迷宮は身近に
今日も今日とて<ストラフェスタ・オンライン>へ。
ログインした場所は昨日の小さな広場。
フレンドリストを開くと、
ダンはまだオフライン表示。
今日は11時頃にログインすると昨日聞いていた。
さて、どうしよう。
フィールドに行こうか?
あのゴーレム、結局行けてないし。
あ、でもダンもゴーレム見たいって言ってたしなぁ。
とりあえず、と歩き出したレダ。
大通りに出れば、やはり視線の嵐。
(おっ、レダだ)
(お前、話しかけてこいよ)(え、オレ?)
(レベル15とか、やべぇな)
(ダンジョン行ったってマジ?)
(おまっ、動画見てねぇのかよっ!)
(な、見てくるわ!!)
はい。レダ君はおじじのおかげでレベルアップ。
現在レベル15なのです。
今現在の他のプレイヤー達のレベルは、上位層で10前後となっている。
「よう!レダ、ダンジョンクリアしたって?ーー」
あぁ、そうだけど…
「レダさん!昨日の動画見ました!!ーー」
そ、良かったな…
「おーい、レダ!空中ジャンプのコツってーー」
あれはこうやってだな…
「お、今日ダンと一緒じゃねぇの?んじゃ俺らとー」
いや、悪いが後でダンと落ち合う事にだな…
四方八方からお声が掛かる。
だからーー
ぬぁあああああああああああああああ!!
耐えきれなくなった。ほんとに。
人と人の壁、ほんの僅かな隙間を捉えーー
脱兎のごとく、逃げ出しました。
ーーー
ぜぇ、はぁ、ぜぇ…
あ、圧死するっ!!
がむしゃらに駆け込んだ道端でしゃがみ込む。
「はぁ、ーーーここ、どこだ?」
マップを見れば、第1の街の北門付近。
大通りから外れた所のようだ。
まだ、北門の先には行ったことがない。
この辺りも、踏み入ったことはなかった。
まぁ3日目だしね。
大通りを目指しつつ、ぶらぶら。
昨日は、ライトマン達が、街の便利屋なるショップを発見してくれたことで、ダンジョンに挑めたのだ。
この教訓から、色々回ってみることにしよう、と。
ざっと周りを見渡しながら歩くが、続くのは家々だ。
広大、巨大な第1の街。
1万人という第1次プレイヤー。
第2次プレイヤー募集は既に開始されている。
その後も増えていく、人口。
その為、アイテムショップは各地に数十軒レベルで存在。
プレイヤー達が集まれる広場も多い。
そして、ショップや広場の間を繋ぎ、街のほとんどを構成しているのは、クエスト関連のNPC等の施設の他にーーー
ーーー家。
プレイヤーハウス。
または、ギルドハウス。
第2、第3…増えるプレイヤーの為、用意するプレイヤーハウスだってその数と同等以上。
無論、第2の街、第3の街と、そこにも大量に用意されているだろう。
フィールド各地の村の様なエリアとかにも。
因みに、このプレイヤーハウス。
めちゃ高い、のはお約束。
そんでもって、大通りに近いほど高くなる、という地価も…。
「…プレイヤーハウス、か。いずれ欲しいよな」
木造、レンガ造り、漆喰の壁…
「…普通に悩むだろ、これ」
周りをきょろきょろ、2階辺りを見ようと上を向いている、と?
いい匂い。
美味しそうな、いい香り。
甘く、甘酸っぱく…
完全に匂いに釣られてふらふら幽鬼のように。
あった。『シャトー・リリアン』洋菓子店
ーーチリンチリン
懐かしい鈴の音を聴いて店内へ。
アンティーク。
艶やかで味のある、木目のはっきりした落ち着いた色の木材で統一。
シンプルな窓枠から差し込む明かりと、天井から揺れるランプの灯り。
目の前のショーケースの横にはカウンター。
テーブル席が5つほど。
甘い匂いと珈琲のかぐわしさ。
「いらっしゃいませ」
出てきたのはこれまた渋い洗練された出で立ちのマスター。
「あ。こんにちわ」
向けられた穏やかな笑みに、自然と玲奈に戻される。
「どうぞ、見てやってください」
指先で示されるはショーケース。
「あ、はい…」
どうするとかじゃなくて、見てやってくださいって…
この人、ほんとにNPC????!
言葉のチョイスに感動しつつ、そろそろと近づけばーー
「うわぁ、ーーー美味しそう。」
ツヤツヤとコーティングされたフルーツタルト。
イチゴが目に留まるショートケーキ。
層が幾つも重なるチョコレートケーキ。
生クリームがちょこんと乗ったプリン。
生地がさくさくだろうシュークリーム、etc…
ふふっと漏れ聞こえた笑い声。
顔を上げれば、見えるマスターの柔和な口元。
こ、こいつ絶対中身いるだろっ!!
