幕間.ここの世界の種族
「そういえばシマさん、魔族とか獣人とか色々聞いたんだけど、この世界の人って○○族って感じで他にもいるの?」
ウォフルさんと話したときに、度々出てきた人間や獣人というワードが気になりわたしはシマさんにどういうことなのか聞いてみる。
するとシマさんは思い出したかのようにわたしの質問に答える。
「そうでした、まだ魔族と魔物しか紹介していませんでしたね。ウォフル殿と話を合わせられる様、この世界の生態系についてお教えいたしましょうか」
そういいながら、シマさんは洗濯物を干し終わり、わたしに向き合って深々と一礼する。
「まあ軽く説明しますと、この世界での人種というのは、大まかに分けられて3種類といったところでしょうか。純人種、亜人種、獣人種といった具合でございます」
人種を紹介するタイミングに合わせてシマさんが指を立てていき、3本指をわたしに見せる。
えーっと、純人種?
「純人種は所謂、マキ様のような人間に分類される種族ですね。この大陸の人口の半数は、この純人種で構築されています。身体的構造などは概ねマキ様の世界の人間と同じと考えてくれてよろしいかと」
「ほへー……やっぱり、どのお話でも人間ってのは半数以上いるもんなんだね」
これ小説で良く見たことある展開だ。いわゆる人間至上主義の名残ってやつだよね、わたし知ってる。
「何やらメタなことを言われたような気がしますが……気を取り直して。その次に人口が多いのは獣人種。私のような姿の者を主に示します」
シマさんは自分のことを手で示しながら、獣人種について説明していく。
なるほど、シマさんみたいなのは魔族とかではなく、ちゃんとした人種ってことかー。
「獣人種は獣の因子を色濃く残したコボルトに似たような姿の者もいれば、獣の姿でありながら骨格は人間に酷似した者など、多義に渡りますね。例えば――」
そういうと、シマさんは失礼と一言言った後、胸に手を当てて一息呼吸を込める。そうすると、シマさんの骨格が鈍い音を立てながら、少しずつ変わっていく。
「え、うわ、うわわ……ちょ、シマさん!?」
バキバキと響かせる音を聞きながらわたしは引き気味にそういう。いやだってすごい痛そうな音鳴らすんだもの、慌てもするって。
そんなわたしの声を無視してしばらくすると、シマさんが一息ついてわたしの方を振り向く。
「獣の因子が強いと、このように手や足が獣に近い形になりますね。このような足を指行性脚、この世界での俗な言い方をするならば、ケモノ足と呼ばれますね。海の獣は腰から下がヒレになっていたりしますね」
手……というか前足? を見せたり、自分の足を上げながらシマさんはわたしに伝える。不思議と燕尾服は破れることなく、シマさんにしっかりフィットしていたが、そんなことよりも。心なしか胸元毛並みが更にモコモコしているような……すごい気持ち良さそう……あぁいやいや、そうじゃない。
獣に近い骨格のせいか、シマさんは頭を少し前に屈めるようにしながらわたしをじっと見つめる。
「グルル……あっ。 失礼しました、この姿だとどうにも、獣側に引っ張られやすいものでたまにこのような声が」
「その状態のシマさんを物凄くモフモフしたい」
思わずわたしは力強くそう言ってしまい、慌てて口元を手で隠して、今の発言を聞かれないようにしたが……どうやら聞こえてしまったらしい。
なんだろう、この世界に来てから何故か獣人さんとかウォフルさんみたいな獣の人を、モフモフしたい衝動に駆られている気がする。
シマさんは面食らったように目を丸くしてしばらく固まっていたが、手で口元を隠しながらコホンと咳払いをする。
「……魅力的なお誘いではありますが。まずは説明を続けましょう」
了承と取っていいのだろうか、シマさんや。
「最後に紹介するのは亜人種。こちらに関してはほぼ純人種に似た姿をしていますが、体の一部に獣のような因子を持っていたり、人に近いが人ではない種族のことを広義的に指し示します。
耳が長く尖り長身な者が多いエルフや、背が低く筋骨隆々で男性の多いドワーフ。
外来の種としては、成人しても子供の様な姿を保つプランツや、海洋生物の特徴が見られるマーピープルなどが主でしょうか。
ちなみに最初に出てきた獣の要素を持ち合わせた亜人はイサドランと呼ばれていますね」
エルフにドワーフ、聞く限りでは小人族や魚人などファンタジックな用語がどんどんと出てくる。
体の一部に獣のようなってことは所謂ネコミミだとか、尻尾の生えた人とか? んー奥深いな、この世界の人種というのは。
ウォフルさんではないけどちょっと興味が湧く。
「人や動物、亜人や獣人を広義では生物と呼び、魔族やドラゴンを広くまとめるのは魔物。この世界に住まう者は大体この二つですね。例外があるとすれば霊体、あるいはアンデッドと呼ばれるものでしょうか……まあこれは魔物と言っても過言ではありませんが」
「ひぃ……ゾンビ物はあまり好きじゃないかなぁ……」
ゲームは良くやるし、小説とかは良く読むが、ゾンビモノはどうにも好きになれなかった。何が良くないってあの外見が良くないんだ。しかも人の形はある程度保ってる分なおさらタチが悪い。
「以上が大まかなこの世界の生態系と言った感じです。魔物の詳細は残念ながら細部まで理解できていないところがありますので端折りましたが……」
「うん、なんとなく分かったかな。ありがと、シマさん」
「恐れ入ります」
深々と一礼をした後、シマさんはふわりと微笑んだ……のかな? いつもより獣成分強めだからいまいち表情が読めない。
「それでシマさん、モフモフの件なんだけど……」
「……御手柔らかに」
少し顔の赤いシマさんが、落ち着かない様子でそういう。やっぱり動物的本能みたいなのがあるのだろうか? 撫でられたりするのが好きなのかなぁ。
何にせよ、役得といった具合に、わたしはシマさんのモフモフを堪能するのであった。
あまり詳しいことは言えないけど、レアなシマさんが見れたとだけは記しておこう。
ちょっとしたこの世界の生態系の補足説明回
ちなみに体の構造を意図的に作り変えることが出来るのはシマ君だけです。