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お兄さんと合流するまでまだ時間があったので、私達は池袋の駅近くまで戻り、若い女性に人気のお店でタピオカジュースを購入する。池袋西口公園へと歩いて向かい、白いブロック塀の上に私達は並んで腰掛ける。近くでは若い女子高生たちが同じようにベンチやブロック塀に腰掛け、仲睦まじげに談笑していた。
「エリカさんってどこのお生まれなんですか?」
エリカさんはタピオカジュースを一口飲み、私の方をちらりと見る。
「そんな敬語使わなくていいよ。この仕事に関しては一応私が先輩だけどさ、多分私達同い年くらいでしょ?」
エリカさんの年齢を尋ねると、23歳という返事が返ってきた。偶然にも私と同い年。もっと年齢が上だと思ったが、意外だった。
「で、私の生まれだっけ。私とお兄はどっちもドイツ人なの」
「え、外国の方なんですか?」
「そうそう、まあ日本で生活してるんだけどさ」
名前は日本人だし、両親のどちらかがドイツ人なのだろうか。確かに言われてみれば、目鼻立ちはくっきりしているし、顔も整っている。髪の毛や瞳の色はそれぞれ典型的なアジアンテイストだが、別にドイツ人全員が金髪で青い眼をしているとは限らない。知り合いにドイツ人がいるわけではないけれど、アジア系ドイツ人だと言われれば、ああそうなのと納得してしまう程度の容貌をしている。
「ドイツかぁ……。私はテレビでしか知らないんですが、やっぱり良いところなんですか?」
「え、なんで私に聞くの?」
「だってエリカさん、ドイツ人なんでしょ?」
エリカさんは少しだけ考え込んだ後で、そういうことかと一人で納得する。
「そういうことね。ごめんごめん。確かに私はドイツ人だけど、ドイツに行ったことはないよ?」
「ドイツ人なのにですか?」
「あのねぇ」
エリカさんはおかしそうに笑う。すべてを許してくれそうなその笑顔を見ていていると、不思議と気持ちが和らいだ。
「別にドイツ人全員がドイツに行ったことあるとは限らないでしょ。そんなの単なる偏見だって。黒人はみんなジャズが好きだとか、中国人は金に汚いって言ってるみたいなもんだよ。ひとみのそういう考えは、ああんまり良くないよ」
「ご、ごめんなさい」
私は自分の非礼を素直に詫びる。
「でもさ、お父さんかお母さんからドイツはこういうところだったよ、なんていうお話を聞いたりしてないんですか?」
「あー、ないない。両親どっちも日本人だし、父親が大学時代に旅行で行ったことあるってくらいだもん」
ドイツに行ったことがなく、父親も母親も日本人のドイツ人。それがエリカさんだった。私の知らないだけで、いろんな人がこの世界にはいる。私の中の世界がなんだか少しだけ広がったような気がした。
「あとさ、これは内緒なんだけど……私って、ドイツのスパイなんだよね」