「あ、あの。フルーツタルトを一つ」
言いながらも手先で示せば、深まるマスターの表情。
ん?食べない選択肢などあるものか。
「店内でお召し上がりますかな?お持ち帰りも出来ますよ」
「え、あ、食べていきます!」
「かしこまりました。お好きなお席へ、どうぞ」
促されるままに、窓際の席を選んで。
すぐに持って来られたお盆にはーー
ーーフルーツタルト。そして、1杯のコーヒー。
「珈琲はいかがですかな?紅茶もありますよ」
「コーヒーでっ!」
マスター、最高すぎるだろっ!!?
ふわっとやってくる香りに鼻がひくひくと。
「どうぞ、ごゆっくり」
「はい!ありがとうございます!!」
あれ、プレイヤーとNPCってなんだっけ?!
うわぁぁ、美味しそう~
フォークがすっ、と入り、硬い生地に当たる。
口いっぱいに広がるフルーツ達の甘酸っぱさに、それを押し上げるように引き立たせるカスタードクリーム。
食感のアクセントに、ザクザクとしたタルト生地。
「ふわぁあ~、おいしぃ~」
一口食べて、珈琲へ。
口内を洗い流す酸味、そこから流れてくるはコクのある深い深い苦み。
「っ~~~~~~~」
最早言葉も出ない。
そこからは無言。
ひたすら感じる味覚に舌鼓。
この味覚も当然、脳内に直接送り込まれた信号なのだが、そんな事考えない。
考えたら負け、そんな気がする。
どっぷり幸せに包まれて、珈琲をおかわり。
お勘定は既に終わっているのだが、カウンターにいるマスターへ。
「とっっても美味しかったです!ご馳走様でしたっ!!」
「ははは、それは嬉しいですな。是非、ごひいきに」
「はいっっ!!」
だから、NPCだって……
絶対また来よう。いや、毎日来よう。
ダンにも食べてもらいたいな。今度連れてき…
あ、そういえば。
「マスター!お持ち帰り、出来るんですよね!!」
「ええ、そうですよ。ふむ、シュークリームはどうですかな? 冒険の間でも、手軽に食べられるでしょう?」
な、なんと!!
確かにシュークリームなら、手で持って食べられる!
ここまで考えてくれるなんてっ!!
「うん!そうするっ!!マスター、シュークリーム……10個!」
「はっはっは、10個ですか。承知いたしました」
わ、笑われちゃった…。
ーーー
るんるん。るんるん。
パクっ
「~~~~おいひぃ」
『シャトー・リリアン』を出た玲奈は、10mも我慢できずにシュークリームを食べだしていた。
るんるん、るんるん、上機嫌。
「るんるん、るんる……あれ?」
目の前、壁、突き当り。
「ーーーーーここ、どこ?」
マップを見れば、大通りとは離れ、街の北西部のど真ん中。
シュークリームに夢中で、1㎜も周りを見ていなかった。
道も適当に。左右どちらに行くかはフィーリングで。
…玲奈にフィーリングで歩かせてはいけない。
初日にオレリウスと出会ってしまう子なのだから。
マップを頼りに、また大通りを目指す。
のだが。
行き止まり。
分かれ道。
一本道。
そっちへ行きたいのに曲がる所がない。
分かれ道なのだけど、行きたい方向ではない。
方向ばっちりの道へ入ったが行き止まり。
「うがぁぁあああああああああああああああ」
えぇ、ここは街中。
直線的には進めない。
けども、ここまで行けない理由。
マップには、主要な通りのみで、ここまで細かい路地は載っていないのだ。
さらにこの辺り、非常に入り組んでいる。
区画は整理されておらず、道幅も一定ではない。
分かれ道だって、5本とか変則的な所も。
人一人歩くのがやっとの細い路地も走っている。
よく行きあたるのが行き止まり。または公園という名の行き止まり。
「なにここっ!!良いよ、とても良いよ!凄い中世のさぁ!入り組んだ街並みのさぁ!雰囲気がさぁ!!」
「あぁくそっ、マップ大きくしてもダメか…」
…………。
「ーーーま、迷子だよぅ」
ゲームの中でこんなリアルな迷子って…。
こうなったら、適当に走っていればーーー
ーーダメだ。適当に行っていい方向に行く気がしない。
ならば、ヘンゼルとグレーテルだ。
何か目印を……しゅ、シュークリームはだめぇえ!!
