月夜に鳴るは三重奏
美しい1本の角。
美しく長いたてがみ。
白く美しい白馬。 ユニコーン。
だと思う。 多分。
だってだって、死に戻りまでのほんの僅かに見えただけだもん。
「…こっちに向かってたから、会ったんじゃないのか?」
「いや、見てないぞ」
「俺もっす」
やっぱり見間違い?
んー、でもそうか、ユニコーンはキメラとかじゃないし。 あんなエリアにいないよね。
「それは違うぞ? ユニコーンは角が生えてるだけじゃない。尻尾はライオンのもので、牡ヤギの顎髭を持つ姿でよく描かれる。まぁそんな事まで詰めると、大体の幻獣は何かしらくっ付いてるのが多いがな」
「……また顔に出てたか?」
「お前、分かりやすいからな、くくっ」
くぅう。
(ダンさんって、何者っすか??)
(…俺が聞きたい)
「で? どうするんだ? 今の俺たちじゃユニコーンを探すなんて、無理だぞ?」
「…だよな」
「ちぇ、俺も見てみたかったっすよ〜」
見てみたい。が、行った所で最初に会ったモンスターに倒されて終わりだ。
こればっかりは仕方がない。
「アクティブモンスターに近づかなかったら良いんじゃないっすか!?」
「…無理。グリフォンとヒッポグリフは飛ぶからな」
「ちぇ〜」
ユニコーン探索は無理だと諦めて、やはり〈バーバレン荒野〉へと向かう事に決めた3人。
そうと決まれば、と気持ち新たに歩いていた。
そこに、横から声が掛かる。
「おや! さっきのお客さんじゃねぇですかい。ガルドさんには会えたんで?」
ガルドの居場所を教えてくれた、焼き鳥屋のお兄さんだ。
「ああ、会えたよ。ありがとう」
「いえいえ、あっしで良けりゃいつでもなんでも聞いてくだせぇ」
凄い。凄すぎるよ。
レダはお兄さんに関心していたのだが、ここでひょいとヒナタが聞く。
「じゃあ、遠慮なく聞いちゃっていいっすか?」
「ええとも、どうしたんで?」
「お兄さん、グリフォンとヒッポグリフって弱点とか知らねっすか? 弱点じゃなくても、見つからない方法とかなんすけど」
おいおい。
まだ諦めてなかったのか。
レダもダンも、そう思いながらも耳を大きく。
「お客さん、まさか〈月光花の丘〉ですかい!?」
お兄さんは目を丸く。身を乗り出して驚いている。
しかし、このお兄さん。
〈月光花の丘〉を知ってるのか。
「ははぁー、なるほど。お客さん、バリューダスのおやっさんに頼まれた口ですかい」
???
バリューダスのおやっさん??
頼まれる……クエストか??
「おや、違うんですかい?」
「あぁ、すまん。知らないな。ーーけど、教えてくれないか?」
「いいですぜ。2丁目にある薬屋『角玉堂』の店主のバリューダスってぇおやっさんがいるんですがね?あの人の頼み事の一つに、〈月光花の丘〉にある蓮花の花弁を取ってこいってのがあるんでさぁ」
やっぱりクエスト。
それも、採取クエストだ。
「お客さんのレベル帯で受ける〈月光花の丘〉の頼み事ったら、これだと思ったんでさ」
「俺たちでも、出来るという事か?」
「まぁ、……ちょいと厳しいですがね」
「詳しく教えてくれ」
「おぉ、お客さんもうやる気満々ってとこですかい?いやぁ、蓮花ってのは、〈月光花の丘〉の所々に咲く花でしてね。咲く場所は大体決まってはいますがね。採りに行くとなると、襲ってくるモンスターを掻い潜らなけりゃならねぇんで」
ま、そうだろうな。
何処にいるか分からないユニコーンが、
場所は分かる花に変わっただけか。
「そうか。まぁ、バリューダスって人の頼みを聞くだけ聞いてみるかな」
「まぁまお客さん、そう急がんでくだせぇよ。あっしは一つ、良い方法を知ってるんで」
「何っ!?」「えっ!?」「マジっすか!?」
3人一様に驚いて、お兄さんに先を先をと、迫る。
そんな自分達の反応を見て、ニヤりと悪ガキの様な笑みを浮かべるお兄さん。
「かなり危ない橋と言いましょうか、運頼みが強うごぜぇやすが、構わないんで?」
「頼む。聞かせてくれ」
「わかりやした。〈月光花の丘〉に行くには、〈バーバレン荒野〉を抜ける以外に、〈サーマル平原〉から行けるのはご存知でしょう? その〈サーマル平原〉の通路を出てちょいと行った先に、モンスターから襲われない場所があるんでさぁ」
モンスターに襲われない。
つまり、セーフティエリア。
そのセーフティエリアが、あの滑り台の先にある。
つまりは、そこに逃げ込んでしまえばいいだろう、という実にシンプルで誰でも思いつきそうなものだ。
が、今現在、誰もその位置を知らない。
見つけていない。
否、探せていない。
「あんた、まさか…」
「ばっちりでさぁ! でなきゃお客さんに教えたり出来ねぇやい」
言いながら、お兄さんは紙を取り出し簡単な地図を書き出す。
「ここですぜ? ほら、知らないで見つけるには中々骨が折れる位置なんで」
お兄さんが渡してくれた紙は、手に取った瞬間に消え失せ、代わりに〈月光花の丘〉のマップ画面が。
〈月光花の丘〉は、見晴らしのいい一面の花畑。
だが、多少の起伏もあるし、綺麗な小川も流れている。
小川は途中で2つに分岐し、その内の1本が、隠し通路の近くに流れていた。
セーフティエリアの位置。
それは、ふざけた事にーー
ーーーーー小川の中。
そう、地図で見る限り、お兄さんが指している、いやマップにポイントが付いているのは、小川だ!!
