ダンジョンアタック 後編
落ち着いた所で、ようやく行動を再開する。
全員が装備変更。
あれこれ言いながらも、武具を[篤厚]シリーズに。
だって![篤厚]シリーズの燃焼付与!
付与率は高くないが、少ない松明を当てずとも良いのだから。
それと、結局、新しい装備は嬉しいのである。
意気揚々と進む5人。
大分前に、罠だとか行きたくないとか言ってた通路をウキウキと。
いや?そわそわと。
早く出て来いオーク!試し斬りじゃあ!!である。
さぁ!出て来た、、、オークぅぅうーー!?
「なぁ、斧持ってんぞ?」
「あぁ、そうだな。」
「なぁ、レベル11だぞ?」
「あぁ、そうだな。」
「なぁ、今奥にレベル12の槍持ちが見えたぞ?」
「あぁ、そうーーえ、マジで?」
姿を現したのは、
レベル10、棍棒オークが2体
レベル11、斧オークが3体
レベル12、槍オークが2体
の計7体。
「はぁ。レダ、キリュウ?ここはオークしか出ないんだから、バリエーション増えるに決まってるだろ。」
冷静なダンさんに諭されるのであった。
「しかしダンよ、槍持ちは不味いのではないか?」
「…そうだな。長物にレベル12か。」
以外と冷静なライトマン。
いや、ライトマンだからか。
槍とナックルの相性は悪過ぎる。
それに、相性が悪いのはライトマンだけではない。
この狭い洞窟内、故に振り回しはしてこない。
だが狭い洞窟内、故に攻撃は突きのみだ。
逆に捉える事も出来る。
この狭い洞窟内、故に攻撃は突きのみだ。
だが狭い洞窟内、故にそも左右に回避は行えない。
リーチを活かした範囲攻撃は出来ないが、
そもそも自分達は広がれない為、
そのリーチを活かした中距離攻撃は脅威となる。
そんでもってレベル。
HPも防御力も、レダ以外は上である。
ライトマンとシリウスは、まだレベル8!
これまでの撃破した数を鑑みれば、もう上がっていい頃だが、それでも完全な格上だ。
後ろは今の所いない。
「レダ、行くぞ。」
ダンがそう言いながら前に出れば、レダもそれに倣う。
「キリュウ達は皆松明を持って下がってくれ。3本もあればまだ明るい。オークの動きから目を離すな。」
「おう!」「うむ!」「お願いします!」
3人は即座に下がり、成り行きを見守らんと。
そして、3人とももう一方の手を腰元に。
いつでもショートカットを使えるように。
「初手は頼む。」
「…任せろ。」
いきなり走り込むレダ。
前面にいる棍棒と斧オークの内、斧オークへ。
棍棒オークは今の所、ターゲットを松明にする以外に変化はないからだ。
斧オークが振りかぶる。
そして走り込んで来たレダを、まるで薪割りをするかの如く、上からーー
ドゴーーン
と、振り降ろした勢いで斧が地面に深々と。
ザックリグッサリと刺さった。
バックステップで紙一重で回避していたレダ。
間合いは大体わかった。次は斬撃のパターン。
レダに続いて斬りこんで来たダンは、隣の棍棒オークへ。
これで横を気にする必要はない。
ぶっ刺さった斧を易々と引き抜いた斧オーク。
それを引き戻して、今度はーー
ーー壁に刃が当たりながらも振ってきた!
「おい、ダンっ!!」
「なんだっ!?」
「斧と槍は対だ!斧は振り回し、槍は突きっ!」
「…ちっ!面倒だなっ!」
ダンの言う通り、面倒だ。
斧オークは、はっきり言ってめちゃくちゃに振り回す。だが、この空間でそれをやられるのはホントに意地が悪い。
だから、斧オークの動きをよく見る。良く。
ブンブンっ!
っ!!ここっ!!
左斜め上からの斬撃。
それに、自身は右に担いであった刀身を振る。
ギャリっ!
鍔迫り合い。
振り回してくるのなら、止めればいい!