どうしよう…。
まだダンがインするまで1時間はある。
キリュウ達は…?
いや待て、来てもらっても一体どうするのだ。
迷う人数が増えるだけだろう。
打開策を練れないかと考えながら、歩みを止めず、シュークリームも離さない。
「くっそ。何も思い浮かーーーーー、お?」
人影が。
NPCっ!?
これで道が聞ければっ!!
「あっれ~?絶対こっちだと思ったのになぁ~?あー、東門どこよ?」
………。
プレイヤーだ。プレイヤー表示出てるもん。
そんで迷ってるよ、同じ迷子だよ。
でもさ、ここは北西部なの。東門って…。
こいつ一体どこから迷子に??
東西南北にでっかい大通りがあるだろう?
それで逆側に来るってどうよ…。
「……おい、あんた。あんたも迷子か?」
まぁ、自分も結局迷子なのだ。
何事も助け合い。
「うわっ!びっくりしたぁー、あ、そうそう迷子なんすよ~。あんたも~ってことはお仲間っす……か……え、レダって……本物?……つか、何食ってんすか?」
髪が黄色味でやんちゃな顔つき。
かなり高い位置にある彼の表情は、ツッコミ満載といった発言通り、疑問でいっぱいだ。
「…何って、シュークリーム」
「や、それは見りゃ分かるっすけど…」
まぁ、最強プレイヤーと呼び声高い奴がシュークリーム食ってたらそれはツッコミたくもなるか。
「何でシュークリーム食ってんすか」
「…美味いから」
「ぁ…そっすか」
何故か気まずい雰囲気。
むぅ、美味しいのに。
あのマスターの素晴らしさがわからんとは!!
メニューを操作、シュークリームをもう一個。
「…食う?」
「へ!?…え、と、あ、じゃあ…」
差し出したシュークリームを控えめに受け取るやんちゃ君。
一瞬、じっ、と見つめ、勢い良く口へ。
「っ!??!ーーーーーうっっまっ!!!」
一声漏らして一気に食らいついていく。
「なんすかこれ!! マジ美味いっす! んは、やべー、超やべー!」
そうだろう、そうだろう!
やはり私の見立ては正しかったんだ!
頷きながらニヤついた口元をマフラーで隠す。
「つーか、レダさん甘党なんすね。クソ意外っす」
く、クソ意外!?
「…別に、美味けりゃ何でも食うけど。迷ってる間に見つけたから」
「なるほどっす!ーーーつか、レダさんも迷子とか、ウケる」
「ここは誰でも迷うーーーー笑ってんじゃねぇよ!」
長身を折って腹から笑ってやがる。
お前も迷子だろうがっ!!
「はぁ、もういい。俺は行く」
「ちょ! 待って待って、俺も行くっす! 俺もう2時間くらい彷徨ってんすよ〜、助けて下さい!」
…2時間、だとっ!?
ほんとに懲り懲りしているのだろう。
シュバっと腰を折って頭を下げてくる。
「…わかった。1人より2人だろ」
「あざーーっす!」
ま、一緒に行くことにはなるか。
歩み寄って、今度は手を。
「…俺はレダ。よろしく」
「へ…ぁ、俺はヒナタっす! おねしゃ〜っす!」
握手を交わし、さぁ、行こーーー
「え、お前…ヒナタ? え、イメージ違ーーー待て、それリアルネームなんじゃ??」
「そっす! 名前考えるのダルいじゃないっすか!」
「ダルいって……まぁ、それだけでリアばれはーーー
ーーー有り得るんだよ馬鹿たれっ!!」
顔身体は完全な別人には出来ないのだ。
玲奈のような完全イメチェンは出来ても。
顔も似てて名前も一緒じゃ、はい本人!だろう。
ここはVR、リアばれについては前々から色々言われていたのだが…
つか、ヒナタって可愛くね?
「…行くぞ、はぁ」
私達はまだ知らなかった。
ここは、ーーーー誘惑の迷宮であることをぉ?