「これは、どういう事だ???」
「いやね? この場所ってぇのは、夜のうちしか出てこねぇんでさぁ」
「「「はぁっ!? 夜だけっ!!?!」」」
「蓮花ってぇのは、そもそも夜しか咲かねぇんで。蓮花の花弁を採ってくるにゃ、こりゃ都合がいいでござんしょ?」
なるほど。
それに、ここまで来れば、確実に。
このお兄さんはーー
ーーーーーお助けキャラだっ!!!
「…確かに、これは中々見つからないな」
ダンだけでなく、レダもヒナタも、うーんと唸ることになった。
これは夜だけ使えるもの。
今は丁度夜。自分達はユニコーンが見たいだけ。
それは昼でも夜でも構わない。
故にこれは、使える。
「とまぁ、通路を抜けてそこに滑り込めさえ出来りゃ、花弁を採取するだけなんでぇ。それも、蓮花はそこのすぐ傍に咲いてる所があるんでさぁ」
なるほどなるほど。
このクエストには絶好のポイントという訳か。
「お客さんは冒険者でごさんしょ? なら、花弁を採っちまえば、逃げきれずとも女神様の御加護があるってもんだ。後は、通路を抜けた先に、丁度モンスターが居ない事を祈るだけって事でさぁ」
女神の御加護。
…つまり、死に戻りか。
「なるほど。良くわかったよ」
「あっしはお役に立ちやしたかい?」
「勿論だ。早速行ってみる。いいよな?」
「…当然」「行くっすよ!!」
「そりゃよござんした。そいじゃあ、今回の情報料はタダにしときまさぁ。その代わり、これからもどうぞご贔屓にしてくだせぇよ?」
!?!?!?!?
「えっ、あんた一体…」
「あっしは『情報屋のテング』って呼ばれてる者でやんしてね。焼き鳥は副業でさぁ」
情報屋キターーーーっ!!?!?
ピロン
画面が立ち上がる。
NPCの人物アーカイブ。
そこに、『情報屋のテング』の表記。
最初はただ、ガルドの居場所を聞いただけのNPC。
だが彼は、求めたガルドなんかとは別格だったのだ。
プレイヤーとの接点が多い主要なNPC。
お助けキャラなんてもんじゃない。
『情報屋のテング』
彼の詳細は少ない。
とりあえず、副業は焼き鳥だけではないようで。
彼は何処にでも現れ、その出で立ちやその時生業とするものはいつも異なるという。
それでついたあだ名が、天狗という訳。
3人が3人とも、丸くした目を突き合わせる。
それをそのまま情報屋のテングへ。
彼は実にイタズラ好きな顔をして、にやにやと。
「あの、えっと、テングさん」
「テングで構いやせんぜ?」
「あぁ、じゃあ、テング。ありがとう。また頼らせてもらうよ」
「勿論。ありがとうごぜぇやした!」
レダもダンもヒナタも。
みんなしてありがとうとテングに手を振って。
「…俺たち、飛んでもない人を引き寄せたみてぇだ」
「情報屋とか…、全くだな」
「す、すげぇかっこよかったっす!!!」
テングという人物について、主にかっこよかった等と熱を持って語り合う。
その後3人は、ついでにバリューダスのおやっさんのクエストも受注。
そして。
「行くか。月光花!」
「「おう!!」」
本日2度目の、〈月光花の丘〉へ。
ーーー
〈サーマル平原〉を進む3人。
見えて来たのは、積み上がった白い岩。
それは月夜に照らされて、寒々しくも美しく輝いていた。
「…ここだぜ」
そう、積み上がった岩の隙間。
長大な滑り台の入り口だ。
「さて、2人とも、心の準備はいいか?」
ゴクリ
中に入れば一気に〈月光花の丘〉だ。
転がり落ちたらもうそこはフィールド。
運頼み。完全な運頼みだ。
落ちた先に、アクティブモンスターが居ればセーフティエリアに到達する事は不可能に近い。
「よし!」
ーーーーーー勝負だ!
「さいしょはぐー! ジャンケンっ、ぽんん!!!」
レダはチョキ。ダンはグー。ヒナタもグー。
………あぁあああああああああっ!!!
両肩に、ダンとヒナタの手が乗る。
そして、行ってこい! とサムズアップ。
ふぇぇえん。
ひどいよぅ。
「レダ、俺たちもすぐ入るから」
「大丈夫っすよ!!」
「…なら、代わって「無理っす」…」
はぁ。
ため息を吐いて、入り口に手を掛ける。
よし。
1歩が、消える。
「っう、うぁぁあああああああーーーーー」
「うへぇ〜」
「おい、行くぞ」
滑る! 滑る滑る!!