ぐっ、と力を込める。
左の膝を決め、腰を少しだけ落とし、右足で踏ん張る。
片手剣だが、左手を添え、両腕は身体の近く、コンパクトに。
完全に体勢の決まったレダ。
膠着するかと思われたが、レダがそこから更に力を込め始めればーー
徐々に押し込まれていく斧オーク。
これは当然の結果。
レダはレベル14で、オレリウスの装備を着込んでいるのだから。
だが。
「ちっ!」
レダは押し込みを止め、離れる事になった。
突きだ。
槍オークが、斧オークの後ろから、突きを見舞ってきたのだ。
2人並んで戦うのが精一杯の空間。
それはオーク側も同じ。
これまでは抑えてしまえば、後ろのオークは詰まって動けなくなる。
先程、自身の口で言った言葉を実感する。
再度振り回して来る斧オーク。
どうする?
槍オークもモンスターだ、このゲームの。
恐らく、間合いで静止したプレイヤーを攻撃するのだろう。
鍔迫り合いのまま移動は無理だ。
そもそも移動する場所がない。
槍オークは斧オークの後ろ。
槍オークには向かえない。
斧オークが邪魔になる。
ギン!ギンっ!
バックステップで下がり続ける訳にはいかない。
レダとダン、2人のダムが決壊する。
刃を合わせ、その一瞬一瞬を押し返す事でなんとか留めている。
こちらから振れればいいのだが、この狭さとオークの斧の方が短い為、どうしても斧オークが速さに勝る。
故にどうしても、相手に合わせる他なく、強烈な一撃を与えられない。
くっ!!
時折来る、穂先。
やりにくい。
やりづらい。
くそっ!突きっ!
後ろに下がりたくないんだよっ!!
前に押し込まないと。ーーーーーーーーお?
☆
横を見る。
レダが、押し込まれている。
不運な事に、オークの隊列。
自分の前に棍棒オーク、その後ろに斧持ち。
レダの前が斧オークで、後ろに件の槍持ちなのだ。
好き勝手に振られる斧を弾き返しているが、後ろの槍に対応し切れず、又は下がらない為に被弾。
下がっているキリュウ達が、固唾を飲みながら支援を行っている。
もう少し!
あと一撃で撃破だ。
バーン状態で炎のエフェクトを纏う棍棒オーク。
振られた棍棒に刀身を挟んで受け止める。
勢いの無くなった棍棒を弾きながらオークに迫り、袈裟斬りにして。
「よしっ!レ、ーーーくっ!」
レダに援護には行けなかった。
後ろに詰まっていた斧オークが、待ってましたとばかりに流れ込んで来ていた。
「くそっ!!レ、ーーーーーーーーダ?」
丁度。
そう、丁度。ダンはその瞬間を見た。
レダはいきなり大きく後ろへバックステップ。
ステップから着地した所でーー
ーーアシストの輝き!
まさか?
脚にありったけの力を込め、踏み切った。
走る、つまり速度を求める〈走破アシスト〉。
跳躍、つまり距離を求める〈跳躍アシスト〉。
ドンっっっ!!!
そんな音と共に、もはやじゃなくて、ホントに弾丸の様に。
もう、ぶつかりに行くというより、飛んでった?
文字通り斧オークを吹っ飛ばす。
更にダンに迫って来ていた斧オーク含め、全てのオークを巻き添えに。
ただし、自分ごと。
後ろのごちゃごちゃに、当然レダ本人も混ざっているのである。
今の所、オーク共は転がっているが、起き上がったらまぁどうなるか。
「やべぇっ!ダンっ!助けてぇ!!」
「…あーあ。何やってるんだ。」
やれやれ、と完全な呆れ笑いをしながら近づく。
レダを、オークの海から引っ張り出してやった。
「おい?大丈夫なのか?」
「ぜぇっ、たっ助かった……。」
「まぁ、押し込みたかったのは分かる。分かるが、自分ごとはダメだろ。」
「…うん。勉強になった。…宿題より、ずっと。」
わかったならいい、とレダの頭を撫でてやる。
この短い付き合いの中でわかった事。
頭を撫でてやると、まるで猫の様に目を細めて頭を押し付けて来るのだ。
ぶっちゃけ可愛い。
平時は特に思わないが、この時だけはレダが女の子である事を思い出すのだ。
…………ある意味では重症である。
「でもまぁ、ヒントになったな。」
「…へ?失敗だろ?」
「自分ごと行くのが悪いんだろ?なら、物を使えばいいだろう?」
「…武器、投げる?」
「待て待て、その後武器無しでどうするんだよ…。」
「じゃあ、なんだよ。」
「くくくっ。嫌らしいよな、ホント。」
「えっと、ダンさん?」
「松明が鍵だと、重要だと分からせて。そんで次に松明狙われたら当然、守ろうと思うだろ?」
「う、うん…。」
「それで俺たちは、オークの弱点である松明を、今現在それはとても惜しんでいる訳だ。なぁ?」
「………………。」
くそがぁあああああああっ!!
