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左利きの次郎兵衛  作者: ケンタシノリ
第6話 百貫島に潜む海賊連中との最後の戦い
37/43

その2

 次郎兵衛が木舟をしばらく漕ぎ続けると、小さい島の姿形がはっきりと見えるようになってきた。その島は砂浜がわずかに見える以外は、全体的に断崖に覆われた山がちの地形である。


「あの島の地形だと、敵のほうも十分に潜伏できそうだな」


 小さい島の姿をはっきりと捉えると、次郎兵衛はとりあえず砂浜のところまで進もうと木舟を漕ぎ続けた。やがて、砂浜の波打ち際までやってくると、次郎兵衛はその場で降りることにした。


 波にさらわれないように、次郎兵衛は木舟を砂浜の上へ運ぼうとしているとなにやら殺気らしきものを感じた。


 そのとき、次郎兵衛は敵の気配を感じると振り向きざまに刀を振り下ろした。その場で屍となったのは、例の海賊連中の1人である。


「いきなり襲ってくるとは……。やっぱり海賊たちの潜伏先というのはこの島ということか」


 次郎兵衛の目の前に現れたのは、3隻の木舟に乗り込んだ海賊たちの集団である。次々と木舟から降りて島へ上陸した人数は少なくとも20人近くいるようである。


「潜伏するところを知られたからには、ここから生きて帰らせるわけにはいかないなあ」


 海賊連中は、視線の先にいる次郎兵衛を始末しようと一斉に刀を抜いた。そんな状況の中、次郎兵衛も右腰から抜いた刀を持ち構えている。


「殺せ! さっさとこいつを殺せ!」


 図体の大きな口髭の男の命令に従って、海賊たちは次郎兵衛に向かって刀で襲いかかった。


 これを見た次郎兵衛は、冷静さを保ちながら海賊連中を次々と斬り倒した。左利きによる刀さばきは、大多数の敵が相手であっても十分に発揮している。


「大きな口を叩く割には、手ごたえのない連中ばかりを連れてくるとは……」


 次郎兵衛の言葉は、明らかに力が劣る相手を端的に表すものである。しかし、その言葉は海賊連中の怒りに火をつけることになった。


「貴様! おれたちの前で好き勝手言いやがって……。早く斬れ! 斬ってしまえ!」


 口髭の男が怒りに任せて発するのを見て、海賊たちは刀を持って次郎兵衛へ襲いかかろうとした。


「ようやく本気を出してきたか……」


 次郎兵衛は、一斉にやってきた敵を相手に刀を握りしめた。そして、海賊たちを縦横無尽の立ち回りで斬りまくった。


 砂浜の上には、次々と斬られて命が絶えた海賊たちの屍が転がったままである。残った海賊たちは、早いうちに次郎兵衛を始末しようと躍起になっている。


 そんな中でも、次郎兵衛は決して表情を変えることはない。次郎兵衛は敵の動きを読むと、自らの刀で次々と斬り倒した。


 海賊連中でまだ残っているのは、口髭の男ただ1人である。次郎兵衛が左手で持った刀を突き出すと、口髭の男は後ずさりしながら波打ち際まで下がった。


 しかし、ここで口髭の男は次郎兵衛を斬ろうといきなり刀を振り下ろした。これを見た次郎兵衛は、相手の動きに反応しながら、自らの刀で相手の刀を食い止めた。


「よくも、おれたちの島に土足で入りやがって……」

「やはり、この島は海賊連中が潜伏しているのか」


 次郎兵衛が潜伏場所と睨んでいたこの島は、口髭の男が発した言葉によって確信へと変わった。口髭の男は、次郎兵衛を鋭い目で見つめながら発言を続けた。


「おれたちはなあ、この百貫島を本拠に瀬戸内海全域を暴れ回っているんで……」


 自分たちの思うままに瀬戸内海の島々を次々と襲う敵の手法は、次郎兵衛にとって到底許すことができないものである。


 双方とも相手の隙を見つけようとするが、刀同士がぶつかり合って膠着状態に陥っている。


 一進一退の状態が続く中、次郎兵衛は口髭の男の動きに隙があることを見抜いた。そして、次郎兵衛は左利きから繰り出した刀で相手をバッサリと斬っていった。


「おまえさんよ、脇が甘いことに気づかなかったようだな」

「貴様……。ここにはわしの頭領がいることを忘れては……」


 口髭の男はその場で倒れると、次郎兵衛に警句を発しようと口を開いた。それは、次郎兵衛を生きて帰らせないという海賊連中の総意が込められている。


 男は必死に口を開けようとしたが、最後まで言うことなくその場で息絶えることになった。次郎兵衛は、その男の屍を見て手を合わせている。


「もし、海賊連中に出会わなかったら、普段通りに漁を行っていたはずなのだが」


 次郎兵衛に襲いかかった敵の連中だが、元々は島々で暮らす漁民であったはずである。その漁民が、海賊という名のもとに別の漁民を襲うという状況を生み出しているのが現実である。


 その現実が頭の中で浮かび上がるにつれて、次郎兵衛は両腕をを組みながら自問自答を繰り返している。

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