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左利きの次郎兵衛  作者: ケンタシノリ
第6話 百貫島に潜む海賊連中との最後の戦い
36/43

その1

 魚島から沖合へ出てきた次郎兵衛は、一旦止まって後ろを振り向いた。


「もしかしたら、この島を見るのも見納めになるかも……」


 後方にある魚島は、いつの間にか小さくなっていた。次郎兵衛は岸兵衛たちのことを思い出しながらも、自分が置かれている立場を決して忘れることはない。


 これから向かう場所は、海賊連中が潜んでいる本拠といわれるところである。死と隣り合わせなだけに、次郎兵衛は気を緩めるわけにはいかない。


「相手がどんな動きをするかは、海賊だけあって一筋縄ではいかないはずだ」


 次郎兵衛は右腰に差している刀を見ると、再び木舟を漕ぎ出した。やがて、魚島が姿形ともに見えなくなると、目的地へ向かって瀬戸内海を進み続けている。


 しばらく漕いでいると、大きな島らしきものがうっすらと見えるようになった。そこから木舟を進めると、その大きな島が姿形ともに次郎兵衛の目からはっきりと見えてきた。


 瀬戸内海には、大小問わず数多くの島々がある。次郎兵衛の左側に見える島は弓削島と呼ばれており、この辺りの島では比較的大きな島である。


「あの海賊連中は、どうやって人を集めているのだろうか。まとまった人員となると、大きな島からある程度集める必要があるが……」


 弓削島に限らず、この付近には人口が集積した大きな島がいくつも存在する。海賊の人員を確保するためには、まとまった島民が暮らす大きな島からそれなりの対価を支払って集めたほうがいい。


 しかし、これらの大きな島は海賊の潜伏先には不向きと言われている。海賊が身を潜めるためには、当然ながら島の住民の理解と協力が不可欠である。


「これまでの海賊による凶行を考えると、島の住民の中にも協力をためらう者が相当数いるだろうし……」


 次郎兵衛は、海賊が潜伏しそうな島がこの付近にあるのか腕を組みながら考えている。すると、走島や魚島よりも小さい島、それも無人島のほうが海賊の本拠としては都合がいいはずである。


 すると、弓削島の波打ち際に木舟が3隻あるのを目撃した。


「あの木舟に男らしき者が次々と乗り込んでいるぞ。もしかして……」


 その木舟に誰が乗っているかは、もう少し接近しないと分からない。けれども、海賊連中に参加する連中が、弓削島から木舟に乗り込む可能性は十分あり得る。


 そう考えた場合、うかつに近づいたらこの前の二の舞になりかねない。次郎兵衛は、弓削島の波打ち際から出てくる木舟の動きを警戒している。


 そのとき、木舟が波打ち際から次々と海のほうへ入った。次郎兵衛は再び漕ぎながら、3隻の木舟を追うことにした。


「あの木舟、海に出ても一向に漁をする気配がないし……。あの島で海賊を集めてどこかへ連れていくようだな」


 次郎兵衛はそう確信すると、自分の存在に気づかれないように後をついていくことにした。


 しかし、この辺りは瀬戸内海特有の潮の流れが速いことで知られている。少しでも油断すると、自らの木舟が転覆する可能性があるので注意しなければならない。


「潮に流されないように気をつけないと……」


 次郎兵衛は、相手に気づかれないように木舟を漕ぎながら進むことにした。海賊たちの木舟には、家紋が入っている帆を張っている。


 そこに描かれている家紋は、向かい海老の丸と呼ばれるものである。ちなみに、海老は瀬戸内海でも数多く獲れる海産物として知られる。


 どういった意図でこのような家紋にしたかは、次郎兵衛には知る由もないことである。とはいえ、海賊連中にとっては家紋をつけることで権威を示す狙いがあってもおかしくない。


 海賊たちがいる木舟には、1隻ごとに少なくとも1人は海の周りを見回しながら警戒する人間である。あまりにも近づきすぎると、海賊のエジキになってしまうのは明白である。


 ところが、次郎兵衛は潮の速さに木舟が流されそうになった。木舟を漕がなくても木舟は止まることができない。


「どういうことだ、思ったように漕ぐことができない」


 そのとき、いきなり弓矢が次郎兵衛に襲いかかってきた。次郎兵衛はこれに反応すると、すかさず自らの刀で次々と弓矢を斬り落とした。


「これはまずい。監視役もわしの動きに気づいたようだ」


 次郎兵衛の木舟は、潮に流されるばかりで止まる気配がない。その動きに、海賊たちは3隻の木舟から一斉に弓矢を放ってきた。


「刀で何度もかわしても、次々と襲いかかってくるとは……」


 海賊たちによる遠距離攻撃に、次郎兵衛は次第に焦りを感じ始めた。次郎兵衛は、立て続けに降りかかる弓矢の嵐に刀でかわすのが精一杯である。


 それでも、潮の流れが幸いしたか、海賊たちの木舟を通り越すと弓矢による攻撃も次第に鳴りを潜めた。


 すると、次郎兵衛は潮の流れが穏やかになったのを見て、木舟を再び漕ぎ出した。当然ながら、海賊たちへの警戒を決して緩めることはない。


 そのときのことである。次郎兵衛の目の前には、小さな島らしきものが見えてきた。


「周りの島々と比べてかなり小さいようだ。もしかしたら……」


 海賊たちの潜伏先かどうかは、その島へ行ってみないと分からない。次郎兵衛は、その島へ向かおうと木舟を進めることにした。

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