ーーー
レダとヒナタ。
低身長と高身長。
クール系とやんちゃ系。
凸凹コンビが歩き出して数十メートル。
「レダさ~ん、見て見てあれ! 面白そうっすよ~」
「…何?」
「ダーツっす!!」
「はぁあっ!?」
ヒナタが覗き込んでいた店の窓に近づけば、確かに的がある。
が、ダーツではなくーーー
ーーーナイフ投げ。だ。
「面白そうじゃないっすか! やってみたいっす!」
「や、早くここから出ようーー
「え、レダさんやりたくないんすか?」
ーーーやりたい」
「っしゃ!レッツゴ~」
制止虚しく。ヒナタは早速店内へ。
うん。ぶっちゃけ、うん。興味があるのだ。
しょうがないな、という表情だけ作って後に続く。
暗めの店内には木の的が3つ。
それぞれの手前に置いてあるテーブルには5本のナイフ。
テーブルの足元には立ち位置を示す印が。
店員のNPCのお兄さんに料金を支払って位置へ。
「レダさん、何賭けます~?」
「…え、金?」
「あ〜、じゃあここの料金おごりでどうっすか」
「乗った」
ナイフを持って位置につくと、基本の<投擲アシスト>で構えの補助が発生。
なるほどな、と呟いて的目掛けてナイフをーーー
ガンっ
「あれっ?!」
ーーー柄の部分が的に当たってはじかれる。
トンっ
いい音に釣られて視線が横へ。
「…なんで?」
「へっへ~ん、どうっすか、どうっすか!? 俺、レダさんに勝っちゃうかもっ!?」
くっそ!ムカつく!!
むすー、とむくれて次のナイフを手に取った時。
「手首を固定しろ。回転がかかってる」
後方からアドバイス。
寄ってきてくれたのは、店員さん!
「短い距離で回転をかければ、柄が向く事も増える。初めは、アシストに任せればいい」
「っは、はい」
細身で強面というより、かっこいい、お兄さんが手取り足取り。
玲奈ちゃん、ちょっとドキドキしてるのはご愛嬌。
お兄さんに言われた通り、手首をしっかり固定して
トっ
上手いこと刃が的を向いて刺さった。
まぁ、向いただけで真っ直ぐではないし、得点ラインからは外れている。
難しい。が、かなり楽しい。
「レダさんずるいっすよ! おにーさん、刃のとこ持つやつあるじゃないっすか! あれやりてーっす!」
「あれは今より少し回す必要がある。それと、重心が変わるな。好きにやってもらって構わんが、賭け勝負してるんだろ?負けても知らねぇぞ」
「やべっ。レダさん、負けねぇっすよ」
「…望むところ」
そうして、投げ合った結果。
「ちぇ~、負けた~」
勝ったのはレダ。
ふふん、と鼻にかけて料金を請求。
まぁ、結局まともに的に入ったのはレダが2本、ヒナタが1本と、低レベルの戦いであったけども。
満足して退店。今度こそはとーーー
「レダさんレダさんっ!」
「…今度は何」
「ここの防具屋、見た目かっこいいの多いっすよ!」
「…マジか」
ーーー速攻で寄り道しました。
レダの防具は、ステータスも第1の街では手にできない類のものだ。
けども、MMOゲーマーたるもの、装備品は気になるのである。
店内に飾られている防具は、ステータス的には他のショップで売られているものと変わりはない。
が、ヒナタの評した通り、見た目がスタイリッシュなものが多かった。
じっくりと装備品を見て回ってやっと退店。
「…はぁ、今度こそ行くぞ」
「アイアイサー!」
ヒナタが2時間も彷徨った理由は寄り道以外にないだろう。
このまま行けばいつまで経ってもーーー
「レダさん~」
「ダメだ」
「え、まだ何も言ってないっすよ…」
「ダメだ。これじゃあーーー
「ここのプレイヤーハウス、見学できるらしいっすよ?」
ーーーはぁっ!?マジでかっ!!」
ーー二人が出られるのはまだまだ先のようです。
プレイヤーハウス、やっぱり欲しい。
二人が踏み込めば、案内役のお姉さんが。
いらっしゃいませ、と挨拶を受け、中へ。
様式は洋風。
リビングはダイニングと一緒になっており、奥にキッチンも見える。
収納スペースはアイテムボックスがある故、かなり少ない。
広々とした部屋にソファとローテーブル。
そしてーーー
「このハウスの特徴の一つが、この暖炉になります。
薪といった物は特に必要ありませんし、実際に暖房機能があるわけではありませんが、やはり見映えでしょうか。暖炉の火というのはーーー」
どうやら、プレイヤーハウスの一軒一軒に、色々とこだわりがあるらしい。
更に寝室なども見せてもらい、大満足で退室。
「あぁあぁーー!!進まねぇーっ!!」
「っすよね~」
「お前が妙なの見つけてくるからだろうがっ!」
