3-2
「ソ連? どうして?」
「シベリア鉄道だよ、大尉殿。この前、若葉がテレビを見てたらシベリア鉄道に乗りたいなって思ったんだ」
シベリア鉄道? 聞いたことのない単語に私は首を傾げる。若葉がそのままテレビで見たという内容を私に説明してくれる。なんでもソ連とロシアという国にまたがって敷設されている、世界で一番長い鉄道であるらしい。若葉の説明によると、そこから見た車窓の景色がそれはもう絶景らしい。
若葉は女の子では珍しく、昔から乗り物が大好きだった。その中でも特に電車が好きで、よく私は若葉に付き合って、色んな所を電車で巡っていた。正直、私にはその良さというものがよくわからない。でも、電車の車両や車窓からの眺めを見て、可愛らしくはしゃぐ若葉を見ることはとても楽しかった。それだけでも一緒に電車に乗る価値はあった。間違いなく。
そういえば、たっくんも電車が好きだったな。私はふとそのことを思い出す。若葉が入院する前、若葉を連れてよくたっくんと電車デートをしていた。いつもは引っ込み思案の若葉がすぐに打ち解け、楽しそうにたっくんとお喋りをしている姿を見て、この人だったら結婚してもいいのかなと心の奥で考えたこともあった。それは遠い遠い昔のことだけれど。
「若葉も退院したら大尉殿がシベリア鉄道に乗ってみたいな」
「そうだね。お金を貯めて、一緒に乗りたいね」
若葉のためにも、いくらお金がかかるのか、どこから乗車すればいいのかを調べておかないといけない。鉄道ということらしいから飛行機よりは安いだろうし、よくよく調べてみたら乗車駅ももしかしたら日本国内にあるのかもしれない。しかし、ふと私の頭にエリカさんとお兄さんの顔が思い浮かぶ。
「そうだ。お姉ちゃん、最近外国のお友達ができたんだ。もしかしたらそのシベリア鉄道ってやつも知ってるかもしれない。今度聞いてみるね」
私の言葉に若葉が目を大きく見開く。
「外国人。国はどこ?」
「ドイツだって。でも、ドイツには今まで一度も行ったことがないってさ。おかしいでしょ?」
「そうなんだ。お父さんお母さんがどっちかだったらドイツ人なんだよ」
お父さんかお母さんがドイツ人ならたとえドイツに行ったことがなくてもドイツ人になれると若葉は説明してくれる。私は若葉の子供らしい勘違いに笑みが溢れる。
「違うよ、若葉。だって、その人のお父さんもお母さんも日本人だって言ってたもん」
私は若葉の頭を優しく撫でる。それと同時に若杉医師が部屋に入ってきて、面会時間の終了を告げてきた。