2回目だけどっ!! 滑るぅうーーーーっ!!
あ。
ちょっと待って待ってっ!
私が最初に行ったらダメじゃね??
だって、落ちた時は何もいなかったけど。
代わりにオレリウスがいたんだよ??
デジャヴ??
デジャヴじゃない!?
いや、フラグじゃねっ!?!?
「いーーーーーぃやぁぁーーーーーー、あっ!?」
ドスン!ゴロゴロゴロ…っドサっ!
「いってて…、はっ!!」
モンスター! モンスターはっ!?!?
ーーーーーいな、い?
「はぁあ、よかっーー
「ぉわわわっ!?」 ドサっ
ーーぐぇっ!?!?ーー
「ーーーっ!!」 ドササっ
ーーぐぅえええっ!?!?」
前にモンスターはいなかった。
が、
レダは、後続のヒナタとダンに押し潰されました。
「あわわっ! すんませんっ!!」
「ぷっ、くすくす、すまんーーーくすくす」
ヒナタは慌てて降りてくれた。
上に乗ったままくすくす笑うダンには殺意が湧く。
やっと降りてくれたダン。
「…ダン! てめぇ…」
「まぁまぁ、いいじゃないか。モンスターも居ないことだし」
「話を逸らすんじゃねぇよっ!!!」
憎たらしい面に踊りかかっていく。
が。
「…ふにゅう〜」
向かっていった頭を、逆になでなでされました。
「猛獣と猛獣使いっすね」
「…おい、噛み殺されてぇのか?」
「すんませんっしたっ!!!!」
ヒナタが言い出した猛獣のマネをしてガルルル。
なのに秒速で謝られてしまった。
「おい、早く行こう。アクティブが来る前に!」
ダンがマップを開いて走り出す。
「…あぁ。ーーーあ? 元はと言えば、お前が!!」
「はいはい。すまんすまん」
「ダンさん〜? カサネコトバカサネコトバ」
軽口を叩きながらも全力ダッシュ。
ノンアクティブはスルーして。
「まだっすかっ!?」
「もうすぐだっ!!」
ダダダダダ…
見えた!
全力で走る3人の前に現れた、セーフティエリア。
あれは、中州??
突如として、小川の中に現れた真円に近い陸地。
中州と言ったが、小川なのだ。
急にせり上がった陸地に流れを分断された様に、その陸地を取り囲んでまた合流している。
「よし! 行けるぞっ!!」「っしゃあ!!」
自分も相づちを打とうとするが、聴こえた、音。
ピューーーーーィ
マズっ
「ダン! ヒナタ! やべぇぞ、走れぇぇえええ!!」
「なんだっ?!」「えっ!何っ?!」
「グリフォンだっ!! 走れぇえっ!!!!!」
一瞬で焦りの表情が、走る。
脇目も振らず必死に足を、足を!
っ!!
マズいマズいマズい
近づいている。
翼の音が、翼が空を切る音が。
後ろから。
…背後からっ!
もう少しなのにっ!!
ペースを、落とす。
ダンとヒナタが前を行く。
2人の背中。
「行けぇえええっ!!!」
左右の手でそれぞれの背中を全力プッシュ。
くるり、反転。
その回転力。
反転した視界。
見えたグリフォン。
至近距離で顔面にーーーーーーーーー飛斬!!!
クェエエっ
また反転っ!!
走破、跳躍を同時発動っ!!
「レダぁっ!!」
先に小川を飛び越えて、セーフティエリアに到達したダンの伸ばされた手。
その手をーー
「ぁああああっ!!」
ーー掴んだ。
ドサササっ
ダンによって引っ張られ、ヒナタによってダン諸共引きずり込まれて。
3人折り重なった先は、目的地。
「着い、た??」
はぁ〜〜〜
みんなで疲労と安堵、緊迫からの解放と、多様なため息を吐くことに。
「マジ焦った…マジ心臓ぱねぇっす…」
心臓はこのアバターには無いが、同意である。
3人を追い込んだグリフォンは、しばらくセーフティエリアの手前でウロウロしていた後、飛び去って行った。
脅威が去ったというのに、誰も動けず川の字で倒れている他なく。
テングの言った、危ない橋、運頼みという単語が頭の中を駆けては巡る。
「2人とも、もう平気か?」
「な、なんとかって奴っす…」
「…右に同じ…」
ようやく起き上がって、夜空を見渡す。
「いないっすね〜、ユニコーン」
白い白馬の姿はそこに無く。
「ま、このエリアも狭いとは言えないからな。のんびり待ちながら、バリューダスのクエストでもやっておこう」
ダンの提案に文句など出はしない。
というか、それしかない。
バリューダスのおやっさんからクエストを受けた時に聞いた蓮花は、文字通りの蓮の花。
それはテングの言う通り夜にしか咲かず、〈月光花の丘〉の所々に湧き出る水場に生える植物だ。
ならば当然、小川は完全なスポットな訳で。
ここをちょっとだけ出ればすぐ傍に。