クスクスクスクス
「なんでお前が笑ってんだよっ!!!」
オークが起き上がってきている。
キリュウ達の元へと戻り、それぞれの松明の残量を確認。
よく考えれば、宝箱トラップ以後も松明の消費を抑えていた為、余裕ではないが数はある。
とりあえず、オークの集団に松明をぶち込む事に。
その大役を担うのはーーー
「はぁっはっはっはー!私が超絶ライトマンだっ!」
ーーーそうです。ライトマンです。
モンスターを攻撃しなくとも、片手剣を抜けば〈片手剣アシスト〉が発生する。
〈技アシスト〉はそもこれと言った型がないので発生はしないが。
剣を持てば、剣を持つ上での補助。
ハンマーならハンマー。
だがこれは武器がいる。
えぇ、ナックルであれば、松明を投げる動きを肩口から殴る動きに当てはめられる。
えいやーっとぉー!
オークへと飛んで行く松明。
ライトマンへのオーダーは、
直線的に投げつけるのではなく、山なりに上から落ちる様に。
落ちていく松明。
落ちてきた松明。
オークさん達はーー
ーーーーーーーーーー大混乱!
オークさん達に、松明から逃げられる時間的余裕。
それで隊列が完全にごちゃごちゃになった。
こうなれば最早こちらのターンだ。
斧をとりあえず振り回しながら、突進するオーク。
ライトマンから松明を贈られて動きが止まる。
一瞬だろうが、止まった者を逃さない。
斧オークは薪割りの如くだった。
シリウスは、大地への杭打ち機の如くである。
ボドゴッ
げ、現実だとマジでヤバい音がした。
松明でのバーン状態。
頭部へのクリティカルヒット。
それも、篤厚シリーズの技量値で上がった振れ幅の内、かなり高い乱数を引いたようだ。
そして一応、ノックバックが。
ここで、〈ストラフェスタ・オンライン〉においてのノックバックについて触れよう。
簡単に言えば。
強烈な攻撃を与えた場合に、モンスターがのけ反る等一時的に行動不能となる状態のことを指す。
クリティカルヒットならば、ノックバックは大きく、長くなる。
シリウスの「出る杭は打たれる」攻撃。
オークは体勢的に前のめりに倒れた。
いや、ノックバックで前のめりに倒れた伏した。
これ完全にダウンってやつでは?
と思うけども、これもノックバックと呼ぶので注意。
あぁ、ーーー可哀想に。
ハンマー持ってる相手の前に倒れちゃいかんよ。
シリウスは、ひたすら無心で、まるでお餅つきの様にペッタンペッタンと。
さて、シリウスが餅つきを始める一瞬前。
前方から、穂先をこちらに定め走り込んで来たは、槍オーク。
対して出るは、レダ。
思い切りのいい突きが飛び込んでくる。
当たるギリギリの所で身をくるりとかわし半回転。
背中をオークに向ける。
槍と共に突き出されていたオークの両腕を、脇に挟んでガッチリ!抱えーーー
「ぁあらぁっ!!」
ゴ、ゴゴンっ!!
