SNSは慎重に
第1の街へ戻ってきたレダ達。
時刻は6時に迫ろうとしていた。
キリュウ達はまた3人で行動するとの事で、レダとダンのコンビ復活だ。
だが、まぁ…疲れたのである。
昨日のオレリウスと闘った後はまだ動けた。
というより、ご飯のお時間が迫っていたからだけれども。
しかし、今日の晩御飯は7時半だそうだ。
「ダン、どうする?」
「うーん。動きたくないな。」
「…同感。」
「あ、ダンジョンの情報上げないとな。でもその間、お前暇になるか?」
「いや、手伝う。」
ダンにばかりさせる訳にはいかない。
今日だって、指示とかロープとか、色々と。
ありがとう、と言って頭を撫でてくれる。
ダンの手はすごく優しくて、つい甘えてしまうのは自覚があるほど。
流石に自分達は視線を集める為、のろのろと歩く。
見つけたのは、小さな憩いの場。
ベンチに座り、あれこれ言いながら。
自身はそういう、書き込みなど得意ではない。
だから、本当にただのお手伝い、しか出来なかった。
「ふぅ、助かった。ありがとな。」
「ちぇ。何もしてねぇよ。」
ぷぅ、とむくれてみせればーーー
ーーーなでなで。
ホント、助かったって。そう言いながら。
ダンって、お兄ちゃんみたい。
一緒にいて安心するんだもん。
…はっ!!そうかっ!!
きっとダンには妹さんがいるんだ!!
だからなでなで上手いんだ!!
「…ダンって、絶対妹いるだろ。」
「いや?いないが?」
「…?…はっ、嘘、うそうそうそうそっ!!絶対嘘だろっ!?絶対いるだろっ!?」
「どうした?俺には姉が一人いるだけだ。どうして妹がいるって?」
「…………撫でるの上手いから。」
「は?ーーーーぷっ、くくくっ」
また、ダンの手が伸びてきて、撫でられる。
「くく、つまりなんだ?俺がお兄ちゃんにでも見えてきたか?」
うっ…。その通りですよっ!!
え?ホントにいないの??
あぁっ!そうか!!
「彼女さんが??」
「…………………。」
沈黙。間。つまり、
「あ…悪い。」
とりあえず肩に手を置いてみたが、効果なし?
「友達としてはいいけど、恋人としては見れないそうだ。」
うあぁあ!!凄いリアルっ!?
開いちゃいけない扉を、パンドラの匣を開けてしまったぁーー?!?!?
「はぁ、その撫で方が上手いってのは、姉だよ。姉が上手いから、真似して、だな。」
また撫でられた。
「それにお前、気持ち良さそうにしてくれるからな。」
「ぐっ。」
クスクスと、笑ってくるダンさん。
それでも、やっぱりいい奴。
それでも、戦闘時のダンさんはーーー
ーーー確実に、自身と同種。
同じ穴の狢、かな。
「お前、この後どうする?」
「んぁー、もうそろ飯落ちするかな。その後はーーー疲れたし、気分次第。」
「俺もそうなりそうだな。ーーそうだ、ストチャ交換しないか?良ければ、だが。」
「えっーーーーーするっ!」
「…あー、提案した俺が言うのもおかしいが、お前、男女間って言葉知ってるか?」
「ダンはお兄ちゃんだから大丈夫っ!」
「…えっ…。」
SGOには、専用のSNSアプリがある。
〈ストラフェスタ・チャットライン〉通称ストチャ。
ゲーム内というより、ゲームとリアルを繋ぐもの。
先程も、これでお母さんに晩ご飯の時間を聞いたのだ。
普通のSNSのように、双方が現実にいても連絡出来る。
これで、今日どちらかがログインしても、いちいちフレンドリストを確認せずに、聞けば良いのである。
なんだか妙な顔をしているダンに、早く早くとせがむ。
ちょっとぎこちないダン。
「どうした?」
「…いや、その信頼がすげぇプレッシャーに…。」
「ん?声小さくて聞こえないんだけど。」