てゆーか、特徴である白い花弁がそこに見えてるし。
けども、奴らはいないけども。
3人は、勇気を絞り出さねばならなかった。
見つけた蓮花。
白い花弁が内から外へ。
花弁が花弁を包み込む様に重なった、美しい花。
触れれば、それはクエストアイテムとなって消えてしまう。
採らねばならないのに、クエストアイテムを入手したというのに、喪失感を覚えるのは何故だろうか。
まぁ、結構な数が咲いているのでまだいいか。
指定された数を採取し、他にも幾つか摘んでおく。
この蓮花は、普通に素材としても採取出来たのだ。
3人はそれぞれに採取を終え、セーフティエリアに戻ってきた。
空を駆けるのは、グリフォンやヒッポグリフだけで、中々出てこないユニコーン。
ぼけぇっと、夜空や景色を見て。
当たり障りのない話をして。
また、ぼけぇっと。
「なぁ、レダ、ヒナタ」
夜の大地を照らす月を見ながら、ぽつんとダンが問いかける。
「明日、どうする?」
「…そろそろ植物園には行かねぇと。ヒナタもいいだろ?」
「勿論っすよ!」
今日のガルドのクエストに、今のクエストの報酬でお金もかなり稼げた。
これなら、状態異常回復ポーションも十二分に揃う。
ちなみに、今受けているクエストは、適正レベルは25以上。
バリューダスのおやっさんから受けられるクエストの中では最も難易度が低く、モンスターと戦う訳ではない。それでテングは、これだと思ったのだろう。
さて、では今回の報酬は…無論ぱねぇっす、である。
「じゃあ、明後日は?」
「? 明後日って、ヒナタは何かやりたい事ねぇ?」
「えっ、俺っすか!? 別に、レダさんとダンさんにお任せっつーか…?」
というか。
「…ダン。お前、何が聞きたいんだ?」
今のところ、スケジュールを決めて進める様な事はない。
リリースしたばかりなのだ。
日々、新しい情報がもたらされ、事態は目まぐるしく動いている。
「なぁ、お前らソロで動く気とか、あるか?」
未だ真意が分からない問いに、レダとヒナタは顔を見合わせる。
「…ない、けど。お前らが良ければ、だけど」
「俺は…、出来たら、一緒したいっす!!」
あ、もしかして…。
「…ダンは、ソロ、やりてぇの?」
「俺も、その気はない。その、さ。俺たちこれからも一緒に居れるんじゃないかなと思ってな」
なぁんだ。そう言うこと。
それは、
「…俺は、そうしたい」
「俺、一緒していいんすか?」
「ああ」「…当然だろ?」
「だからさ、ちょっと思ったんだが。ーーその日その日のパーティって要らないんじゃないかなぁって」
いちいちパーティ作るのが要らない?
でもパーティ組まないとダメじゃん。
やっぱり良く分からないので、レダとヒナタは共に首を捻る。
「2人とも、ギルドって興味あるか?」
「あるっ!! あるあるあるっ!!!」
「えっ! マジっすか作るって事っすか!! それ、俺ら3人でって事っすか!! やべぇ! ぱねぇっす!!」
ギルドとは。
知っている人は多いだろう。
特定のプレイヤー同士が集ったチーム、団体。
〈ストラフェスタ・オンライン〉のギルドは、そう他と変わることはない。
たった1人からでも創設出来て、人数上限は100人。
集いの場であるギルドホームが、ギルド事に提供される(所属人数が3人以上で)。
ギルドメンバー間でのギルドチャット。
ギルドメンバー共有アイテムボックス、等など。
パーティは、同一フィールド内に6人以下なら自動編成され、それ以上又はギルドメンバー以外を入れる場合は個別に編成を要求される。
ある、を連呼してダンに詰め寄るレダ。
発言内容に、あるなし含まれていないが答えを態度で示し飛び跳ねるヒナタ。
「おい、ちょっと落ち着け! いや、どうなのかって思っただけなんだが…ええい、落ち着けっ!」
ポコん、ポコん
優しい拳骨で殴られた…。
だってぇ〜、いいじゃんギルド!
作ろうよ、作ろうよぉ〜!
勢いは落ち着いた。勢いは。
じぃーーーーー、っと見つめるレダ。
ソワソワソワソワと忙しないヒナタ。
はぁ
根負けした、といった表情で息を吐くダン。
「わかったから。それじゃあ作るか、ギルド!」
「…やったっ!!!」
「おっ、、、しゃぁあああああああっ!!!」
これが後に最強ギルドと呼ばれるギルド。
その結成に至る経緯である。
「じゃあ、まずギルドマスターだが」
「…ダンだろ」「ダンさんっすね!」
「えっ!?」
素っ頓狂な程に目を丸く、口はぽかんと開いたダン。
いや、ダン以外いないでしょ?