後続の棍棒オークと斧オークへ。
ーーー抱えた槍オークを叩きつけたのである。
己が武装に囚われない、戦闘の申し子と言うべきレダの動きにいちいち驚く事を辞めたキリュウとライトマン。
ダンと共に、ごったまぜ、のオーク達に斬りこむ。
斬る、斬る、殴る。
オーク達に体勢を整えさせない。
攻撃を加え、松明を喰らわす。
残るオークは、斧オークと槍オークが1体ずつ。
立ち塞がるは、レダである。
この2体。
斧オークが前に、その後ろに槍オーク。
隊列を組んでいる。
走り込まずに、迎え撃つ。
降ってくる斧を刀身で合わせ、
弾かれたままに振り上げられてまた降ってくる斧。
それに対処しようとすれば、
斧オークの胴体の横から穂先が走る。
身体を反らせば、斧に刀身が押される。
この繰り返し。
奇しくも、最初に向かっていった時と似た状況。
けれども、全く同じではない。
隣には誰もいない。
左右に多少の自由度が。
やって来た突きを、右へかわしながら刀身を引く。
かわして大地についた右足に体重を。
次いで左足を斜め前、斧オーク方向へ。
踏み込む。
重心移動。
上体を回転。
腕の振り、重心移動、遠心力。
穂先が引かれ、やって来る斧に向かって。
コンパクトとは程遠い、全身全力渾身の。
ガァァーーーン!
発生する強烈なインパクト。
自身はこれ負けじと振り抜き、斧をようやく弾き飛ばす。
振り切った所から、間髪入れずに袈裟斬り!
篤厚シリーズ十八番のバーン付与!
袈裟斬りで下へ降りた刀身を、その下から上への軌道で斧オークの喉を狙う。
これで、後ろによろめくノックバックだ。
さぁ、どうする?槍オーク?
仲間が倒れてきたーー
シャっ!
ーーお構い無しかいっ!!?
あぁ、ーーー可哀想に。
どっちにしろ、斧オークを盾にし続けるらしい。
ならばっ!!
ノックバック終了直前の斧オークへ。
腕を掴んでーーーーーー有効!1本!…背負い投げ。
斧オークと槍オークはかなりその間を狭めていた為、
投げてしまえば、槍には辛い近距離に。
背負い投げ故、槍オークは背後。
一瞬の間に鞘に納めた剣を抜き、身体ごと振り抜き、横に薙ぐ。
次の一振でノックバック。
次に起きて来た斧オークさんをノックバック。
次が動き出した槍オークさん。
次は斧オーク。
次も次も次も次も、ひたすら交互にノックバック。
なぁ、あれってノックバックの使い方あってっか?
キリュウが見たなら、おそらくそう言うだろう。
残念ながら、必死にオーク3体を押し留めているが。
あってない、訳では無いだろうよ。
ノックバックにマニュアルなんてないだろうよ。
まぁ、普通じゃないけど。
プレイヤースキル。
バーン付与による継続ダメージ。
レベルとステータスによる基礎ダメージ量
+アシストダメージボーナス
+クリティカルヒットボーナスによる攻撃ダメージ。
それ等によって、勿論、一番早く仕留めたのである。
くるりと反転。皆の方へ。
シリウスはもうすぐ敵のHPを削り切れそうだ。
へ!?まだ餅つきやってたの!?って?
うん。シリウスはダメージ度外視でとりあえずノックバックさせてたの。
起きてこられちゃ困るもの。
頭部のクリティカルヒットとなれば、強烈な一撃でなくともノックバックさせられる。
だからペッタンペッタンという可愛い音を当てられるのだった。
3人の援護へと駆けーーー
ドゴォン!
