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ここがわたしの魔界です!  作者: 文字虎
1章:ここが始まり
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幕間 これが俺の望んだ世界

ウォフル視点 そんでもって短い



 精霊術や魔術を学びたくて、住んでいた魔族領を出た俺は驚きの毎日を送っていた。

 やはり魔族領という場所は学ぶには適さないし、あの領域は広い世界のようでいて、狭いところなのだろう。

 魔族が最上位存在?

 あのドラゴンさえも超越する力の化身?

 この森に足を踏み入れた途端に、そんな妄言は驕りなのだと思い知らされる。それほどまでに、魔の森に住まう精霊たちや妖精、魔物たちは力を有していた。


「所詮は俺も、井の中の蛙だったということか」


 自分が住まう場所の区画取りを終えた頃には、辺りは夕暮れ。

 いくら光の精霊がいたるところで漂うのだとしても、そこは森。やはり夕暮れになってくればある程度見通しも悪くなってくる。

 森の切り株に俺は腰掛けて、休憩とばかりに組んだ焚き火を見ながら一つ溜め息をつく。

 ふと、自分の腕を見る。そこにはかつてつけた古傷があったはずなのだが、今では傷一つない綺麗な獣の毛並みが見受けられた。

 やはり、世界は果てしなく広い。マキ君なのか、シマ君なのか良くは分からないが、どちらかが俺の体にあった古傷ごと、怪我をしっかりと治しきってしまったのだから。

 人間の間で生まれて、魔族に伝聞された精霊術や魔術での治療では、ここまでの効果を発揮するものは存在しなかった。

 治療術では傷はゆっくりと治っていくもので、傷跡が残ることは当たり前。

 治療術をすればするほど後遺症が残りやすくなる。

 毒はいくら治療をしても少量だけ残り、それを媒介にまた体を蝕み始める。

 呪いなんて受けてしまえば、その呪い主を殺さない限り永遠に残る、というのが当たり前であった。


 それなのに、俺の傷だらけの体は今やどこにも傷なんてものが存在せず。魔族領の中で受けていた毒も体の何処にも存在しない。

 俺に掛けられた、精神を狂わす、魂に刻みつけられた魔弱の呪いも、今や意識の中には何処にもない。


「まるで奇跡。神による奇跡みたいじゃないか」


 伝承の中では。神は精霊から力を借りて、あらゆる傷をたちどころに綺麗に治し。毒を浄化し、呪いを消し去ることが出来ると言われていた。

 もしそうなのだとすれば、あのどちらかは神様……あるいは両方とも神様なのだろうか?

 オーガベアーはマキちゃんを女神と敬っていたが、やはりマキちゃんは女神なのだろうか?


「どうなんだろうな、チビスケ」

「わふ」


 座っていた俺の膝に乗っていたチビスケは一鳴きして、尻尾を軽く揺らす。

 ……いくら魔族といえど、やはり魔物と意志を疎通することは出来ず、チビスケの真意は分からなかった。

 女神様、かぁ。


「俺を救ってくれた女神様、だよなぁ」

「わん」


 温厚だけど気が強くて、どこか天然っぽい感じがするあの女神様は、何故か俺の心を揺らす。

 魔族の一人に呪われて以来、とうに捨ててしまったと思っていた心が、静かにまた動き出し始めているのを実感する。

 意識すればするほど、マキ君のことをもっと知っていきたいと思っている。

 あの花が咲いたような笑顔を、あの愛らしい子を、守っていきたいとさえ思える。一目惚れというやつなのだろうか? 魔族が? 人間に?

 そう理解をし始めると、ゾクゾクとした感覚に俺は襲われる。


 嗚呼、そうか。俺は単純に。


「好きになってしまったんだな」


 理解すると、ストンと、何かが俺の中で落ちる。精霊術や魔術を彼女らから学びたいのは建前だとしてもいい。ただ俺はあの子を守りたい。

 ……まあ、そんなことがシマ君にバレてしまえば、俺は簡単に殺されてしまうだろうが。


「シマ君のあれは……崇拝? 畏敬だろうか?」


 彼女のことを敬い、最上の者としているが、なんだか人間味を感じることが出来ない。敬いこそすれ、そこには恐れのようなものを感じる。

 そんな彼女のことを、彼は騎士のように守ろうとしている。


 嗚呼。あの女神の隣には、俺こそが相応しいのに。


 邪な考えが俺の頭を過ぎるが、頭を軽く振ってなかったことにする。無理な話と言うものだ。

 そう考えていれば、ふと、あの家の戸が開いて、俺が聞きたかった声が聞こえるではないか。


「ウォフルさーん! お夕飯できたんで、一緒に食べませんかー?」


 彼女の声がすれば、チビスケは膝から飛び降りて、真っ先に彼女のところへと駆けていく。

 ふむ、ふむ。


「ああ。そしたら今日はここまでにしよう」


 何も作ることが出来ず、焚き火をただ燃やしていた俺は、火に土を掛けて消す。

 明日は恥を忍んで彼女達に家作りを手伝ってもらおう。そう思いながら俺は彼女の家へと足を向けるのであった。

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