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ストラフェスタ・オンライン  作者: 竒為りな
3日目 馬が合う、馬に会う?
18/26

ゲームはやっぱりファンタジー



時刻は午後7時を迎えようとしていた。

ものっすごく硬いゴーレムさんは、最後の一体の時で戦闘時間が7,8分もかかったのだから。



「さて、それじゃあ〈月光花の丘〉に行くか」


「おっしゃーーーっす!! 一体くらいは倒せないっすかねぇ~?」


〈月光花の丘〉通常モンスターの平均レベルは32。

せっかく目の前まで来たのだから、エリアを拝んで死に戻りを。


ダンは、後ろで静かにしているレダを振り返った。


「どうした?」


「…いや、なんでも」


上向いたレダの顔に、月明かりが当たる。


感傷にでも浸ってるのか?

レダに見せてもらったエリアのスクショは綺麗なものだった。

それとも、オレリウスのことを思い出しているのだろうか。


「レダさん、レダさんっ!! そこ、どんなモンスターがいるんすか?!」



「…あー、ファンタジー?」



「「ファン、タジー…????」」


レダのより細くなった瞳がより上を向く。


というか、ファンタジーって一体なんだ?

まさかドラゴンとか出てこないよな…。

出てこないよなっ!?!?



ここで、すっと自分とヒナタの前へ出るレダ。


こっちと言って先導する小さい背中。

黒地に白いラインが舞うコートに、同じデザインのマフラーをなびかせ歩く。

白と黒が混在する短髪が小刻みに揺れる様は、色の配分こそ違うが、服のデザインが動き出しているようだ。


初日のオロオロとした動きは消え、堂々と前を行く背。

レダが女の子である事は知っている。

が、女の子と知る前の、オーク達との殲滅の舞や生放送の動画、知った後の互いの特訓。

その日の内に女の子である事を特別意識することはなくなっていた。


そして今日はリリース3日目。まだ、3日目。

だが、ダンにとってレダが近くにいる事。

それはもはや当たり前に近くなって来ている。


お節介精神はとうにない。

あると言うならヒナタか。


背は190に迫っているだろう。装備品は一般的なものだが、色合いは黒いものが多い。

黄色味の襟足が刈りあげられた短髪に元気な顔。

今日会ったばかりだが、やんちゃなんだか天然なんだか。

しかしどうにも憎めない。


一緒に戦っているうちに、この数時間のうちに。

レベルではなく、ヒナタの斬撃が、ヒナタの戦闘が、恐ろしいスピードで成長していく。

恐ろしい勢いで、迫ってくる。

刺激を受けるのは当然の事で。

あぁこいつもこれから一緒にいるのだろうな、と。


なんとなく、思うのであって。

明確な理由など、一つもない。


あるのはーーーーー




ーーーーーーーこの仲間で、冒険がしたい。





ーーー




また、行くのか、あそこに。

行けてももっともっと先だと思ってたのに。


はぁ~、逃げるの大変だったんだから。

凄い速いんだもん。

だからあんな必死に……


あれ? そういえば、あの時も死に戻りすれば街まで一瞬だったんじゃ…。

いや、やっぱり初めてがあいつらなのはちょっと…。



「なあ、レダ。ファンタジーっていうのは、どうゆうことだ?」


「…ファンタジーはファンタジーだ」


ダンの問いの答えになっていないのは承知している。

が、ファンタジーはファンタジーなのだ。


目の前に向こう側が全く見えない岩壁が連なっている。

〈月光花の丘〉はあの向こう。

岩壁と言ったが、あちらこちらに隙間の様な道があり、そこを抜ける。


向こうから差し込む、月明かり。



「…着いたぞ」


「これは、見事な景色だな」


「すぅげぇっ! 花めっちゃ綺麗っすねっ!!」


ヒナタの言う通り、相も変わらず一面の花畑。



そして今は、夜。



自身がオレリウスを撃破したのは6時頃で、まだ最後の夕日が照らしていた。

が、7時を回った今、名前の通りの月光の射す花畑。

暗いフィールドに、月明かりを受けて舞う白い花弁。



さてと。

フィールドの端っこである事と、暗い故にモンスターの姿はまだ見えない。


「…行くぞ」


「おう」「おっしゃぁーっ!」


踏みたくないが、踏む他ないほど敷き詰められた花々の上を歩く。



「……。」


「…なるほど…」


「…ファンタジーっすね…」



3人が視認したモンスター。




レベル32 ()()()()()()




