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左利きの次郎兵衛  作者: ケンタシノリ
第5話 瀕死の次郎兵衛を救った島の家族
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その2

「そろそろ包帯を替えるから、ちょっと待っててね」


 おさちが掛け布団をめくると、そこには次郎兵衛がふんどし姿で寝かされていた。両腕と左足に包帯を巻かれたその姿は、かなり痛々しい様子である。


 おさちは包帯を外すと、薬草をすりつぶした薬を次郎兵衛の患部に擦り付けている。


「傷口がしみるかもしれないけど、しばらく辛抱しないと」

「い、いててっ……。いててててててててっ……」


 次郎兵衛は、あまりの激痛に顔をゆがめながらも必死に耐え続けた。海賊たちの本拠を何とか見つけたいと焦る次郎兵衛だが、まずは大ケガを完全に治すことが先決である。


 再び包帯を巻かれた次郎兵衛は、布団の上で仰向けになりながら何かを考えていた。


「それにしても、ここに流れ着いてからどのくらい経っているのか……」


 次郎兵衛のつぶやきに、そばへやってきた岸兵衛はすぐに口を開いた。


「そうだなあ……。わしがおまえさんをこの家で寝かせてから丸2日経過しているなあ」


 その言葉に、次郎兵衛は戸惑いを隠せなかった。弓矢で何か所も突き刺されて海に沈んだことを考えると、次郎兵衛が死の淵をさまよっていたことは間違いなさそうである。


「それはそうと、ここは一体どこなのだ」

「ここは、魚島という名前の島じゃ」


 次郎兵衛は、走島とは別の島に漂流したことを知って驚きを隠せない。同じ瀬戸内海の島で雰囲気が似ているだけに、次郎兵衛は首を傾げながら戸惑っている。


「弓矢を刺されてそのまま海に落ちたことは知っているけど……」


 次郎兵衛は海賊たちに襲われてから魚島に流れ着くまでのことを思い起こそうとするが、どのくらい流されたかは全く分からない。


 いずれにせよ、こんな自分を親身になって接する岸兵衛たちへの感謝の気持ちを忘れてはならないと心に誓った。


 太陽が西のほうへさしかかると、おさちは土間で晩ご飯の準備に取り掛かっている。


「母ちゃん、今から火おこしをするよ!」

「岩太郎、いつも手伝ってくれて本当にありがとうね」


 岩太郎は子供の中でも年上とあって、漁の手伝いや家の手伝いをしてくれる働き者の男の子である。


 おさちが晩ご飯を作っている間、岩太郎は焚き口に薪を入れながら火おこしを行っている。自分から進んでお手伝いを行う岩太郎の姿に、次郎兵衛も感心そうに見つめていた。


「まだ子供なのに、誰から言われなくても積極的に家の手伝いをこなすとは……」


 何よりも、これだけの家族を見るのは次郎兵衛にとって珍しいことである。岸兵衛やおさちをはじめとするこの家は、決して恵まれているわけではない。しかし、家族で力を合わせて暮らす家族の姿に、住む家も帰る家もない次郎兵衛にとっては新鮮なものと感じていた。


 そんな次郎兵衛が気になっているのは、魚島でも走島と同じような海賊たちの略奪行為があったかどうかである。


 そのとき、岸兵衛が布団に寝かされている次郎兵衛のそばへやってきた。


「そういえば、おまえさんの名前を聞いてなかったな」

「わしは、次郎兵衛という者だ。大ケガがまだ治らないばかりに、いろいろとお手数をかけて本当にすまない」


 次郎兵衛は、自分のことを気遣ってくれる岸兵衛にあのことを聞くことにした。


「ちょっと気になっていることだが、この島に海賊連中が上陸したということは……」


 これを聞いた岸兵衛は、次郎兵衛にすぐ言葉を返すことにした。


「おまえさんの言う通り、この島にも海賊たちが襲いかかってきたんだ。海賊たちは、島の家々に入っては略奪や人殺しを平然と行うやつらで……」


 岸兵衛は涙をこらえながら、海賊連中による悪行の数々を次郎兵衛に伝えた。次郎兵衛は、瀬戸内海各地の島々を襲う海賊たちがどういうものかを改めて思い知ることになった。


「これ以上、島の人々に犠牲を強いる海賊連中をそのまま野放しにするわけにはいかない」


 そんな次郎兵衛の言葉に、岸兵衛はこう忠告した。


「まさかだと思うが……。あの海賊どものいるところへ行かないほうがいい」

「行かないほうがいいって、どういう意味なんだ」

「おまえさんの気持ちはよく分かるけど、そこへ行ったら海賊どもによって命を落とすかもしれないぞ」


 岸兵衛は次郎兵衛にあえてクギを刺したのは、危険なところへ行って命を落とすべきでないという親心からである。


 その思いは、次郎兵衛のそばへやってきたおさちも同様である。


「大ケガした体であんなところへ行ったら、絶対に死んでしまうんだから!」


 おさちのきつい言葉に、さすがの次郎兵衛もしばらくここに留まっておとなしくすることにした。

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