「いや、そこはやっぱレダじゃー「やだ」ー、え。」
ギルドマスターに要求されるのは、戦闘能力よりリーダーシップ。
レダは戦闘面でメンバーを引っ張る事は出来る。
が、現時点でさえ作戦やメンバー指揮はダンが、自然と取っているのだから。
「…俺たちをまとめられるのはダンだ、だよな?」
視線をダンからヒナタへ。
「異論なしっすっ!!」
そして、レダとヒナタは揃ってダンを見つめる、それは真剣に。
「…わかった。お前らがそうまで言うなら、やってみるかな」
ダンの照れ笑いに、レダとヒナタは微笑んだ。
「なら、レダはサブマスター、ヒナタはマネージャーでどうだ?」
「…え、俺?」「異議なーしっ!!」
ギルドでのプレイヤーの役職の内訳は、
ギルドマスター、サブマスター、
マネージャーが2人、そしてコモンメンバー。
ギルドマスターはいいだろう。
サブマスターは、ギルドマスターの補佐だ。
行使出来る権限は、ギルドマスターと全く同じ。
マネージャーは、例えばギルドの解散、等主要なギルド運営以外の大体の管理権限を持つ。
コモンメンバーは、権限のない通常メンバー。
今の所、3人しか居ないのだ。
選択の余地は特にない。
「あー、あとは……、ギルド名、か……。」
……………。
途端に沈黙。
いや、消沈?
ネーミングセンスは、3人揃って皆無。
(((……どうする!?)))
頑張った。
うん、頑張った。
三人寄れば文殊の知恵っ!!!
ーーー
レ)あぁぁあああああああああああっ!!もう嫌だぁあっ!!
ダ)こら、投げるなレダ! ギルド名考えないと、作れないだろうが!!
ヒ)思い付かねっす〜(バタン
ダ)全く…、なぁ、俺たちはこのエリアに縁があるし、今度はそこから考えるか?
ヒ)いいっすね!! こういう時は、英語にするんすよ!え〜っと、月光花っすから〜
「ムーンライトフラワー」?
レ)やめろぉおおおお! どこの美少女戦士だぁっ!?
ダ)じゃあ、飛斬とかカッコいいし…
ヒ)飛斬と月光っすねっ!! はっ! ざんげ〇っ!!
レ)おぉおおいっ!ダメだダメだダメだボケっ!!!
はい。頑張っていますとも。
けども、考え出してからずっとこの調子。
そして現在、休憩中。
地面に転がった3人に、照らす月光。
「…やっぱ月光、どうだ?」
「まんまっすね」
むぅ〜。
おっしゃる通り。
「月光、ね。俺的にここは、月の光、って表現がしっくりくるな」
「…月の光。うん、柔らかくていい感じだな」
「あぁ。お前ら、ドビュッシーの『月の光』って聴いた事あるか?」
「…ない、かな」「わかんねっす〜」
「この雰囲気にぴったりなんだよな。ノクターンだし」
「ノクターン? って、なんすか……?」
「主にピアノ独奏曲の種類の一つで、日本語で言うと、『夜想曲』。ドビュッシーの『月の光』は、淡く切なく消えそうで、でも優雅で優しくてさ。気持ちが落ち着いて、良く聴くんだ」
立ち上がりながら、呟くように話すダン。
小川の側で歩みを止めて、水面を覗くようにしゃがみこむ。
何となくつられて、同じ様に覗いて。
「丁度さ、あの月の光を受けた水面に、水底から上がって消える、泡の様な曲なんだよ。機会があったら、聴いてみてくれ。ホントおすすめだから」
ぽつ、ぽつと。
時には幾つか連なって。
上がってはパッと弾けていく。
「…聴いてみる」
「ダンさんのおすすめなら、興味あるっすね!」
月の光、か。
とても綺麗でいいけど、今考えているのはギルド名。
正直、この言葉は綺麗過ぎて。
似合わない。
この3人は、まず間違いなく戦闘狂だ。
今はまだここで暴れる事は出来ないが、その時に自分達が残すもの。
繰り広げるのは戦闘。
余韻に残るのは斬撃の痕か。
その戦闘に、美しい月夜も似つかわしくはない。
「…………、ゲツエイサクヤ。ってどう?」
「げつえーー、なんすかっ!?」
「お? レダそれ、漢字か?」
そう。
月影朔夜
「…訓読みの方がいい、かな。月影朔夜?」
「朔夜の月影って事か? 意味はあるのか?」
「…月の出ない夜に残る月。月明かりもない闇夜であろうと、弧に発光した斬筋が残される…的な…」
危ない橋だろうが、強敵だろうが、〈技アシスト〉のエフェクトの付いた斬撃が放たれる、と。
自分達の特徴を捉えているとも言える。
自分達の特徴を皮肉っているとも言える。
「すぅげぇっすそれ!めちゃカッコいいっすよ!!」
「あぁ、俺もいいと思う。そうだな、ギルド名の登録に読みは必要ないが、訓読みがいい。朔、が他にも掛られそうだ」
掛けられるとは、
月影の朔夜。
月影の咲く夜、つまり月影の炸裂する夜。
「…ほんとだ」
「おい。ーーーま、決定だな」
「異議なしなしっすぅ〜!!」
これが、ギルド『月影朔夜』結成の瞬間であった。
「登録は街に帰ってからだ。ーーーじゃあ、改めて、よろしくな!」
「…おう!」「おねしゃぁあああっす!!!」
集まった3つの拳がぶつかり合う。
拳から腕を辿った先に、眩い笑顔が照らされていた。
ーーー
ギルド名を決めるのに、相当時間をかけた3人。
時刻は、午後10時に迫っていた。
当初の目的である、ユニコーン。
だが、相変わらず姿を見せてはくれない。
ギルドも登録したいし、そろそろ行くか? と。
相談をし出していた。
「んん?ーーーーーちょっ!? レダさん、ダンさんあれっ!!!」
ヒナタが指さした先。
月とは反対方向の為に、はっきり見える白い飛翔体。
それは、こちらの方へ進路を取っている。
帰ろうか、と言い出した時に限って、という現象。
マーフィーの法則は、なんとVRの世界にも通用するらしい。
ユニコーン。
一角獣の白く真っ直ぐ伸びる角。
顎の下には、少しばかり髭が垂れている。
瞳は多くの伝説通り、紺色が煌めく。
長いたてがみが滝の様に首筋を流れていく。
蹄は前側が2つに割れて、尾はライオンの様に先端の所だけ毛が生えている。
翼がある訳では無いのだが、宙を蹴るように空を駆けている。
「おお! 凄いな、おとぎ話そのものだ!」
「…ほんとにいたのか」
「ええっ、見た本人が何言ってんすかっ!!」
感嘆の声を漏らしながら、夜空を駆けるユニコーンを見つめる3人。
これで1番の目的も達成だ。
ユニコーンの姿を眺め、スクショも撮って。
そして、死に戻りをーーーー
ん??
