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ストラフェスタ・オンライン  作者: 竒為りな
3日目 馬が合う、馬に会う?
17/26

同類ヒナタとゴーレムさん



「すんませんっした!」


「だから、いいって言ってるだろう?」



謝っているのはヒナタ。

許しているのはダンである。



3人は〈バーバレン荒野〉を目指して南門へ向かっているところ。


ガルドに、最早嵌められる様にクエストを受けさせられたヒナタは、100mほど歩いては謝る、という事を繰り返していた。



ただ。



ただ、辞めるかと問われればーー



「絶っっっ対、、嫌っすっ!!!!」



この返答。



どうしても、ガルドさんに目に物見せてやる! っと、熱意を新たに吠えるのだ。


故に、謝ってきたら辞めるかと問う。

それで前を向かせる。



ダンにかかれば、御茶の子さいさい。



うーん。

もし、ガルドさんにぶつかったのが、ダンだったら。

もしかしてガルドさんを手玉に取ったりして!


ちょ、ちょっと見てみたかったかも。




さて、ゴーレムを倒すには、先ずゴーレムの居るところまで行かねばならない。


問題は、回復アイテムとーー



「ゴーレムは何処にいるか、だな」



プレイヤー達は、南門付近の石が転がるフィールドで戦闘を行っている。

その先は、まだ偵察程度の情報しか上がっていない。



「闇雲に行けばそれこそどうなるか…」


「…す、すんません」


「はぁ。ヒナタ、次謝ったらクエ破棄するからな」


「ふぇっ!? す、すんまー「ん?」ーや、なんでも」



やはりダンはみんなのお兄さん。



「…大丈夫だろ」


「お、何かあるのか?」


「…〈月光花の丘〉に向かえばいい」



そうそう、レダがゴーレムを見たのは、オレリウスと戦い、夕飯のために街へ走った時。



「やっぱり、そうなるか」



位置としては、南東方面。




〈月光花の丘〉が、第1の街から広がるフィールドと直接、接しているのは、〈バーバレン荒野〉だ。


未開放の隠しエリアへの入り口は、たった1つ。

〈月光花の丘〉の場合は、直接は行けない〈サーマル平原〉にあった、という事。

どこに入り口があるか分からない、というのはやはり隠しエリアと言うべきところか。



「…どうかしたか?」


「いや…、そのまま行けばオレリウスに会えるのかと思ってな」



ああ、そうか。私にとっては至極当然の事だ。

けど、


「…会ってみたいんだ?」


「そりゃあ、な。」


照れる事などないだろうに、視線をずらすダン。

口元が少し、緩んでみえる。



「うはぁっ! 俺も! 俺も見てみてぇっすよ!!」



無論ヒナタなのだが、

はい!はい!とおててを挙げるのが可愛らしい。

これで身長が低かったら、仔犬みたいでより良いのに。



「…まぁ、そこも、オレリウスまで辿り着けば、だけどな」



ずーん。

なんか空気重くなった??



だって、あそこはもうフリーエリア。

通常モンスターもPOPする。平均レベル32の。

オレリウスは、エリア奥の小高い丘付近で出てくると思われる…。

故に、そこまで行けるか…。


因みに、何組ものプレイヤーが〈サーマル平原〉にある入り口から〈月光花の丘〉へと踏み入ったが、彼らが最初に出会ったモンスターによって、問答無用の帰還と相成っていた。



オレリウスには会えなくても、行ってみようか。


そう、誰ともなく言い出した。

ゴーレムを倒し、クエストアイテムをゲットしたら、ちょっと行ってみよう。

どうせモンスターに倒されるのだから、死に戻りして一気に街まで戻れるから、と。



「っしゃーー!! 首洗って待ってろっす!!」



えっと、誰を?

ゴーレムだよね?

ガルドさんじゃない、よね??



