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ここがわたしの魔界です!  作者: 文字虎
プロローグ
5/33

4.ここは剣と魔法の世界です



 キッチンのカウンター越しにあるダイニングテーブルにて、わたしとシマさんは向かい合わせに座り食卓を囲む。

 本日の料理はシマさんがいつの間にか用意しており、何かの肉を使ったらしいオーブン焼きと、森で取ってきた山菜を使ったソテー。コーンポタージュみたいな色をしたスープに、森の木になっていた果物――なんとなく林檎っぽい――と、何故か炊きたてのご飯。

 なんとも言えないメニューである。


「こちらの世界の食材知識に関しましては、既に私の頭に叩き込んであります。知識はもちろんのことですが、毒味もしっかりと行っておりますので、ご安心下さい。味は保障いたします」

「は、はぁ……い、頂きます」


 どうやら味に関しては自信があるらしい。ここは無碍にしてはいけないだろう。

 恐る恐る、まずは問題なさそうなお肉から頂いてみる。


 ……おぉ、これは。


「美味しい……」

「ありがとうございます」


 ナイフとフォークを使って肉を切り分けて、一口ずつ口に入れる。肉汁が口の中で広がり、なんとも言えない幸福感に包まれる。

 他のソテーやスープ、果物も勿論美味しく、あっという間に平らげてしまった。

 ……もしかしなくてもシマさん、ご飯作るの得意だな?


「食後の紅茶になります」


 しっかりと食後のお茶も完備。やべぇ、主夫力が高ぇ……!

 紅茶を堪能しつつ、海の見える全窓の方ではなく、キッチンの方にある窓を見てわたしは一息つく。

 向こうの景色は海のような外観をしておらず、しっかりと森を見据えることが出来た。


「これからどうしよう……?」


 早くも、自分が定めた計画がすでに達成されつつあることに気付く。

 そりゃそうだ。本来であれば、ある程度時間が掛かるはずの家作りが、1日で終わってしまい。目指していた料理だって良く考えてみれば、食材が食べれる物かすらも分からないし、シマさんが美味しく調理できてしまう。

 この分だと恐らくはお裁縫もシマさんは問題なくこなしてしまうだろう。完全に主夫だな、この人。

 わたしがお茶を飲んでる間に皿洗いを終えたシマさんは、薄い手袋を外して、エプロンを掛けてわたしの前に座る。


「ふむ、それならば、やはり殺っておきますか?」

「それは遠慮しときます」


 なんだってシマさんは、隙あらば神様を殺そうと画策するのか、怖いわ。こちとら普通の女子高生なんだから、そういう血生臭い話には縁もゆかりもないんですってば。


「い、痛いのとかそういうのはちょっと嫌ですし、見るのも勘弁したいっていうか……」

「ふむ……どうやら認識不足がある御様子」


 なにやら考え込むシマさんはそう言うと、指先にポッと火を灯す。一体何処から火なんて灯せて、指先に留まらせることが出来るのだろうかと、驚き半分で見ていると。シマさんはひとつ理解がいったようで、頷いて、指先の火を消す。

 マジシャンなのかなーとか考えていると、シマさんはゆっくりと口を開いた。


「……私としたことが、重要なことを一つ伝え忘れていました」

「重要なこと?」

「はい。この異世界イアスブリードがいわゆる、剣と魔法の世界……マキ様のところで言うファンタジーと呼ばれる世界に該当します」

「えっ」


 そう言われて、なんとなく全てが理解できてしまった。シマさんが変な異次元空間から物を取り出すことも、家の中の空間を弄繰り回せることも。先程のように指先に小さな火を灯せることも。

 現代の世界ならば不可能なことが、ここで何故出来てしまうのか、理解できてしまった。

 そして、それならば更に、理解してしまう。


「えーっと……そうなると、シマさんがちょこちょこ発している血生臭い発言ってのは、この世界では至極当たり前ってことです?」

「いえ、流石にこんな奇特な感情を持ち合わせているのは、一部の方々だけだと思いますが」


 そこがおかしいってことは理解しているんかい。理解できているなら、なおさらやめておけよ!


「残念ながら、ここは剣と魔法の世界――まあ、少々異なりますが、概ねその認識で間違いありません。

 ですので、マキ様が暮らしていた世界とは、やはり勝手が違い、弱肉強食という感覚が拭えない世界となっております」

「うぅ……やけに摩訶不思議なことばかり起こるなと思ったら、そういうことなのね……」


 そうなってくると、わたしの考えはこの世界では邪道というほどではないが、甘っちょろい考えということになる。

 えぇ、どうするの……わたし、戦うことなんてできないよ?


「どうしよう、わたし戦えないよ? 魔法なんて使ったこともないし、ましてや、剣なんて振ったこともないし……」


 言い様のない不安がわたしを襲う。呆然とわたしは手を眺めていると、ふいにシマさんがわたしの両手を取り、優しく両手で包んでくれた。


「ご安心下さい。どのようなことが起ころうとも、マキ様はこのシマがお守りいたします。私はマキ様の為の従者であり、サポーターなのですから」


 柔らかく微笑み、安心させるようにシマさんは、そうわたしに告げた。

 うーん、信用してもいいのだろうか?


「ふむ……信用に足る実績を残せていませんし。ここはやはり、あのクソ上司を八つ裂きにして来ましょうか?」

「おやめくださいシマ様」


 ここまでの流れをぶった切って申し訳ないけど。やっぱり血生臭いのは良くないと思います。

 なんとかならないかなぁ……この状況。

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