人間の上半身に、馬の下半身。


浅黒い肌をした筋骨隆々の胸板と腕。

武装はよくある弓だけでなく、剣も持ってやがる。

脚も当然速い。

感知圏外まで逃げようとしても弓を射掛けられるわ、脚もめちゃくちゃ速いわ、で大変だったモンスターの一体。



そう、()()ね。



今のところ3人は、ケンタウロスに見つかっていないようで。


「…レダ。何見たか教えてくれないか?」


オレリウス討伐後に見たモンスターの事か。



「上半身が人間の女性で、下半身が蛇」


「ラミア、だな」



「上半身が鷲で、下半身が馬」


「ヒッポグリフ、か」



「上半身が鷲で、下半身がライオンみたいな奴」


「…グリフォンだ」



他にもいたが、特徴的なのはそれくらいかな。

ラミアも速かったけど、それ以外がやばかった。



「なるほどな。オレリウスもそうだが…ここは合成獣、キメラの楽園か」


「…そうらしいな」


「すげぇファンタジーっす…」



ここ、〈月光花の丘〉のモンスター。

平均は確かに32なのだが、内訳はちょっとどうかと思うものになっている。

レベル30~32までのモンスターはノンアクティブ。

姿も上半身がネズミで下半身が蛇など、ここの特徴を持ってはいるが、可愛いものだ。レベル以外は。


問題は、レベル32~34のモンスター達。

こいつらは全てアクティブモンスター。

先程レダが名を上げたモンスター達だ。


ノンアクティブとアクティブで、レベルも特徴も差があり過ぎる。

体格もだ。



ケンタウロスは、人間の体部分も馬の部分も、実際の現実のそれと同じくらい。

故に、レダ達は歩兵、ケンタウロスは純粋に騎兵。



ラミアは下半身が蛇。

故に高さはあっても座高のそれ。

だが蛇の部分がけっこう、長い。


これも上半身を伏せ、髪を振り乱しかなりのスピードで迫ってくる。

「あんたが居るべきはここじゃないっ!!