さて、その後。
焼き鳥屋、焼肉屋、日本食、洋食、中華等のお店。
なんと色々なアイテムが出るカプセルトイの専門店。
見た目の髪型を変更できる美容室。
PVPではないが、サバゲーの剣バージョンのチャンバラごっこ施設。
バッティングセンター的な遊び場。
室内釣り堀。
などなどなど。
あとは、
それはもう様々な衣装を着てスクショを撮れるという、コスプレ?写真屋とか…。
まぁ~ヒナタが見つけてくるのだ。
気になってしまうが為に逐一入ってしまい、
結果。2人で彷徨うことおよそ2時間。
「なんでだぁあああああああ!!!」
である。
マップでは、ほとんど動いていない。
「なんなんだここ。誘惑のパラダイスかよ、色んな露店が出てるお祭りですらねぇよ。魅惑のねぇちゃんのパラダイス、夏の浜辺レベルだろ」
「いや、レダさんその表現謎すぎるっす…」
元凶ヒナタにツッコミを食らうレダ。
それすら無視して頭を抱えているところにーー
ーーピロピロリン、ピロピロリン
音声チャット、ダン。
『よう、大分遅くなってすまん。今いいか?』
「…あぁ、…大丈夫…じゃない」
『え、かけ直すか?』
「いや、そうじゃない」
『そ、そうか。えっと、今日どうする?ゴーレム行こうって言ってたが、今から行くか?街にいるようだけど』
あぁ、うん。
そうだった、ダンを待つだけだったのに。
「………街じゃない」
『は?フレリスにはそう出てるが?』
「うん。でもここは迷宮だ」
『えーっとレダ?もうちょっと具体的に』
「………迷子(ボソっ」
『ん?』
「迷子になってる。助けて…」
『ーーーーーーはぁ???』
かくかくしかじか。事細かく事情を述べる。
その間、ヒナタは新たなスポットを発見したらしく、近くの建物へと吸い込まれていった。
『くっ、くくく…クスクス、プっ、クスクスクス』
「…笑いごとじゃない。ダンも来てみろよ」
『いや、笑うしかないだろ。お前、ほんと現代っ子だな、クスクス』
?現代っ子とな?
ダンもそんなに変わらないだろうが、何故その様なことを言われなければならないのか。
『はぁ。ここまで細かいと、メニューに表示すんのは普通にしんどいだろ。』
「…あぁ、うん?」
『街の便利屋、覚えてるよな?』
「当然」
『置いてあったぞ』
そんな事言われても?
いったい何のことか、皆目見当がつかずに首をかしげる。
「何が?」
『街の情報誌』
思考停止。
「…………………は?」
『だから、ガイドマップだって』
『フリーペーパーみたいに置いてあったぞ』
『リアルでも観光とか知らないとこ行って、ただのマップだけ見るやつがどこにいるんだよ』
『普通ネットとか、ガイドマップとかガイドブックとか見るだろ。クスクス』
『そんだけ、スポットがあって、クスっ、情報誌みたいなの無いとか、くくっ』
『このリアリティ重視のSGOにあるわけないだろ、ぷぷっ』
『そこ全く思いつかないとか、レダちゃんは純粋ですなぁ~クスクス』
………………。
ガチャン、バタンっ!
「あ、レダさんこれ見てーーーー」
ヒナタをガン無視して店員のいるカウンターの方へ。
飾りでしかないレジの横。
ご自由にどうぞ、と書かれたラック。
そのうちの一枚。
街のガイドマップ。
「…くそぉぉおおおおおおおおおおお!」
全く、一ミリも考えていなかった。
こんな、アイテム化されているだなんて。
というか、ゲームの中でこんな、フリーペーパーとか。
マップは便利なものだ。
道を検索するのは一番良い。
全く知らない、遠方の土地ならどうか。
道はわかっても、知らない土地であることに変わりはない。
更にここは、ただただプレイヤーを迷宮へ誘うところではなかったのだ。
「ストラ商店街」ガイドマップ
開いてみて分かったこと。
ここは一種のテーマパークのような、商業施設のような。
1番ぴったりなのは、巨大アウトレットモール。
自分達が入った所だけでもう、多様な店舗ばかり。
出入りする所はそもそも、3カ所しか存在しなかった。
『シャトー・リリアン』は、出口の内の1カ所、そのすぐそばに。
「…ヒナタ」
「ん、はい?」
「…戻ろう…。」
ガイドマップを手に、レダとヒナタは念願の大通りへ。
レダは途中、『シャトー・リリアン』でやけ気味にシュークリームを大量購入。
後に、レダが街中やフィールドでシュークリームを口にする姿が散見されることで付いたあだ名。
「シュークリーム狂いのレダ」
でした。
リアルが忙しくって、濃い内容にならなかっ…
ごめんなさ〜い
次話、レダとダンとヒナタとゴーレムさん達