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「ほらっ! もっと腰を使って!!」
エリカさんが私の腰に手を当てながら叫ぶ。私はエリカさんの補助に誘導されるがまま腰を回し、その勢いで目の前のマリモにバールを振り下ろした。
「イー……イチイチイチ……」
マリモのような物体は弱々しく鳴き声を発した後、動かなくなる。エリカさんが足先で念のための確認をしながら、「初めてにしては筋が良いんじゃない」と褒めてくれた。
「今日はこのくらいかな。お兄が残りの分をやってくれてるはずだし……多分」
エリカさんが少しだけ自信なくそうつぶやいた。マリモのような物体をやっつけるのにはそれほど労力はかからない。そうだとすれば、見つけるのが大変なのだろうか。しかし、エリカさんは肩をすくめながら「違うわ」と返す。
「こいつを倒すこと自体は簡単なんだけどさ、たまにソ連の人間に私たちの活動が見つかっちゃうことがあるの。よっぽどヘマをしない限りは大丈夫なんだけどさ」
「え、見つかる?」
初めて聞くその情報に私は驚きを隠せなかった。こういう路地とかで退治するなら大丈夫だが、人通りの目立つところでやってしまうと、偶然街に出ていたソ連のスパイに退治の瞬間を見つかってしまうことがあるらしい。しばらくは一緒に行動するから安心してとエリカさんは付け加えたが、私はその物騒な可能性に尻込みしてしまう。
「見つかったら、どうなるんですか?」
「見つかったら……」
エリカさんは顔を少しだけうつ向け、言いにくそうにつぶやいた。
「足にロープをくくりつけられてさ、それを車の後ろに結ばれるの。で、そのまま街中を車に引きづられちゃうんだわ。もう晒し者よ」
私は自分の足を車とループで繋がれ、そのまま広い大道路を引き釣り回される絵を想像してみた。こすれる背中。汚れる衣服。そして何より、奇異の目で見てくる通行人。エリカさんは顔を上げ、私の目を真剣な眼差しで見つめた。
「すっごい嫌でしょ?」
「はい、すっごい嫌です」