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突然勃発した銃撃戦に、周りにいた局内の人間はパニックに陥っていた。すると騒ぎを聞きつけたロシア人が人だかりをかきわけて現れた。
「大丈夫、命に別状はありません」
ロシア人はエリカさんの傷口を確認し、すぐさまそう判断した。私とエリカさんのお兄さんはその場に立ち尽くすことしかできず、うろたえていた。
私の頭には色んななぜが渦巻いていた。なぜ私がソ連人にとって重要人物なのか。なぜソ連人は私に入院中の妹がいることを知っていたのか。なぜ私の妹の入院先を知った途端に私のことを用無しだといって殺そうとしてきたのか。
考えられる答えは一つしかなかった。しかし、それはとてもじゃないけど受け入れられるものではなかったし、信じられるものではなかった。しかし、ちょうど昨日、たっくんが私に残したメッセージが今更になって私の脳裏に蘇る。
『ワカバニキケンセマル。チュウイチュウイ』
私は不安のままロシア人と倒れたエリカさんを見つめる。ロシア人は携帯電話で救護を要請している最中だった。そしてロシア人は電話を切り、私の方を振り向くと、私を安心させようとしているのかにこりと微笑みを浮かべた。
「妹さんは大丈夫ですよ。我々には将軍がついていますから」
その瞬間、私の中で何かがはじける音がした。「ごめんなさい!」と私は大声で告げ、入り口へ向かって駆け出した。後ろから私を呼び止める声が聞こえてくる。それでも私は走り続けた。入り口を抜け、駐車場を抜け、ちょうど右からやってきたタクシーを捕まえることができた。私は運転手に妹の入院先を告げ、できる限り急いでくれと急かす。
私はタクシーの後部座席で身を縮こませながら神様に祈った。妹の無事を、そして私の推測が外れていることを。三十分ほどかけてタクシーが病院の前に付き、私は急いで病院の受付へと飛んでいった。
受付にいた女性はにこりと私に微笑みかける。私は早口で妹がいる特別病棟へ行かせてくれと申し入れる。
「すみません、特別病棟の何号室でしょうか。一応面会記録をつけなければならないもので」
「ごめんなさい、何号室かは忘れちゃいました。佐々木若葉って私の妹がいるんです。一刻も早く妹に合わなくちゃいけなくて」
受付係は妹の名前を復唱し、照合作業を始める。新人さんなのか、たどたどしい手付きでパソコンの入力を行っていて、それが余計に私の焦る気持ちを掻き立てた。
「はい、確認が取れました」
受付係がようやくそう言って顔を挙げた。その表情は営業研修で教わるような素敵な微笑みだった。
「特別病棟E111号室の佐々木若葉さんですね。面会申請を受け付けました」