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左利きの次郎兵衛  作者: ケンタシノリ
第4話 太吉との出会い、そして島に忍び寄る海賊の影
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その5

 次郎兵衛は義直の屋敷から出ると、太吉の家へ戻るために細い道を歩き出した。


 すると、砂浜のほうで木舟を出そうとしている太吉の姿があった。


「太吉、今から漁へ行くのか?」

「ちょうどよかった! おじちゃんもこれからいっしょに手伝ってよ!」


 太吉の漁への誘いに、次郎兵衛もついて行くことにした。島にいる以上、海に出て漁の手伝いをすることも次郎兵衛の大切な役割である。


 次郎兵衛は砂浜に入ると、その場で三度笠と着物を脱いでふんどし姿になった。木舟に脱いだものを入れると、次郎兵衛と太吉の2人は波打ち際からその舟に乗って沖合のほうへ向かった。


 沖合まで木舟を進めると、太吉はすぐに短い網を海へ投げ込んだ。


「これは、おっとうがおいらに教えてもらったやり方だよ」


 父親仕込みの投げ漁を行う太吉の姿を見て、次郎兵衛もすぐに手伝うことにした。


「おじちゃんもいっしょに引っ張って! よいしょ、よいしょ!」


 2人は協力して網を上げると、そこには多くの魚が網にかかった。その網にかかっていた魚は、真鯛やカタクチイワシなど走島周辺の海で獲れるものである。


 太吉は、腰につけているスカリの中に獲れたての魚を慣れた手つきで入れている。一家の大黒柱として支える立場だけに、その目つきは少年ながらも真剣そのものである。


 その様子を見ている次郎兵衛だが、その背後からは敵の姿が徐々に迫りつつある。静かに近づいてくる敵だが、次郎兵衛は決して油断することはない。


「太吉、気をつけろ! 海賊が近くにいるかもしれないぞ!」


 次郎兵衛は何やら殺気らしきものを感じると、すぐさま鞘から刀を引き抜いた。


 そのとき、近くの木舟から弓矢を次郎兵衛たちのほうへ立て続けに飛ばしてきた。これを見た次郎兵衛は、素早い刀さばきで次々と斬り落とした。


「遠方から弓矢で攻撃するとは……。やはり海賊なのか?」


 次郎兵衛が海のほうを見渡すと、少し離れたところに別の木舟が3隻あるのをこの目で確認した。それらの木舟は、次第に次郎兵衛と太吉が乗っている木舟に近づいてきた。


 敵の木舟の動きに、次郎兵衛は警戒を緩めずに周囲を見渡している。そのとき、弓から放たれる矢が次郎兵衛に次々と襲ってきた。


「飛び道具による攻撃を相変わらず仕掛けるとは……」


 次郎兵衛は十数本も続けて放つ弓矢に手こずりながらも、臆することなく刀で斬り落とし続けている。


 目の前には、弓矢を持った男たち2人が乗っている木舟が接近してきた。


「わしらを弓矢で狙ったのは、やはりこの男たちか」


 次郎兵衛は男たちが攻撃していない一瞬の隙を見計らうと、刀を持ったままで相手の木舟に飛び移った。そして、男たちに攻撃する暇を与えることなくバッサリと斬り倒した。斬られた男たちは、木舟から落ちてそのまま海の藻屑と化した。


 次郎兵衛は、近くにいる残り2隻ある木舟のほうへ向かって漕ぎ始めた。すると、残った木舟はあわてて沖のほうへ向かって去っていった。


「あの様子だと、わしらに襲いかかったのはやはり海賊の仕業か」


 今までならず者連中とは違う敵は、次郎兵衛にとってやっかいな存在である。


 飛び道具を使うのは、海賊にとって基本となる攻撃方法だからである。これによって、海賊たちは不利といわれる海上での攻撃において強みを持つことになった。


 次郎兵衛は、今までのならず者相手との殺陣とは違うことを改めて思い知らされた。


「それにしても、あの連中がすぐに去るとは……」


 次郎兵衛は木舟を漕ぐと、太吉が乗っている木舟のほうへ近づきながら声を掛けた。


「太吉、弓矢で襲ってきた連中は全て沖へ去ったから心配しなくてもいいぞ」

「おじちゃん、本当に大丈夫?」

「ああ、心配しなくても大丈夫さ」


 舟底に隠れていた太吉は、スカリに魚を入れる作業を再び始めた。こうして、スカリの中には獲れたての魚を多く入れることができた。


「おじちゃん、島へ戻ったらワカメをいっしょに採ろうよ!」

「ははは、太吉は本当に働き者なんだな」


 次郎兵衛たちは、それぞれの木舟を漕ぎながら砂浜の波打ち際のほうへ向かった。


 次郎兵衛が漕いでいるのは、海賊とみられる男たちが乗っていた木舟である。その木舟は、再び海賊に相対する場合に備える上でも十分に役立つものである。


 その一方で、敵は弓矢による遠距離攻撃を行ったこともまた事実である。なぜなら、少しでも間違えれば命を落とすことになりかねないからである。


「今回は何とか撃退したけど、次もうまく行くとは限らない。再び現れたときにどうするべきか……」


 次郎兵衛は、海賊への対策に頭を悩ませながら木舟を漕ぎ続けている。

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