「ちょっ、こっち来てねっすか??? ちょっとずつ降りて来てないっすかっ!?!?」
「…お、俺もそう見える!?」
「いや、有り得ないだろ! 俺たちはセーフティエリアに居るんだから、感知される訳が……!?」
ダンの言う通り。言う通りなのだ。
しかし、近づくにつれて、ユニコーンは明らかに高度を下げている。
方向も、角が真っ直ぐこちらに向いているのだ。
けれど、やはり有り得ない。
ユニコーンが此方を目指していないか? と疑問を持った時の時点で、まだかなり距離があった。
モンスターの感知範囲としては異常過ぎる。
あああ、こっち来る!!
死に戻りの相手になるのかよっ!?
レベルは………35。マジか。
エリアボスの35と、通常モンスターの35は同等とは言えないけども。
これは、早速我らがギルド名の由縁を示す時か!?
レベル表示が見える位置にまで来た、ユニコーン。
ん、え、あれ???
「…ダン、ヒナタ。あいつ、マーカーが…」
「マーカー? ーーーーなぁっ!?」
「どゆことっすかっ?! マーカーが無いっすよ!?」
マーカー。
プレイヤーの頭上には、プレイヤーである事を示す青か緑のマーカーがある。
青は普通のプレイヤー。緑はギルド又はパーティメンバーを示す。
NPCには、マーカーは設置されていない。
パーティに組み込む場合のみ、同じ緑がつく。
モンスターは赤いマーカーだ。
が、これは、視認した又は標的にされた場合になって始めて対象のモンスターにマーカーがつく。
故に、頭隠して尻隠さずという間抜けなモンスターは存在しないし、足元を良く見てなくてモンスターを踏んずけ戦闘開始なんて事は良くある事だ。
だがあのユニコーンには、マーカーがない。
3人ともが、完全に視認し、あちらからも向かって来ているというのに。
「…不具合?」
「なら、相当だな。マーカーもないし、感知範囲はおかしいし、セーフティエリアも関係なしとかな」
「ちょちょちょ、ヤバいんじゃないっすかっ!?」
あたふたはすぐ止めた。
セーフティエリアがセーフティエリアではなくなっただけの事。
抜刀し、互いに適度な距離を取り構える。
が。
「なぁっ!?!?」
「何っ!?!?」
「はぁぁあああっ!?!?」
セーフティエリアの境界へ到達する直前。
ユニコーンにマーカー。
表示は、ーーーーー緑。
パーティメンバー。
ーーーーーーーーーー味方っ!?!?
絶句漂う空間に、静かに、優美に、優雅に。
ユニコーンは降り立った。
驚愕から抜け出せない。
5W1Hから考えたい。
完全に立ち尽くした3人に、ユニコーンは何を思ったか。
カツコツ、蹄を打ち鳴らしてゆっくり近づいてくる。
そうして、何故かユニコーンはレダの正面へ。
だ、か、ら。
一体何がどうしてこうなったのか!?
えっと、これ、どうしたらいいのっ!?
う、動いちゃダメ??
うわうわうわ、角が鋭いよぉ!
しかもドリルみたいに螺旋になってるよぉ!
刺さったら抜けない奴だよぉ〜!!
ひぃっ
寄って来たっ!?
ふぇえ
か、顔近い! 近いって!
「えっ、ちょ、、ちょっと、、、ふふっ、くすぐったいから、、あ、こら、ふふっ、、わかったから、、、もう、ちょ、、こーら、もう、、お前、可愛いなぁ」
なでなですりすり
一直線にレダに近いたユニコーン。
何をするのかと思えば、レダの顔を舐めたり、レダに己が顔を擦り付けたり、と。
めいっっっっっぱい、甘えている。
ベロンベロンと舐められるのもくすぐったい。
けども、さらさらのたてがみと、あごひげがヤバい。
さらに近づいて来たユニコーンは、その白く美しい体躯でまとわりついてくる。
触っても、いいよね?