「こぉぉら、レダぁあっ!」
「だっ、だって!3体なら良いかなって!」
「数じゃないっ!自分が転がったらダメだって言ってるんだっ!」
「ごっ、ごめんなさぁぁーーーい!!!!」
ダン、怒ると凄い怖いよぉ。
レベルも高く、攻撃バリエーションの増えたオーク。
ようやくその姿を消した。
「…はぁ、はぁ。」「……ふぅう。」
「…………。」「あぁあぁ〜。」「ぜぇ、ぜぇ。」
未だまともな言葉が発せられない。
5人とも、べったり座り込んでいた。
松明、ポーション共に中々消費してしまった。
何処までいけるやら、である。
今回の戦闘でレベルアップを果たした者が。
全員のレベルをまとめると、
レダ レベル14
ダン レベル11
キリュウ レベル10
シリウス レベル9
ライトマン レベル9
レダ以外、レベルアップだ。
…流石、必要経験値ハンパねぇ。
「はぁあ、も、きっちぃ〜。」
キリュウが大の字になって転がる。
メニュー画面で時計を見れば、午後3時半。
昼休憩も含めて、ダンジョンに入ってから5時間くらいか。
「もう随分経ちますからね。こんなギリギリの戦いが続くと、もう…。」
「あー?確かに。そうだがーーー、レダ?」
「…ぁ?」
「お前なんて、昨日ノンストップで6時間エリアボスと闘ってたんじゃないのか?…クスクス」
それを聞いたキリュウ、シリウス、ライトマンの顔が笑っちゃダメよ、と百面相。
「…なんか、全然違ぇ。オレリウスは単体だし、ボス戦闘フィールドでけぇし、周り気にしなくて良かったし、なんか違ぇんだ。」
「へぇ、そんなもんか。」
オレリウスのみに集中すれば良かった。
それに、戦闘が途切れないのが良かったのだ。
1回1回でのインターバル。
ソロなら違ったのだろうが、仲間とわいわい進むと、集中が途切れる事もある。
オレリウスの時はそれが無く、ゾーンに入りっぱなしという状況であったのだ。
時間経過すら気にしなかったのだから。
充分に時間を取り、立ち上がる5人。
重い足取りで、奥へと進んだ。
ーーー
これまでの濃密な修行の成果。
レベルも上がった事で、シリウスとライトマン。
松明の扱いさえ気にしていれば、棍棒オークとも1人で何とか出来る様になっていた。
けども、厄介なのは、斧と槍のコンビオーク。
これには松明を惜しげも無く投入する他ない。
故にまず、レダに暴れてもらう。
松明を投げ込み乱れた所へレダが。
自分も転がるやつではない。
剣を使うのでもなく、投げ技だ。
ライトマンやシリウスの打撃ならば、ノックバックも姿勢がかなり崩れたものになる。
が、流石に燃え燃えパニックに向かわせる訳にはいかない。
斬撃だと、ノックバックは仰け反らせるようなものが大半で、一時的な壁にはなるだろう。
が、投げ技なら、投げ技なのだから寝転ばせられる。
それに、レダだし?
レダが投げたり、槍を掴んで持ち主ごと振り回し、他のメンバーに任せるオークをわざと流す。
こうして、こちらのペース、こちらのやりやすい形へと制御。
戦闘を行う、といった流れ。
一行は少しずつ、少しずつ進めていた。
途中、セーフティエリアを見つけて休憩。
今度は普通に置いてあった宝箱を発見。
分かりやすい罠を回避。
分かりにくい罠に陥る。
等々を経てーーー
ーーーーー来てしまった。
扉。
重厚な、扉。
大きくて重厚な、扉。
ーー絶対、ボス部屋じゃんっ!!!!!
無言。
いや、決まっているのだ。
行くことは。
けれども。
「はぁ、さっきの箱の中身が多かったのは、この為か。」
もう全員、脳疲労のピーク。
「…疲れたんだ。さっさと殺ろうぜ。」
レダの一言で、腹を決めた一行。
扉を、レダとダンが開いていく。
鎮座する、大きなオークさん。
ちょっと布纏ってるし、首にネックレスかけてるし、頭部にごつい角生えてる。
さて、君の名は?
レベル15 グランドオークマスター
ぷっ
くくくっ
クスクス
…くっ、くっ
ぶはぁっ!?あっ、あはは、あははははははははは!
「「「「ぐ、グランド、オーク、マスター…」」」」
「ーぁははははははは、あっ、くくっ、きゃははー」
シリウスがキャパオーバー、崩壊した。
「…センスねぇだろ、これ。」
「クスクス…、レダが妙な事を言わなかったら、今頃シリウスも俺たちも、まともに見てられたかもな。」
「…俺のせい?」
「むぅ、やはり、超絶オークキングにすべきだっ!」
シリウスがこの状態では、流石に踏み込めない。
部屋を覗いて見る。
あのグランドオークマスターの後ろ、光ってる?
