もうこれでいいかな。
やっと出来上がった自身のキャラクター・レダを眺める。
半ば達成感を覚えつつ時間を確認すると、およそ1時間が経とうとしていた。
改めて、レダと向き合う。
これから私は、このレダとして――
『これより<ストラフェスタ・オンライン>フィールド接続を開始します』
次話
一斉ログインで何かが起きる?