そっと伸ばした手を、まずは背中へ。
固くしっかりとした毛艶で滑る程なめらか。
掌に伝わるユニコーンの体温が、情報である事を忘れさせる。
ユニコーンはより甘えてくるので、今度はたてがみ。
ふわぁ〜さらさらだぁ
細くて軽くてふわふわだぁ
綺麗〜キラキラ光ってるみたい
「…ん、気持ちいいのか?」
ブルル
言葉が解るのか分からないが、問うてみたら目を細めていた。
「いいなぁ〜レダさん。俺も触りてぇっす〜」
実に羨ましそうな視線を投げてくるヒナタ。
「…ヒナタも触らせて貰えばいいだろ。こいつ大人しいし大丈夫だって」
「ですよねぇ〜、そっすよねぇ〜、そんじゃっ!」
ヒナタが近づこうと、1歩踏み出した、ら。
ブグルルルルルルルーーーーーッ!!
途端に強い威嚇のいななきが響く。
そしてーーー
「…えっ?」「なっ!」「ーーー、へ?」
ーーー赤。 赤いマーカー。
仲間から、敵へ。
人懐っこく甘えん坊のユニコーンが、攻撃を受ければ一撃死も有りうる脅威のレベル35モンスターへ。
不味い。
レダは未だ、ユニコーンに密着状態。
ヒナタが下がり、レダも離脱をーーーしなかった。
「…は?」
今度はヒナタが下がった途端。
ユニコーンのマーカーがまた、緑。
そうしてまた、レダに甘えてくる。
「えぇ〜、俺嫌われたっす…?」
「こんな切り替わりがあるのか。俺は…?」
今度はダンが、近づこーーー
グガブルルルルルルルーーーーーッ!!
うん。赤いマーカーだ。
ダンが下がると、緑に変わってまたレダに擦りつく。
「…ダンとヒナタは味方だ。怖がらなくていい」
グブルルッ
また低い威嚇の唸りだ。
「どうやら、ユニコーンのお眼鏡に叶ったのは、レダだけ、という事らしいな」
「そんなぁ〜、ズルいっすよ〜!」
そんな不満顔を向けられても困る。
特に、レダは何もしていないのだから。
すりすりぺろぺろすりすり
ヒナタとダンの事などもう忘れたと言わんばかりに、ユニコーンは甘え、撫でてやればもっとと促すように擦りついて来る。
ヤバい可愛い。
「ぁ…」
ユニコーンは、不意に1歩分距離を取った。
満足したのだろうと考えたが、どうやら違うらしい。
前脚を折って、前傾姿勢。
そうしてこちらを、レダを仰ぎ見る。
「…もしかして乗れ、か?」
ブルルル
返答と共に首が上下に。
「うわっ! いいなぁ〜、ホントずるいっすよぉ〜」
「…ふっ、悪いな」
ちぇー、とむくれたヒナタは、ダンと一緒にセーフティエリアの端っこで座り込んだ。
目の前のユニコーン。
静かな紺色の瞳が、こちらを捕らえて離さない。
腕を伸ばし、まず背に手をかける。
そうしてその背を跨ぐ。
背に座り込んだとほぼ同時くらい、ユニコーンは立ち上がり視界が昇る。
「うわぁ、凄い…」
呟いて応えたのは、紺色の光だ。
少し振り向かれたユニコーンの瞳は、優しげで、とても嬉しそう。
そうしてそのままユニコーン。
駆けるは、月光刺す夜空。
「うわぁぁああああっ!? へっ、飛んでるっ!?と、飛んで……すごぉぉおおおーーーーっいっ!!」
夜空から見る景色は、地上と違う。
昇る満月の明かりが上から。
その明かりを浴びる、白い月光花の反射光。
天から指し降りてくる光と、地上から立ち上る光で生まれる、白と黒のコントラストがそこにあった。
ーーー
ユニコーンは、セーフティエリアの上空を旋回して飛んでくれている。
「おぉーい、ダン! ヒナタぁ〜!」
レダは、2人に手を振って。
楽しげに空の散歩を満喫している。
「……くそ羨ましいんすけど…」
「…全くだ…」
地上居残り組はと言うと、不貞腐れ中。
空中など知らず、どっかりと地に腰を。
「なぁ〜んで、レダさんだけなんすかね」
ヒナタの純粋な問いに、改めて考えてみるのはダン。
「…ユニコーン、…レダ…」
優美な幻獣。レダ。
俺たちとの違い。
年齢か? 確かレダは高校生だよな。
俺も、多分ヒナタも、大学生。
あとは……
あ、女の子……
お、女の子……?