「はぁ。わかったわかった。どうせそんな気は無いしな。ーーーほら、俺のアカウントID。」
わぁい、と無邪気に喜んで登録。
「ん、よしーーーじゃないっ!!おいこらレダっ!!リアルネームじゃないかっ!変えろ、いますぐっ!」
レダのストチャの名前表示はーーーー玲奈。
「あっ!っでもお母さんわからなくならないかな?」
「お前の親御さん、お前以外に誰か登録するのか?」
「…しない、かな。」
「ならいいだろう!?ちょっとホント、焦るから!」
んしょんしょ、とレダに変更。
良く考えれば、誰かとアカ交換するとは思っていなかったのだ。
はぁー、と完全にベンチの背もたれに身を預けるダン。
何故そこまでに至っているのかは良く分からないが、リアル情報を垂れ流してはいけない事は自身も分かっている。
反省。猛反省、である。
「ま、これで、何かあったら連絡してこいよ。」
やっぱり、ダンはいい奴。いいお兄ちゃんである。
それとーー
ーーダンの恋人が出来ない理由を体感した気がする。
ーーー
じゃあ、と言ってログアウト。
被っていた端末を外し、身を起こす。
身体は疲れていないはずなのに、なんだか重い。
よいしょ、とベッドから出て、リビングへ。
ドアを開けるとーー
「れーなぁー!おかえり?」
「あ、もかちゃん、来てたんだ。」
ーー幼馴染の新田桃香がいた。
「いつから居たの?」
「んー、30分前くらいよ。」
「起こしてくれても良かったのに。」
「あははっ!れーながハマってるって言うじゃん?邪魔しちゃ悪いしー。」
幼馴染の桃香。
愛嬌のある、笑うとえくぼに八重歯を見せる顔。
日焼けして多少茶色掛かったショートヘア。
これまた小麦色に焼けた手足は、流石テニス部員、しっかりと筋肉が。
桃香の家は、この隣。
ご両親とも、同じ職場で働いており、修羅場が来ると二人共会社に泊まりこむ事が時折発生。
その時は、うちで晩御飯を共にする事が多いのだ。
桃香との付き合いについては、
幼稚園からの〜、ではなく、もう赤ん坊からの付き合いになる。
そして、桃香ーーもかは、玲奈がSGOを遊んでいる事を、勿論ご存知だ。
「どーお?楽しい?」
「う、うん。すごく楽しいよ。」
流石に、レダである事は知らない。
というより、昨日の今日。
昨日は桃香と連絡などもしなかったし。
「でもさぁ、もう昨日今日とどこもSGOの話ばっかり。玲奈も遊んでるし、ちょっと見てみたけどーー」
凄いのね。と。
「もうあの、レダってプレイヤー!!動画見たけどとんでもないじゃん?」
はぅっ!
「ボスモンスターを一人で倒したりさぁ!」
ぐっ!
「オーク、だっけ?あれと戦ってるのなんてもう人間離れしてんじゃん」
にんっ!?
「さっき上がったやつ!壁垂直に走ってんのよっ!!信じられないわー。」
ぐはぁっ!
ってか、ダン!!あの時の上げたのかよっ!?
一言くらい言えっ!!
「ねぇねぇー、れーなはレダって見たことある??同じゲームしてるんだし」
ふぇっ!?!?
え、え、うん。もちろん?
だから私だものっ!!
桃香の目を見れない。
いや、目を合わせちゃダメ。
桃香は勘がいい。
初対面の人であっても、何かあればすぐ気づく。
赤ん坊からの付き合いだ。私のことなんて、現段階の挙動でもうやばいやばい。
「えっと、あ、ある!見たことあるよっ!!うん」
そうだ。見たことはある。
メニューの自身のアバターだけども…。
「…へぇ~、いいなぁいいなぁ。あたしも応募しよっかな、第2次ソフト」
「えっ、うん、うん!いいと思う、すごく楽しいから!」
ーーピロリンっ
私のスマホ。
さっきの今で、もしかして、と思うのは可笑しいだろうか。
画面を開いてみれば、嬉しい表示。
ダンからだ。
気になる!