南門をくぐり、いざ南東へ。


戦闘はなるべく少なく、真っ直ぐにと。





ーーー





じっと、息を殺す。


物音を、絶つ。



心臓の拍動。



アバターには存在しないのに。


この拍動が、奴に聞こえることはないのに。



全身が汗ばむ。




早く、早く()()()()()





現在、3人は崖の様に切り立った岩の陰に身を潜めている。


ここは、砂漠の様な砂地に、岩によって形成された通路を進んでいくような。

グランドキャニオンのちっこくて狭い版、である。



まぁー、緑のない不毛の地。



そこを今、まさに目の前を通ってゆくモンスター。



大蜘蛛。


それか、鬼蜘蛛。



ヒナタも見上げる体長。

鋭い鉤爪が付いた太い脚。勿論8本。

毒々しい液体をボタボタ垂らす大牙。

針の部分が上を向くヒップラインのお尻はぷっくり。



そんな中、1番おぞましいのはーー



ーーーーーー目。



気持ち悪い程飛び出た8つの眼球が、ぎょろぎょろと見回しているのだ。




レベル14 ゴーゴルスパイダー



先程遭遇した時は危なかった。


戦闘開始直後に、ゴーゴルスパイダーは糸を吐いた。

避ければ、また糸が。

それも避けて、避けてーー




ーー戦闘フィールドが、形成された。




ゴーゴルスパイダーが己の為に作り上げた、()だ。




気が付いた時にはもう、まともな退路がない。

岩の壁と糸の壁。頭上にも糸が張り巡らされていた。



ゴーゴルスパイダー。

彼は、地上戦ファイターではなかったのだ。


編んだ絨毯を自由に巡り回り、糸、毒液、毒針。

時にはあの巨体で、獲物目掛けて飛び降りてくる。



ここで活躍したのは、あのーー




ーーー〈飛斬アシスト〉




序盤はどうして良いか分からず防戦一方。

だが、飛斬で糸を斬れる事が判明。


かなり足場を奪うと、ゴーゴルスパイダーは攻撃の手を緩め足場形成へと走る。



だけでなく、ゴーゴルスパイダーには大きな弱点が。



あのギョロ目。英語でゴーグルアイ。


名前の由来である眼球に飛斬を当てると、落っこちてくるのだ。




あとはーーーー



まぁ、あれだ。


糸を足場にする者が、




ゴーゴルスパイダー以外に、()()




走破、跳躍を同時使用。

糸や岩を蹴って縦横無尽にはね回った奴が。




うん。レダ君ですね。




そして、現在に戻る。


3人はゴーゴルスパイダーをやり過ごそうと、身を隠しているのだ。



弱点を付けばなんとかなる。

が、奴との連戦=ポーションと時間の消費。



レダのまだ新しい記憶では、目的のゴーレムはまだ先なのだ。




バクバク鳴る心臓。


ギョロギョロ


ただやり過ごすにも、あの、あの目が怖い。


ギョロギョロ


見つかりそうだと思ってしまう。


ギョロギョロ


それが緊張を助長する。




「…行った」


ゴーゴルスパイダーの脅威は、去った。


「ふはぁっ! やべぇ、緊張したっす〜」


「戦った方が気が楽だったかもな」



3人ともが岩にもたれ掛かることしばし。


「よし、行くぞ」


ダンの号令が掛かる。



レダなら、オレリウスから頂戴したチート…じゃない装備で走りきる事が出来るが、今はそうはいかない。


ゲーム内なのに恐ろしい程のレダの危機察知能力から、レダを先頭に、神経を研ぎ澄まして進む。



ようやく抜けた先には、岩が転がる砂漠フィールド。



「…気を付けろ。アナコンダがいるぞ」



レダ君。ミミカサーペントだから。

名前覚えてあげてよ…。



「アナコンダっ!? マジっすか!?」



ほら! ヒナタが間違えちゃうからっ!!