ホラー映画のスクリーンの中だよ!ちくしょうめ!」

と言って逃げたのは記憶に新しい。



問題はヒッポグリフとグリフォン。


ヒッポグリフの下半身は馬だ。

前脚の部分はなく、お腹から後ろ脚の部分。

それは速さを求める競走馬のものでは無い。

重い荷物を運ぶ、鈍重な太い馬。


それもそのはず、上半身の鷲の部分には、翼。

飛べてしまうのだから。



グリフォンも同様だ。

下半身の獅子の部分はどっしりと。

ヒッポグリフは前脚が鉤爪の付いた鷲のものだが、

ここのグリフォンは前脚も獅子のもの。

頭が鷲で、背には翼。


両方とも、とんでもない大きさの怪物ではないが、

ケンタウロスより一回り大きい。


こいつらに会った時などはもう、必死で必死で。

全然振り切れないわ、火の玉吹いてくるわ。

見通しのいいこのエリアでよく逃げ切れたものである。



「それで、どうする?」


ダンが問いを投げかけてくる。

薄い、笑みを浮かべながら。


「…決まってる」


「戦うっきゃないっしょ!!」


マフラーから覗く笑み。

遮られるもののない、思い切った笑顔。


三者三様の笑みにはやはり、獰猛な、という言葉が付随していた。



レダ  レベル16

ダン  レベル13

ヒナタ レベル12


モンスターのレベルは倍以上。

ハーフHPオートポーションはもう無い。

フリーエリアなのだからモンスターはあちらこちらにいる。

始めから回避に専念し、動きを見切る猶予は無い。


果たして、自分達は戦えるのだろうか。




ーーー




空を見る。

じっと目を凝らし、ヒッポグリフとグリフォンの存在を確認する。


夜、暗い空。

いない、と思う。


相手にせんとするケンタウロスの周りに、他のアクティブモンスターの姿はない。



「弓持ち、か。飛斬でタゲ取って矢を放たれてる間に他の2人で距離を詰めるか?」


「…いや、あの弓、短弓だ。構えて撃つまでがかなり早い。放った矢の速度も半端ないぜ」


「俺らのレベルじゃ、矢の1発でも即死っすよ」


遠距離合戦は不利。


「なら、一気に突っ込んで剣に切り替えさせる、か。レダ、行けるか?」


「…任せろ」


「よし。ヒナタ、お前は右。俺は左から。飛び出したレダのケンタウロスまでの距離が半分を切ったところで出るぞ」


「らじゃっすっ!!」



初めて戦う未知の敵。

今得られるだけの情報で、手早く作戦を。


3人とも、武器を手にし、少し間隔を空けて横並び。



中央のレダ。身を屈める。


アシストのダブル使用は今は無し。

クラウチングスタートからの、全速力。



ケンタウロスがこちらを見た。


いや、もう見ながら弓を構えていると言ってもいい。

それ程素早く構えられた弓から、射掛けられる矢。



真っ直ぐ、こちらへ。


ギャン!



矢を横から斬り落とす。


ギャン! ギャン!



回避はしない。

ケンタウロスまで最速で。


3投目直前で半分を切った。

ダンとヒナタが追随を開始。



ギャン!


4投目を斬る。

ケンタウロスが目前へ。


地を蹴る。

走破、跳躍ダブル使用。



一足で。


ケンタウロスの眼前へ。



飛び上がったレダの目に突き付けられる5投目。


ぶっ叩く。弓ごと。


放たれた矢は彼方へ。



レダは、身体の勢いそのままに斬り返し。


斬撃は、確かにケンタウロスを傷つけた。



が、



「…そりゃ、そうだよな」



ダメージの刻み幅は、ミリ単位。

オレリウスのエリアだと、否応無く感じさせる。



一歩下がり、剣を手にしたケンタウロス。

両手で持つことなど出来ない短さの、片手用の柄。

そこから伸びるのは明らかに長く、太い刀身。


斬撃は、確実に重いだろう。



着地したレダに、その上からの斬撃。



レダは左手で己が刀身を掴み、真横にした剣を斬撃の前に。

振り下ろされた大剣を、十字に受け止めるのだが。



「くっ、、、そっ!」


押し込まれる腕。

屈しそうになる膝。



そこに、



「はぁああっ!」


ダンが。



「うぉぉ、らぁっとぉっ!」


ヒナタが。



左右から、走り込みながらの斬撃。



「あははー。 マジっすか」


「わかってはいたが、これはなんとも」


得た手応えに、ダメージ量は応えない。



それでも一応、攻撃を受けたからか、一歩退くケンタウロス。


再び弓を取られては敵わない。

ギリギリの距離を保つ。



馬が嘶くように前脚を上げたケンタウロス。


ドッ


ケンタウロスが向かうは、ダメージ量の多いレダだ。



振り上げられたケンタウロスの大剣。


己が剣を引き絞る。



オレリウスと戦ったあの時ならば、回避して隙を突くだけだった。

でも、今は。



間合いをミスれば終わり。

タイミングをミスれば終わり。


迫る!



「ぉああああああっ!!」



大剣と片手半剣が打ち合わされる。


当然。



「ーーーぐぅっ」


レダは、負ける。



だが隙は作れた。




ケンタウロスの刀身に巻き込まれる、寸前。


刀身よりも先。

何かに引き倒される。



「チェーーーっストぉおおおお!!」



ヒナタよ。

それを言うなら大上段からだろ!

下からのすくい上げで言っても格好つかんぞ!!



ヒナタは、ケンタウロスの馬特有の腹部を斬る。



ケンタウロスは攻撃を打ち込まれた方へ向く。

けども、

ヒナタは腹部を斬りつけながら、その腹の下をスライディング。逆側へと抜けていた。



「レダ」


レダを引き倒したダン。

起き上がって差し出された手を、掴む。



引き起こされて、突き飛ばされる。



ヒナタを見うしなったケンタウロスは、急回転。

その勢いの乗った大剣が迫っていた。



ギャン



ダンの、大剣を受け流す音。

それを聞きながら、今度はレダが。


スライディングから起き上がったヒナタを押し倒す。



倒れた直後。

大地を押して跳ね起きる。



見えた大剣は斜め上。



ギガガ


また両手を突っ張って受ける。



「ーーつっ!!?」


背後から?



