8.ここは魔物の巣窟らしい
ここまでの大まかなお話
「なんか不手際で流れるように殺されて、殺した神様が証拠隠蔽しようとして、私を勝手に異世界に流しました。元の世界の神様がその神様をボコって事を治め、わたしに力を渡し、この世界に永住させてくれたらしいです。そんなわけで、ここまでの理不尽な行いを、全て従者に当り散らして今に至ります」
「終盤に悪意篭ってますね」
「あたぼうよ」
さて、まずはわたしがここで生きていく上で、何が重要なのかを知っておかなくてはならない。とは言っても、何から手をつけていいのか、サッパリ分からないわけだけれども。
「そうですね……まずはこの森“魔の大森林”のことについて教えていきましょうか」
「魔の大森林……なんとも、ファンタジーな名前ですね」
近場の切り株を勉強机のようにして、私は切り倒した木に座ってシマさんにこの世界のことを教えてもらうが。
シマさんからは、まずは手近なものから教えていきましょうということで、この森のことを教わることにした。
「ここ、魔の大森林は、イアスブリード大陸の中心にて、大陸の半分以上を覆う広大な森林となっております。あまりに広大な上、精霊の力なども働いているため、ほとんどが未開の地となっている謎の多き場所……と言われています」
「言われている?」
「はい。というのも、この大陸の南の地に人が住まう場所がありまして。そこの人達の伝聞では、そのような風になっているようです」
へー。人もいるんだなぁ、この世界。まあでも剣と魔法の世界っていうぐらいだからそれは当然か。人がいなきゃ剣要素のないただの異世界サバイバルになっちゃうもんね。
まあ、人の話はまた後で聞くとして、まずはこの森についてか。
「先程も言いましたとおり。この大森林は精霊の力も働いていますが、妖精や魔物や魔族、さらには竜などといった存在がいる、まさに魔境といった場所になっております」
「そんなやばい所に飛ばされたんかい」
やっぱあの神様は殴るべきだっただろうか。遠いお空でちょっと前に聞いたことのある悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだったということにしておこう。女神様は今も、あの神様をムチでしばいてるのだろうか。
シマさんが咳払いをひとつして、話を続ける。
「……まあ、竜なんかは、この森の中心部にあるイアスブリード山脈にいますし、魔族に関してはそのイアスブリード山脈を越えないことには、まずお目にかかることの出来ない種族です。実質的には精霊や妖精、魔物といった者達がひしめき合う基本的には穏やかな森ですよ」
「後者2つのせいで何も穏やか要素がないんですけど、そこに関してはどうお考えですか」
「穏やかだと思われる森です」
「言い直しましたよ、この人」
非常に不安なんですが、そこんとこ大丈夫なんすかねシマさんや。
んーでもあまり実感が湧かないなぁ。精霊さんなんてのも、妖精さんなんてのも、ましてや魔物すらもわたしはまだこの森で見かけちゃいない。
「それっぽいのは全然見てないけど、ホントにいるんですか?」
「えぇ、魔物に関しては、わたしがこの場所をセッティングする際に一番安全であろう場所を選び抜きましたので。あまり会わないかと。精霊なんかは結構会ってると思いますよ? ほら、あそこに浮かんでる光なんかがそれです」
そう言って、森の方を浮かんでいた光を指差して、シマさんは言う。
え、あの光って精霊さんだったの? 木を切るとき周りに居たけど、てっきり蛍みたいな虫だと思ってた。
そんな風に見ていると、視線に気付いたのか、光が2つほどこちらにふわふわと飛んでくるではないか。うわうわ、どうしよう、何か怒らせた? ガン飛ばしてるって思われちゃった?