レベル13 ミミカサーペント


アナコンダの様なヘビ型の、砂に擬態するモンスター。



前に会った時は、いきなり足を掴まれて引きずられるわ、砂と一緒に飛び出てくるわ。

中々厄介だったのだ。



情報を共有。


「くくっ、また面白いのがいるな」


「…面白くねぇ」


「そいつ戦ってみてぇっすっーーーーうへぁっ!?」




ずざー



「うぉおぉ! なんすかぁあああっ!?!?」



引きずられる先にはミミカサーペントだ。

例に漏れず、いらっしゃ〜いと口開けて。



「「………早速か」」



噂をすればなんちゃら。



「うぉらぁっ!! っすあああー!!」


剣を振るうも、絡みつかれて噛みつかれて。


ガンっ


噛み付いた頭部を剣の柄で殴りつけ強引に抜け出す。


ガキっ


飛び退きつつ、斬。



「ん? 結構削れたな」


ヒナタの苦し紛れの斬撃は、ミミカサーペントのHPを1割程、割っていた。


「あぁ、あまりHPは高くないっぽい」


「なるほど、当てにくそうだしな」


攻撃をヒットさせるのが難しい代わりにHPが少ない使用なのだろう。



「ちょっとっ! 何他人事にしてんすかっ!!」


「ん? 戦ってみたいって言ってたじゃないか」


「そうっすけど…ああ俺のバカぁー!!」



ヒナタの周りを周回するミミカサーペント。


動きが速い。

背後もすぐに取られてしまう。



ヒナタの背後。


大量の砂が襲う。



ミミカサーペントはその砂にも紛れてくる。

そう、伝えた。


伝えた故に、砂に斬撃を入れるヒナタ。



ミミカサーペントはーー




ーーーーーいない。




「ぐあっ!! っ!?」



砂はフェイント。

本体は真逆から。



「くっそ!」


後ろから組みつかれ締め上げられるヒナタ。

どうしようもなく、動けなくなってしまった。


レダとダンで、無理矢理引き剥がしーー



「ちょっ、レダさん!! 話と違うっすよっ!?」


「…今のパターンは俺も初めて見た」


「あれだな、また早々に倒したんだろう?」



うーん? そんな事ないぞ? 多分。



「あーもう、流石っすねぇっ!!!」



そう吐き捨てて、砂の中を睨むヒナタ。

ヒナタの周りをぐるぐると動き回るミミカサーペントを見逃さない様に。


さっと距離を取ったレダとダン。

今日一番の集中力をみせるヒナタの邪魔はすまい。



ばっと、飛び出た大量の砂はヒナタの左後方から。


そちらに振り向き剣を走らせる。

が、


いない。



また逆からミミカサーペント。



ーーくるり



フェイクの砂を斬った刀身が、止まらない。


まわる、まわる。



1回転。



「ぉおおーーーっ、りゃぁあーーーーーったぁあ!」



ミミカサーペントに、斬撃が届く。



強引としか言えない一撃だ。

入ったのはいいが、ヒナタ自身も回転の遠心力に引っ張られてしまい、追撃には至らない。



「へぇ、1回転ねぇ。レダどう思う?」


「…実用的じゃねぇな」



1回転するには、身体を回してジャンプするか、細かくステップを踏むか。

どうあっても、その間は踏ん張れない。


持っている剣は、ハンマー投げみたいに超重量じゃない。

だから、重い斬撃を生み出す事が難しい。


あとはタイミング。

回り始めた時と戻ってくるまでには当然時間差がある。

ほんの僅かであっても、今のミミカサーペントの様な相手ならシビアだと言わざるを得ない。


囲まれて、という状況でもどうだろうか。

一斉に突撃されて使っても、囲まれているが故にタイミングを誤ればアウト。

当たれば当たるだけ、多少抵抗を受ける故に、余計に威力も期待出来ない。



「…まぁ、嫌いじゃない」


「くくっ、同感。」



ギリギリで、打開策を打ち出さんとする姿勢。


それと、




ギリギリで、楽しそうに笑う、その表情が。




「ーーおっとぉお!?」


ヒナタの足を、尻尾の先で絡めとったミミカサーペント。


そのまま、引っ張らんとーー



「させねぇっすよっ!!」



知らず薄く笑みを浮き出させつつ、


柄を上に、刃を下に。


右手で逆手に握りしめ、


左手は柄の頭に置いて。



真下のミミカサーペントの尻尾へドーン。



砂の大地に縫い止めました。



「…うなぎ?」


「レダ? うなぎは尻尾じゃなくて頭の方を打つんだ」



し、知ってるもん!

みたいだなって思っただけだもん!!!


優しく諭す様なダン。

ちょっとムカついた、ので。



「ダン」


「ん?」


「そんなんだから、彼女出来ねぇんだぜ?」



カチコチに固まった優しいお兄ちゃんを他所に、ヒナタへ視線を戻す。



ありったけの力で身体を捻り、暴れるミミカサーペント。

重心を落として押さえつけに掛かるヒナタ。



さて、ここからどうする?