ボス部屋だからだろう、部屋の壁には既に松明が設置されており、薄明るくなっている。
だが、おのグランドオ…長いな。
ぐ、グランド…グランドファーザーってあるな。
つまりーー
ーーーーーーーおじじオークにしよっ!
そう、おじじオークの後ろが、薄緑色の淡い色。
おじじオークが幻想的に見える。
自身が勝手に付けた愛称から見るなら、仏様?
「しっかし、でけぇなぁ、おい。」
キリュウがおじじオークを見て言う、が。
「ん、そうか?」
「レダ、お前何と比べてんだよ。」
「…オレリウス。」
「だろぅなぁっ!!」
キリュウがなんか怒ってる?
「はぁ、レダ?オレリウスはこのグランドオークマスターよりレベルでも20も上なんだぞ?それと比べるのは無理があるだろ。」
「俺たちゃまともなボス戦は初めてだっつのっ!」
ダンとキリュウに諭された。
まぁ、その通りか。
やっと回復したシリウスを携え、皆で部屋に踏み込んだ。
自然と閉まる扉。
立ち上がるおじじオーク。
「…うむ。これがマスターたる所以か。」
ライトマンの呟きに、みな頷く。
おじじが持っているのは、槍斧
槍と斧が一緒になった武器。
おじじの槍斧は、
柄はそこまで長くなく、鋭い穂先に三日月型の斧部、斧部の反対側には、1本の突起。
それを、欧州にいる槍持ってピクりともしない兵士さんの如く、右手で天…天井に向けて立てていた。
…仁王像とかにいそう。
「…俺がタゲを取る。皆は動きを見つつ、入って来てくれ。」
仲間の返答を得て、おじじの元へ。
タゲはターゲットの事。
タゲを取るとは、狙われる対象になる事。
今の所、挑発といったアシストは見つかっていない。
与えるダメージの多い者がタゲられる。
もう一歩、前に出た所でーー
グゥオオオオーーっ!
ーー横薙!
三日月型の斧部が迫る。
来る方向は左から。
斧部に対して身体を縦に。
身体の左に剣を立てる。下にある柄を強く握り、左腕で上の刀身部分を抑え、盾に。
ぶち当たる。
歯を食いしばって、足を踏ん張って。
おじじの斧部は三日月型。
故に、形に沿って流す。
流れてきた柄をイナバウアーよろしく避ける。
すぐにダッシュ!
おじじの腕に斬りつける!
離れようとした所に、こちらを振り払いに来る槍斧。
斧部は反対側。つまり、突起が迫る。
それはまるで、穂先が迫る様!
思い切り高く跳躍して飛び越えた。
だが、これはパーティだと厳しいんじゃ?
レダもパーティでボス討伐は初めてだ。
あんまり理解しているとは言えない。
これだけ広範囲の攻撃では、皆払い退けられてしまうのではないか。
「レダ!ー俺とお前で槍斧を抑えるぞ!ーキリュウ達は周りから攻撃!タゲが飛ばないよう注意しろ!」
指示を出しながら入って来たダン。頼もしい!
自身は内側、ダンは外側。
槍斧を全力で抑えに走る!
レダが槍斧を、刀身も身体も全て盾にして受ける中、ダンがおじじを攻撃する。
ダンが振り払われに来た槍斧を、突起の部分を避け、レダと同様に。
内側にいるレダは、槍斧を持たない腕からの剛撃が来れば紙一重で回避しそれを斬りつける。
無ければ胴体へ。
キリュウはおじじの槍斧を持たない腕の方。
剛撃を受けないよう立ち回り、タイミングを逃さずにおじじを削る。
ライトマンとシリウスは、ヒットアンドアウェイか。
どちらかが一発浴びせ、下がる間にもう一方が。
なんだ。行けるじゃん!!!
行ける、と確信するレダ。
まぁ、レダとダンが受け止めるなんて事案が発生しているからなのだけれども。
グモォオオオオーー
HPゲージ半分。
仏の顔も三度まで、モード突入か。
「っ!全員、下がれ!」
ダンの指示。
何も考えずに従う。
おじじは、これまでの倍以上の範囲を薙いできた。
更に後ろへ下がったレダに、渾身の突き。
槍斧は、紙一重、スレスレ回避が出来ない。
穂先の次に、斧部と突起が迫るからだ。
けども。
ジャンプ。上へ。
目測は得ている。
降りた所は、斧部の上。
それを蹴って、更に空を蹴って。
おじじはオレリウスほど大きくない。
それだけで、おじじの顔の前にこんにちは。
大上段に振り上げていた刀身で、三日月を描く。
ドッ!!