身構えていると、シマさんは少し笑ってわたしにリラックスするように言ってくれた。
「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。精霊たちは私達には友好的ですから」
『あ、神様だ』
『よーう、神様ー』
光が近寄ってくると、その光の中には、小さな青白い炎が灯ったカンテラを持った、炎のような子がいた。わぁ、ホントにファンタジーな精霊さん……ちょっと可愛いかも。
「こんにちは、ウィリアム。ここ最近変わったことはありましたか?」
シマさんが淡々と、ウィリアムと呼ばれた精霊さんに話しかけると、ウィリアム達はカンテラを浮かばせて、腕組をして首を傾げながら考え始めた。
『何かあったか? アレの話とか?』
『あーアレなー。ここ最近迷い込んだ人間を、悪戯で妖精達の国に突き落としてみたぜ? 面白い悲鳴を上げて落ちてったから、笑い転げちまった』
前言撤回、この子達やってることは残酷極まりない気がするぞ。突き落としちゃったって聞こえたんだけど?
『そういや、そこの人間は? 神様と同じような匂いがするぜぇ』
『俺らをこの地に縛りつけた神様のような、でも、俺らが好きな人間のような。とても不思議な香りがするな?』
ウィリアムと呼ばれた精霊たちは、わたしにふよふよと近寄って、ぐるぐるとわたしの周りを回る。さ、さっきの話を聞いた手前、ちょっと怖いんですけど……。
『あちゃー。おいウィル。この子怖がってるぜ?』
『えぇーマジかよウィル。俺ただぐるぐるーって周りを回って見ていただけだぜー? でもなーんか、面白い魔力だなぁ』
『そうだよなー面白いよなこれ……あ、これ愛し子ってやつじゃないかー?』
『おー! きっとそれだ、愛しい子! 俺らの愛すべき人間でも一等愛らしい、俺らの宝! 神様の贈り物!』
好奇心で覗き込んだかと思えば、今度は愛おしそうに炎の子は目を細めて笑う。
……害はない、のかな?
そんなふうにわたしが困っていると、シマさんが手をパンパンと叩いてウィリアムたちに話しかける。
「ウィリアム。マキ様が困りますから、その辺で」
シマさんが手を叩けば、ウィリアム達は、あいあいさー神様ーと、ケラケラ笑いながらどこかへと消えていった。
……な、なんかすごいなぁ。
「……ウィル・オー・ウィスプ。この世界で光を司る精霊です。森のいたるところに浮いている光は全てウィル・オー・ウィスプです。ウィリアムと呼べば、彼らは喜んで来てくれますよ」
「は、はあ……すごいですね……本当にファンタジーって感じ」
「少し妖精にも似た残酷な面もありますが……彼が悪事を働く相手は、全て罪ある者ですので。大方罪を犯して森に逃げ込んだら、ウィリアムに騙されたクチでしょう」
へえ……なんとも、面白い精霊さんだなぁ。あの光が全てウィリアムなのか……なんとも、うん。
「……男くさい精霊さんというか、なんというか」
「まあ元が男性ですからね、ウィリアムは。女性のウィリアムもいますよ」
アレな感じのウィリアムが頭の中に出てきたが、わたしはすぐにその妄想をかき消す。ウィリアムに失礼だろう。
そっかー精霊さんいたのかーこの森……。
あれでも、こういう世界って精霊さんありきみたいなところあるよな……木を切って困る精霊さんとかいるんじゃないだろうか?
「そういえば精霊さんに何も言わずに木を切っちゃったけど……木の精霊さんみたいなのは怒らないの?」
『呼んだか、娘っ子』
「ひゃい!?」
ボコっという音とともに、とんがり帽子を被った小さなおじさんがわたしの近くの地面からいきなり出てきた。
「彼はノーム。木の精霊ではなく地の精霊ですが、管轄が一緒の精霊ですね」
「なんでそんな、なんでもない顔で説明できるのこの人!!」
この世界の常識なのかどうか良く分からないが、何かしらの通過儀礼っぽいものを喰らったわたしなのであった。
ちょっとしたマキちゃんの周囲の説明回。
ウィル達の話を書いたら思った以上に長くなってしまった。でもまだ続くんじゃよ。