捻って逃げる事を諦めたミミカサーペント。

ヒナタを締め上げんと上体を起こして迫る。


ヒナタはそれを、狙っていたのか。


すかさず剣を引き抜く。


ミミカサーペントの頭を。


クリティカルヒット。


ノックバック。


斬撃。斬撃。斬撃。



立て続けに撃ち込まれた斬撃に、悲鳴を上げながら、ミミカサーペントは消滅した。



場に残ったのは、



「よっしゃぁあああっ!!」


歓喜のヒナタ。



「…ナイス」


賞賛のレダ。



「…………。」


虚無のダン。




この、3人組である。





ーーー





相変わらずのニヤけた面を引っさげて戻ってくるのは当然ヒナタだ。


「いやぁ、面白かったっす! って、ダンさんどうしたんすか??」


「…気にすんな。それより、やったな」


「すげぇヒヤヒヤしたっすけど、や〜っぱ楽しいっすねぇ、SGO最高っすよ!!」



ダンは放っておいて、2人で盛り上がっている、と。



「…レダ」



お、ダンである。

やっと戻って来たか。



「…ん?」


「…何が…」


「ん? ダン声小せぇ」


「…何が、悪いんだ……?」


「え、お兄ちゃん過ぎるとこ」



ば、バッサリ…。


ダン、撃沈。



「ホント、どうしたんすか???」



何が何だか分からないヒナタの困惑顔もまた、傑作だった。



ぷっ、あははははっ!!



「そんなに気を落とすなって、悪かったよ」


「…いや、落とすだろ…」


「だから、悪かったって。 ほら、先行こうぜ? ダンがその調子だと、纏まらねぇんだけど」



返事が来ない。

こんなに落ち込むなんて…。

ご、ごめんねダン。


珍しく玲奈は謝り倒さない。

常ならば、ごめんなさいごめんなさいと、謝る所。


でも、これ、明るくしないと逆にヤバそう。



「あああああ!! もう、いいっ! もう知らん!!」


えっ!?!?

いや、ゴーレムさん…。



「行くぞ、2人とも」


「はいっす!」「えっと、どこに?」



「ゴーレムに決まってるだろ。まぁ、何でもいいけど鬱憤晴らしに闘いたい」


「…おう」



開き直った、のだろうか?



すたすた歩き出してしまったダンを、慌てて追いかけたレダとヒナタ。


ゴーレムへと至る間、何度かモンスターに会う。



が、



モンスターとエンカウントする度。

無言で斬りかかっていく戦士一人。



その名は、ダン。





ーーー





時刻は5時前。


〈月光花の丘〉が、近づいてきた。



西陽に照らされ始めた荒原は、

赤みを帯び、砂の粒が陽光に煌めく。


岩に反射した陽光を浴び、煌めく砂粒を足下に。



ーーーゴーレムが、静かに。



纏うというよりも、本体である青銅の鎧。

それは今、まるで炉に入れられた様な灼熱の色へ。


丸々とした腕、脚、胴体。

関節部分が小さく、連結部である事が理解出来る。


足先は無い。針だ。

2本の針先が、大地と接している。


対し、拳は巨大。

指も確認される故に、殴る以外にも想定がいる。



全部が美しい。

細部が美しい。




〈ストラフェスタ・オンライン〉のゴーレム。



ーーそれは、荘厳な姿をしていた。



レダ、ダン、ヒナタの3人は、その姿に見惚れた。




レベル15 ゴーレム / ARCHETYPE




名前の後ろに、英語??


視線が集まる。

いや、レダとヒナタの視線がーーーダンへと。



「お前ら俺を何だと思って…、はぁ。 元型、だな」



元型。

つまり、ゴーレムの基本の型?



「プロトタイプって言い方なら、分かるか?」


「あ、それなら分かる」


「へっ? なんすか??」



一瞬ヒナタに視線が行くが…



「…それなら、プロトタイプでいいじゃん。 カッコイイから使ったんだろ、どうせ」


どうせ、そんな事だろうと言うレダ。

因みに井上さんではなく、長谷部さんとかなら使いそうなんて失礼な事を思っていたり。



「アーキタイプ…、確かユングが心理学で用いた概念だ。イメージや象徴を生み出す源とか…、その辺は、なんか似合っている気がするな」



腕を組んで、ふむふむと。


ほへぇ〜。


く、詳しいな…。

得意、なのかな??