だけでなく、このままでは桃香に怪しまれてしまう。
一言、断りを入れてーー
(よう。ダンだ。改めてよろしくな。)
(俺、9時すぎた辺りでインするわ。)
(強化素材が気になるから、ショップ覗いてみる程度だけど)
ーーー(あぁ、よろしく)
ーーー(俺も気になるな、それ。インするか、まだわかんねぇけど、9時ごろにまた連絡するわ)
(了解。んじゃな)
そうだった。あの素材、疲れて完全に後回し状態なのだ。
笑みを浮かべて身体をひょこひょこ揺らす。
「れ、い、な~?楽しそうね、誰とおしゃべりしてんのかなー?」
「…あ。もかちゃん。」
「あ、って言った?もう、完全にあたしの事忘れてんだから」
ご、ごめんなさい。否めない…。
「その、ゲームで知り合った人と…」
そう言った途端に、目を大きく見開く桃香。
身を乗り出して、
「れーな?その人って、女の人?」
「ううん。男の人だよ?」
どうしてその様なこと聞いてくるのだろうか。
これは単に、SNSで、リアルの連絡先でもないのに。
「とってもいい人だよ?ダメなの?」
「…いくらなんでも早過ぎ。昨日の今日なのよ?れーなは女の子なのよ?ただのSNSでもしつこく連絡してきたりとかあるの!!」
確かに、その手の話はよく聞くが、ダンは絶対に違う。
ダンだから交換したのだ、私だってバカじゃない。
「それに、人見知りのれーながこんなすぐなんて、ーーきっと、優しく近寄って来たのね。そうよ、絶対そうだわっ!!」
うーん、確かにダンは優しい…よね。
「あっ!?」
思いを馳せていた時に、手が。
桃香が、私のスマホを奪取してーーー
「あり得ない。玲奈をたぶらかすなんて、絶対許さないわ」
「っダメっ!!!!もかちゃん、返してっ」
取り返さなければ。
ダンの連絡先を消されたくはない。妙な発言をダンに送られたくはない。
なにより
あのチャット見られたら、レダだとバレるかもっ!!
まずいまずいまずいまずい!!
どれもまずいって!!!!
手段を選んでいる暇はなしっ!
手、ではなくタックルをかます勢いで。
けども、ここはリアル。
ぶっちゃけ身体の使い方は上手くなっているのだけども。
リアルテニス部員には、敵わないのである。
「……んん?なんか思ってたより普通じゃん。ーーーへぇ、ダンっていうのね。」
眉間に寄っていた眉が離れ、妙な顔をして首が傾く。
「…ダンってーーーーーん?れーな、これ俺って言ってない??」
今度は亀のように首を引っ込めて私のスマホとにらめっこ。
「ほ、ほらね?ね?大丈夫でしょ!?だ、だから返してよぅ」
必殺!涙目上目遣い!(周囲認定本人無自覚)
「だーーめ。これかられーなをたぶらかす気かもしれないわ」
そう言って、スマホの画面がタッチされる。
ちょちょちょちょっ!!
ぷ、プロフまで行かないでよね??!
「でも、ダンって、レダと一緒にいる人と同じ名前よね」
はぅわっ
落ち着け落ち着け
「う、うん。そうだね、同じだねっ」
はぁ、はぁ。
今現在も攻防は続いている。
テーブルを挟んだ追いかけっこ。
フェイントで一瞬左へ、すぐに右から攻める。
けども桃香は、この攻防の最中、時折スマホをいじりながら逃げるのだ。
救世主は突然現れる。
「あらあら、元気なのねぇ~。おばさん嬉しいわぁ~、でもね、もうご飯できますからねぇ~」
お、お母さん!!
「ちぇー、れーな、この話はご飯の後にとっといてあげる。ーーーれーなママー、ご飯何ー?」
とりあえず戻ってきたスマホ。
だが、桃香はやると言ったら必ずやる。どうにかせねば…。
「うふふ~、桃香ちゃん部活頑張ってるもの、今日は夏野菜カレーよ~」
「やった!!!れーなママのカレーあたし超好きっ」
桃香だけでなく、お母さんのカレーはとても美味しい。
ただ、レシピは絶っ対に教えてくれない。
「あらあら、嬉しいわぁ。ーーあ、そうそう玲奈ちゃん、アプリのお名前変えたのねぇ。うふふ、あのお名前が玲奈ちゃんのゲームのお名前?」
ほぎゃあああああああああああああ!!