おじじが膝を着いた!!
ーーーーダウンである。
「おぉ?よし、かかれっ!」
「ぃよっしゃあーーー!」
「いざ!参るぅ!!」
「…もう大分前から見参してんじゃん。」
「(レダさんっ!いいじゃないですか!ライトさん、すぐしょげちゃうんですからっ!!)」
…小声で叫ぶ凄技を披露された。
ダウンは、中ボス、ボスに発生する。
クリティカルヒットとは別で、弱点に有効打を入れた場合に、ノックバックの様に一時的に行動不能となる事だ。
体格が大きく、ノックバックを付けられない者が多いボス故のものだ。
つまり、超絶チャンスタイム、である。
好き放題に攻撃を撃ち込めば、おじじのHPをかなり削る事に成功。
起き上がるおじじ。
槍斧の振る速度や威力が増した故に、受け止める事は無理そうだ。
「…レダ。」
「ん。」
「一瞬でいい、受け止められるか?」
「あぁ、いいぜ。」
即答。
ダンに何か考えがあるんだ。
なら、行く他に選択肢などあるものか。
ただ走り寄れば突きが来る。
ならば今度こそ!
よーい、ドンっ!
えぇ、例のあれです。
レダも馬鹿ではないのだ。
2歩だけアシストダブル使用で突きの範囲を、突っ切る。
槍斧が振られる位置で急停止。
先程までの身を呈しての盾では止められない。
三日月型の斧部が、来る。
勝負だ。
「っ、らぁあああああっ!」
斧部に、刀身を。
一瞬でいい。そう、一瞬で。
ギャガガガっ
鍔迫り合い。
そこから刀身を横にして、腕を突っ張ってーー
ダンがーー
斧部にーー
空中跳躍に挑んでいる彼を見た事がない。
が、
ダンは、斧部を踏んで跳躍。
着地先は、空中ではなく槍斧を持つおじじの腕だ。
駆け上がっていく。
そこまで見れて、レダは吹き飛ばされる。
吹っ飛ばされて、ようやく見れたおじじは、ダウンしていた。
成功した、ようだ。
沸き起こるは、歓喜。
そうか、これが、パーティか!!
功労者は、槍斧を一瞬でも止めた自分かもしれない。
でも、自分の行いで、仲間が活きた。
ここまでの道中でも、ずっと5人でパーティを組んで来た。
違う。ーーーーー違う!
パーティでの集団戦とは、全然違う!
さっきまでの、自分とダンで槍斧を受け止めていた、あれでキリュウ達を活かせていた。
これが、パーティでのボス戦だと思っていた。
そうじゃない。これはそうじゃない。
自分は布石。ダンがおじじからダウンを獲る為の。
自分一人で闘っているんじゃない。
はっきり言って、時間を掛ければ自分だけでおじじを倒せる自信がある。
むしろ、自分だけならもっと楽にいくかも、なんて。
自分が頑張ればいいと思っていた。
自分が止める事でキリュウ達が攻撃出来る、と。
独りよがりだったのか。
いいや、そうではない。
これは別に、おかしな事ではない。
強い者がタゲを獲る。
それをもって盾となり、周りのプレイヤーが攻撃するのは、良くある事だ。
何気ない攻防だったやもしれない。
しれないが
これで自分はーーレダは、満足出来なくなった。
もっともっともっともっと!
仲間全員で。
攻略の為の策を練り、
仲間全員で。
実行に移す、
仲間全員で。
痺れるような戦闘を!
私もその中にーー
ーーーーーーーーーーー混ぜてっ!!!!
