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2-5

 二人から生物兵器退治があると言われて指定された待ち合わせ場所は、人でごった返す池袋駅構内のいけふくろう像の前だった。早めに到着し、ぼんやりと人の流れを観察していると、突然肩をぽんと叩かれる。私は不意の出来事に身体をビクつかせながら振り返ると、私服姿のエリカさんが立っていた。


 エリカさんはシンプルな白いTシャツに青いデニムパンツという格好で、頭にはグレーのキャップを被っていた。背中にテニスラケットのような棒状のバッグを背負っているのを除けば、そこらへんを歩く普通の女の子とという出で立ちだった。エリカさんは私の全身を上から下まで舐め回すように観察し、不機嫌そうに眉をひそめる。


「駄目だよ、そんな格好してちゃ。そこそこ動き回るんだからさ、もっとスポーティーな格好をしてこなくちゃ」


 ごめんなさいと私が素直に謝罪すると、エリカさんは腕時計で時間を確認し、早速だけど兵器退治に行こうかと提案する。お兄さんは待たなくて良いのかと尋ねると、お兄さんはお兄さんで別行動をしているらしい。今日は私が初めてだということもあってペアを組むが、普段はそれぞれ個別に周り、生物兵器狩りを行っているらしい。


 私達は人の波に合流し、池袋駅の外へと出る。平日だというのに、池袋の街は溢れんばかりの人で満ちていた。横断歩道の信号が赤から青に変わると、一斉に大勢の人が同じ方向に向かって歩き出す。その光景はまるで、なんというか、あれのようだった。


「はぐれないでよ」


 エリカさんは私の方を振り返りながらそれだけ言うと、波をかき分けるように池袋の街を進んでいく。人が多いメインストリートを抜け、飲食店が立ち並ぶ通りを抜け、私達はどんどん人通りの少ない小さな路地へと入っていく。先程は掃いて捨てるほどにいた大勢の人はその姿を消し、時々閑古鳥が鳴いていそうな店の中からひょっこりとスーツ姿のサラリーマンが出てくるだけ。私は何一つ文句を言わないままエリカさんについていった。しかし、目的地はもちろん、生物兵器の姿形も教えてもらっていない。不安な気持ちが少しづつ大きくなっていく。


「ここらへんだね」


 エリカさんは突然立ち止まり、私の方を振り返った。右手にはスマートフォンを握り、その画面にはここ近辺の地図が映っているのがちらりと見える。


「ここらへんって……エリカさんのいうソ連の生物兵器がいるってことですか?」

「しっ! 静かに!」


 エリカさんが人差し指を立て、真剣な眼差しで辺りをきょろきょろと見渡し始める。私はわけがわからぬまま黙っていると、エリカさんが「鳴き声が聞こえない?」とひそひそ声で問いかけてくる。私は両手を両耳にあて、息を止めて耳をすました。しかし、私の耳には遠くの大通りから聞こえてくる人の話し声くらいしか聞こえてこない。私が首を横に振り、ジェスチャーで聞こえないことを伝えると、エリカさんは手で私についてくるように指示する。

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