悪寒。プレッシャー。




闘気。



ふふ


思わず吐息。



ーーーーーーーーー来る!




刀身部分を持っていた左腕の力を少し抜く。

途端、レダの刀身を滑る、大剣。


滑り出した時点で、レダは横に跳ぶ。



「はぁぁああああっ!」



大剣を振り下ろしきったケンタウロス。


レダの背後から猛然と迫っていたダン。

一瞬で、レダとダンが入れ替わる。



ダンの、突き。


走り込んだ勢い、そのままの。



レダとヒナタ。

2人も左右からケンタウロスを斬りつける。



後ろ脚だけで立ち上がり、いななく様に伸び上がるケンタウロス。


ダンは既に離脱済み。

前脚が振り下ろされる。



ケンタウロスはダンに迫ろうと。


その脚を、斬る。



一転。こちらを向くケンタウロス。


繰り出される大剣。


今度は紙一重でかわしていく。



がら空きの背中を向けられたヒナタ。


跳躍。



「おらぁあっ!!」


一気に、頭を。



ザンっ


クリティカルヒットのはずだが、圧倒的ステータス差。

ケンタウロスの動きは止まらない。



グォオオオーーー



まだ宙にいるヒナタを狙って跳ね上がらんとする大剣。


その大剣に向けて上段から、全力で振り下ろすレダ。

横から大剣を薙ぎ払うように、剣を叩きつけるダン。



一瞬の遅れ。



その間にヒナタは大地へ。



レダとダン。

2人の斬撃は跳ね返される。


跳ね返された反動に身を任せ、バックステップで距離を取る。

流石にクリティカルを与えたからか。

ケンタウロスの的になったのはヒナタだ。


回避行動のヒナタ。



レダとダン。

2人で、ケンタウロスに踊りかかる。



3人が与えられるダメージは五十歩百歩。


挑発も無い。

タゲが跳ぶ、跳ぶ。



レダに向いたケンタウロス。

振り払われた大剣を、身体を捻ってかわす。



「…あ」



忘れていた。


こいつ(ケンタウロス)には、脚がある。



人型のオークに足技はない。

オレリウスはただ真下に踏み下ろすか、馬の脚を活かして後ろに蹴り上げるか。



リンボー気味に大剣をくぐり抜けた先。



振り上げられた前脚。




あーー。しまったな…。




1歩目でレッドゾーン。

2歩目で全損。


レベル16のHPなんてそんなもの。



仰向けで、夜空を拝む。




強制帰還。


歪んで行く景色に見えたーーー




ーーーーーあれは……?