「あは、ぁ、あははははははっ!!」
転がって、馳せる想いから起き上がる。
「キリュウ、シリウス、ライトっ!もっかいだっ!!俺をーーーーー使えぇっ!!」
レダの胸中を知りもしない面々はギョッとする。
久々に、レダは獰猛な笑みを浮かべているのだから。
中でもダンは、驚いていた。
いい方法だと思ったが、内容を言わなかったのでダシに使ったと思うかもしれない、と。
謝ろうとすら、思っていたのに。
やってやる!と滾るレダ。
ダンは一度、苦笑を入れる。
「よし!まずキリュウからだっ!フォローは俺が入る!ライト、シリウスはポーション待機っ!」
一瞬、顔を見合わせたキリュウ達。
すぐに鬨の声を上げ、おじじに、挑んだ。
ーーー
おじじにトドメを刺したのは、キリュウ。
よっしゃあああああーーーああああっ!!
ガッツポーズ。
そしてその拳を、みんなで打ち付けあう。
そうして、やっぱり倒れ込む。
今度は全員が寝っ転がって。
不意に、視界にあの薄緑色の、淡い光。
首を巡らせ、おじじに隠れていた者、を見た。
「…おい、あれ。」
指を指す、先には。
「綺麗、だな。」
そう、綺麗な薄緑色のクリスタルで出来た、女性像。
とても綺麗なのだが、彼女は何故か、涙を。
とても悲しげな顔で、涙を流していた。
「…オークのお話で多いのは、若い人間の女性を攫うものを良く聞きますし、読みますね。彼女は、その事を表現しているのでしょうか…。」
みな、自然と立ち上がる。
ゆっくりと、彼女の元へ。
近づいた所で、彼女が淡く輝けばーーー
ーーー涙が消え、微笑みを。
「我々は、彼女を救った、という事なのだな。」
沈黙が訪れるが、5人共表情は晴れている。
それだけ、彼女の微笑みには力があった。
視界にダンジョンクリアの表示が出続けてはいた。
さてと、と言って、今度は円になって座る。
「おっクリア報酬あんぞ!ボスオークの討伐もな!」
キリュウが嬉しそう、じゃなくて全員が嬉しい顔。
ラストヒット報酬はキリュウ。
MVP報酬はダン。
レダは後半、最初にダウンを取って以後は、おじじに攻撃を入れていなかった。
序盤から、レダと共に槍斧を捌き、中盤はあのダウンとキリュウ達のフォロー。
やはり、功労者はダンであろう。
「うっはー!すげー嬉しいな!おい、開けようぜ!」
待ちきれないキリュウは言いながら開けている。
ダンジョンクリア報酬
宝玉[孔雀の涙] 強化素材
キリュウのラストヒット報酬
アクセサリー[真戦斧の腕輪] ATK+6
ダンのMVP報酬
アクセサリー[真戦斧の首輪] VIT+6
そしてーー
グランドオークマスター撃破報酬
ウェア[孔雀姫のシャツ] ATK+4,VIT+5
ズボン[孔雀姫のズボン] ATK+4,VIT+5
そんで?
アバターアイテム[真戦斧の腰巻]オリジナルボス撃破記念
これって、おじじが纏ってた布のこと?
………………いらねぇっ!!!!!!
「ふぅ、疲れたが、まぁ楽しかったな。」
「はい。とても有意義でした。…明日もやれと言われると断りますが。」
「右に同じだっ!皆とダンジョン攻略出来た事、良い経験になった。」
「ぁー、ホント、すげぇ楽しかったぜ。」
「…あぁ、面白かった。やっぱいいな、SGO。」
同じく、と感想が勝手に漏れてくる。
「さて、帰るとするか。」
おう。
重い腰を引っ張り起こし、現れたテレポーターへ。
視界が一瞬ねじ曲がったかと思えば、第1の街。
夕日を浴びた女神像が佇んでいる。
やっと起き上がったというのに、安心感からかまたまた全員でへたり込んだのだった。
ダンジョンの情報が、ダンによって〈ストラフェスタ・オンライン〉情報掲示板に。
大雑把な情報版と、閲覧注意として攻略情報等詳しく記載したものと。
ダンは、詳しい方に、レダの壁走りの動画もすっ、と載せていた。
ほ、ほぼ戦闘…。
次回、玲奈ちゃんの幼馴染登場です。あ、リアルの方です…