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ニゲラの花束

作者: 七草


花言葉にはいろんな意味がある。

愛を哀を一つ一つで想いが変わる。



僕自身、花言葉にさして興味があるわけでもない

よくテレビドラマや少女漫画で男性が女性に真紅の薔薇を贈る場面がある。

実に自分にとって無縁なことである。

花束を贈るなんて、、まして薔薇なんて。


いや、無縁と決めつけるには少し早かったのかもしれない。

一応、僕にも好きな人はいる。

ただの日常にあふれている女子高生だ。

市内の少し大きな病院に入院しているという点を除けば。


二人の出会いは平凡だった。

中学二年のとき、同じクラスになった。

そこから仲良くなり偶然にも同じ高校に進学した。

好きになったのは確か中学三年の時の春だったと思う。


高校二年になった春。

また同じクラスになった。

「久しぶりに同じクラスだね。楽しむよ!」

そう、彼女は確かに笑った


この時すでに彼女は病気が発覚していた。

肺を中心とした病気で徐々に他の器官も悪くなるという。

それも治る確率がかなり低いという事実も。

どうして笑えたんだろう、どういう心境だったんだろう。

行く末の見えない、未来が不確かな状況でなぜ。


彼女は僕に病気のことを隠していた。


それから二人は時を共に過ごした。

学区が同じということもあり一緒に帰ったり

テスト前は一緒に勉強したり。

この時はまだ症状が軽いということもあり、通院と薬で日常が成立していた。

けれど、徐々に彼女の身体が蝕まれていたのは確かだった。


その時はなんの足音もなく近づいていた。

二人で下校していたときだった。彼女の呼吸が突如荒くなった。

そのまま倒れてしまった。なんの前触れもなく。

搬送された先は通院しているという病院で彼女はそのまま入院することが決まった。

このとき初めてすべての事実が僕の目の前に立ちはばかった。


僕の目の前は真っ暗になった。

ずっと好きだった人がいなくなってしまう。

漠然としていて明らかな足音が聞こえていた。

その恐怖を止めてあげることができない自分の無力さにうなだれることしかできなかった。


僕はひたすら彼女のもとに何度も通った。

最初は隠してたことを申し訳なそうにしてたが、僕はそれでも通い続けた。

迫りくる死ぬかもしれないという気持ちから少しでも目を背けさせてあげるために。

それでも僕は好きという気持ちを伝える勇気はなかった。


彼女の病気は滞ることなく進んでいった。

二人の時間が止まっていることを嘲笑うかのように。


この時点で僕は薄々気づいていた。

僕は片想いではないということと彼女の身体が病魔に蝕まれているということ。




数週間後に彼女は東京にある大きな病院に移ることが決まった。

ここで僕と彼女の物語は終わる。


最後の僕の抵抗として贈り物を渡そう。

そう決めていた。


彼女が生まれた日は3月31日。

別れと出逢いが交差するそんな時間。

出逢ったのも好きになったのも春だった。

二人にとって想い出があるそんな季節が僕は好きだった。


僕は彼女に贈るものを決めていた。

君の誕生花、ニゲラの花を贈ろうと。

誕生花を調べたとき、君に、僕たちにピッタリだと思った。


ただ花をあげるのではなくて、種を贈ろうと。

いつか病気が、もし奇跡的に治ったときに開花した花を君に見てほしいという願いをこめて。


秋が深まり色彩豊かな木の葉たちが枯れて閑散とした街から

彼女はいなくなってしまった。

僕はお別れの言葉は言わなかった。

その代わりに最愛の意を込めて花の種を贈った。


彼女は気づくのだろうか。ニゲラの花言葉に。

もし気づいたとしても、もう会うことがないだろう。

それでも僕は後悔はなかった。

「僕の世界に色をくれてありがとう」

焦がれた空にそう呟いて君と僕の物語を終わりにしよう。





ニゲラの花言葉は種子が黒いということで

未来を願うだとか明るい将来を願うっていう花言葉があった。

僕は彼女の将来と二人がともに寄り添い歩く未来を願いを込めた。

最後に泣く君の顔じゃなくて全力で笑う君の顔が見れてよかった。

hush a by おやすみ。






それから一年と少しの月日が流れた。

君がこの街からいなくなって僕はより一層無気力に過ごしていた。

大学受験も終えて新しい春を迎えていた。

かつては好きだった春も、君がいない春は寂しかった。


3月31日、君の誕生日によく二人で語り合った公園に行った。

なんとなく君の名残を感じたくなったからという理由だ。



花粉症がキツイなと、帰ろうと振り返ったそのとき

少し髪が伸びた見飽きたくらいだけどもう一度会いたかった姿がそこにあった。

両手に花を掲げて。

「久しぶり、やっぱり私は君を残して死ねないみたい」

そう彼女は確かに笑って僕に花束を向けた。


鎖那さんの曲「ニゲラの花束」をモデルとさせていただき自分が勝手に解釈してストーリを付けてみました。

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