ーーー





「ぁああーーー、くそぅ…」



第1の街、女神像の前。



ケンタウロスに倒されたままの仰向けで、あぁー、と気の抜けた声を漏らす。



「お? こいつは珍しいなぁ。最強プレイヤーが死に戻りか?」


「…そうだけど」



にやけた顔を隠さず話しかけて来たのは、ジークというプレイヤー。


大学生…ではないな。もう少し上か。

快活そうな顔に張り付いている笑みは、嫌なものとは感じない。


「あんたが死に戻りなんざ、…何とやったんだ?」


「…ケンタウロス」


「おいおい、〈月光花の丘〉か。よく行くぜ」


はははっ、と笑いながら近くに腰掛けるジーク。

最初はからかわれるのかと思ったが、普通に話が出来そうだ。


「そういえば、見たぜ? あの飛斬。すげぇな」


「…だろ?」


「俺もやって見たけど、かなりやべぇな。スカッとする」


「ふふっ…同感」


「お、あんたもか。しかし、あんなんどうやって見つけたんだよ?」


〈ストラ商店街〉で〈投擲アシスト〉のナイフ投げ。

それを説明していた時。



「あ〜、やられたっすぅ〜」


ヒナタ、帰還。


「…おつ」


「強すぎっすよ! なんなんすかぁ〜」


「…レベルも装備面も、圧倒的に足りないからな」



だはー


そう言ってヒナタも転がる。



「へぇ、ダンじゃねぇのか」


ヒナタの存在に驚くのは勿論ジークだ。


ヒナタは返事の代わりに手をひらひら。

話はまだいいらしい。



「…じゃあ、飛斬に戻るけどさ」


「ん? ああ、そんで?」


「…荒野でロージャッカルに囲まれたんだ。そん時に剣投げようと思ったら、斬撃が飛んでった」


「ぶはっ! なんだそれ、流石っつーかなんつーか」


快活に笑われると、こちらまで笑いを誘われる。


「しっかし、何人パテで行ったんだ?」


「…俺とダンとこいつ」


パテはパーティを更に縮めたもの。

こいつとはヒナタのこと。


「3人か、そりゃ良かったな」


「…? どうゆう意味だ?」


「いやな、あのロージャッカルはパーティ人数が多いほど追加POPも増えるんだ」


「「えっ」」


聞いていたヒナタも加わる。


「ふ、フルメンバーだとどうなるんすか!?」


「1人におよそ3,4体。だから6人でおよそ20」


「…げっ」「うへぇ〜」


「今はまだレベル12行くか行かないかだぜ? 鬼畜だろ?」


「やべぇっすね…」


今現在、〈バーバレン荒野〉でフルパーティが全滅する事案が相次いでいるそうだ。


スピードタイプの同格モンスター20体とか…。

3人でホント良かった…。



「ふぅ、ダメだったか」


ダン、帰還。



「…おつ」「おつかれっす!」


「お、ダンか。あんたら揃ったんなら、俺は行くかな。じゃ」


ジークは一つ、伸びをして去っていく。

ダンも含め、それぞれがかけた声に手を挙げて応えて行った。


さて、と起き上がって自身も伸びをしていたら。


ーーピロン、ピロン



ストチャのメッセージ着信音。

その内容に、


「げぇっ!!」


「どうした?」


メッセージの送り手はお母さん。

ご飯出来てますよ〜、と。


「…飯、呼ばれてる」


「ああ、そんな時間だな。一旦飯にして、また集まるか?」


「…うん」「お! 了解っすー!」



もう8時近く。

完全に待たせちゃった。

今日の晩ご飯はなんだろう。




ーーー





ふんふふ〜ん。

お腹いっぱいご機嫌よう。


今日のご飯は回鍋肉!

これがまた美味しいんだな、もう。

芯まで入れた瑞々しいキャベツに、肉汁があま〜いお肉、タレもまた抜群!



シャワーは寝る前にする事に決めて、さぁ!




ログインすれば女神像の前。

ダンとヒナタの姿が既にそこに。

どうやら談笑の最中の様だ。


「…待たせた」


「おう」「ちゃ〜っす!」


2人の顔を見ると、なんだかホッコリ。安心感。



「…んで、これからどうする?」


「どうする?ってお前、決まってるじゃないか」


??

ヒナタと2人、顔を見合わす。


何か予定あったっけ?


「おいおい。()()()にクエストの報告だろ?」



「ぬぁあああああ! あのおっさんんんー!」



ヒナタが天に向かって吠えたぞ。

心なしか周辺温度が上昇してね?


「…そうだった」


「おい…。なんの為にゴーレムに行ったんだよ」


ぬぉおお、と吠え周囲の視線を集めに集めるヒナタを引っ掴んで歩き出す。



叫ぶヒナタ。

ヒナタを引きずるダン。

シュークリームを食べるレダ。



(((何、あいつら…)))


視線はどこまでも追随したのだった。



「レダ。俺にもシュークリーム分けてくれ」


「…ん。」



どこまでも、どこまでも。




ーーー





南門へ向かう通り。


疲れて引き揚げてくるプレイヤーが多い。



さて、ガルドは??



あれ、ガルドは??



そういえば、ガルドも普通に歩いてたよな?

まさか定位置とかない?

歩き回るにしても、周回ルートどこよ?




え、ガルド、どこよ???




