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ここがわたしの魔界です!  作者: 文字虎
プロローグ
3/33

2.これがノープランというやつか



 いきなりのノープラン状態からのスタート。

 こちらとしては、何かを望んでここに来たわけではないし、そして神様からも、何かお願いがあるというわけでもない。

 え、どうしよう、まさかの自由行動?


「何をするのも自由です。マキ様の身に起きたことを踏まえれば、本来であれば、その神でさえも憎いと感じるのが道理。

 アレが管理する、この世界を自由に壊すことも、この世界の者全てを殺戮することも、問題ないかと思われます」

「いや、そんな物騒なこと考えないよ!?」


 虎の人からなんとも物騒な提案をされる。

 いやいやいや、たかが女子高生に何が出来るって言うんだ。ましてや神様を殺すだなんて。


「身内の恥は自分の恥。お任せ下さい、私も心苦しくはありますが、あなたの為であれば、喜んでアレを八つ裂きにして差し上げます……!」


 半分以上、私怨が混ざってますよね! 心苦しく感じる目ではなく殺意に満ち満ちた目だよね!

 完全に虎の人はやる気マンマンであるが、わたしはそれを慌てて宥めた。

 い、一応現代っ子だからね! そういう殺伐としたのはちょっと勘弁願いたいです。


「え、ええと、じゃあこの森で、わたしは静かに暮らしたいかな、うん! 素敵なお家を建てて、料理とかお裁縫とかしてみたいかも! 子供の頃から、そういうのにちょっと憧れてたし!」

 

 何をするのも自由と言われたので、過激な方向へと進む前に、わたしは穏便な方向へと話を進める。

 実際、お料理とかお裁縫とかをやりたいというのは、結構本当だったりするし、なんだったらこの状況はある意味、ラッキーなのかもしれない!

 そう自分に言い聞かせ、とりあえず、まずは物騒な話の方向を強引に切り替える。


「それに特に問題がないならそのうち戻れるんでしょ? だったらこっちでちょっとしたお休み気分を味わえば、帰ったときに何事もなくスッキリすると思うんだ!」

「――っ」


 一瞬だけだが虎の人の顔が強張った……ように見えたが、その顔はいつの間にか微笑んでいた。

 あれ、何か変なこと言ったかな? 虎の人も夏休み残り少なくなるとナーバスになるタイプの人?


「承知いたしました。マキ様の願いは、私の願いでもあり使命。私も全力でもってマキ様のサポートをさせていただきます」


 大げさなぐらいの表現で、虎の人は胸に手を置き、一礼をし、わたしのサポーター宣言をする。

 わたし、そんな大層な人間じゃないよ?

 まあ、とにかく目的は出来上がった。そうと決まれば、まずはお家作りだ。家がなければ行動することもままならない。

 ――あれでもどうやって、家作ればいいんだ?

 わたしは周囲を再度確認して、ようやく気付く。

 ここは人里でもなんでもなく、ひたすらに広がっている森の中。奥の方を確認しても樹木ばかりが乱立しており人影なんてものは当然ない。

 ……開始早々詰んだ?


「ふむ、それなら家を作るのが先決ですか。少々お待ち下さい、今道具を用意いたします」

「え、何処に道具が――」


 言うや否や、虎の人は空中に突然現れた白い空間の中に手を突っ込む。

 え、あの腕が消えてるんですが……。


「急ごしらえの拙い物でありますが、こちらが切り倒しや、切り出し可能となっているチェーンソーとなっております。

 まずはこれで木を切り倒して簡単な木造の家を作るのがよろしいかと――はて、マキ様? 如何なさいました?」


 先ほどまで消えていた手で小型のチェーンソーを持ち、わたしに手渡す。

 わぁ、すごい軽くてハンディタイプだから、力の弱い女の人でも使えそう……じゃなくて!


「え、いや、あの……今、何処に手を突っ込んだんです?」

「何処に手を……あぁ、こちらですか?」


 そういうとまた、丁度、手を入れられそうな白い空間が現れる。

 そこに手を入れると、手ごろなサイズの斧がその白い空間から現われた。


「まあ、アレからもらった力の一つと言いましょうか。詳細な原理に関しては、私も全て把握しているわけではないので説明は省きます」

「チートだなぁ……うん、小説でよく見たパターンだ」

「御理解頂けたようで、何よりです。それでは早速、木材を確保して家を作るとしましょう」

「あ、はい。わかりましたー……あ、えーっと」


 もう一つ思った。この虎の人、名前は何て言うんだろう。

 流石にいつまでも虎の人って認識だと、いざ呼ぼうとしたときに言葉が詰まるし相手に失礼だろう。

 ここは失礼を承知で第一歩を踏み出すべきか。


「と、虎さんのこと、なんて呼べばいいですかねー?」


 コミュニケーション下手くそか、わたし! もうちょっとこう、いい感じの聞き方はないのか!?

 ほらもう、虎の人が目を見開いて固まっているよ!


「――失礼しました。

 私も名乗りたいとは思っていたのですが、何分ちゃんとした名前を持ってはおりませんので」

「え? 名前ないの?」

「えぇ、元々私は、あの上司の仕事でしか使われない身。まともな名前はございません」


 うーん、あの神様、色々とズボラなんじゃないかなぁ……。そりゃ、虎の人にも寝首を狙われると思うんだ。

 しかしまいったな、名前が無いとなると何て呼べばいいものか。


「……もし、よろしければ、マキ様が命名してもらえませんか?」

「ふぇ?」


 閃いたように言う虎の人は、話しながらも木を切るべく動かしていた手を止めて、わたしに提案を投げかける。

 え、えぇ……こういうのって、わたしが勝手にしちゃっていいのだろうか? 神様怒らない?

 ……なんてちょっと考え込んだら、あからさまに虎の人が気を使い始めて悲しい顔つきになってるよ。頭の上にある耳なんて、しょんぼりしたように垂れてるし、尻尾が垂直に下がってるし。


「あ、いえ。申し訳ございません。いきなり、このようなことを言うのは失礼でした」

「え、あ、ちょっと考えさせてもらってもいいですか!? 切っている間に考えるんで!」


 あまりに可哀想に思えたので、思わず、わたしは了承してしまった。

 そうすると、なんということでしょう。虎の人の耳がピンと立ち、目を見開き、しっぽもユラユラと立ち上がって嬉しそうに揺れているではないか。

 可愛いなこの虎!


「了解しました。決まりましたら、その名前でお気軽にお呼びください」

「あ、わ、分かりました」


 少しだけ愛嬌のある虎さんの名前を考えつつ、わたしはチェーンソーを使って木を切るのであった。

 ……あの虎さん、斧で木を一薙ぎしてる。すげぇ。

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