13.これがわたしの精霊遺物です
熊さんが外で周辺警戒をしてくれるということで、とても心強い見張り番が現れた。
外で作業していた人形隊さん達はというと。
熊さんに敵意は感じなかったものの、どうしようか考え続け、物陰からずっと様子を伺っていたらしい。
隊長と思しき人形さんから、身振り手振りでシマさんに伝わり、そのような雰囲気がわたしに伝えられた。
決してサボりではなかったということは理解できたから今回は、お咎めなし。
うーん、そう考えると熊さんには悪いことした気がする。
あれ? でも、敵意がないのはわかったけど、どうしてウォフルさんとチビちゃんは熊さんに襲われたのだろうか?
『そこのチビスケが警戒する間もなく襲い掛かってきたから、仕方なく相手してたらそこの狼男が攻撃してきた。だとよ』
ノームおじさんが熊さんの発言を翻訳し、現状の理解が出来た。
うーん、これはチビちゃんが悪いかな。
「チビスケ……喧嘩っ早いのは理解していたが、流石にオーガベアーは無謀だろう」
「わう」
『まだ全力じゃなかったし、本気出せばあんなやつぐらい勝てるし。だとよ』
謝る気ゼロだね、チビスケ君や。というかノームおじさんは、チビちゃんの言葉も翻訳できるのか。
ウォフルさんが熊さんに謝罪をするが、熊さんは切り株に座りながら大丈夫といった具合に片手をひらひらしていた。
なんか人間じみてるな熊さん。
『あぁそうだ。お嬢さんからさっきもらった魔力で作り上げた道具だ。身につけるものにしてみたから、できれば肌身離さず持っていてほしい』
「お、おぉ……ブレスレットだ」
銀色に淡く輝き、ワンポイントで琥珀色の宝石っぽい何かが取り付けられたブレスレットを、ノームおじさんがくれる。
すごい綺麗だけど、もらっていいのだろうか?
『人間の間じゃ、精霊が人に与えるものを精霊遺物って呼んでるっぽいぞ。まあちょっとした加護が付いてるから、何かあったときに使うといい』
「ちょっとした加護?」
『具体的には土の加護による守護と、指定した地面や石の爆破だな』
「爆破」
なんだってノームおじさんは爆破芸に全力を捧げるんだろうか。わたし爆弾魔か何かに見られてる?
わたしってどんな風に見られているのか、今一度、真剣に考えないといけないだろうかと考えていると、ノームおじさんは親指をグッと上げていい笑顔でこう言った。
『……爆破はいいぞ。心を落ち着けてくれるからな。鉱石群を爆破して綺麗な石が出てきたときにはな、もうゾクゾクするぐらい快感だぞ?』
違った、単純にこの人が爆破することを生き甲斐にしてるだけだ! 精霊の中では常識人なのかと思ったノームおじさんが一番やべえぞこれ!
「あ、あはは……爆破はいいかな」
『そう言わずによ。試しにオーガベアーのやつが座ってる切り株をボンッといってみようぜ』
「やめよう爆弾狂」
『チッ、ノリが悪いお嬢さんだ』
わたしの制止にノームおじさんは舌打ちをして、あからさまに残念そうにする。ホントに爆破したいんだなこのおじさん。
……火打石っぽいものはしまって。何を着火するつもりなんですかね!?
「ま、まあとりあえず……ゴタゴタしたのはこれで一気に片付いたのかな。ね、シマさん」
「えぇ。後はあの駄犬と無礼な狼男を爆破してしまえば、全て綺麗に片付きますな」
「シマさぁん!? 何言ってんの!?」
首元に突きつけた親指を左から右へ動かして、シマさんはノームおじさんにGOサインを送る。
すごい凶悪な面構えをしたノームおじさんが、どうやって用意したのか、火薬の線に着火する。
「よし、後は足元に事前に仕掛けた爆薬に火がつけば完璧です!」
「いやちょっとぉ!? 逃げて!! ウォフルさん達そこから逃げてぇっ!!」
一件落着といった具合にて。わたしはウォフルさんとチビスケちゃん、ついでにオーガベアーのクマダさん――さっき命名した――を家の中に招き入れて、お茶をすることに。
色々と迷惑掛けつつ掛けられつつだったので、改めてわたしはおもてなしをする。
「それが先程ノームからもらった精霊遺物……。他の精霊遺物とは違ってしっかりとした作りだ」
お茶を一口飲み、ウォフルさんはわたしが腕につけていたブレスレットをまじまじと見て、そう呟く。
他の精霊遺物はこういうものじゃないのだろうか?