「あんの、糞おっさんんんっ!! どこだぁああ!」



である。


ガルドを見つけられない3人は、遭遇した辺りを歩きながら周りのプレイヤーに聞き込みをするも、


収穫なし。



クエスト画面は、報告しましょう。とあるだけで、ガルドの位置情報など載っていない。



「………。」


「…ただのクエスト報告が1番高難易度とか…」


「おい! 糞おっさん!! 出てこいこらぁっ!!」


「うるさい!」 ポコっ


当たり構わず叫び出したヒナタ。

頭を上から叩いてやりたいが、高身長。

ダンはやむ無く側頭部をポコんと叩く。



どうしたものか。


「…あ!」


「どうした? 何か分かったのか?」


「…そういえば、この辺り一体を取り纏めてるって言ってなかったか?」


「確かに。だが、NPCも知らないと言ってただろ?」



NPCの事はNPC。

そう思って既に道行くNPCに聞いていた。


「でも、取り纏めてるんだから、もっと、その…」


「組合とか、か。それなら歩行者じゃなく…」


「…店の店主とか」


「あるな。 よし、行こう」


頷いて、近くの屋台の店主の元へ。


「いらっしゃい!! 何にします?!」


「あぁいや、すまない。聞きたい事があるんだ」


ダンが言う。

するとご丁寧に、手を手拭いで拭いて。



「なんですかい? あっしに分かる事なら、何でもお答えしますぜ?!」



こ、細かいぃっ!!!

仕事が細かいよっ!! 井上さんんん!?!?



「あ、あぁ。助かるよ…。ええと、ガルドって人知ってるか?」


「ガルドさんですかい? 勿論知ってますぜ。なにせこの辺りの店を取り纏めてるお人なんで」



「……へぇー、そうなんすねーー」


ガルドの言った事は事実だったようで。

ヒナタ君、完全にむくれています。



「そうか。俺たちはそのガルドを探してるんだが、今何処にいるかって分かるか?」


「あぁ! それなら、酒場で間違いないですぜ? この時間はいつもそうなんで」


「そ、そうか。それは…リアルな…。店の名前は?」


「ええと、『砂岩の肴亭』って言うんでさぁ。〈バーバレン荒野〉の食材がメインで、これがまたうめぇんで有名なんです」


「へぇ、面白そうだな。ありがとう、助かったよ。礼に焼き鳥三本で」


「いやいや、これくらい何でもごさいやせんよ。…っと、へい、焼き鳥三本!ありがとうごぜぇやした!」



ほら、と焼き鳥をくれるダンお兄ちゃん。

が、ヒナタは無理矢理口に突っ込まされていた。


なるほど。吠え防止だったのか。



「しっかし、酒場とか…」


「…分かる訳ねぇよ」



「しっかし、相変わらず芸が細かい…」


「…人間と区別つかねぇよ」



はぁ。

何なのか良く分からないため息2つ。


とりあえず、屋台の店主が最後に指さしてくれた方向へ。



ヒナタは、いよいよ仇敵に会える、と。

顔を歪ませながら焼き鳥を食べている。


正直怖い。


レダとダンの2人は、こんな雰囲気ありありの世界観の酒場がどんなものか、と。

顔を強ばらせながら焼き鳥を食べている。



見逃さない様に店の看板を一軒一軒確認しながらーー




ーーーあった。『砂岩の肴亭』




ゴクリ、と喉を鳴らそうとーーー




ガチャん!!




ーー鳴らす暇なく。ヒナタ出撃。



慌てて後を追う。



ガヤガヤガハハっガヤガヤワハハっガヤガヤ…



想像以上の店内の賑やかさに面食らう。


特に整列もない雑多なテーブルに一貫性のない椅子。


カウンター席はあるが、もはやカウンターの体をなしていない。

大体の奴がカウンターのテーブルを背にして会話に興じているからだ。


床は面が大雑把に均された岩。

壁は木材の柱に砂壁。

飾られているのは狩りの道具や動物の皮。


ほとんどの席は埋まっており、ウェイトレスが忙しく動き回っている。

注文されるのは酒ばかり。



「…ねぇ、ダン」


「ん?」


「未成年だと、ゲームのお酒も飲んじゃいけないんだっけ?」


「いや、現実で問題なのは、アルコールという成分だからな。ゲーム内での飲酒は、酩酊感を味わうものだ、が。未成年には、そもそも体験程度のちょっとしたものになるよう端末側で制限がかかる。ーーーま、つまり飲んでも構わん」


「…詳しい解説、ありがと」



飲んでもいいんだ!!

そうだよね!ほんとにお酒を飲むんじゃないもんね!

び、ビールって、どんな味がするんだろ…!

ん、あ、ヒナタ!?