「…むずい」「全然、わかんねっす…」


これは流石に、ヒナタ側へ行くことに。



「ま、いいか。闘うには、こいつは燃えるな」



博識な顔から、戦闘狂の顔へ。

その早替わりは、早かった。


レダとヒナタは、理解出来る方へ便乗。



3人で、遂にゴーレムと対峙する。



ゴーレムの感知圏内へと踏み入った3人。

そうすれば、ゴーレムの頭部に2つの火が灯る。



ゴウン、ゴウン


唸る様にも聞こえる駆動音。



ゴーレムの全長は3mを超えているか。


自然に散開。


正面にレダ。

左にダン。

右にヒナタ。



デカい拳が振り上げられる。


まずは、受ける。

受け流すでもなく、純粋に剣を盾にして。



迫る、拳。



「っ! ぐっ、ぁあああっ?!!?」




吹っ飛ばされた。



25mプールは軽く飛び越えた。




軌道は見えていた。

準備は整えていた。


かなりの衝撃も想定していた。


ゴーレムの軌道、自分の位置、タイミング、角度。

どれもバッチリだと思ったのに。



「ぐうっ!!」



着地なんて出来ない。


思いっきり大地を転がり、岩に激突。




HPゲージは4分の1以上も削られた。



レダの、オレリウスの装備にあるVIT補正でもだ。


「ははっ、マジか。 おもしれぇ」



「レダっ! 大丈夫か!?」


立ち上がった所に、ダンから。

ダンとヒナタは、今起こった事を踏まえ、一旦回避に切り替えている。


2人の元へ駆け、大丈夫だと告げる。



「…STRかなりヤバいぞ」


「らしいな。見た目から、VIT値も大分あるかもな」


「速さはそこまでっすね。遅くもないっすけど」



攻撃をかわしつつ、話す3人。



「…飛斬、やってみる」


「おーけー」「了解っす!」



レダが下がると共に、2人も射線を開ける。



振り絞っての飛ぶ斬撃はーー




ーーー儚く散った。



「嘘だろっっ!!??!!?」



今の飛斬は、流麗度のエフェクトも相当輝いていた。

それが…



ノーダメージ



どういうコトだ!

少し所じゃない、完全な、ノーダメージ。



これに驚いたのはレダだけではない。


ヒナタは、驚きに固まってしまいゴーレムの拳を受けて吹っ飛ぶ。

HPは一気に8割消失。


ヒナタはこれまででレベルが1上がって今11。

レベル差は大きいが一撃でこれはヤバい。


このゴーレムは、中ボスかどうかなのに。



レダが戻って、ダンがヒナタを回復。



「…どうなってる!」


これは、理解が出来ない。

自分の攻撃に自信があったとかじゃない。

攻撃がヒットしたのにノーダメージなんて。



「いってて。ーー不具合っすか??」


「……レダ。普通に打ち込んでみてくれ」


「え? あぁ…」



ゴーレムの攻撃は脅威だが、かわせばいい。


やってきた拳をかわし、腕が伸びきったタイミング。

そこに上段から斬撃を。



ザンっーー



「…えっ!?」



恐ろしい事に、ボスでもないってのに0.5割しか削れないVIT値…


じゃなくて、攻撃がヒット。

ゴーレムのHPゲージが0.5割消失。



「やっぱりな」


ダンは、そう言ったダン自身の言葉に頷く。



「どういうことっすかっ!?」「…説明しろっ!」


全然分からないヒナタとレダが叫ぶのは当たり前。



「たぶん、与えたダメージ量が少ないと、無効になるって事じゃないかと思う」



そう、このゴーレムは、ある一定のダメージ量を下回るとそのダメージを無効とする。

与ダメージに下限数値が設定されているのだ。



「…っておい、俺のSTRでこれだけしか削れねぇんだぜ? ヤバくないか??」


自分で言うのもあれだけど。


「確かにな。はぁ、こりゃ本当に腕試し、だな」



3人が今クリアを目指すクエスト。


それは、ガルドの()()()



「ちょ、…ダンさん。あのおっさん、1人1つって…」


「「あ。」」



ガルドは言った。確かに言った。



「ぱ、パーティクエストだ。さすがにそれは…」


「…なら、わざわざ言わねぇんじゃ…」



ずーん。


もし、クエストアイテムがゴーレム1体で1つなら…。

考えたくもない。



「まぁ、動きはトリッキーじゃない。しっかり回避して着実にダメージを重ねればいい」


それしかないな。

ダンの言葉に頷いて、今まさにレダに迫っていた拳をかわーーーすぅ?