頭に、一つ浮かんだ情報。
そういえば、ユニコーンって……
「………………。」
ソウイウコトデスカ
「ダンさん? どうしたんすか??」
こちらの表情を見たのだろう。
心配そうに見てくるという事は、やはりげんなりとした表情をしてしまったか。
「いや…なんでも…」
「嘘だぁ〜! あれっしょ、何か分かったんしょ?」
うーん、これはレダが女の子である事を明かさねばならない。
しかしこれは、丁度いい機会かもしれない。
ギルドの仲間になったのだから、秘め事は共有した方がいいに決まってる。
まぁ、レダが女の子である事は死ぬほど守り通す! という訳ではないのだし。
ヒナタはたぶん言いふらしたりしないだろ。
ーーたぶん。
ーーー
しばしの空中散歩から、ユニコーンはゆっくりと優雅にダンとヒナタ、2人にの元へと降りていく。
カツン
と蹄の音を響かせての着地。
衝撃は全くといってない、柔らかなものだった。
ありがとう、と滑らかなたてがみを撫で、その背から降りたレダ。
そんな所に、ユニコーンを刺激しない距離を保って2人が近づいてくる。
「レダさ〜ん、ダンさんが何か分かったみたいっす」
へらへらと笑いながら言うヒナタ。
何故かちょっと仏頂面のダン。
「…分かったって、ユニコーンの事か?」
妙な顔をしたままのダンに問うてみる。
「まぁ、なんでレダだけに懐くのかって事だけどな、かもしれないってだけなんだが…」
相変わらず擦り付いてくるユニコーンを撫でながら、ダンを見ているのだが、ダンは妙な視線をユニコーンに向けていた。
「なぁレダ。まず先に聞いておくが、ギルドの仲間に秘密はない方がいいよな?」
秘密?
あ、そうだった。
私とダンの持つ秘密。
それは、私が女である事。
そういえば、ヒナタは知らないんだったな。
自分でも今の今まで忘れてた…。
でも、うん。
ヒナタなら、大丈夫。
それにダンの言う通り、仲間なのに秘密があるのは嫌なのだ。
「…あぁ、そんなの、仲間じゃねぇよ」
レダの答えに、ダンはうんうんと。
ヒナタは何の事か分からない様子で。
「よし。じゃあ、まずユニコーンだ。ーーーあのな、ユニコーンは本来、恐ろしく獰猛で警戒心が強いと言われてるんだ」
そこでレダとヒナタは揃って首を捻る。
ヒナタとダンには、敵意を顕にしたが、レダに対しては全く異なる話だ。
「あー、けどな? あー、ユニコーンは、な? そのー
ーーーーーーー乙女に弱い」
「………は?」「えっ……?」
「特に、その……清らかな心を持つ、その、処女に弱くて、処女の娘をユニコーンの棲む森とかに一人で居させると、その、処女の香りを嗅ぎつけて魅せられ、その、膝に頭を乗せて眠り込む……という……」
乙女。処女。
「………この…スケベぇっ!!!!」
いきなり叫んで、1歩離れる。
女に弱いってだけじゃんっ!!!
乙女とかオブラートに包んでもダメだからっ!!
しかも、しかも処女とかっ!?
処女の香りを嗅ぎつけるとかっ!?!?
完全に、完全にっ、スケベじゃんっ!!!
「へ? ……乙女、処女??? ーーーーへ?」
あ、ヤバい。
ヒナタが完全にフリーズしてる。
頭パニックになってるよ。
そりゃそうだよね。
普通にレダは女ですって言われた方が良かったよね。
「す、スケベ??? ーーーあ、じゃあ、え???」
「ヒナタ、落ち着け。一旦落ち着け」
「…ヒナタ、深呼吸? とりあえず、深呼吸」
「レダさんって、、、女、、、なんすか????」
「…うん」「そうなんだ、だかーー」
「えええぇぇぇえええええええええええーーっ!?」
「は? え!? ま、マジっすか!? へ? 嘘でしょ?! え、お、女なんすかっ!? えぇええええええ!?」
ま、まぁそうだよね。
男だって思い込んでたんだね。
それ、嬉しいのか嬉しくないのかわからないね。
ヒナタはもう理解不能の領域へと突入したらしく、なかなか発狂から戻ってこない。
レダもダンも、落ち着けや深呼吸と声を掛けるのだが効果は皆無で。
間。
「ホントに女性なんすね…」
はぁはぁと、肩で息をしてはいるが、とりあえずこちらの話を聞ける様になったヒナタ。
そのヒナタに、自分のプロフィール画面を見せて吐いたヒナタの言葉である。
「ご、ごめんね。騙そうと思ってた訳じゃないの。でも…ごめんなさい」
ちょん、と正座をして頭を下げる。
「あいや、ホントに女の子っすね! いやぁ、びっくりしたっすけど、こんな大事な事教えて貰ったんすから、逆になんか嬉しいっすよ!!」
「あ、うん! だって、ヒナタは仲間だもん!」
「おいおい、だもん、て。レダ、完全に女の子口調だぞ? くすくす」
こんな時でもからかって笑うダンにぷくっとむくれて見せれば、悪いと頭を撫でられる。
心地よくてつい笑顔になってしまったのを見て、
「あーなるほど。そういう事っすか」
納得のヒナタと、
ブルルルルルル
納得出来ないユニコーンがいた。
ぬぁあ。なんなんすか、焼き鳥のお兄さんが情報屋に化けるし、夜しか出ないなんて巫山戯た場所が出てくるし、ギルド作るとか言い出すし、ユニコーンは完全に惚気けるし。
ギルド名に苦しんだのは作者であります
作者が完全に振り回されました…精進します!
次回、ギルド登録とその翌日に探すのは…