破壊神は突然訪れる。
「う、う、う、うん!!そ、そうなのっ!!」
「へぇー、なんて名前ー?」
桃香が突っ込んでくる。
が、今のところ普通に興味を向けているだけだっ。
「ええっと、とてもかっこいーー「わぁーー!!お、お母さん、カレーはいいのっ?」ーーえぇ、後は盛り付けるだけよ~」
くっ!
「……れーな?」
あぁあ、自分の行動が、でも他にどうしろと。
「れーなママ、なんて名前?」
「も、もかーー「れーな、お口チャック」--はぃ」
「どうしたのかしらね?--うふふ、レダだそうよ、かっこいいわねぇ~」
無。
無言でもない、無。
私は悟りの境地で、桃香はたぶん混乱中か。
「………レダ?」
「あらあら、どうしちゃったのかしら?ーーほら、レダちゃんでしょう~」
お母さんは、ご丁寧に自分のスマホで証拠を提示。
私のプロフページだ。
大丈夫。私はもう、悟りを開いたから。
「……れーな、これって…。」
「そういう事なのっ。私が、レダ。もかちゃんが見た動画も私なのっ」
わざとらしく唇を尖らせて、そっぽを向いて。
「ダンだって、見たでしょう?ーーダンは私の事、本当にレダとして見てくれるの。」
ぽかーんと口を挟めない桃香。
今のうちに、ちゃんと言ってわかってもらわないと。
「…俺もダンに変な感情はねぇよ。あいつは、仲間だからな。」
そう言って、薄く開いた口の端を、吊り上げた。
あれ?私今なんて言った!?
「…………ほんとに、レダだ。」
ええっと、結果オーライ?!
しかし、リアルではレダ口調を使わないように、気を付けなければならない、所に来ているとは!
その後。
桃香からの質問攻めに、吹っ切れた玲奈は答え続けた。
このたった2日の冒険談、ダンの事。
それらを全て聞いて、桃香はダンとの連絡を完全了承どころか、玲奈をよろしくとダンにチャットする等と言い出したのを止める羽目になった。
お母さんの夏野菜カレー。
残念だが、具材に何が入っているかもわからなかった。
ーーー
桃香を帰し、さっさとシャワーを浴びたが時刻は完全に9時を過ぎていた。
端末をかぶる。
これはダンに報告しておいたほうがよいだろうと。
さて、ログインして自身がいる場所は、あの小さい憩いの広場だ。
「おう、レダ」
「…ダン、疲れた」
目の前に立っていたダン。すでにログインするとチャットで伝えてあった。
「え…無理に来ることなかったんだぞ?」
「いや、そうじゃない」
訝しむダンに、事のあらましを述べていく。
「…それは、お疲れ。すまんな、タイミングが悪かったか」
「あぁ…いや、いずれこうなってた気がする。むしろ、モカにはバレて良かったかも」
桃香は鋭いから気が付かれるのはもう当たり前のことだ。
それに、ああ見えて桃香は口が堅い。言いふらす事はないし、知っていてくれると心強い。
「ならいいが。ま、名前は変更だな」
「あぁ……何がいいと思う?」
「俺に聞かれてもな、お前の名前だろ」
「…俺、ネーミングセンスねぇ」
「…俺も」
聞けば、ダンもまた本名から考えた口だそうで。
また二人は、まず「れ」という文字から連想を開始した。
が、中々いいのが浮かばない。
レダと玲奈。最強プレイヤーと大人しい少女。
一致する余地がない。
ので、決まったのは。『れーやん』でした。
「…もう、これでいい」
「まぁ、充分だろ」
はぁ。
溜息、二つ。
「…そいえば、強化素材は?」
「あぁ、武器強化だ。武器のステータス追加付与。ATK+2だった」
「へぇ、そ」
はぁ。
「寝るか」
「…賛成。あ、宿題の残りしねぇと」
「…優等生か…」
こうして、レダとダン、二人のリリース2日目はお開きとなった。
次回、再びの迷宮?とレダ君の新たな異名