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私は若葉に会わないといけない。会って、謝らないといけない。若葉と向き合えなかったこと、若葉の言うことをきちんと受け止めてあげられなかったことを。
「若葉はどこにいるの?」
たっくんの身体がピタリと止まる。
「若葉ちゃんと会って何を話すつもり何だい?」
「今の私に重要なのは、何を話すかじゃなくて、何から話すかなの。それ以上上手く説明はできない。ごめんね、たっくん」
テーブルに置いてあるグラスがカタカタと揺れ始める。列車が発射準備に入ったのだと私は気がついた。窓の外を動き回っていたロシア軍人の数はいつのまにか減っていて、数人が最終チェックのために残されているだけとなっていた。
「若葉ちゃんは……」
たっくんは私が入ってきた方向とは逆の方向にある扉を指さした。
「隣の車両に入ってすぐ右の個室にいる」
ありがとう。私はたっくんにお礼を言ってから、立ち上がる。そして、早足でたっくんが指さした扉へと近づき、扉の取手に手をかけた。
「ひとみ!」
背中からたっくんに名前を呼ばれる。私は振り返った。たっくんは申し訳無さそうな表情を浮かべたまま、じっと私の方を見つめていた。沈黙が流れる。それからその静寂を突き破るようにして外国語のアナウンスが再び食堂車両に響き渡った。
「さっき、入ってすぐの右の個室に若葉ちゃんがいるって言ったけど……」
たっくんが重たい口を開く。
「もしかしたら、左の個室かもしれない」
私はたっくんに微笑む。別に怒っていないよと伝えるために。
「大丈夫、気にする必要はないよ。人間誰しも、間違えてしまうことはあるんだもの」
自分自身に言い聞かせるようにその言葉をつぶやき、私は扉を開く。自動販売機が設置されたデッキを抜け、連結された次の車両へと渡る。たっくんが言っていたとおり、左右に個室があった。私は初めに、右の個室の扉を開ける。しかし、案の定、中には誰もおらず、狭い空間に一人がけのソファが二つ、向かい合って設置されているだけだった。
私は扉を閉め、深呼吸をする。列車の振動が少しづつ大きくなっているのがわかる。左の扉へ手をかけ、私はゆっくりと扉を開ける。個室の中では、若葉が向かい合わせのソファの一つに座り、窓の外を眺めていた。
「知ってる? お姉ちゃん」
若葉は窓に映った私の姿をそっと指でなぞった後、私の方へと振り返る。
「モスクワって家の冷蔵庫の中よりも寒いんだってよ」
次回、最終話です。