ゴーレムは、拳を開く。


いつもの如く紙一重で回避しようとしたレダはーー




ーーーーー掴まれた。



「なっ! ちょっ!!?」


掴み上げられる。



そうして。



ドダァーーーン



大地に、真下に向けて投げられた。

いや、叩き付けられた。

いや、押し潰された。



「ぐっ、はぁっ」


痛みはない。システム的に。


だが、胸の圧迫感。


これはシステムか、心理か?



HPは、5割(イエローゾーン)手前。



「っマジ、かーーーっ!?」


引っ張られる。

直後、すぐ側で轟音。


見れば、今自身がいた所にゴーレムの拳が刺さっている。


「大丈夫かっ!!」


至近距離で聞こえた声は、ダンのもの。


「すまん。助かった」



助け起こされ、3人で一旦退避。


「やっべぇっすね」


ヒナタの言う通りだ。

もし今のをダンかヒナタが食らえば、一撃死だって有りうる。

だが、



「ぞくぞくするっす」



この状況で、獰猛な笑顔も3つ。


示し合わせることもなく、3つの影が飛び出した。



その内最速で飛び出したのはレダだ。


走破と跳躍の二重使用。

一息で距離を詰める。

更に空中跳躍へと繋げ、ゴーレムの頭をぶっ叩く。


クリティカルヒットでも、ダメージは先程よりまぁ多い程度。

一瞬動きを妨げるくらいのノックバックがついた。


その隙を逃さずに斬撃を打ち込むのはダンとヒナタの2人。


ゴーレムが動いた所で2人は多少下がる。


「ヒナタ、なるべく関節を狙え」


「了解っすー!!」



ゴーレムの攻撃は、


拳撃。

利き手の概念はなく、左右のどちらも変わりはない。


掴みあげ。

拳の様に掴もうと迫ってくるものと、すくい上げる様に迫ってくるもの。


3方から完全にとり囲めば、両腕を広げて足首など無い針先で、滑らかにくるりと回転。


これだけだ。



立ち位置を互いに意識しつつ、ゴーレムの腕をしっかり見ていれば何とかなる。


ダンとヒナタは、掴まれるのを回避する事を最優先にヒットアンドアウェイ。

を、繰り返していたが、大した時間もかけずにモーションやタイミングを掴み、徐々に距離を詰めていた。



レベルが上のダープレゼルに突っ込み、ガルドに噛み付いたヒナタ。

この数時間でそのヒナタは、心に熱を保ちつつ、頭は氷の如く冴えた戦士へと変貌したか。

ダンに引けを取らない闘いぶり。



全員で、確実に着実にダメージを重ねる。



はぁああああっ!

うぉああああっ!

どりゃぁああっ!



3つの斬撃が同時にヒット。


膝をつき、瞳の灯火が消えーー



ゴウン



最後の駆動音が、大地に響いた。




よっしゃぁああああっ!!


3人共が、勝利の雄叫び。



「ふへぁ〜、やばかったっす…」


「…面倒な相手だったぜ…」


「全くだ。…さて、クエストアイテムは…」



各々のアイテム欄を覗き込む。


「…無い。」


「俺も無い。」


「あったっすっ!!」



[機械鎧の欠片]を、ヒナタがまずゲット。

やっぱり一度にクリアはさせて貰えないらしい。


「…あと2回か」


「やるしかないぞ。ま、コツは掴んだんだから、まだましに行くだろうさ」


「はぁ〜いっすぅ〜」


ヒナタの気の抜ける応答に、釣られそうになるが、


「…次は、もっと受け流しやりてぇ」


「いいな、俺も狙ってみるか」



「……流石っすね…。」


ヒナタは、レダとダンに近づけているのではと、淡い期待を持っていた。

しかし、同じ事を繰り返すつもりが微塵もない2人。


呆れつつ、憧れつつ。


そして、共感を持つ。



ヒナタは気づかなかった。


「共感を持った」


これがレダとダンに近づいた証左であると。





さて、その後。



残念な事に、クエストアイテムは倒せば必ずドロップする代物ではなかった。

しかもトレード不可。


結局3人が倒したゴーレムは10体。

おかげで、3人ともがレベルアップを果たしたのだった。





ゴーレムさんつおい…



次話、月光花の丘ふたたび

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