何も言わず、ズカズカと。

いらっしゃいませと、寄ってくるウェイトレスを無視して。



「おい、おっさん!!」


ガルドは、店内の中央に。

多くの人々(勿論NPC)の輪の中心に。



「あ? なんだぁおま、ーーーおうおう! 昼間のガキじゃねぇか! 俺のお使いはどうしたぁ? あぁ?」


相も変わらず、口の悪いお人で。



「それならちゃ〜んと取ってきたっすよ!? これで文句ねぇっすよねぇ!!」


「ほーぉ?レベルの割に結構やるじゃねぇか、ぇえ? しっかしなんだぁ、俺の言いつけちゃーんと守るたぁ偉いなぁ! いやぁ、偉いぞ、いい子だなぁ!?!」



超絶にやにや顔のガルドさん。

しっかし、この人(NPC)は普通に褒められないのか?

あぁ、ほら、ヒナタが…。


「こ、んの、、、糞おっさんがっ!!!?」


「ガッはッは!このガルドさんが褒めてやってんじゃねぇか! ちったぁ素直になれねぇのか? はんっ! ゴーレム倒せてもやっぱりガキだってか、ぁあ?」


「誰がガキっすか! 誰がっ!! おっさんこそ、いい歳して大人げなさすぎるっすねぇえっ!!」



あー……。

昼間会った時は男らしいかどうかだったのに。

今度はガキかどうかっすか…。

忙しいこって…。



「あーあー、ガルドの親父がまた子供にちょっかいかけてるよ。あんたも好きだねぇ」


周りのNPCが割ってはいる、が。


「誰が子供っすかっ!!」


逐一反応するヒナタ。


「悪かった、悪かったよ。いや、俺のような歳になると、お前さんは十分若いからよ、つい、な」


NPCのお兄さんにフォローにまわってもらう始末。



「ガッはッは、まだまだケツの青い奴ぁ面白くていけねぇなぁ!!ほぉら、ガルドおじさんのお小遣いだ、有難ぁく貰っておけってな! ガッはッは!!」


そう、ガルドが言えば、自動的に画面が開く。

これでようやくクエストクリアだ。

内容も内容だったからか、報酬が中々良い。



「何がお小遣いっすかっ!! 人にもの頼んだんすから礼するのは当然でしょうがっ!!!」


…まだ噛み付くか、ヒナタよ。



「あぁ? ったくいちいちうるせぇガキだぜ!!ちったぁ素直さってもんを身に付けた方がいいぜぇ?」


「あんたみたいなおっさんに出す素直さなんかねぇっつの!!」


「おーおー、そうかいそうかい! ガッはッは! 今日はそいつで良いもんでも食うんだな!! そんじゃ、また頼むぜぇ??」


「あんたの頼みなんか、二度と受けねぇっすよ!!」



そう吐き捨てたヒナタ。

即座に反転してこちらへ…そのまま…


ガチャん! バタン!


レダとダンを残して出ていった。


しょうがない、自分達も出よう。

ん〜、ビール飲んでみたかったのになぁ。



「くっそ、何がお小遣いっすか。 何が、くっそ」



ヒナタの怒りはどこにも収まらず。

ぶつくさ言いながらくるくる回って、道を蹴りあげている。



「全く。 ヒナタもういいだろ? クエストも達成したんだから、もうガルドに会うこともないさ」


「そっすけど! そっすけどぉ〜」


「…ヒナタ、どっか行こうぜ。 昼間のダンみたいに気晴らしにモンスター狩りに」


「おい。俺のことは言うな…」


不満をあらわにした視線をくれるダン。

彼女が出来ないと言った事が未だ応えているのか。



「そっすね! もう知らねっすよあんな糞おっさん! おっしゃ、どこ行くっすか!?」


「そうだな。もう夜だから、また〈バーバレン荒野〉がいいだろ」


うんうん。

今の所、行くとこは〈バーバレン荒野〉か状態異常植物園しかない。


あ、そういえば。


「…あのさ、ちょっといいか?」


「ん? どうした?」




「〈月光花の丘〉に、()()()()()がいたような…」




「「…ユニ、コーン? だって????」」



そう、ケンタウロスに踏まれ仰向けになった時。

死に戻りの強制帰還の間。



長いたてがみを靡かせた白馬。

額に長い、1本の角。


それが、空を切って。

こちらへと、駆けて来ていたのだった。



やっとだー!でもまだまだっす〜


レベルが高くなればなるほど、ファンタジーになると思い込んでます…



次回。ダンさんの思いつきとユニコーン

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