「こう、なんというか……。あまり実用的じゃないようなのがほとんどだな。表面に付いたボタンを押すと、蓋が開いて風が吹き荒れたりする箱だったり。魔力を込めると、付けている者の装備が弾け飛ぶネックレスだったり」
「うわー……なんだそのビックリ箱と傍迷惑なネックレス……」
遺物というか、パーティグッズみたいな? いやそんな危険なパーティグッズもいらないけれども。
そういえば、シマさんに預けていた精霊さんからのもらい物はどうなのだろう? ふと疑問に思って、反省とばかりに正座させたシマさん――ノームさんも一緒だが――に聞いてみる。
「あぁ、先程の爆破騒動の前に完成しました。シルフの匂い袋はヒップバッグに括りつけて、サラマンダーとウンディーネの宝玉は二つ合わせてネックレスにしてみました」
「おぉーすごい……」
いつの間にか用意されていたヒップバッグには、シマさんが編んでいた紐で匂い袋が括りつけられていて、サラマンダーとウンディーネの宝玉は銀の飾りに取り付けられて、銀色のチェーンでネックレスになっていた。
すごいな、シマさん装飾細工とか出来るのか。
「この匂い袋も宝玉も精霊遺物なのか……! 一体どんなことが出来るんだ?」
興味津々とばかりウォフルさんがシマさんにグイグイと身を乗り出して聞いているが、シマさんに関してはすごい鬱陶しそうにウォフルさんの顔を押しのけて、わたしの方へと向く。
一応、お客様だから無下に扱っちゃダメよシマさん……。
「匂い袋は精神安定する効果……まあ使い方はそのままのようですね。マキ様の気を落ち着けるものとなっております。サラマンダーとウンディーネの宝玉は炎と水の加護ですね。暑さや寒さといった外気を和らげてくれます」
「おぉ。普通に便利だ……」
ようするに、リラックスするアロマと空調管理を兼ね備えたアクセサリーって感じだろうか。過ごしやすくなりそうだなぁ。
「後は……指定した場所に火柱を上げたり、地下水が吹き上げたり。更には指定した対象の装備が弾け飛んだりするのだとか」
「えらく物騒なもん搭載したね、あの精霊たち!」
なんでそんな、デメリットのようなものをつけなきゃ気が済まないのさ、精霊さん達は!?
物騒なアクセサリーを見て、どうしようかと考えると、ふいに、ウォフルさんの方からぼそりと声が聞こえる。
「……らしい」
「へ? ウォフルさん?」
顔をうつむいてフルフルと震えるウォフルさん。え、なんだろうどこか具合でも悪いのだろうか?
わたしは心配になってウォフルさんに近寄ると、いきなり顔を上げてキラキラとした目でわたしの肩を掴んできた。
「素晴らしいな、君は! ノームのみならずシルフやウンディーネ、更にはサラマンダーの精霊遺物を貰い受けるとは! 南西のサンクタードでも、そこまでの加護を受けた使徒はまずいないだろう! 一体どのようなことを成し遂げれば、精霊たちに愛されるのか興味が尽きないぞ! やはり君の魔力なのか!? それともシマ君を従えていたからこそ成し遂げたのか! ああぁ! すごい! すごいぞマキ君! 俺は今! 人間の極致、人類の魔力の真髄に向き合ってるのかもしれない!」
「あ、あのー……ウォフルさん……?」
何やらすごく興奮している様子のウォフルさんは、しきりにわたしとシマさんを褒めちぎり、恍惚とした表情でわたしを見据える。
最初会ったときは物腰丁寧な人なのかと思ったのだけれど……もしかして、結構やばい人?
そんな風に若干引いてると。
「決めたぞ! 人里で暮らそうと思っていたがこんな逸材がいるのであれば! 俺はこの土地に住む!」
「えぇ!?」
ウォフルさんは確固たる決意を目に秘めて、この土地に住むことを決めたのであった。
……どういうことなの?